「すまなかった。ここに来る前にちゃんと言い付けてあったんだが、脳筋の役立たず共には理解出来なかったようだ」
山高帽の男2人がすごすごと家から出ていった後、入れ直した紅茶を一口飲んでからシータさんがそう言った。
「はぁ」
シータさんの言葉に気のない返事を返しつつ、どうやって話をはぐらかして帰ってもらおうかと悩んでいた私だったが、シータさんが次に口にした言葉で既に退路がないという事を嫌というほど思い知る事になった。
「しかし、ちょうど良く邪魔者も居なくなった事だし腹を割って話そうじゃないか。ゴホン、改めて名乗らせて貰おう。私の本当の名はリュシータ・パロ・ウル・ラピュタ。君と同じラピュタの王族の末裔だ」
「……ッ!?」
シータさんの言葉を耳にして私はガツンと頭を殴られたような衝撃を受け、口に含んでいた紅茶を思わず噴き出しそうになった。
「驚いたかい?」
道理で秘密がバレている筈だよ。確かにお婆ちゃんが言っていたな、ウチ以外にもラピュタの王族の末裔がいるって。
イタズラが成功した子供のようにニヤニヤと笑うシータさんを他所に、辛うじて噴き出す事の無かった紅茶をゴクリと飲み込みながら内心で降参とばかりに両手を上げる。
「……祖母に聞いた事があります。ラピュタの王族は地上に降りた際、2つに別れたと」
「その通り!!そしてその別れた王族の末裔が君と私と言うわけだ」
この期に及んで話をはぐらかしても無意味な事は明白であった為に、私は暗にラピュタの王族の末裔であると認めた。
「それで君の本当の名は?」
だが、シータさんは私の口から確かな言質を取りたかったようで嬉しそうに笑いながら名乗るように詰め寄ってくる。
「私の本当の名はロムスカ・トエル・ウル・ラピュタです」
「ロムスカ……ロムスカ……」
何してるんだ?この人……。
素直に名を言ってみれば、目を閉じながら何度何度も私の名を口ずさみ、まるで名前の響きを耳で咀嚼して味わっているかのようなシータさんの姿に私は正直引いていた。
「いい名だ。これから末永く宜しく頼む」
「は、はぁ……」
なんか落差が激しいな、シータさんって。
有無を言わさず手を掴まれ、ブンブンと腕を振りながら大袈裟な握手をするシータさんに私は困惑するばかりであった。
「ゴホン。では時間もあまりない事だし真面目な話をしよう」
「お願いします」
私が困惑している事に気が付いたのか、咳払いしてから身を取り繕ったシータさんは真面目な表情で口を開いた。
「では先ず私がここへ理由だが、察しの通り飛行石と君の身柄だ。まぁ、君に会いたかったのもあるがね」
「……」
最後にそう漏らし、ジーっと意味ありげに流し目を送ってくるシータさんの事を無視して無言で先を促す。
「つれないな……ゴホン。今現在軍ではラピュタに関する研究が進んでいて目撃情報などからラピュタが今なお実在する事までは掴んでいる。そして他国よりも先にラピュタを見つけ手に入れる事に腐心している。そのような状況だからこそ分家ではあるもののラピュタの王族の末裔という肩書きを持つ私も軍の特務機関に所属してラピュタ発見に尽力している」
「つまり……」
「そう。私の任務は君が所有する飛行石を手に入れ、宗家の──真の王族である君の協力を受けながら飛行石を使ってラピュタを見付け、ラピュタを我が国の支配下に置く事だ」
まぁ、そんな所だろうな。
シータさんの口から語られた内容が容易に想像出来た話だったため、私は特に驚く事もなかった。
「──まぁ、表向きはそんな理由だ」
だがシータさんの話にはまだまだ続きがあった。
「表向きは?」
「あぁ、君以外の人間が飛行石を所有していたら無理矢理にでも飛行石ごと拉致してラピュタ捜索に協力させ、ラピュタを見付けた後に支配権を譲渡させて始末。そして国にラピュタを渡す前に私がラピュタ王としてこの世界を支配しようと考えていた」
「……」
あっけらかんとした様子で、とんでもない事を口にしたシータさんに私は絶句する
「ずいぶんと壮大な計画を練っていたんですね」
「まぁ、そう言われても仕方がない。とは言えあのラピュタさえこの手に握ってしまえば世界を手に入れるのは容易いからね、問題は過程だけだったさ」
飄々と事も無げにそう言って紅茶を口にするシータさんの姿に呆れるやら恐怖するやら。
とにかく目の前にいる人物が思っていたよりもとんでもない人だという事を再認識した。
「それで何故その野心を私に話したんですか?」
答えが薄々分かりつつもシータさんに質問する。
「それはもちろん君にこの計画を手伝って欲しいからに決まっている。さぁ、ロムスカ!!私と一緒にこの世界を統べようじゃないか!!」
「お断りします」
分かってる癖にとでも言いたげな笑みを浮かべ、ちょっとした旅行にでも行くノリで世界征服の勧誘をしてくる彼女に食い気味の即答を返す。
「な、何故と聞いても?」
「仮にラピュタを見付けたとしても独裁者なんかになりたくないからです。私は片田舎で細々と暮らしている方がいいし、それが分相応です」
何故か驚いているシータさんにこちらが驚く。
謙遜や自虐などではなく、これが本心であった。
「ふむ。ロムスカと2人仲睦まじく静かに暮らすというのも中々に魅力的だが、それは無理だろうね」
また何か変な事を言っているが、完全にそれを無視して話を続ける。
「何故静かに暮らすのが無理なんです?」
「既に君の事が軍に知られてしまっているからだよ。仮にだ、ロムスカが飛行石を手放し私がラピュタを見付け、私の計画が失敗して国にラピュタが渡ったとする。その時に国のお偉方や軍上層部のマヌケ共がラピュタの正当後継者たる君を野放しにしておくと思うかい?手に入れた絶対的なオモチャを横からかっさらえる権利と力を持つ君を」
「しかし、ラピュタを見付けるのに協力して見つかってからは国の庇護下に入って──」
「火種は闇に葬るに限る。それがいつの世のでも権力者の普遍的な考えだよ、ロムスカ」
ゾッとするような凄みを放ち、無表情でそう声を漏らしたシータさんの姿に総毛立つ。
「事実、野心があろうとなかろうと私だって用済みになればすぐに消されるだろうしね。まぁ、そういう訳もあって保身のために世界征服を企んだ一面もあるね」
そう事も無げに言い捨て、苦笑する彼女の姿が先程の言葉に嘘偽りが無いことを如実に表していた。
「……」
「そういう訳で残念だが、ロムスカが選べる選択肢は多くないんだ。私の手をとり私と共に生きていくか、クソ共の手で闇に葬られるか」
さぁ、どうする?君は誰の手を取るのかな?と続け、悪魔的な笑みを浮かべながら手を差し出しているシータさんを前に私は口を閉ざして考え込んでいた。
確かにシータさんが言うように、この国は軍事国家で情勢が不安定で国民の生活なんて知るかっていう所があるしな。
最初は保護してくれても邪魔になったらすぐに始末されそうな気がする。
まぁ、その点に関してはシータさんも同じだけど……自意識過剰でなければ私に対する好意が高いシータさんの方が生き延びられる確率は高そうだ。
「私を選んでくれると信じていたよ、ロムスカ」
そんな打算的な考えで私はシータさんの手を渋々取る事にするのであった。
とりあえず用事があるので2~3日空きます