「ここのところ、一家惨殺事件が起きてたでしょ。あれがもしかしたら聖杯戦争に参加するマスターとサーヴァント――バーサーカーの仕業かもしれないの」
誇りっぽい地下室の椅子に腰かけ、明はセイバーに説明をした。ニュースで取り沙汰されている残忍な殺人事件で、その殺害方法が常軌を逸していること。それに教会からの情報を付け加えた。
昨夜にもバーサーカーの仕業であろうことは説明したが、さらに細かく話す。
「こんな調子で一般人を巻き添えにしてもらっては魔術の存在が一般に漏れるかもしれないし、そうなったら聖杯戦争の続行も難しくなる。それに」
明の顔は明るくない。今言ったことも勿論重要だが、それ以上に彼女の心を悩ますものがある。
「一般人を巻き込むべきではない、だろう」
セイバーは眉ひとつ動かさず言葉を先取りした。明の方法に相変わらず全面賛同はしていないが、方針は理解してくれている分よくなったと言うべきだろう。明は頷いた。
「そういうこと。今日の夜から本格的に巡回するよ」
「それはいいが、あのランサーを使う手はないのか?共闘関係とやらにあるし、もともと偵察は奴の仕事だろう」
「あー……ランサーは偵察はするけど、バーサーカーを優先して倒すのを手伝ってくれるかはまだ……」
明はこの地の管理人であるため、神秘の漏えいについて責任を負う必要が出てくる。監督役は表向き聖堂教会が行っているが、聖杯戦争の監視は魔術協会も行っている。
問題が出て何も対処しなかったとなれば明は後々魔術協会から責任を追及される。
だが、ハルカは魔術協会から派遣されたの魔術師だが、明ほどの責任を負うことはない。
むしろ一マスターとしてはバーサーカーとセイバーが戦う様を観察して、双方の消耗と真名看破のための情報を集めることに専念した方が合理的だ。聖堂教会とハルカの協力関係は、「全うな魔術師なら根源へ向かうために聖杯を使う」という一点に全てがかかっている。ハルカは「根源に至る」という願いを叶えるためだけに聖杯を得る。それ以外は教会から強制される要素はない。
そうはいっても魔術師であるハルカにとっても「神秘」が漏えいすることは忌避すべき事柄のはずだ。それを考えれば、引き続き協力して事に当たる線もある。
ハルカの張り付けたような笑みを浮かべる顔を思い出すと、なんとなく気が重くなる。
元々人見知りする質であるのに、ハルカや御雄のような内心の読みにくい人間が、明は苦手だ。
「まあ、多分協力すると思うけど。明日相談してみる」
「わかった」
セイバーには何の不満もない。二人で相談し、バーサーカーの人食いはどれも深更に至ってから行われている為、午前零時ごろに巡回へ行くことになった。
だがここで一つ問題が発生した。昨夜に周辺だけでも見回りに行ったのだが、その際に揉めた件でもある。
そう、明には譲れない一線がある。
「空を飛ぶのは却下でお願い」
昨夜、セイバーが目に見えてイラッとしたことは知っている。しかしあのようなホラー体験をしたら戦うどころの話ではなくなる。前述したが、明は幼い頃に高所から落下して以来高所恐怖症である。ぜひとも空から偵察をしたいと思うセイバーだが、実際に一度本気で怯える明を見ている為にあまり無理強いもできなかった。
「……それでは普通の民家の屋根から屋根に移動するぞ」
「……」
明はあからさまに嫌な顔をした。しかしさすがに巡回がすべて徒歩だと時間がかかりすぎてしまう。セイバーに負んぶしてもらい道路を走ってもらう手もないことはないが上空を移動した方が効率は良く道にも迷わない。それに下手な自動車以上の速さで疾走する
結局明が折れて、セイバーに負ぶわれた状態で主にビルからビル、屋根から屋根へ移動することになった。
まずは碓氷邸周辺―駅から東の住宅街――を巡回し、それからより海辺の工場などに近い西の住宅街を回ることにした。今日のランサーは駅周辺の後、駅の北側を回るそうだと神父からの報告で聞いている。
午前零時となれば、家々に電気はついているものの人通りはない。しかし、何時もの住宅街に比べても静かすぎると明は思う。聖杯戦争という異界の戦いが行われることを知ってか、それとも惨殺事件の報を受けてか、町は沈黙に包まれている。そのような夜にコートを着て、住宅街を歩き回る女は大層怪しいのではと思いながらすっかり更けた空を見上げる。
空気が澄んで星が美しく見える季節だが、気分は上がらない。
「現世は星が少ない」
「まぁ、そうだろうね」
セイバーは何の気はなしに呟いた。昔は夜になれば火を灯す以外に明かりはないのだから、今よりずっと光が少ない。それだけ星は輝いて見える。周りが静かな分、セイバーの声は良く聞こえた。
もともと閑静な住宅街、という言葉が似合う東の住宅街だ。西の住宅街よりもこちらのほうが古く、年季のある家が多い。セイバーと明は街を歩くが、特にサーヴァントの気配を感じない。こちらには来ないのかまだ来ていないのか――とりあえず、工場や倉庫街に近い西の住宅街を見回ることにする。
明はセイバーに負んぶされて移動し、新興の住宅街である西の住宅街に足を降ろした。ここは駅の再開発の話が持ち上がったのと同時期に分譲が始まり、今も続々と家が建ちつづけている場所だ。言葉少なにセイバーと明は巡回を始める。
東と同じく静まり返った住宅街を歩いていると、明は違和感を覚えた。――真夜中で街が静まり返っていることは普通だが、静かすぎる。同時にセイバーが前に立ち、明を制した。
「サーヴァントがいる。しかも二騎」
「距離は」
「北東に百五十くらいか……行くぞマスター」
セイバーに引っ張られるようにして、明は静かな街を走った。二人の足音が森閑とした住宅街に響いていく。少し走ると走ったところ、広い十字路に出た。
そこでセイバーは止まり、再び明を手で制した。
そこから身を隠したまま十字路の右手を観察すると、セイバーの言った通り、二騎のサーヴァントが交戦していた。双方とも初めて見るサーヴァントだ。
膨大な魔力の渦と渦がぶつかり、弾けて暴風を生み出してこちらまで風が吹きすさんでいる。眼で確認せずとも動く大気と金属音、魔力の濃さでサーヴァントが交戦していると容易く理解できる。
魔力風に吹かれながら、明はじっとサーヴァントを観察した。
方や黒い霧に包まれ、さらに全身を漆黒の鎧に包んだ巨躯のサーヴァント。握られた肉厚の黒刀が、敵対するサーヴァントを骨ごと断ち切り跡形も残さない獰猛さで振るわれている。
方や衣冠束帯に身を包み、弓矢を携えたサーヴァント。だが今や立派だったであろう衣装は見る影もなく破れあちこちに血が滲んでいる。黒いサーヴァントの猛攻を凌ぐことでやっとという風だ。
さらにその奥では年端もいかぬ少女と、高校生くらいの男がいるようだ。おそらくは両方マスター。男の方が吹き飛ばされ、受け身も取れずに塀に激突して崩れ落ちたのが明の目に映る。既にあたり一帯には人払いの魔術――むしろ住宅街の中、対魔力のない人間を強制的に眠りにつかせる結界が掛けられているようで、この大騒ぎにも拘わらず住宅街そのものは森閑としている。
派手に人殺しをしておきながら、最低限の秘匿は行っているようだ。
「バーサーカーとアーチャーみたいだけど、アーチャーの方が大分劣勢みたいね」
「そのようだ。しかし、相性が悪いのかアーチャーが格の低い英霊なのか、マスターが未熟なのか……」
セイバーは顎に手を当てて、目で明に意見を促す。マスターは自サーヴァントのみならず、敵サーヴァントのステータスをも確認できる。
「パラメータ自体はアーチャーはまぁ普通……幸運値がやたら高いけど……。ただバーサーカー……耐久A+……」
狂化のためか他のパラメータも概ね底上げされ、バーサーカーの値は白兵戦においてセイバーに引けをとらない。同時に、明はアーチャー陣営について考えた。
なぜ彼らはバーサーカーと戦っているのだろうか。たまたま鉢合わせただけなのか、それとも明たちのようにバーサーカーを放っておくわけにはいかず偵察をしていたのだろうか。
後者であればいいと思うが、明は都合のいい想像を払ってセイバーに尋ねた。
「バーサーカーとアーチャーって私たちに気づいているよね?」
「……普通ならばそうだろう。しかしだがお互いがお互いに夢中でこちらに気を回す余裕がない。マスター同士も取り込み中のようだ」
「乱戦に飛び込むっていうのは」
「……今なら奇襲が成功する可能性は高い。アーチャーなら瞬殺できようが、目的としてはバーサーカーか……」
セイバーがちらりとアーチャーとバーサーカーに目をやった時のことだ。
今まさにアーチャーを圧倒して、食らわんとする勢いのバーサーカー。その狂戦士の赤い目が、隠れているセイバーをはっきりと捕えた。禍々しいまでの魔力は明も感じて、ただならぬ様子を察した。しかし振るわれる暴威の刀はアーチャーに向けられている。
これだけ近いのだ、セイバーの気配は疾うにあちらとて気づいているだろう。
それとも今気づいたのか――この悪寒は、と明が息をつめた、その刹那。
「隠れていろマスター!!」
バーサーカーがアーチャーを弾き飛ばす。まるで蹴鞠の鞠の如く飛ばされたアーチャーを無視し、その炯炯と光る赤い目が、はっきりとこちら――セイバーに向けられる。
セイバーは瞬時にして魔力で編んだ銀の鎧と具足を身に着け、白い蒸気に覆われた剣を抜いて道路の真ん中に躍り出た。直後、黒い霧と白い霧が激突する。
耳を劈くような剣戟が始まり、余波の風圧でカーブミラーやブロック塀がひしゃげ、削られる。セイバーとバーサーカーは渾身の力を込めてお互いの剣と刀をぶつけあう。
交される剣戟の速度は軽く音速を超える。その巨体にも関わらず、バーサーカーはセイバーに負けぬ
速度で剣を薙ぎ振るう。
「この俺に膂力で挑むつもりか狂戦士!」
「■■■■■■■■■■■ッ■■■■■■――――!!!」
悲鳴のような、苦悶のような雄叫びと、セイバーの咆哮が交わされる。力そのものでは互角。白い霧を纏った幻想返しの剣は、黒い霧を裂いて鎧の姿を現させる。
セイバーの剣が掠れた部分は霧を削ぎ落し、バーサーカーの鎧が漆黒の鉄であることを露わにしする。
「貴様、どこの英霊だ!お前のようなやつに見覚えないぞ!!」
アーチャーを放り出してセイバーに一直線に向かってきたバーサーカー。何か因縁でもある相手なのか、怨嗟の咆哮を吐き出しながら狂戦士は暴威を振るう。狂化の為意思疎通も困難で、バーサーカーはセイバーの言葉を理解してはいないだろう。音速さえ超えかねない速さの攻防は幾度も無限とも思える回数重ねられるが、それも須臾の間。
一瞬、霧の剣と漆黒の剣が衝撃の大きさに弾き合い、空白が生まれた。早かったのは僅かにバーサーカー。
その刀が空を、時間を割き横なぎに襲いかかった。しかしそれを予期していたセイバーはもはやそこにはいない。
魔力放出。武器または自身の体に瞬間的に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出させることによる能力の向上――魔力によるジェット噴射で、セイバーはロケットのように空へ打ちあがった。
物言わぬセイバーはバーサーカーの真上から重力と魔力放出のブーストにより、そのまま真っ逆さま、無防備な頭に向かって剣を突き刺す―――!
攻撃力並々ならぬセイバーの剣は漆黒の兜を貫いた。そのまま容赦なく剣を引き抜けば、鮮血が曲芸のように噴き上げた。軽やかに地面に着地しようとする瞬間、飽き足らず振り返り様に喉笛をかき切り、そのまま真横に首を断った。
まさに早業、刹那の勝負。魔力でできているとはいえサーヴァントは肉体を持つ。頭蓋を貫いた時より激しく、真横に血が噴出する。崩れかけた塀に鮮血が迸り、生命の鉄臭が満ちた。
重苦しい音を立てて、殆ど断たれた首が自らの兜の重さに負けた様に道路に転がって、口、鼻、耳からも黒い霧を吐き出し続けている為切り口が杳として見えない。
地面に足をつき、その転がった首に目をやった瞬間。セイバーの真横で爆発が起こった。
「――!!ッ!!」
勿論爆発ではない。バーサーカーが両腕で刀を持ち、セイバーの胴をその圧倒的膂力で薙ぎ払ったのだ。セイバーが完全に殺した、と思った矢先である。完璧に不意を突かれたセイバーは、受け身も取りきれずに塀に叩きつけられ、勢い余って突き抜けて民家の庭に転がり込んだ。
鈍い轟音が深更の住宅街に響き渡る。跡形もなく崩れ去った塀の向こうに吹き飛ばされ、セイバーは何が起きたのかへの理解が遅れる。
セイバーが見下ろした自分の鎧には、深く傷が刻まれている。もし鎧なしだったら胴から真っ二つにされていたかもしれないほどの一撃。膝をついたまま見上げた先には、バーサーカーとそのマスターの姿。バーサーカーの首は、何事も無かったかの様に繋がっている。
だが、道路の脇にはセイバーのもぎ取った首が転がっている。
今バーサーカーの胴体についている首は、まるで新しく生えたかのようだ。
セイバーは砂の混じった唾を吐き捨てて、狂戦士を見上げた。
「……首が取れても生きていると言うのは、一体どういうカラクリだ?」
「私のサーヴァントは不死身!首が取れたくらいじゃ死なないわ」
十二、十三と思しき少女――バーサーカーのマスターは可愛げのある顔に高慢な笑みを浮かべ、従僕の後ろに守られるようにして立っている。寝間着と思しき白地にチェックのワンピースにズボンを身に纏い、スリッパを履いている。
セイバーが埃を払って立ち上がった時、年輪を重ねた重みのある声が聞こえた。
「私らもいることを忘れてもらっては困るの」
言葉と同時に、バーサーカーの背後を数本の矢が襲う。だが、それは鉄の鎧を纏うバーサーカーには通じない。満身創痍のアーチャーと、同じく這う這うの体のそのマスターがバーサーカーたちの後ろに立っている。セイバーは現状から事態を察するだけだが、この様子は一時的にアーチャーとこちらが対抗する状態になっている雰囲気である。
「一応聞いておくけど、バーサーカーのマスター。何故人を食う」
アーチャーとそのマスターの隣に姿を現したのは、セイバーのマスター。明はセイバーが見たことないほど冷たい眼差しでバーサーカーのマスターを見ている。
少女は問いの意味がわからないと言わんばかりに、肩をすくめて見せる。
「そんなの、サーヴァントを強くするために決まってるじゃない。出会ったらしょうがないって思ってるけど、私はまだ魔力を貯めたいから戦いたくないの。今日は見逃してあげるから食事の邪魔をしないでくれる?」
路傍の草をみるように、少女はどうでもいいといわんばかりの振る舞いだ。「っていうかあなたのサーヴァントなんなの?バーサーカーを抑えるの、とっても疲れるんだけど」
「さぁ、なんでしょうね」
セイバーはいつのまにか、先ほど脇腹に食らった一撃がほぼ治癒しつつあることに気づいた。剣を持っている以上大抵の傷は治るが、この速さはマスターによる魔術の補助があるに違いない。幼いマスターはふぅん、と暗い笑みを浮かべた。
「じゃあ次はここでいいか。食べちゃえ」
「■■■■■■■■■■■ァ■■■■■!!!」
マスターからの制止が消えたバーサーカーは再び爛々と光る眼でセイバーを見据え襲いかかった。黒い霧を纏った刀は、空間まで斬り裂く鋭さで民家をもろともせず破壊していく。
セイバーはその攻撃を紙一重で回避しつつ、住宅の奥へと追い込まれていく状態を脱するべく自らもあたりかまわず剣を振るった。壊れ去った塀の破片や家屋をものともせず、跳ぶようにして大通りへ舞い戻る。
それに従い、バーサーカーもセイバーを追う。アーチャーとそのマスターはセイバーの援護のために続く。バーサーカーのマスターは言うことを聞かないバーサーカーに地団駄を踏んだ。
「ああもう、セイバーなんかよりも先に食事でしょバーサーカー!!」
「
静かに紡がれた詠唱が終わると同時に、濃い紫色の光が明の足もとから溢れ出す。一条の黒い焔のような影が真凍のマスターに向かって勢いよく伸びていく。
「っちっ、」
少女は液体の入った袋――輸血用の血液が入ったパック――を取り出し、血を操作し影に向かって投げつけて無効化した。明は影を足元に纏わりつかせたまま、表情を変えずに言う。
「春日の魔術師、真凍咲。貴方の行動は神秘の漏えいに関して魔術協会の掟を破りかねない。このまま続けるなら、管理者の責務により始末する」
明は一目見た時、マスターの正体に思い至った。
これでも春日の地の管理者代理であり、春日に根を張る魔術師の姿かたちは知っている。
明の凍るような眼にも怖じることなく、バーサーカーのマスターは不敵に笑う。
「そんなこともうどうだっていい。それよりも、初めて見るわ。碓氷の影魔術」
明の魔術属性・架空元素虚数の魔術は、不確定要素を以って対象を拘束し平面の世界へ呑込む魔術である。要するに黒い影を作り、相手を捉えるとどこか知らないところへ引きずり込む魔術だ。
その影を作り出すエネルギーは術者の魔力と、術者の深層意識の負の側面である。
「ぶっちゃけあんまり人間には効かないんだけど、そうは言っても迂闊に触ると消えちゃうよ」
明は影を足元に収れんさせたまま、その手を真凍に向けて注意を怠らない。バーサーカーのマスターが止むを得ない事情で人を食らっていたのならともかく、今見た様子では彼女に情状酌量の余地がない。明の冷たい空気にも構わず、真凍のマスターは開き直ったように笑い、手をかざす。
「私だって負けない。こんなところで死ぬ私じゃない」
セイバーとバーサーカーが散らすような、あからさまで激しいモノではない。
しかし少女と女の間には、確かに殺意、と呼ぶべきものが流れていた。
「
「
唱えるは同時。明の足元からは黒い影が発射され、下から上に吹き上げる。咲は手元の血液をすべて解放し、明に向ける。黒い血が刃の形をとり明に飛ばされたが、それが明の影によって破壊された。否、影は咲の魔術を分解して消えたのだ。
(真凍の娘の属性ってなんだっけな……)
明は記憶をひっかきまわしながら、油断なく影を展開して咲の攻撃に対処する。彼女が手にしている血は、いうなれば即席での彼女の魔術礼装なのだろう。血液には持ち主の魔力が溶けている。
一般人のものであっても、魔力の原料たる生命力に満ちている為、操りやすい。
(あんまり誰の血かは考えたくないけど……)
流体を操る魔術師は、水銀などの魔力を通しやすい物体に魔力を込めて礼装化することがままある。勿論毎度違う物体に魔力を通してもいいが、慣れた物体のほうが扱いやすいのは言うまでもない。今彼女が使用しているのはとても常日頃使用している物体には見えない。
記憶が確かならば真凍咲は中学生か小学生かそのくらいで、まだ自分自身の礼装を持つには至っていないと見える。
「避けてばっかだと勝てないんじゃないの!?」
どこかサディスティックに笑う少女は、針のように尖らせた血液を一斉に撃ちだしていく。その速さは目で追うことがやっとだが、目で終えるならまだ対処のしようがある。
「
影が足元から飛び出し、壁のように立ちはだかって針から明を護る。薄い影に貫通した瞬間、同時に針は燃えるように浮き上がり、そして影も形もなく消え果た。「分解」を起源とする明の魔術は、血液もろとも全て「分解」した。ちらりと見れば咲のかばんはぺらぺらになっており、肝心の血液はもうないだろう。
しかし自分の血液を使う可能性もある。明は顔色一つ変えず、足を踏み出した。
「……一つ聞きたいんだけど、人を食べてまで叶えたい願いって何?」
明は険しい表情の咲を睨みながら問うた。「始末する」とは彼女は言ったが、できるだけ殺す殺さないの真似事はしたくない。しかし、魔術礼装を失っても、少女に動揺の色はない。
「……管理者なんだし知ってるんでしょ?私があと半年の命って。じゃあ願いなんてわかりきったことでしょ」
彼女の口調は何を今更、と言わんばかりに嘲笑する声音だ。
「……何で他の人を殺してまで生きたいの?自分だけ生きててもしょうがないと思わない?」
「は?何言ってんの?人を殺してでも生きたいってのがそんなに変なの?あんたが他の人を殺すくらいなら自分が死ぬーってキレイな考え方でもいいけど、私はいや。死にたくなんかない。こんなところで死ぬなんて嘘。私は生きるべきなの」
少女の瞳に嘘の色はない。深く澱んでいながら、力強い光がその目には宿っている。
明は深々とため息を吐いた。
「そんなに自分の未来っていうか、生きる価値を信じられるってのは才能だよ。羨ましいくらいだね」
「何ソレ?碓氷の影使い。貴方が言っても嫌味にしか聞こえない」
サーヴァント同士の剣戟が遠く聞こえる。セイバーのマスターとバーサーカーのマスターに歩み寄る余地は存在しない。明は息をつき、腕を伸ばす。咲は魔術礼装を失った身だ。一気に陰で押しつぶして令呪をもらう。令呪の痣が右手にちらりと見えた。
殺生はもちろん趣味ではないが、どうしようもないなら明に躊躇いはない。
「
津波のように押し寄せる影の焔が、一斉に咲を襲う。
咲は眼を閉じることなく、まっすぐ迫りくる黒い焔を見て叫んだ。「私は死なない!」
爆発。その言葉が一番相応しいだろう。魔術の行使ですらなく、咲の体内で生成された魔力がむちゃくちゃに噴射されたのである。その量たるや明の影が分解しきれる量を超えていた。
黒い焔と紫の光がせめぎ合い、互いに雲散霧消して消え果てると同時に明は数メートル吹き飛ばされた。なんとか受け身をとり大事にはいたらないが、顔を上げた時は驚愕した。
大量の魔力放出に守られて、咲は消滅せずに立っている。息は荒いがその細い体で、彼女は二本の足で地を踏みしめているのだ。
(どういうこと?)
サーヴァントを従えるマスターは、サーヴァントに供給する魔力の為に全開で魔術を行使することはできない。バーサーカーは人食いの魔力で補っているとしても余命半年の重病人がここまで魔術を行使できることさえ驚きであるのに、一気に大量の魔力を噴出させて倒れもしないとは常軌を逸している。
このマスターに一体何が起こっているのか――明がそれを考察する間もなく、セイバーから念話が飛んできた。
三つ巴といいつつアーチャー空気
セイバー:筋力A 耐久C(D)
神剣による回復力があるから耐久が低くても平気
生前「神剣で怪我治るんだから別に紙装甲でもいいだろ」でやってたせい
剣もってないとD・かつ回復力激減 ほかにも直感とか神性のランク落ちる
バーサーカー:耐久A+
+は時によって倍化みたいなんなので、現在はA
アーチャー:筋力C(これでも結構ひいきしてる数値)
ごちゃごちゃいえどパラメタはだんだん適当になってもご愛嬌(いやな愛嬌だな