―*―
「こちら、『紀伊』3番機!
『魔王』アルヴヘイトの出現を確認!」
「こちら艦長松田!
依然として本艦は回避行動中に在り、攻撃は不可!繰り返す、攻撃は不可!」
―*―
「ふむ、アドミラル。
それでは君は、2隻の戦艦を排除しなければ、我に勝ち目はない、そう言うのか?」
神域にて。
その「片手の指が3本の男」は、逆立ちしながら器用に、「光でできた人影」とポーカーしていた。
「ええ。かの『亡霊』は、どの世界にも出現し、貴方の世界を踏み台とし、破壊するでしょう。」
「何をたわけたことを。我が負けるハズなどない。
エヒトの名において命ずるー『失せろ』」
海軍軍服の男が、跡形もなく消え去る。
「しかし、それが発生することは事実なのですよ。
ロマンは時に歴史すら書き換える!勝者である私はいずれ無力!」
太っちょの男が、ピエロの格好で真後ろに現れる。
「『うるさい』」
男は消え、そこには、小さな男の子。
「だから、僕の言うことを聞かなきゃいけないよ。
…また、僕の勝ちだね。」
―*―
天空から光が現れたその時、介入の時を逸し続けていた「紀伊」3番機(零式水上観測機)のパイロットは、やっとかと思った。
「射撃開始!」
しかし、なんたることか、光の柱の手前で7,7ミリ機銃弾が停止した。そして、くるりと反転、3番機に突っ込んでくる。
「こちら3番機!エンジンに被弾、緊急着陸する!」
そして、地獄絵図が繰り広げられる中に、3番機は転がり込んだ。
誰もが唖然とする。
観測手が真っ先に飛び降り、そして、事態を把握する。
貫手で貫かれた日本人。
それをする、異様な雰囲気の金髪。
ー独立転移艦隊は、いくつもの世界を巡ってきた。しかし、乗員たちの根は、太平洋戦争中である。すべきことは明らかだった。
「帝国海軍独立転移艦隊である!ただちに降参されたし!さもなくば!」
ダン!
九四式拳銃の発砲音が鳴り響いた。
「む…?」
ユエ…否、エヒトは、その南部銃弾をつまみ取り、放り投げ、同時に南雲ハジメの腹から腕を貫く。
「この程度か?やはり、あの者の言うことは間違いか。
エヒトの名において命ずるー『失敗せよ』」
パイロットと観測手が、カチカチと引き金を引くー弾は出ない。
「くそっ」
いらだって投げた瞬間、安全装置が床にぶつかり、弾は発射された。
スーサイド・ナンブーその別名ゆえ、もともと何らかの失敗は起りやすい。そして、マイナスにマイナスをかければプラス。ユエの目が、片方つぶれ、またたく間に修復されていく。
「…なるほど、貴様ら、確かに、無視できんな。
アルヴ、こやつらのフネを沈めてやれ。さすればかの国出身の者どもも絶望するであろうよ。」
「はっ」
カーテンが開かれる。
別に迷宮なんか攻略していなくても、トータスに召喚された生徒たちは一般人からは逸脱したステータスを誇っている。だから、沖で起きていることを視認することができた。
三連装三基。
旭日旗と日の丸。
「に、にほんの、フネ…?」「『大和』じゃねえか…?」と、生徒たちがざわめく。
と、神アルヴヘイトが、空間ゲートを開き、その戦艦の上空へ転移した。
ここまで、あまりいいところがなかった眷属神。それが、戦艦の斜め上から、「神の使徒」のそれがかすんで思えるような極大の銀光のビームを発した。
ー沈む。
誰もがそう思った。
しかし、分解魔法の光線は、その装甲に弾かれた。
「敵性高し。
目標名『堕天使』からの回避行動を中止。
反撃せよっ!目標、アルヴヘイト、弾種三式!
全砲門、開け!」
轟音が響き渡る。
空を駆ける9発の51センチ砲弾。
戦艦の周囲を飛び回る「神の使徒」ノイントたちが、銀色の羽を発しながら接近する。
「近距離対空目標『堕天使』へ、両舷対空弾幕、放て!」
水面すれすれへ降下して接近、銀色の羽による攻撃を行おうとしたノイントたちへ、無数のロケット弾が迫った。羽がかすめたことでロケット弾の表面が分解され、設定より早く信管が炸裂、焔で海面を包む。
「なに、我が使徒たちが、全滅、だと…馬鹿な!?」
そして、三式弾が炸裂、幾重にも重なる花火が、アルヴヘイトを包み込んだ。
眷属とて神は神。今もハジメたちを拘束するそれほどの現実改変力はないが、「神言」は使えるーしかしいかんせん、弾子の数が万単位と多すぎた。一つ一つが10センチ以下、燃焼しながら爆風ですっ飛んでくるモノのため、認識して対処するのも間に合わない。
次々と身体を突き抜ける3000度の塊。そして傷口が燃え始める。
吸血鬼であるディンリードの身体を借り、自動再生を施していたのが致命的だったー破損が再生の速度を上回り続ければ、消費が己に牙をむく。
最初に周囲の魔力を消費し、次に己の魔力を消費し、さらに己の肉体を消費し、最後には己の存在を消費しーそして、魔人族が神一柱、焼失した。
どこかで、勝者が叫ぶー「おのれ紀伊型!お前のせいで、また航空主兵主義が破壊されてしまった!」
エヒトもまた、気が付けば味方がいないという状態に歯噛みし、そして、神域へのゲートを開いた。
その背に、騒ぎの間に「神言」の束縛から何とか解放されていたハジメが、銃口を突き付ける。
「無礼者がっ!」
一言で、弾き飛ばされた。
「アドミラルとやらが言うことも、あながち間違いでもないようだな。万全の状態で砕く必要があるようだ。
5日だ。7月29日の日の入りを、拝めることはないと思え。」
―*―
「貴方が、南雲ハジメさんですね?」
「ああ、あんたは?」
「申し遅れました。
本官は、元帝国海軍技術少将、独立転移艦隊技術中将、牧野茂と申します。貴殿の開発成された各種兵器には大いに感服いたしました。」
「…もしかして、紀伊型を作ったのは?」
「はい、私が紀伊型戦艦の主任設計者です。現在は戦艦『尾張』の副主任技術者を務めています。」
「…『尾張』から来たのか。豊田元帥が捜してたぞ?」
「それが、主任技術者が、ビックリさせたいから隠しておきたいそうで。」
「…なんか嫌な予感がするが、その主任、名前がミで始まらないか?」
「苗字がラで始まりますね。」
「…ま、楽しみに待っておくよ。」
「私こそ、最強の錬成師が何をするか、楽しみです。」
―*―
「独ト2型重力ー空間縛握ー呪式機関、始動を確認!
これより本艦は、仮称『神域』へ、突入する!」
「ライセン大迷宮発破用意よし!
防護結界よし!
点火!」
轟音とともに、かつて、「ライセン大渓谷」と呼ばれた辺りが埋め尽くされた。
崖だったところから、その大戦艦は姿を現す。
「早く見てみたいねぇあのクソ神がぶったまげるところ!」
―*―
「エヒトルジュエが命ずるー『沈め』!」
神域から出てきたユエは、いの一番にそう叫び、その手に乗せた神の焔を、海上の「紀伊」へ投げ落とした。
ピカッ
磨き上げられし神の言葉は、それゆえ現象を顕し破戒し現見させしめる。
ドーーーン!
畑山愛子教諭は、ただ茫然とキノコ雲を見上げた。
ーその雲の中へ、何かが、キラリ輝きながら突っ込んでいく。
「おいおい、2隻目、『尾張』じゃねえか…
香織、シア、ティオ、行くぞ!遅れてたまるか!」
ハジメは、0を示したままのガイガーカウンターを放り投げ、大空へ飛び立った。
―*―
「効かぬわっ!」
エヒトは、「尾張」からの9発の51センチ五式徹甲弾を雲散霧消させ、お返しとばかりに純白の光弾を発射した。
全長312メートルの「尾張」の各所に、風穴があいている。それでも、高角砲と機銃群は、ハリネズミかと思うような弾幕を乱射し続けている。
エヒトは、表情を歪めていた。威力、命中率ともに、明らかに酷いものがある。
「『当たれ』『破壊せよ』
…ここまでして、なお、有効打が出せない、だと…!?」
そもそもだ。
おかしいではないか。どうして、神であるアルヴヘイトや、神の使徒であるノイントが、三式弾に加害されることがある?
エヒトは、その目を細め、手掛かりを探した。
「何だ?何が、神威を弱めている?
…見つけた。」
艦橋に1か所、そして、マストの旗に数か所。
中でも黒赤青黄の4色旗が、最も怪しい。
「…まさか、タダのフネごときに、概念魔法、だと…?
なんだ?何が込められている?」
「そりゃあきっと『皇国ノ興廃於イテ此ノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ』だろうよ。」
真後ろから、声が響いてきた。
「なっ、イレギュラー、いつの間に…それにどういう意味だ」
「日本人ならみんな知ってる、勝てる魔法の文句、かな?」
「香織、まったく違うけどな。」
「でも、ハジメさん、香織さん、あの旗には未来を決める力があるみたいです。『未来視』に干渉されてますぅ…」
「無茶苦茶じゃのう…それが『皇国』とやらがあのフネにかけた思い、ということかの。」
ハジメ、香織、シア、ティオが、悠然、空を飛んでいる。
「国の、思い、だと?ふんそんなもの!我が今までいくつの国を滅ぼしてきたと思っている!?」
「…そうやって信じ続けるつもりでも全然かまわないんだけど、だったら、アレにはどうやって説明をつけるのかな?かな?」
香織が、真下を指さす。
キノコ雲があり得ないほどの速度で溶けていく中に。
煙突やマストをへし折られながらも、その超戦艦は、雄姿を海上に浮かべていた。
「なぜだ!?なぜ!?理解できんぞ!」
「簡単なことなのです、エヒト閣下。」
気づけば真正面に遷移していた戦艦「尾張」。その艦橋から、牧野茂が声をかける。
「概念魔法というモノは、『究極の意思』で発動し、世の理すら捻じ曲げる、でしたよね?
であれば、2億皇民の願いが詰め込まれた紀伊型戦艦が概念魔法を有し得ること、そして資源の少ない我が皇国に必要とされた概念がなんであったか、本官が申し上げる必要もございますまいかと。
トータスには、トータスにも、『絶対に沈まない戦艦』が必要だったのです。そして紀伊型戦艦は、時代と戦場が希求する限り、そこに現れるのです。」
ー故に、「不沈戦艦」紀伊ー
「そんな、そんなことがあろうはずがない!」
エヒトは、半狂乱になりながら光星を乱射した。
「あほ、よそ見してる余裕なんかあるのか?」
その背に、ハジメたちが猛攻撃を加える。一方で猛烈な弾幕が吹き散らされ、エヒトの攻撃を迎撃していく。
それでも、苛烈なエヒトの魔法攻撃は、徐々に、紀伊型戦艦が水上艦であるという特徴上対空防御が成されていない喫水線下の水中装甲を中心に、「尾張」に傷をつけ、破孔を穿っていった。
エヒトは、必死に背中側へバリアを張りながら、「尾張」へと「真なる神威」とも言える極光を放った。
一瞬で51センチ砲弾を弾く装甲が蒸発していく。
煙突が剝げ落ち、缶室の損傷を防ぐために主機が停止される。
これでもかと満載されていた対空火器が数秒で全滅する。
それでも、旭日旗凛々とはためき。
それでも、Z旗燦然と翻り。
それでも、栄光の三連装砲は皇威を背に指向し。
ーそして、ハジメたちにとって、「尾張」は名前の通り、エヒトを終わりにするだけの時間の余裕を稼げていた。
「エ、エヒトルジュエが命ずる、撃つな、撃つなと言っている!」
51センチ砲の殺気におびえあがったエヒトが声を震わせるその後ろで、ハジメが冗談みたいに巨大な砲を構えるーその口径、なんと60センチ。
片側からは51センチ砲9門、もう片側からは60センチ臼砲1門が、砲弾ではなく、力そのもの、概念そのものを吐き出した。
前後からの光の奔流。それは世界を捻じ曲げる。
「こ、この私を、『神域』へ、突き飛ばすだと…!?
くそ、沈めてやる、沈めてやる、沈めてやるぞっ、モンスター!」
光でできた人型実体が虚空へ吸い込まれ、ユエが、そーっと自由落下していった。
―*―
「…で、せっかくの依り代を放棄させられて、この辛気臭い小宇宙へ戻ってきたわけなんだね?」
「アドミラル、寄こせ、あのモンスターをイレギュラーもろとも始末できるものを!」
「無理ですよ。そんなこともわからないだなんて年を取るってやあねえ。」
「だが、お前たちは、過去に一度、アレを、大艦巨砲主義を過去の亡霊として追いやったのだろう!?ではなぜそれがお前にできて我にできぬ!?」
「アハハ、変なの。だって見てきたんでしょ?
過去に失われたモノ、故に還らないモノ、だからこそ人々はその活躍をたたえ記憶し、永遠となるのですよ。
我々航空主兵主義がしたことは、戦艦を放逐することじゃない。戦艦をロマンと共に悠久の時の彼方に押し戻すことで、それを呼ばれたらいつでも顕れるモノとしてしまったことだ。すべては、失敗だった。
貴様も、永遠を生きる覚悟はあるか?全世界がそれを成さんと欲す。
グッバイ!」
「こら、待て、待つのだ!
…もう、もう、来てしまったと言うのか!?」
―*―
「結局、元帥閣下、我ら独立転移艦隊の、この世界での役割とは?」
「決まっているだろう。今までだって、我々はおそらく、時代の主役となるはずだった者たちの役割を喰ってきた。
時代は移り行く。それを大艦巨砲主義へ、時計の針を逆に進めているだけだ。」
「この世界では、『神から魔王へ』であるべきところを、『神から戦艦へ』ということですか?
…黛、どうした!?外の様子を報告しろ!」
「御光であります!段階は虹!」
「…『紀伊神社』付き士官!ただちに託宣のありやなしやを報告せよ!」
「託宣なし!」
「全艦に告ぐ!
従属次元転移兆候を認む!総員転移に備え!戦闘態勢のまま静止して待機!」
―*―
「せっかく、ミレディが改造してくれたみたいだし?」
ハジメは、主砲がすべて脱落し半壊状態で「神域」に横たわる「尾張」の艦底に手をついた。
「エヒトルジュエ…
お前が壊そうとしたモノすべての報いで死ねー」
空間魔法により周囲の空間を固定し、重力魔法をハチソン=シュレディンガー拡張効果に基づき展開することで浮遊力場を作るミレディ製の機関。それが、ハジメが錬成していくことで、あらわになる。
艦首、バルバスバウが開き、中から巨大な砲身がせり出していく。
「ー『重波動砲』」
「止めろ、止めろ!
ア゛ア゛!!!!」
恐怖のあまり、絶叫が響き渡り。
ーッ!!!!!
そして、音も光も衝撃もなく、何かが、「尾張」艦尾の呪式機関から艦首までを通って、直進、エヒトルジュエの魂を吹き飛ばした。
白亜の空間にひびが入る。
「南雲君たち、早く逃げたまえ。
ここは持たない。」
「それじゃあ、あんたらはどうするんだよ。」
「…大艦巨砲主義など、しょせん、過去の亡霊に過ぎないと言うことだよ。」
「…それは違うな。
少なくとも、俺は、男のロマンを忘れない。
コレ、持ってけよ。次へ、行くんだろ?」
ハジメは、「尾張」艦橋へ、奈落以来の自分の歴史の証人である義手を外して、投げ込んだ。
「ありがたく拝領しよう。
総員、登舷礼っ!」
「香織、ユエ、シア、ティオ、いいか…敬礼!」
―*―
「…行ってしまったな。」
「おい、何をしとるんだ中瀬!」
「松田さん!?」
「まだ終わりじゃないってこった。」
「でも、邪神は討伐されましたよ?」
「…しかし、この空間は消えておらんぞ。」
「なるほど、だからこそ、御光が見られない、と。
…もしや、この空間が、トータス世界に脅威?」
「そうなのだろう。牧野君はなんと?」
「そうなのでしょう。空間異常の類の中での異法則機関の暴走ですからね…
主体次元へ崩壊を連鎖させない方法は、おそらく、先に手を回し空間を本艦の転移に伴い消滅させることのみです。」
「牧野、その方法は?」
「…『紀伊』による『尾張』撃沈。これしかないかと…」
「…まったく、最後にそう来たか。大団円とはなかなかいかないものだな…
長官。」
「ああ。
総員、『尾張』より退艦。
全砲門、照準『尾張』!」
―*―
空の裂け目の向こう側、明らかに崩壊の途上にあるそれを、ハジメたちは地上から見上げていた。
51センチ砲の斉射音が、かすかに聞こえてくる。それは、まぎれもなく、礼砲だった。
「ハジメ君、結局アレは、何だったのかしら?」
「雫、ロマンだよ。
きっとアレは、歴史に名を残したいがために、存在しないところから存在しないところへと旅をする、『通りすがりの戦艦』だ。」
かつて、確かに、すべての人々の願いを託された、漢たちのロマンのかたまり、それはあったのかもしれない。
ハジメは、片手に握る紀伊型戦艦の錬成模型を、そっと握りつぶした。
「…忘れないさ。忘れないとも。」
―*―
9発の51センチ砲弾が直撃する寸前、「尾張」の艦内神社の神棚に、電報用紙が落下してきた。
同封された写真に写っているのは、「逆さまの笑い顔と、完全に破壊された町」。
NEXT BATTLEFIELD IS ???
※御光=オーロラカーテン。
※だから次の世界を書く…などとは誰も言ってませんのであしからず。正直コレ暇つぶしだからね。