Fate/beyond【日本史fate】   作:たたこ

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11月28日② 弓兵 対 槍兵

 流石に晩秋にもなれば、夜は寒い。一成は黒いコートの前を合わせながらそう思った。終電もなくなった深更の、春日駅前の春日イノセントホテル屋上。高度故に地上より強い風が吹きすさび、アーチャーの束帯と一成のコートが激しくはためいている。

 曇天の下は月明かりさえなく、闇に満ちている。

 

 一成はいつもの学生服ではなく、清潔な神職用の白衣に無紋浅黄の袴を着用している。

 その上にコートとブーツなど履いている為に、傍からすれば陰陽師や神主というよりは坂本竜馬かぶれに見えるだろう。

 

「そなたはついてこないで良いというたのに、全く聞き分けのない」

 

 大きく聞こえるようにため息をついたアーチャーに、例によって一成は文句を言う。

 袴に挟んでいた呪符を突き付けて宣言した。

 

「マスターとして近くにいた方がバックアップもできるだろ」

「というかそなた、まるで神主……陰陽師感ないのう。空恐ろしくなるほどに。アーチャーびっくり」

「余計な御世話だ!そんなことよりサーヴァントの気配はないのか?」

 

 別にアーチャーと一成は酔狂でビルの屋上で吹きさらされているのではない。

 ニュースであった一家惨殺事件。あれがサーヴァントの仕業か否かの真偽を確かめるため、聖杯戦争の夜に足を踏み出したのである。アーチャーは直衣を風にあおられながら、こめかみに指を当てる。

 

「アーチャーのクラスは索敵に優れるが、私は生前の呪いで少々目が悪くて力が低下している」

「アーチャーのくせに目が悪いって何だよ……」

「それでも弓使い、目ではなく感じで敵の場所はわかる。だが、今の所サーヴァントの気配は感じぬ」

「ランサーも人食ってるサーヴァントも今日はお休みってか?」

「それはわからぬわ。……少々移動するか?」

「そうだな……じゃあもっと住宅街の方に行くか。中学校の屋上あたりなんか見渡しやすいだろ」

 

 よっこいしょとサーヴァントとは思えぬ掛け声でアーチャーは腰を上げた。そして有無を言わせず一成の襟首を掴んで高層ビルから飛び降りる。遥か眼下にはぽつりぽつりと街灯のある、大きな道路が横たわっている。舞うようにアーチャーは隣のビルに飛び移り、さらに駆けてビルからビル、そしてそれが少なくなってからは屋根から屋根へ飛び移っていく。

 

 アーチャーは身にまとった重々しい衣冠束帯からは想像できないほど俊敏、かつ身軽な動きで冷たい闇を駆け抜ける。高所恐怖症の人間なら卒倒してしまいかねない行為だが、一成は別の理由で気絶しかかっていた。襟首が掴まれていたせいで半ば首が締まっていたのである。

 知ってか知らずか、アーチャーは闇に眼を走らせながら、抱えた一成に告げた。

 

「……一成、サーヴァントの気配じゃ。まだあちらはこちらに気づいてなかろうが……どうする?」

「ゴホ、ど、どのサーヴァントかわかるか!?」

「そこまではわからぬ。私たちはまだ直接サーヴァントにまみえたわけではないからな」

 

 まだ敵はこちらに気づいていない。ならば、一成の指定した中学校の屋上より、先制攻撃を仕掛ける。アーチャーは三分程度の夜間飛行を経て、一成の示した私立中学校の屋上に着地した。

 落下防止にフェンスで囲まれた、特に何の変哲もない学校の屋上だ。

 

 

 一成はげほげほとむせながら涙目で文句を言おうとしたが、当のアーチャーは既にその弓を番えていた。

 

「―――」

 

 アーチャーの弓は、弓道をしているものなら親しみのある和弓だ。しかしどうも戦闘用とは思えない。それはアーチャーが衣冠束帯のいでたちであり、その上矢のストックは、漆塗りの箱に入れ、扇型に配置された矢を大きな紙――間塞(まふさぎ)で包み込まれ、平胡簶(ひらやなぐい)で固定したもの――どちらかと言えば儀式に向かう貴族のように見えるからだ。前から見れば、背中に扇状に矢が何本も並んでいるように見える。

 

 儀式めいた厳粛な雰囲気を漂わせ、アーチャーは矢を夜の闇に向けている。アーチャーの構えは弓を知ったもののそれであるが、達人のものかと聞かれれば微妙だと、一成は思った。

 圧倒されるような雰囲気もなく――只構えている、という感じだ。

 

 

 一成は一抹の不安を覚えた時、アーチャーは深く息を吸い、そして告げた。

 

 

「――この矢、中れ」

 

 それまでの平凡なる射手は、その一言で全てを変えた。風が渦を巻いて吹き上がり、尋常ならざる魔力をその弓手に凝縮し―――引き絞られた矢が放たれた。

 その矢は恐るべきや速さで飛んでいくわけでも、超絶技巧がなしえる神技でもなく――それでも、目的に向かって跳んだ。空を切っていくのではない。駆けていく矢ではない。

 

 言うならば、跳躍。この場所から標的へ、一瞬にして跳躍し貫く何か。

 

 一時風が吹きすさび、すぐに納まる。耳が痛くなるような静寂の中、一成はアーチャーを見上げた。

 

 

「祈れよ一成。私の矢は相手が不幸であればあるほど必殺となる」

「何だそれ?」

「少し黙らんか。今敵サーヴァントに中ったか確認しておる……!」

 

 アーチャーは目を見開き、一成を一顧だにせず弓の跳んだ先を目を凝らして見つめていた。しかしすぐに眉間に皺を寄せ、期待が外れたように息をついた。

 

 

「どうした」

「弓は中った。中ったが、傷を負わせるに至っていない。――ずいぶん硬いサーヴァントのようじゃ。そして、そやつはこっちに向かっておる」 

 敵は人食いサーヴァントか、それ以外か。どちらにしろずっと逃げ回っていては敵の情報すらもおぼつかない。

 

「迎撃するぞ」

 一成は頷き、遠き夜から飛来する英霊を待ち構えた。

 

 ほとんど時を置かずして、何か力の塊のようなものが近づいてくるのを感じた。それは目にもとまらぬ速さで、唐突にその威容をアーチャーたちの目の前に堂々と晒したのだ。

 空を裂き、コンクリートの上に滑り込んだは長い槍を手にした男。彼はそれを振り回し、ぴたりとアーチャーに向けて見せた。

 

「応応、四日目にしてやっと見つけたわ。狙撃とは何事かと思ったが、アーチャーならば道理!」

 

 それは三メートルに達する槍。柄には呪布が巻かれ、槍の神秘を隠している。その槍の担い手自身も二メートル近い巨躯。身軽な鎖帷子に、動きやすい藁草履。

 見るからに槍兵のクラス、ランサーと推察された。

 

 

「儂はランサーのクラスで現界せし英霊。そなたも名のある英霊と見える。いざ尋常に死合おうではないか!」

 嬉々として、という表現がふさわしい朗々たる声が響く。溢れ出す闘気と威容に圧倒され、一成は言葉を失った。

 それに反して、アーチャーの様子は微妙、かついつも通りである。彼は一成の耳元でぼそぼそと囁いた。

 

「一成、アレは私の苦手なヤツじゃ。そもそも武士?侍とやらは我々に仕えるはずのものなのだが、何故それと私が戦わなければならぬのかとんとわからぬ。時代の変遷とは恐ろしいものじゃ」

 

 アーチャーはランサーの闘気を受けてもけろりとしている。初めて敵サーヴァントを眼にして立ちすくむしかなかった一成は、アーチャーの飄々とした態度に助けられた。見るからにやる気に満ち溢れているランサーで、先ほどのアーチャーの矢で傷ついたようには見えない。

 

「……本当にさっきの効いてないみたいだな」

「うむ。ちょっと頑張ったのだがいたしかたない」

 

 アーチャーと一成の話が聞こえたのか、ランサーは興味深げに口をはさんだ。

「お前の弓か?ありゃなんだ?飛来するというよりはいきなり現れた、という感じだったが!」

「それをやりすごしたそなたじゃ。説明することもあるまい」

「応。儂は頑丈さが自慢だからな――しかし、お前のような不可思議な矢は見たことがない」

 

 ランサーは笑う。決して逃がすまいとする獰猛な闘志を滾らせて、敵を見据えている。

 近距離戦は不利と知りながら、アーチャーは、背負っている矢筒から矢を抜き取り番える。

 ランサーが大槍を構える。アーチャーが弓を引き絞る。

 

「本来、戦には向かないが」

 

 常軌を逸したほどの緊張が高まり、放たれる直前の矢のように張り詰める。

 

「……私は聖杯に用がある故に、此度の生でも戦わなければならぬ」

 

 飄々とした雰囲気は掻き消え、アーチャーも敵意を露わにした。

 その豹変に一成が驚くより早く、二騎のサーヴァントの威圧がぶつかり、そして堰を切る。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 それは、当然の如く人の所業ではない。溢れ出す魔力の奔流に負けまいと、一成は目を見開いて己がサーヴァントの戦いを追う。本来、アーチャーとは近接戦に向くサーヴァントではない。遠距離から寸分たがわぬ射撃で敵を射殺す、そういう戦法を得手とするサーヴァントである。

 だからある程度の不利を、一成は予想していた。

 

 

「重っ苦しい衣装の割には素早いな!アーチャー!」

 

 ランサーの振るう大槍を、アーチャーは紙一重のところで避ける。その大槍の一撃一撃が空気を突きやぶり、衝撃波が波となってびりびりと一成の肌をも震わせる。

 しかしランサーの言葉の通り、仰々しい衣冠束帯を纏うアーチャーだがまるで舞を舞うかのように猛攻を躱し、隙間を縫い、そしてランサーの懐に潜り込んでいく。

 

 アーチャーの手には銀色の剣。研ぎ澄まされたその輝く剣は、全長五十センチと小ぶりで脇差に近い。それが一突きにランサーの胴を狙った。鈍く槍と剣の交差する音が響き、大槍の柄でアーチャーの剣が防がれてしまう。

 その一瞬の間に、目に映らぬ速さで蹴りがアーチャーに叩き込まれ、真横に吹き飛ばされた。

 

 ロケットを放たれたかのようなスピードで落下防止のフェンスにたたきつけられたアーチャーは呻きながらも、直ぐに気を持ち直して屋上を駆ける。駆けながら、剣の代わりに出現させた弓を構え放つ。同時にランサーも迎撃、攻撃を加えるべくアーチャーに合わせ並走する。

 

 

 これがサーヴァント同士の戦い。最初は二騎の動きを眼で追っていた一成だが、全てを追いきることは到底不可能であった。槍と剣、槍と弓がぶつかり合うたびに閃光が迸り、それぞれの武器が放つ余波が空気を震わせ轟く。

 神秘と神秘がぶつかり合う戦いは、当人同士が意図せずとも周囲を異界の如き様相を現出させる。

 

 一成は全てを眼で追うことを諦めた。手持ちの呪符を握り、心を鎮めて詠唱を始める。

 

「急急如律令!」

 

 息継ぎは出来るだけ少なく、素早く。詠唱用に省略化した祝詞を詠唱にかえでアーチャーに放つ。すると屋上を縦横無尽にかけるアーチャーの衣冠束帯を始め、負った手傷による出血が止まる。

 土御門家の陰陽道魔術は、式神操作の他にも神道の影響を受け汚れを祓い浄化することを得意とし、また一成も起源的にそちらが得意である。他人の魔力に干渉することは難しいと言われるが、サーヴァントであるアーチャーに掛けたせいか、いつもよりよく効いている。

 

「一成!そなたは私よりも己の身を気にかけよ!ランサーのマスターがどこに隠れているかしれぬ!」

 

 アーチャーはそう叫んでランサーの薙ぐ攻撃を、背を屈めて逃れる。アーチャーがマスターを案じる声を、ランサーは一笑して掃った。

 

「はは、安心せいアーチャー。今宵は我がマスターはここにはおらぬ!見てはいるがな!斯様に気にすることはない!」

 

 ランサーが振るう大槍の猛威を避け、給水塔の上に陣取ったアーチャーはすぐさま射の構えを取り上空から摩訶不思議の矢を放つ。

 だが、まるでそれを総べて見切ったかの如く大槍で一撃目、二撃目、三撃目と叩き落とした。

 

「そのような言を信じると思うか?」

 

 アーチャーは給水塔の上から飛び降り、一成を護るように前に立った。そして警戒を切らさぬまま、冷ややかに言い捨てた。ランサーは槍を構えたまま、苦笑する。

 

「儂としては相方とは共に戦場を駆けたいのが、どうもノリ気ではないようでな。ここにはおらんのだ。……信じるか否かはお前たち次第だがな」

「相方とな」

 

 アーチャーは警戒を解かず、「相方」の意を聞き返した。共闘者でもいるのかと思ったのであろう。

 

「おお、我が主人の事よ。だが、儂が忠誠を誓うは生前も死後も彼の殿、ただ一人のみ。故に此度の聖杯戦争のマスターは儂にとっては共に戦う相方、仲間なのだ」

 

 ランサーは誇らしげに宣言する。その殿はランサーの誇りであり、かつ忠誠を捧げきったことも誇りであったのだ。

 

「なるほどのう。かくいう私もこのちんちくりんを主人として敬う気持ちは小指の爪垢ほどもない故」

「おい」

 

 いつもながら散々ないいように一成は突っ込んだ。それを意に介さず、アーチャーはふむ、と顎を撫でながら、不思議そうな顔を作った。

 

「しかしそのような誇り高き英霊であるそなたが、今更聖杯などに何を願うのじゃ」

 

 ランサーは、待っていましたと言わんばかりに胸を張った。大きな拳で厚い胸板を叩く。

 

「戦いそのものよ。儂は生前五十数の戦場を駆け、殿のお役に立てたと自負している。だが、儂のような武骨物は、戦いの必要なき太平の世にはもう必要なかったのよ」

「狡兎死して走狗煮られたわけじゃな」

 

 全く遠慮のないアーチャーの言葉にも、むしろすがすがしいと言うようにランサーは笑った。

 そして筋骨逞しいその腕に、再び力が籠められる。

 

「全くきっぱり言ってくれるな!しかし、そうかもしれぬな。太平の世となり、儂の力は不要となった。……だが、やはり儂の居場所は戦場でしかなかったのよ」

「ふむ。日本第一、古今独歩の勇士と見えるとはやはり分が悪い」

「それってやっぱり……」

 

 一成もうすうす感づいていたのか、確認するようにアーチャーとランサーを見比べた。

 五十数の戦場を駆け抜け、ただ一人の殿に生涯の忠誠を誓った武士。そして最後まで忠誠を果たすものの、太平の世となった晩年は不遇をかこった天下無双の槍使いといえば、とっさに浮かぶ名は一つ。

 ランサーは真名を推測されたことを喜んだ。

 

「ははは、儂の時代は名乗りを上げ御首をとることこそ誉れだったのよ。よって今も真剣に真名を隠すことに気乗りがしなくてな」

 

 豪放に笑い飛ばすその武人は、そもそも真名を見破ってほしかった気配すら見せて満足げである。流石にマスターから真名を名乗るなとは言われているが、ばれてしまったら仕方がないと言わんばかりだ。アーチャーは口を歪ませた。

 

 

「そなたの勝手だ、好きにせよ。しかし真名を知られることは、魂の緒を掴まれることでもあると知ったほうが良いぞ、ランサー」

「こりゃつれない奴よ」

 

 アーチャーは再び一成の首根っこを掴んだ。そしてこのまま逃亡する心づもりである。

 ランサーの真名は看破した上に、使い魔の式神で観察した上でランサーが人食いサーヴァントでないこと確認済みである。

 単騎でランサーに対しての勝算はあるにはあるが、今彼を倒すには犠牲が大きい。

 今後を考えるとランサーは後回しにすべき―――それがアーチャーの出した結論だった。

 

 しかし、そうは問屋が卸さない。

 

「そう急ぐこともなかろう弓兵。儂は機嫌が良い。……我が槍の真髄を味わってゆけ」

 

 ドクン、と大気が脈打つ。ランサーの全身に漲っていた魔力がいや増し、構えられている槍に凝縮されていく。槍そのものが生き物であるかのように震えているようだ。目の当たりにしたことはなくとも、わかる。

 英霊を英霊足らしめる高貴な幻想(ノウブル・ファンタズム)、それがまさに解放されようとしていることが一成にも肌で、回路でわかる。

 眼が縛り付けられたかのように、ランサーの槍から離せなくなる。

 

 獰猛な笑みを浮かべ、ランサーは大きく槍を振り回し一歩前へ踏み出す。

 

 

「急所を避けよう、などと甘いことを考えるなよ弓兵。この槍に少しでも掠ればお前の命はない――――御首頂戴致す!!」

 

 凝縮された魔力が吹き荒れる。目に映るほどの魔力により、引き絞られた弓のように放たれたランサーとその槍はアーチャーに襲い、かからなかった。

 

 

 

「……?」

 

 急激に拡散する魔力。あれだけの密度が吹き散らされて雲散霧消する。一成は思わず身構えていた力を抜いた。

 短い剣を構えていたアーチャーも訝しげにランサーを見た。大槍を肩に担ぎ直し、先ほどまでの緊迫感はどこへやら、ランサーは高らかに明るく呼びかける。

 

「……アーチャー!期待させて済まなかった!どうやら今宵はまだ我が伝説の具現には早すぎるようだ!」

 

 宝具発動寸前のように見えたのだがどういうことかと一成が首を傾げていると、訳を察したアーチャーがこっそりと告げた。

 

 

「大方、やつのマスターが止めたのであろう。あのランサーも我々と同じように偵察なのであろう」

 

 しかしランサーは消化不良と言いたげにため息をついた。「ちと儂は興に乗りすぎたようだ。現界してから初めてまともに手合せした故に、羽目をはずしてしまったようだ」

 

 ランサーは宙返りで屋上のフェンスの上に立つ。名残惜しそうな表情をして、闇の中に身を投げた。

 

「それではまた会おう!アーチャーとそのマスターよ」

 

 深更の夜を、家やビルの屋根を飛んでいくランサーが見えなくなってからやっと一成は息をついた。

 

 これがサーヴァント同士の戦い。

 

 ランサーがあのような真っ向勝負を望むサーヴァントだったためか一成が狙われることはなかったが、もし違ったのなら一たまりもないと思う。

 飛び交う閃光、剣戟、そして神秘。今更心臓が口から飛び出しそうなほどの緊張を覚え、一成は胸を掴んだ。解れた衣冠束帯にため息をついたアーチャーが、彼を振り返らずに呆れていた。

 

 

「何故今頃緊張するのじゃ。わからんマスターよ」

「う、うるせ!眼で追ったり何をすればいいか考えるのに必死だったんだよ!!」

「別にバカにしてはおらぬ。真っ最中に硬直してしまうよりは上等よ」

 

 アーチャーも一息ついて、短い剣と弓矢を消した。束帯に彼方此方破れたり汚れたりした個所を見つけてうんざりしているのが良くわかった。

 

「しかしアレの槍は相手にしたくないものだ。あ奴、当然のように全力は出しておらぬし、戦という点にかけては私より優れたサーヴァントであろう。それになにより宝具が伝説通りだとすれば、本当に掠っただけで致命傷ぞ」

 

 一成は頷く。ランサーの宝具は、穂先に留っただけの蜻蛉が真っ二つになったという、天下三名槍の一。だがアーチャーはなぜか自信ありげ、というか楽天的に頷いている。

 

「まあなんとかなるであろ」

「……アーチャー、その自信ってどこから来るんだ?」

 

 決してランサーに対して優勢だったわけではない割に余裕ある態度が謎である。しかも「分が悪い」とも戦闘中に発言していた。

 

 しかしアーチャーは内容を語ろうとせず、一成はさらに首を傾げるしかなかった。

 


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