憑依物語   作:そりゃないわ

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難しかった······


『カーラ』

「今日も撫でて貰えた······」

 

 今日も「AAランク」クエストを終え、夕食をおえて宿屋「沈む太陽」の自室で眠りに付く準備をする。寝間着に着替えて、ベッドに横になる。

 

 ふとレイグさんの手の感触が残っているような気がする、私の水色の髪を手で解かすように触れる。

 

 目を閉じると、まるで数刻前に起きた事のように思いだせる。

 

 傷付きながらも、私を守ってくれたレイグさんの背中、お腹に穴が空いていて、身体は震え、今にも倒れそうな身体はそれでも鋼の意思を持って紅黒蜥蜴(クリムゾンリザード)の攻撃を前に退くことをしなかった。

 

 ──ビビッてんなよ。

 

 恐怖に、後悔に、悲壮に飲み込まれていた私を一瞬でも引っ張り上げたあの言葉。

 

 ダリアと共に鼓舞してくれた事に感じた、申し訳なさと安心と歓喜。

 

 あの時、私に振り返らず紅黒蜥蜴へ並んで立ち向かうために駆け出した「2人」へのちょっと感じた嫉妬、今なら分かる。

 

 

 

 

 私は2人が好きなんだ、レイグさんが好きすぎて真っ直ぐなダリアも。

 

 心を開いていなかった私でさえ受け入れ、対等に接してくて守ってくれるレイグさんが好きなんだ。

 

 これが恋愛感情なのか親愛からくる感情なのかは分からないけど、今もレイグさんに撫でて貰ったのを思い出すだけで心のそこからポカポカするような感覚が私を包む。

 

「──何でだろ····」

 

 もう何回か頭を撫でて貰ってるのに、未だに慣れない、それどころか段々とポカポカが強くなっている気がする。

 

 仮にダリアとレイグさんが手を繋いで、恋人みたいな雰囲気で歩いている姿を想像してみた、別にモヤモヤもしないし、何なら凄くしっくりきた。

 

 次に私がレイグさんと手を繋いで歩いている姿を想像してみる。······うん、何か恥ずかしくなってきたからもう辞めよう、ニヤニヤが止まらない。

 

 

──トントン

 

 静かに響くノックの音、思わず体が驚いて跳ねる、宿の中だと言うのに意味もなく身構えてしまう。

 

『カーラ?寝ちまったのかい?』

 

 突然の来訪者は、宿屋の女将であるミランダさんだった、私は慌ててミランダさんを中に招き入れた。

 

 椅子を差し出すと、ミランダさんは「ありがとね」と勝ち気に笑って座る。·····沈黙

 

 ど、どうしよう、今までちゃんと話したことなんて無いし、面と向かって話すなんて初めて····そういえばどうして私の所に····?

 

「急に悪いね?レイグ達が少しあんたの様子を気にしてる感じがしたからね、あ、別にアンタに何か聞いてくれって言われてる訳じゃないからね」

 

「レイグさん達が?」

 

「まぁ、気にしてると言うか、何か戸惑ってる感じだったけど、何かあったのかい?」

 

 何か····って言うと、確かに私何も言わずにいきなりレイグさんに頭を撫でるの要求してたかも···あれ?私って端から見たらおかしい女?ど、どうしよう引かれてたら!?ダリアから見ても面白い感じじゃ無いよね!?

 

 内心パニックになってる私にミランダさんは、苦笑して、私の頭を撫でて「落ち着きな」と言ってくれた。

 

 すると不思議な感覚がした、波立っていた水面が、一瞬で揺らぐことすらない水面へと落ち着くような、違和感すら感じさせない。

 

 レイグさんに撫でて貰った時のような、心が火照るのでは無く、暖かい何かに包み込まれるようなそんな感覚、どこかで私はこの感覚を········

 

「カーラ?」

 

「っひゃい!?」

 

「ははっ、何だいそんな驚いて、何時もの冷静なアンタは何処に言ったんだい」

 

 変な返事を返してしまった私を嘲るのでも、怪しむ訳でも無く、見守るような目で見つめるミランダさん、その包容力?とでも言うのだろうか、自然と私は今抱えているものをさらけ出した。

 

 馬鹿にするわけでもなく、からかうような仕草も見せず、ただ静かに微笑んで話を聞くミランダさんに既視感を感じつつ、話した。

 

 話を聞き終えたミランダさんは、苦笑いを溢していた。

 

「アンタも、難儀なもん抱えてるねぇ」

 

「難儀······ですか?」

 

「そうさ、アンタのその想いは大切な人と大切な人(レイグとダリア)が板挟みになってるんだろ?」

 

「それは·····」

 

 そうだ、どっちも大切だし、そのどちらかに優先順位なんてものは存在しない。でも私が抱えている物が、大切な人達を惑わせてしまう可能性が高い。

 

 この想いは大切にしなければならないと思う。でも····でもそれが私達に歪みを生じてしまうような物なら私は·······

 

「はいストップ」

 

「んゆ」

 

 頬っぺたを柔らかい手で挟まれて空気が洩れだすのと一緒に変な声が一緒に洩れた。思わず恨めしげな目でミランダさんを見てしまう。

 

 ミランダさんは「悪い悪い」と、全く悪びれていないような顔で苦笑していた。

 

「でもね?アンタがその想いにケリを付けるのは、まだ速いんだよ」

 

「え?」

 

「まずその感情の有無を決める前にさ、その感情に向き合わなきゃいけないんだ」

 

 感情に向き合う?私がそう思ったのが分かったのか、ミランダさんは「そう」て言って続けた。

 

「その感情をむける相手はアンタにとって何だい?」

 

「大切な人」

 

 間髪いれずに答えた。

 

 2人は私にとって恩人だし、何にも変えがたい人達だ、私はそんな2人と一緒にいて幸せを感じてるし、もし許されるのなら、何時までも一緒に居たいと思う。

 

 でも、そうするにはこの想いは····

 

「何だい、分かっているじゃないか」

 

「え?」

 

 ミランダさんは呆ける私に話し出した。

 

 ミランダさんも若い頃、幼馴染みの料理人見習いと冒険者と3人てストルに田舎からやって来たのだと言う。

 

 ミランダさんは宿屋の看板娘、見習い料理人さんは当時、ストルで有名だった定食屋に弟子入り、冒険者の人は当時Aランクと言う実力者だったらしい。

 

 ミランダさんは2人に同じ気持ちを抱いていたらしい、そして私と同じそれが恋慕なのか、親愛なのか分からず、悩んだらしい。

 

 一度は、関係が壊れるのを嫌って「そういうのを抜きで」過ごした事があったらしく、返って悪化したと言っていた。

 

 私はそれを聞いて、凄く不安に駆られた。それじゃ、どのみちこの想いは私達の関係に牙を向くんじゃ······

 

「だから、私はそれが何なのか、突き止めるまで一緒にいた。喧嘩しても、トラブルがあっても一緒にいたんだ」

 

「え?·····」

 

「だって私は2人の事が好きだったからね、どっちの方が好きだったのか突き止めるまで大分かかっちまったよ」

 

「その分アンタは分かりやすいじゃないか、片方が女でもう片方が男だ、それが恋慕でも親愛でも何でも、分かってからどうするかを考えた方が良いと私は思うがね」

 

 喋り過ぎた、とばかりに頬を人差し指でポリポリと掻きながら、視線をそらすミランダ。

 

 ───分かってから、どうするかを

 

 私にとって、ダリアもレイグさんどっちも大切、どっちかを優先何て考えたくもない。

 

 もし、もしも私がこの想いを封じてまともに2人に接する事が出来るか?どこか超人的に人の機敏に鋭い2人の事だ、絶対気付く。

 

 私が仮にそれをされたって、多分気付くと思う、ダリアもレイグさんも分かりやすい所がある。

 

 ───────

 

 

 

 

「やっぱり分からないです」

 

「そうかい」

 

「でも、分かるまで、分かってからどうすれば良いのか、それが分かるまで私は2人と一緒に居続けようと思います」

 

 私がそう言うと、ミランダさをは、一瞬の無言の後どこか優しく「そうかい」と呟いた。

 

 ミランダさんにお礼を言うと、ミランダは何も言わずに私の頭を撫でて「頑張んな」と言って部屋を出ていった。

 

「私はレイグさんが好き、ダリアも好き」

 

 でも、この二つの好きは同じではない、取り敢えずそれが分かるよう明日からもレイグさんに撫でて貰おう。頑張るぞ

 

「··········おー」

 

 

 かなり恥ずかしかった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

「さて、どうだったい?盗み聞きして聞けた話しは」

 

「······あー、アンナトコロデダインサンガオンナボウケンシャニナンパサレテル、タスケニイカナキャー」

 

「大丈夫、後であたしが処すから、つか逃げるな」

 

 カーラの部屋から出たミランダは、閉めてそのまま自室に、ではなくダリアの部屋を開けて壁に魔方陣を描きそこに耳を付けているいかにも怪しすぎるダリアに声をかけた。

 

 ギクッと硬直したダリアはミランダの後ろを覗き見るようにして、片言でそう言うと、ミランダの脇を通ろうとして掴まった(アイアンクローされた)

 

「全く·····」

 

「····あの、やっぱりカーラは?」

 

「そりゃカーラにしか分からないさ、あたし達が勝手に決めつけて良い感情じゃない、それはアンタが一番分かっているんじゃないか?」

 

 どこか窺うようなダリアの質問にそう返すミランダ。

 

 その返しにダリアは言葉がつまってしまう。

 

「アンタもカーラが好きなんだね」

 

 葛藤を脳内で繰り広げているような、そんな悩んだ顔をするダリアに、確信を持った言葉でミランダは尋ねた。

 

 ダリアは、少し悩む素振りを見せ、コクリと頷いた。

 

「ならアンタも分かるだろう?あのこが何に向かい合おうとしているのか、あの娘が好きなアンタなら

 

───何時までも一緒にいる努力ぐらいアンタもしてみな」

 

「─────」

 

 そう言って、ミランダはダリアの頭にポンと手を置き部屋から出ていった。

 

 ダリアはその後ろ姿を見ながら、今言われた言葉を考えていた、カーラがレイグに対して持っているそれが「それ」ならば····でもダリアはカーラが好きだ、勿論親愛ではあるが、一度は迷いかけた自分を抱き締めて導いてくれた恩人でもある。

 

 そして、聞き間違いじゃなければカーラもダリアが好きと言っていた。

 

 「ある未来」が頭をよぎり、頬を染めるダリア

 

「(───でも、レイグ様は)」

 

 いずれくるであろう未来に、悲しげに眉を潜めてしまうダリア、しかし

 

 もしも、一緒に入れたらどれだけ幸せだろうか。

 

 ──何時までも一緒にいる努力ぐらいアンタもしてみな。

 

 ミランダの言葉がダリアの頭に過る。

 

 暫しの沈黙の後、ダリアの顔にあった迷いは完全に無くなった訳では無いが、それでも何かを見据えようとしている顔をしていた。

 

 まずは、その何かを少しでも「形」にするために、ダリアは親友(ライバル)の部屋へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 





ミランダ「アンタ」

ダイン「あ、ミランダ、さっきこの人が───ちょ!?」
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