Fate/beyond【日本史fate】   作:たたこ

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11月29日⑤ 最弱と最弱

 山内悟(やまうち さとる)は、割と真面目に後悔していた。日は沈みかけ、夕食をつくる家庭も多い頃合いである。宵のアパートの一室には、心細い蛍光灯が光っている。

 和室ワンルームのアパート「カスミハイツ」が現在の悟の城である。一応キッチンユニットバス付だが、築四十五年かつ駅から徒歩三十分(普通はバスを使う)かかるのが難点だ。家賃が月三万の安さであることが最大のメリットである。

 

 何故どう見ても不審者でしかない人物に声をかけ、あまつさえ家にまで招いてしまったのか悟は自分を疑う。普通に警察を呼べばよかった――そう思ったのも後の祭りである。

 

 今や目の前には、身長百八十センチ超の男――髪は時代劇でいう髷のようなものを結っており、顔には歌舞伎役者のようなメイク――いや歌舞伎役者そのものと言うべき化粧が施されている不審者――が、げらげら笑いながら座布団に座りカレーを食べていた。

 

「見知らぬ男をひょいひょい家に招くとかよー、お前相当なお人よしで騙されやすいだろ絶対」

「ちょっ落ち着いて!食べてからにしてくださいよ!」

「俺の大先輩に袴垂保輔(はかまだれやすすけ)ってのがいるんだが、そいつの手法ってのが面白ェ。全裸で道端に寝っころがって、なんだろうと思って近づいてきたやつをぶっ殺して身ぐるみ奪うってやつなんだ!お前は恰好のカモだな」

 

 その不審者は、服には黒地に金の派手な刺繍の施されたド派手な金襴褞袍を羽織り、朱い糸でざくざくに編まれた羽織を着ている。その下に龍が縫い取られた着流しを纏い、草鞋を履いているという奇怪な出で立ちなのだ。本気で日光江戸村の人ですかとか映画村の方ですかとか映画の撮影ですかと聞きたくなる。

 ただ道で見つけたときには黒い雨合羽を着ていて、服の異様さまでは気づかなかったのだが。

 

 

 自宅へ帰る最中に、悟は塀に寄りかかっている男を見つけた。このあたりはホームレスの類を見ることはないため、最初は不思議に思った。生気がまるでなく、もし死んでいるのだとしたら大事であるが、そうでなくても放っておくことは躊躇われた。

 

 悟はおっかなびっくり声をかけると、男は枯れきった声で言った。「腹が減った」と。

 

 成り行き任せに這う這うの体の男に肩を貸して、家に連れてきてしまった。貴重品は常に自分で身に着けられる程度のものしか持っていないし、家に高価なものなど一つもなかった。

 それにどうにでもなれ――という気持ちであったことも大きい。

 

 作り置きで余っていたカレーを温め、ぐったりしていた男の前に突き出す。しかし不思議なことに、カレーを提供した時には既に、先ほどまで息も絶え絶えだったはずの男は何故か血色がよくなっていた。

 

 男は渡されたスプーンを握ると、まるでカレーを始めて目にしたかのような様子でしげしげと眺めてからおそるおそる口をつけた。しかし一口目をじっくり咀嚼した後は怒涛の勢いでカレーを食べ始め、口にモノをいれたまま先ほどまでの衰弱ぶりがうそのように元気いっぱいに喋っているのである。

 

 

「というか、あなたはなんであんなところで倒れてたんですか?役者の仕事をしている方ですか?」

 

 男は手を打ち、しまったと言わんばかりに頭を掻いた。

 

「おっとそいつはすまねぇ、自己紹介してなかったな。俺はアサシンのクラスを得て現界したサーヴァントだ」

「……?役の話ですか?劇とかの話でなくて本名を教えてもらえますか?」

 

 こんな奇天烈な見た目をしている人間だ。役の話かと勘違いされたのかと悟は思い、改めて聞き直したが、アサシンも渋い顔をしている。

 

「役?クラスならアサシンつったろ?」

「あなたが劇か何かでアサシンって役をしているのはわかりましたけど、どこの方でなんであんなところで倒れていたのかを聞きたいんですけど……」

「劇なんてやってねーよ何言ってんだお前。倒れてたのはそうさな、前のマスターが殺されちまって魔力が尽きかけてたからだ。そこをお前が拾ったってわけだが」

 

 全く何を言っているのかわからない。もしかして頭の方が病気の人を拾ってしまったのかと悟は頭を抱え始めた。それを見かねて、アサシンと名乗った大男が確認をするように尋ねてきた。こちらも悟と同じように半ば頭を抱えたそうな顔をしている。

 

 

「おいあんた、一つ聞くが、俺をサーヴァントだと知って拾ったんじゃねーのか?」

「サ、サーヴァント?」

「じゃあ聖杯戦争って知ってるか?」

「聖杯って、あのカトリックのキリストの血を受けたとかいう杯?」

「最期にもうひとつ、魔術師っつーのはわかるか?」

「アニメとか漫画にある魔法使いっていう感じのやつですか?」

 

 きょとんとした様子の悟を見て、アサシンは本格的に頭を抱えた。だがそれも一瞬の事であった。今度はいきなり膝を叩いて笑いだした。

 

「こりゃまぁまた厄介なマスターに拾われたときた。それでも拾われなきゃ俺はもう消えてたわけだが……お前さん、名前はなんつーんだ」

 

 何故かすっかり元気を取り戻したアサシンという男は、今や家主の悟よりも堂々と部屋に居座っている。むしろ自分が部屋に入れてもらった気分さえ味わいながら、悟は恐る恐る答えた。

 

「……山内悟です」

「そうか悟、俺の事はアサシンと呼べ。本当の名は他にあるんだがそれはおいおいだ。俺は今からわけわからん話をするが、それは全て本当の事だから心して聞けよ」

 

 腕を組んでどこか得意げな様子なアサシンだが、悟の疑念は募るばかりである。本名を教えられないなんて怪しすぎる。助けたつもりでいたが、もしかして何かのペテンにかけられているのではないか、最近はやりのカルト宗教の勧誘の手口ではないか――。

 

 もう騙されることは御免だと考える悟は、気が引けながらも意を決した。

 

 

「あの、元気になったようですし出て行ってもらえますか」

「はぁ!?なんでそうなるんだ!?」

「私は宗教とか興味ないんで……あと浄水器とかも買いませんからね」

「いやいや待て待て何を勘違いしてんだお前、宗教だか浄水器だかしらねーが、お前はもう俺のマスターなんだぜ?お前が俺の手を掴んだときにもう契約は成立してんだ」

 

 今のうちなら穏便に出て行ってもらえると思っていたが、「契約」の二文字を聞いたときに悟から血の気が引いた。同時に半ばやけになっていたとはいえ、得体のしれない人間を助けようとしてしまった、つまらない自分の同情心にも嫌気がさした。

 

「契約!?契約書もないし、俺はハンコもなにも押してないぞ!!七日以内ならクーリングオフするからな!俺は何も買わない!」

「つーかお前何の話してんだ?クーニ……?買わないも何も、俺はもうさっきからお前からもらってるぜ」

「!?何をだ!この泥棒!!」

「魔力だよ。あと俺が泥棒ってのは否定しねーけど」

 

 アサシンはけろりとして答えるが、答えがまた悟に油を注いだ。悟はテーブルに置いてあった三十センチ定規を掴んでアサシンに振りかぶった。

 

 

「やっぱり泥棒か!!出てけ!!」

「うおおおおっと!!おいやめろ!つーかそんだけ防衛意識あるくせに、なんで俺をヒョイヒョイ連れ込んだんだよわかんねーやつだなマジで!」

 

 サーヴァントに神秘のない攻撃は無効果だが、定規で叩かれて喜ぶ趣味はアサシンにはない。とっさに霊体化して姿を消す。振り下ろされた定規は空を切って、悟は棚を叩くハメになった。物を叩いた衝撃が腕に伝わるも、叩く対象は影も形もなくなっている。

 

 

「……え?き、消えた???」

『あー最初から消えて見せりゃよかったのか。魔術師の魔の字も知らねーお前にはそっちの方が速かったな、失敗失敗』

「……頭の中に声が聞こえる!!??病気か!!??」

『騒がしいヤツだな全く。これで俺が人間じゃないってことは理解できたか?』

「……俺やっぱり疲れてんのかな……無職も逆にストレスだって聞いたことあるしな……」

「いい加減にしろ面倒くせェ!!」

「ほぶぁ!!」

 

 再び姿を現したアサシンに思い切り頬を叩かれ、悟は情けない声を出した。ついでに無理やり畳に正座をさせられる。自分より背の高く体格もいい、しかも隈取を施している男に凄まれると怖い。

 

「右腕を見ろ!」

「え……!な、なんだこれ」

 

 悟の右甲には、ついた覚えのない痣――鳥をデザインしたような不思議な跡がついていた。どこかにぶつけた覚えもなく、仮にぶつけてできたにしては不自然すぎる。

 

 アサシンはびしりとその痕を指差した。

 

「それがマスターの証、令呪だ。俺の前のマスターが使い残したヤツがそのままお前に再配布されたんだろな。ま、それはともかくだ」

 

 痣を差した指をそのまま己の胸に向けて、堂々と、かつ偉そうに歌舞伎姿の男はのたまった。

 

「俺はお前のサーヴァントのアサシン。一から話してやるから、耳の穴をかっぽじって聞けよ悟」

 

 悟の頭は未だ混乱状態で、一体目の前の男が何者であるのか理解できない。それでも、自分がとんでもないことに捲き込まれつつあることは流石に理解できた。

 

 

 

 

 

 

 アサシンに聖杯戦争、魔術師についての一通りの説明をされたが、悟は全くと言っていいほど理解していなかった。そもそも今まで魔術などという怪しげなものとは一切関係のない世界で生きてきた一般人であるのだから無理もない。

 

 何でも願いを叶える「万能の釜」である「聖杯」の使用権を巡り、七人の魔術師が七騎のサーヴァント――使い魔を呼び出して最後の一組になるまで戦い続けるバトルロワイヤル。悟はその聖杯戦争に参加するマスターとなってしまったのだと言われても、実感はない。

 ただ目の前のアサシンが人間ではないことだけわかった。なにしろ自在に姿を消し、頭に直接話しかけてくるのだから。

 

「っていうか俺は魔術師なんかじゃないんだけど……」

「先祖は魔術師の家系だったが、途絶えたって奴じゃねーか?ま、素養はあったんじゃね。現に俺はお前からの魔力供給を感じてるぜ?水で百倍に薄めた日本酒みてーだけどな」

「はぁ……」

 

 尋ねるべきことはたくさんあるが、話が突拍子なさ過ぎて何から聞いていいかわからない。

 悟はあれこれ逡巡したあげく、思いついたものから聞くことにした。

 

「何でも願いが叶うって、本当なのか?」

「多分な。抑々俺たち英霊っつーのは、一介の魔術師に使役できるもんじゃないんだぜ?この世界の外側にある力の塊、精霊みたいなモンなんだが、それをこうして使い魔として制御できるってのは殆ど奇蹟だ。そんなら願い位叶えることもできんだろーってな」

「大金持ちとか不老不死とか?」

「すっげーありがちな願いだけど叶うんじゃね?何だ、お前願いがあるのか?」

 

 アサシンが興味深げに笑う。悟は静かに呟いた。

 

「……ないことも、ない。……というか、お前も願いあるんだよな」

「まぁ、あるっちゃあるけどなー……?受肉とか?」

 

 アサシンは妙に歯切れの悪い返事をする。そしてあまりその気のない言い方だった。

 いつの間にか煙管を吹かして家主以上に寛いでいるアサシンに脱力しながらも、悟は質問を続ける。

 

 

「戦いに勝ち抜けばその願いが叶う。……戦いって、つまり、どんなのだ?」

「戦いは戦いだぜ?サーヴァント同士が最後の一騎になるまで殺しあう」

 

 ならばマスターの自分は危険に晒されず、アサシンが勝てば願いを叶えられるのだろうか。しかしアサシンは先に、「マスターが殺されて魔力が足りなくなって消えそうだった」と言った。

 アサシンはにやにやと笑っている。

 

「残念ながらマスターも高みの見物とはいかねぇぜ。サーヴァントはマスターの魔力で現界しているからな、マスターを殺せば自然サーヴァントも消滅する。当然、サーヴァントと直接戦うんじゃなくてマスターを殺しにかかるサーヴァントもいるってわけだ」

 

 アサシンの上には紫煙がくゆっている。煙は天井に向かって立ち上っていき、やがて消えた。

 

「それに仮にサーヴァントが居なくなったマスターと、マスターを失って消滅前のサーヴァントがいた場合には、そのマスターとサーヴァントで再契約して戦争を続行する。だから本当にライバルをなくすために、マスターまで殺しちまおうって奴もいる」

「……というか、それに俺は参加することになっちゃったみたいだけど、それって棄権とかできないのか」

「できるぞ。キョーカイ?に行けば監督役ってのがいるらしーから、そいつに棄権するって言えばいい。令呪は引き取られ俺は正々堂々次のマスターが現れるのを待つってわけだ。お前さんに戦う気がないならそれをオススメするぜ」

 

 正真正銘、殺し合い。殺し合いが行われているのを放っておけない、と思うほどの正義感は悟にはない。しかも舞台は魔術という今までファンタジーの世界にしかなかったものだ。

 普通ならばそんなわけのわからないオカルトに関わりたくもなく、すぐに棄権を選ぶところだ。

 

 しかし、今の悟はそれを良しとしなかった。

 

 

 ――何でも願いが叶う。

 

 

「……アサシン、他のサーヴァント同士が戦ってるところって見られないのか」

「夜に巡回して、あとはタイミング次第だな。何だ何だ、ヤル気か?」

 

 魔術のまの字もしらなかった悟が参加するとは思っていなかったらしく、アサシンは眼を見開いている。

 

「少し考えてみたい。聖杯戦争がどんなものか、実際に見たい」

「いいぜ、じゃあ明日から夜は外に出るぞ。お前がやってもやんなくても俺はやるつもりだし、どんな敵がいるのか調べなくちゃいけねぇしな」

 

 悟にも異議はない。アサシンは妙に楽しそうに立ち上がり、おもむろに屈伸運動を始めた。

 とりあえず聖杯戦争に一歩踏み出すに当たり、気になるのはこのアサシンの強さである。

 

 

「……そういえば、アサシン。戦うって言うけどお前って強いのか?」

「あん?俺が強いわけねーだろ。激弱最弱丸だよ」

 

 自信たっぷりの態度から強いのかと思えば、自己申告は最低であった。「セイバーとかに真正面からぶち当たったら消し炭にされる自信がある」と言い放つわりに、謎の自信が満ち溢れている。

 

 

「……は?あんだけ強いですオーラ出してるくせに!?」

「そんなもん出してねーよ。そりゃ人間よかは遥かに強いけどな、クラスの中では弱いだろ。アサシンっつーのは特殊なクラスでな、マスター殺しに特化したクラスだぜ?しかも俺、暗殺の逸話あるけど失敗してるからビミョーにクラス合ってねーんだよな」

「…………」

 

 大丈夫なのか。しかもマスター殺しを得意とするアサシンが一度マスターを殺されている等全く笑えない。悟は早まったかと、前途が昏い事を今更になって自覚した。

 

「おいおい元気出せよマスター。今日は出会いを祝して酒でも飲もうぜ」

 

 当のサーヴァントは呑気に金襴褞袍から酒を取り出して勝手にラッパ飲みを始めている。何だか妙な疲れーーそれはサーヴァントに魔力供給をしたばかりゆえのものだがーーを感じつつ、ええいいままよと悟はアサシンから酒を奪い、勢いよく飲み始めた。

 




閑話休題。

=====以下設定的な何か=========

アサシン 
属性:混沌・善 性別:男性
身長:180CM 体重:80KG

【クラス別スキル】
気配遮断:A  サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
(ただこのアサシンは必要時以外は気配遮断をしたがらない)        

【保有スキル】
反骨の相:C 一つの場所に留まらず、また、一つの主君を抱かぬ気性。
       自らは王の器ではなく、また、自らの王を見つける事ができない流浪の星。
無辜の怪物:B 生前の行いによる人々のイメージによって、
        後に過去の在り方を捻じ曲げられた怪物。能力・姿が変貌してしまう。
カリスマ:D  軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
       カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。

カリスマはあるけど、あくまで「軍団」の頭レベル。Dだし。

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