憑依物語   作:そりゃないわ

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#前回のあらすじ


 カリスマ村長


43話的な話

 ──これは·······

 

 どこか既視感を感じる夢を見ている。

 

 以前にも見たことがある夢、全く知らない村の風景なのにその場に集まった人達は俺の知っている人達だった。

 

 前はまるで絵本の様にそのシーンが流れていたのに対して今回はその光景が変わることは無かった、まるで「見せつけられる」ように。

 

 その光景を見ていると、焦燥に駆られ、苛立ちは募り、寂寥感に体が震え、「誰にも分かって貰えない」辛さが増していく。

 

 まるで見に覚えの無い不快感の波に飲まれたような悪寒に苛まれている時に、ふと、見ていた光景が変わった。

 

 ──何処かの部屋の中····まぁ状況的に俺の部屋の中か·····しっかしもやしっ子みたいな部屋だなおい

 

 

 部屋の中は何も無かった、あったのは机らしき台の上にある、少し草臥れ(くたび)た題名も作者名も何も書いていない一冊の本だった。気になるが部屋の中にいる俺は一行にそっちに行こうとしないため見ることは叶わないが。

 

 部屋の中にいる俺は、今の俺とそう変わらないように見えた。

 

 ベッドにうつ伏せで寝ており、その顔はまるで虚無を表したような顔をしていた、かと思えば苦渋に喘ぐ顔をしてみたり、歯を食い縛り激情に耐えるような顔をしていた、やがて奴は口を開いた。

 

『皆には分からないんだ、アリスが知らないところに行ってしまった事に、勇者の所に行ってしまった事の意味が分からないんだ』

 

 酷く、酷い苛立ちが俺を襲い、酷い吐き気が俺を襲った、自分とは全くの別人と割り切ってるとはいえ、これ程にまで弱々しい声をしていたのか。

 

『くそっ、くそっ』

 

 苛立ち気にボフっと何度もベッドを殴り付ける奴は見ていてかなり無様で滑稽だった。

 

『だいたいアリスもアリスだ!あんな軽薄な奴と楽しそうに·····!他の女を2人も侍らせてる奴だぞ!くそっ!』

 

 ────は?

 

 俺がコイツの部屋に居ないことが酷く悔やまれた、手血が出る程強く握り混んでいて、夢の中なのに痛みすら感じた。

 

 地団駄が止まらない、今すぐコイツの顔面を原型が無くなる程に殴りたい。

 

 コイツマジで今何て言った!?

 

 段々思い出して来た、奴の断片的な過去(あのときの夢)あの糞野郎(勇者)の笑み、そして今の奴(馬鹿野郎)のこの姿。

 

 

 産まれた場所が違うとか、環境が違うとか関係無い、コイツ何もしてねぇ、小さい頃、アリスと別れた後も、数年経って勇者達が村にやって来た時も。

 

 もう手が届かないって勝手に決めた癖、諦め切れていないのに何もしない、そりゃ周りも怒り始めるさ。

 

『ふざけないでよ!』

 

『!?』

 

 ──!?

 

 部屋に響く女の子の声、次いで黒いショートヘアに黒曜石を思わせるような光を放つ黒い瞳、身内贔屓を抜いても端正なその顔立ちの女の子が扉をバンっと開けて部屋に押し入ってきた。

 

 記憶の中にある「妹」の姿を数年成長させたような姿に感動を覚えるより、やはりと言うべきか全然違う性格に複雑な想いを浮かべてしまう。

 

 

 ネア·アーバス、いつも目尻は優しげに垂れていて、俺を見守るように優しく微笑みをニコニコと浮かべていた妹が、部屋の中に入ってきた彼女は目尻を見たこと無い程にまで釣り上げ、その目に冷たさを纏わせ奴を睨んでいた。

 

『な、何だよネア!いつも勝手に部屋に入ってくるなって───』

 

『──お兄ちゃん、いつまでそうやってウジウジしてるのよ、パパとママは放っとけって言ってるけどもう我慢出来ない!家に引きこもってばかりで、生気の無いゾンビみたいな顔で一日ただ過ごして!』

 

『ね、ネアには関係無いだろ!?』

 

『そうやって心は凄く怒ってるのに、悔しがってるのに、「あの女」を言い訳にして逃げてるじゃない!格好悪いよ!?』

 

 ぐぅの音もでない奴が、起き上がりネアの近くまで駆け寄り右手を振り上げた、がどう見ても見せかけだった、まるで怯えさせて謝罪を望むかのように手を振りかぶる素振りを何回かしている。

 

 ネアはそんな奴の姿を見て、ギリッと歯を食い縛り憤怒の表情を浮かべた。

 

『そんなに悔しいなら!年下の!それも妹にここまで言われてるのよ!?こけおどし何かじゃなく叩けば良いじゃない!今のお兄ちゃんにそんなことされても腹が立つだけだわ!』

 

 奴はネアのあまりの剣幕にタジタジになり、視線を合わせないように目を逸らし始めた。

 

 ぼそぼそと「俺は悪くない」だの「お前に俺の気持ちは分からない」だの「本当は俺だって」だの言い訳染みた言葉を並べ始めた。

 

 一気に怒鳴ったからだろうか、乱れてしまった息を整えながらネアは憤怒に染め上げた顔を、悲しげに染めた、目尻には涙が溜まり決して見せないように俯いて喋り出す。

 

 

『悔しいんでしょ?大好きなあの女があんなスカした男に盗られたみたいで、仲間にも馬鹿にされて、だったら追いかけるなりすれば良いじゃない、今からでも遅くないんだよ?ちゃんと鍛えて───』

 

『──ああ、分かったよ出てってやるよ!くそっ!』

 

『な、何でそうなるのよ!?』

 

 諭すような震える口調でゆっくり話していたネアの言葉を遮るように、奴が逆ギレし始めた、引き出しから硬貨と思わしき音を鳴らす小袋を懐に入れる

 

 そして、部屋から出ようと足を運ぶ。

 

 その様子にネアはいよいよ持って焦り、入り口に立ち塞がった、話を聞いて貰う為に、奴を落ち着かせるために口を開いた。

 

『待って!ちゃんと話を聞いて!』

 

『お前が追いかけろって言ったんだろ!?要するに僕みたいなクズは出てけって事だろ!?どけよ!出てってやるから!どけよ!』

 

『──っ痛──』

 

 あろうことか、奴はネアの肩を掴み、退かそうと力を籠めたのだろう、ネアの端正な顔が痛みに歪むのが見えた。

 

 奴もやるせなさと羞恥心と怒りの感情て周りが見えていないのか、ネアのそんな様子も気にせず更に力を籠めようとして。

 

 ネアの後ろから伸びてきた拳に殴り飛ばされた。情けない悲鳴を挙げた奴は床に倒れ、殴られた頬を押さえながら呆然とネアを見上げた。

 

 ──親····父······

 

 

 正確には後ろにいた親父を、だが、どうしようもない奴を見る目で倒れた奴を見下していた、その目に親が子に向ける暖かみも何も無く、ただ冷たい目で見るだけだった。

 

 夢の中だと言うのに、胸が苦しくなった、脳内に靄がかかり煩わしさに意味もなく歯を食い縛るなどして、原因が分からない苛立ちを抑えようとする。

 

 ネアも殴られた奴と親父を交互に見ており、その目に困惑が広がっていくのと、「どうしよう」と動揺する様が分かるほど焦っていた。

 

 親父の脇には、作ったような能面顔で奴を見下ろす母さんが立っている。

 

 ──母さん····

 

 そうか、そうだよな、ネアが「そうだったんだ」、そりゃ親父も母さんも「違う」よな。

 

 親父が奴に何かを言う様も、それを聞いてネアが悲痛に顔を染める素振りを見せても、やはり母さんが能面顔で奴を見下ろしていても、奴が何かに耐えられなくなったのか、親父が懐から取り出した小袋を何の疑いもせずに奪い取り、家から出ていく様を見ても俺がそれ以上感情の波を荒たてる事は無かった。

 

 

 

 

 親父はこんなに露骨に厳しい人じゃない、普段はかなり温厚で人を殴った所なんて聞いたことが無い。しかし怒る時は笑みを浮かべて逃げ場を失くすように責めてくる。

 

 母さんがこう言った場面で大人しくしている筈がない、ああいった場面では寧ろ進んで殴り飛ばしてきた。そしてその後に慰めるように諭してくれるのだ。

 

 ──分かっていた、分かっていたさ

 

 気付けば辺りは真っ暗に染まっており、辺りは何もない、ネアも親父も母さんもいなくなっており、「一人ぼっち」の俺がそこに残った。

 

 襲いかかって来ていた、寂寥感や不快感などの悪感情は感じなくなっており、変わりに自分が産み出した感情に呑まれかけていた。

 

 この夢を見て分かった事は、奴は糞ヘタレ野郎って言う事と、俺が本当の意味で一人ぼっちだったって事だ。

 

 ──世界はこんなに広いのにな

 

 その事実と再びぶつかり、生じたのは何処かに穴がぽっかり空いたような虚無感、体が冷たくなったかのように震える体。

 

 ──え?

 

 

 その時、右手に僅かな暖かみが灯った、とても強く優しい暖かみ、それはじわじわと広がっていき。

 

 同時に意識が浮上する感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れないで

 

 何処か懐かしく、切ない響きのある声を耳に強く残して。

 

 

ーーーーーーーー

 

「────っ!?」

 

 時刻は夜だろうか、俺は簡易テントの中で目を覚ました、先程の夢の余韻を残しつつ深呼吸を数度繰り返す。

 

 簡易テントの中から、恐らくカーラであるシルエットが焚き火の灯りによって浮かび上がり、パチッパチッと音を立てている。

 

「そっか、カルム村に辿りつくまえに暗くなったから野宿してたんだっけな」

 

 リデア村を発った俺達はその後スムーズに旅路を進め、順調にカルム村へ距離を縮めていた。

 

 しかしそこから、距離を詰める度に俺が頭痛や悪感情に苛まれると言う意味不明な状況になってしまい、進行に集中できなくなり、休みを入れてそのまま野宿、と言う話になりダリアとカーラにテントに無理矢理押し込まれたのだ。

 

「───あ····」

 

 そこで右手に暖かみを感じた、あの夢から俺を救いだしてくれた暖かみ、そちらを向くとダリアが俺の手を握ったまま、俺と並ぶように横に寝ていた。

 

 すぐ側に水と無くなりかけている氷が入った桶を見つけ、更に額には既に常温になっている折り畳まれた布に今更気付いた。

 

 「別に病人じゃないぞ」と苦笑して、ダリアの頭を撫でてしまう。

 

「──ありがとうダリア、俺を夢から助けてくれて」

 

「───あ」

 

「へぇ?」

 

 そこで目をパッチリ開けたダリアと目があい思わず間の抜けた声が漏れてしまった、あら相変わらず綺麗なオメメをしてるのね↑

 

 ダリアは頭を撫でている俺の手を見て、分かりやすい程顔を真っ赤にして、震え始めた。

 

 しまっ、離れないと──ってちょっとこの子足を俺の腰に絡ませてるんですけど!?力強いね!?後柔らかいね!?

 

 

「んに"ゃぁああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中で感じていた孤独感や虚無感は綺麗さっぱり吹き飛んでいた。

 

 

ーーーーーーー

 

 その後、テントに駆け込んで来たカーラが混ざろうとしたのを必死に抵抗して、未だに赤い顔から回復していないダリアと共に、3人で焚き火を囲った。

 

 俺は夢の内容を2人に語った。

 

 カルム村がこの体の前任者の故郷だと言うこと、アリスの事、勇者達の事、そして全く別人であるネアや両親の事、俺が孤独感を感じてしまったこと。

 

 一切話を遮らず、最期まで長々と俺の話を聞いてくれた2人は俺に怒った。

 

「レイグ様がどう思っていようと、私は貴方から離れる気はありません、何なら元の世界にだって着いていきます!」

 

「ふざけないで」

 

 あまりの怒りようにタジタジになった俺は謝り倒して、許しを得た。

 

 情けない?はっ!言ってろ!

 

 変に意地張って2人を無くすほうが俺は嫌だね!いつの間にか大きくなっている2人の存在に驚きながらも、俺は許してくれた事に胸を撫で下ろした。

 

 カーラが小枝を焚き火に放り込みながら聞いてきた。

 

「カルム村に寄るのは、止めておく?」

 

「······そう、だな···」

 

 中身が違くても、一応両親には顔を合わせて安心させてやりたいが、今合わせるのはさっきの事もあるし。どことなく気まずいのでそのまま通る事にした。

 

 ダリアとカーラら俺の様子に、薄く笑って頷いた。

 

 明日もあるので、今度は俺が火の番を名乗り出て、ダリアとカーラが休息をとることにした。

 

 気が緩んでいたのだろう、自分を慕ってくれる2人との信頼関係が深まった事が嬉しかったのだろう。

 

 近付いていた気配に全く気付けていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────お兄ちゃん?」

 

 




そろそろ主人公達のステータス載せてこうかな?
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