憑依物語   作:そりゃないわ

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 投稿間に合わんかった(涙)

 評価、誤字報告有り難うございます修正させて頂きましたm(_ _)m


#前回のあらすじ

 煽り屋レイグ君


47話『決着して·····』

 何秒経っただろうか、何分経っただろうか、何十分経っただろうか、最初は冷やかすような物言いが混じっていた周囲の歓声はいつの間にか熱を持っており、騒々しさに眉を潜めていた周りの家にいる住民や家持ちの冒険者は騒々しさから喧騒へと変わって行く様に感心と興味を抱いた。

 

 そんな騒ぎの中心にいる勇者は、楽しみにしていた周囲の反応を気にする事が出来なかった。

 

 簡単な話、そんな余裕が無かったのである。

 

 冒険者と言えど所詮は、半年前に登録したばかりの小物、実戦経験的にも、レベル的にも隔絶した開きに決闘開始直後にレイグの頭を打ち据えて終わり、勇者の中では最早確定事項と言って過言ではない光景が現実となって───

 

「っはああぁああああ!!!」

 

 ───いる筈だった。

 

 アレックスが放った横に薙いだ斬撃が凄まじい速さで目の前に立ちはだかる黒髪、黒目の少年、レイグの体へと吸い込まれていく。

 

 しかしアレックスが横に薙ごうと、剣を持つ方の腕を

「動かした時点で」バックステップの動作を繰り出し、その場から下がったレイグの体をアレックスの聖剣が拾うことは無かった。

 

 それどころか、防ぎ易いが明らかに「隙を突かれ」、反撃の斬撃を喰らわせようと、無駄の無い動きでアレックスの懐に入り込み飾り気の無い無骨な剣を逆袈裟で切り上げた。

 

「っ!くっ!」

 

 キィンと甲高い金属音を響かせ、次いで金属音は周囲の歓声に呆気なく飲み込まれた。

 

 この勝負、一見優勢なのはアレックスである、実際に攻め込んでいるのはアレックスばかりで、レイグは先程のような反撃は余り繰り出せずアレックスの猛攻をかわしたり、剣で受け流すしか出来ない、と言うのが周囲からの感想だ。

 

 当然レイグに打ち込んでいるアレックスは違う感想を抱いていた、いなされて、かわされて、受け流されて、たまに防がれた時押し込もうとするが、低レベル冒険者にはあり得ない程の力で押し返される。

 

 国宝級であり、途轍もなく切れ味があり、かなりの頑丈さを有し、更には「魔法剣」でもある聖剣にマトモにぶつかり合えばそこらの武器ならば破壊することも可能だと言うのに、だ。

 

 どれだけ攻めこんでも、まるで未来予知でも使っているようなレイグの先読みに、アレックスは次第に恐れを抱くようになっていた。

 

「(何だよこいつ、何だよコイツ!?)」

 

「アレックス、良いぞ!相手は尻込みしてる!畳み込むならば今だ!」

 

「やっぱり剣を振るうアレックスさんは絵になりますねぇ、それに比べて·····ぷぷっ!」

 

 

 ──お前らの目は節穴か!?

 

 

 明らかに動揺しているアレックスはいつもは気分良くなるような、リサとリリアンの黄色い声援がその時は煩わしくてしょうがない程の怒りを覚えた。

 

 更に、吹けば倒れそうな壁が、不安定ながらも安定していて倒れる気配が無い、そんなレイグへの焦れったさや、苛つき、不安が重なってしまったのか。

 

「(しまっ──!?)」

 

 大股で踏み込んでからの大上段の構えを作ってしまった。レイグの口元が三日月のように歪むのが見えたアレックスは背筋に冷たいものが走るのをしっかりと感じた。

 

 自覚した時には、既に振り下ろしに力を込めて振り下ろし始めた段階なのでブレーキが効かずに、レイグの思惑通りにレイグに吸い込まれ。

 

 

 

「ぐわああああああああああああああああ!!!」

 

「は?」

 

 剣と聖剣がぶつかり合う瞬間、やはり出来る筈か無い押し合いが僅かに発生した瞬間にレイグが弾き飛ばされたように、悲鳴をあげて後ろに吹き飛んで受け身も取れずに倒れた。

 

 思わず変な声が出た、先程の一振りよりも強い斬撃をアレックスは一、二発は前に放っており、その時はしっかりと「見せ付けるように」押し返していた筈である。

 

 だが、余りにもレイグを吹き飛ばした手応えがあった感じに追及することも忘れ、更に困惑するしか無かったのである。

 

ーーーーーーー

 

 アレックスのその様子を見たレイグは満足げに内心笑いながら自分の腕を押さえていた。

 

 レイグがしたかった事は、2つの願望の内1つ我慢した妥協案である、勇者達を痛め付けたいが、勇者パーティーの認知度や背後を考えると今は手を出しづらい

 

 ならば、と闘う場を用意してアレックス(あわよくば残り2人も一緒に)のプライドを傷付けて適当な所で敗北して、「馬鹿が調子乗りやがって」なんて空気になる前に──

 

「あ"~!やっぱり強いよ勇者様!こりゃ魔王の手下なんか余裕で倒しちゃうわ!」

 

 倒れてから10秒にいかないまでの小芝居を挟みつつ空気を読んで(ジト目ではあるが)駆け寄ってくれたダリアとカーラに起こされたレイグは実に悔しそうにそう宣った。

 

 レイグのアレックスへの称賛はいつの間にか静まっていた広場へ良く響いてゆく。

 

 アレックスの唖然としている顔が愉快だ、そう思いながら周囲からの反応をレイグは窺う。

 

「兄ちゃんも頑張ったがやっぱり勇者様には勝てねぇよ!」

 

「やっぱり勇者様は凄いな!ヴァリエン王国最強は伊達じゃねえぜ!」

 

「兄ちゃんも良く持ったよ!あたしゃ勇者様が何をしてるのか全く見えなかったよ!」

 

 1人がレイグの言葉に同意を告げて、それが周りにも広がっていく、1人、2人、3人と賞賛する声が上がっていき、それが全体に広がっていくのにそう時間はかからなかった。

 

 ある種の集団心理とも言える光景、周囲のギャラリーの反応に内心満足したレイグは、アレックスの前にへと足を運び、手を差し出し握手を求めた。

 

「俺の申し出を受けてくれてありがとう!機会があればまた手合わせしたい!」

 

───|こっちが作った空気に引き摺り込めば良いのだ。《嘘は吐いてないぜ★》

 

 今度こそアレックスの顔が盛大に引き攣った。

 

 周りを見ればギャラリー全て、なんならアレックスの元に寄ってきたリサにリリアンまで「圧倒的な実力で挑戦者を倒した勇者」を讃えている。

 

 今すぐにでも差し出された手を払い、目の前にいるレイグに問い詰めたいが、そんな事をすれば勇者パーティーのリーダーとして傷がつくかも知れない。

 

 故にアレックスは。

 

「····ああ、こちらこそ」

 

 爽やかスマイルでレイグの握手に応じるしか無かったのである、レイグは実に晴れ晴れとした笑顔でそれに応じたのである。

 

 せめてもの仕返しに少しでも痛がる素振りを見る為に力をこめるが我慢強いのかレイグの顔が痛みに歪むことは無かった。

 

 小さい舌打ちを残し、握手を解くアレックス。

 

 未だに「得体の知れない格下相手に攻めきれ無かった」事実に心の中に存在する燻る感情を消化出来ないでいると。

 

 

 

 

 

「レイグ!」

 

 勇者パーティー最後のメンバーのアリスが血相を変えて、レイグに抱き付いたのである。

 

 目尻に涙を溜めてレイグの身の心配をするアリスは血の気の無いようすでレイグの体を触る、その行為に焦った様子を見せたアレックスが口を突っ込もうとするが。

 

「あ、アリス!?」

 

「レイグ大丈夫?怪我してない?さっき勢い良く吹き飛んだけど····」

 

「あ、アリス、これはな」

 

「アレックス」

 

「は、はい···」

 

 レイグの身を案じるような声とは違い、酷く平淡な声でアレックスに返すアリス、アレックスはすっかり勢いが殺されたのか、怯えた様子でアリスの反応を窺う。

 

「後で話があるわ、先に3人で先に宿に戻っていて貰えないかしら?」

 

 業務連絡を伝えるかのように、淡々とした声音で話すアリスに気圧され、3人は悪戯がばれた子供のような気まずさを表面に出し、何回かアリスを振り返りながら歩きだすがやがてその場を去った。

 

 次いで、急な展開にざわついているギャラリーをグルリと見渡し、何かを呟くように言った後、詠唱破棄して魔方陣 を構成した。

 

 すると不思議な事にギャラリーの中から数名憲兵らしき人が出てきてその場を纏め始めた。どこか名残惜しそうに広場から1人、また1人と数を減らしていく。

 

 喧騒が小さくなった寂寥感さえ感じる広場にレイグにダリア、カーラ、そしてアリスだけが残った。

 

「むぅ!?」

 

 くぐもったような声がレイグから上がった。

 

 アリスはレイグの両頬を急に掴みその顔をマジマジと見始めたのだ、綺麗な碧眼がレイグの両目を射抜く。

 

 その眼には段々と、熱を帯びて、悲哀を帯びていて、歓喜に溢れ、恐らく何かしらの激情を抑えようとしているのだろう、綺麗に整った金色の眉がピクピク動いていた。

 

 レイグはその癖を「知っている」何なら、今のレイグはそれを見たこともある。

 

 レイグが驚愕に震える、有り得ない事が起きている、この世界のアリスは激情を抑えようとすると歯を食い縛る、小さい頃の癖だそうそう治らないだろう。

 

 

「ちょっと貴女いきなり──」

 

「え──」

 

 

 いきなりのアリスの行動に見守っていたダリアとカーラが咎めるような声を出そうとするが、途中でハッと息を飲むように声を詰まらせた。

 

 アリスが声を洩らすこと無く静かに涙を溢す。

 

 レイグが驚愕に震える理由は一つ、それが「今のレイグが知る彼女の」小さい頃からの癖だからである。

 

 そんなアリスを見つめているレイグはいつかリデル村で見た一輪の白い勿忘草(わすれなぐさ)を思い出した。

 

 

 

───忘れないで

 

「(あれは君なりのサインだったんだね)」

 

 ふとレイグは、以前アリスが白い勿忘草を嫌っていた理由を思い出した。

 

 ──忘れないでなんて希望的観測に過ぎないじゃない?だったら私は忘れられる前に会いに行くわ、どんな手を使っても、ね

 

 

 優しい微笑みを浮かべていたレイグの顔に、更に流す涙の量が増えた「アリス」はその柔らかい唇を開きながらレイグへ顔を近づけた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大好きよ、レイグ、愛してるわ」

 

 そしてレイグの唇にアリスは自分の唇を重ねた。

 




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