Fate/beyond【日本史fate】   作:たたこ

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12月1日③ 殺意と責務

 昨夜の春日総合病院を襲ったテロ事件は、バーサーカーとそのマスターの仕業であることがハルカにも教会の使い魔を通じて知らされた。人払いの結界を張って行われたあたり、一応の神秘の秘匿を忘れてはいないようだが、焼け石に水で最早看過できるレベルを超えている。

 

 今回使い魔を飛ばしてきたのは娘の美琴の方で、強くバーサーカーの討伐協力を要請してきたがハルカはやはりにべもなく断った。

 聖杯戦争の監督役は聖堂教会となっているが、魔術協会も陰でその行方を見守っている。だから、時計塔の人間であるハルカもこれほどの事件が起こったとあっては協力すべきではある。後々時計塔に戻った時に難癖をつけられるかもしれないからだ。

 しかしハルカは意にも留めなかった。日が沈み、日常と非日常の境の逢魔ヶ時。監督役から勧められた小さな洋館の二階で、古びたロッキングチェアに腰かけてぼんやりと赤い夕陽を眺めている。

 

 今宵、セイバーはバーサーカーと戦うそうだ。偵察ではなく、正真正銘バーサーカーの息の根を止めるための戦いだ。報告によればセイバーのマスターはバーサーカーの真名を看破し、かつアーチャー陣営と手を結んだと言う。

 

 だが、一気に五十人以上の魂を食らったバーサーカーの魔力はどのくらいの破壊力を持っているのだろうかは予想がつかない。しかしセイバーもアーチャーという助力を得たのだから、おそらく下手な手を打つことはない。

 ハルカが一人で笑っていると、教会からの使い魔が姿を現した。昨日分の報告は済ませたはずである。

 

「……何の御用ですか、ミスタ・ジンナイ」

『今夜が聖杯戦争でも大規模な戦いになると思うと、落ち着かぬものだな』

 

 質問に答えない御雄の声は、ハルカと同じようにどこか陰鬱な笑いに満ちていた。監督役で娘の方はひたむきに監督役の責務を果たそうとしているように見えたが、父親の方はどうも違う。

 

「バーサーカー討伐の件はお断りしたと思いますが。ミスタもそれを了承したはずでは」

『その件ではない、ミスター・エーデルフェルト。あなたにお伝えした方がよいと思われる事項がある。ところで、今ランサーは』

「私は一人でいることが好きですから。今は……外に巡回に出ているようですが」

 

 ランサーは特に用がなくても外を歩き回るのが好きらしく、今日も昼から外にいてまだ帰ってこない。夜になればまた偵察に出歩くと言うのに、モノ好きなサーヴァントだとハルカは思っている。

 

 ハルカの答えを受け、しばしの沈黙が流れた。

 

『そうか。あなたの願いは根源に至ることと聞いたが、それは今も変わらないか』

「ええ」

『この戦いは最後の一組になるまで終わらず、その一組――サーヴァントと魔術師にはそれぞれ願いを叶える権利が与えられる、そう思っているだろう』

「そう聞いています」

『それは間違いではない。だが、聖杯戦争の真の目的は違う』

 

 そして神父は、静かに聖杯戦争の全容を語った。ハルカには知る由もないが、明にも話したことと同じことを神父は語った。

 

 ハルカは、驚きはしたものの動揺はしなかった。それは彼が聖杯戦争に魔術的興味を強く抱いていたためで、その目的に興味があったためだ。そして神父の語った「真の目的」は、魔術師ならば当然のもので予想の外にでるものでもなかった。

 なるほど、聖杯戦争はそのような経緯で始まったのかと思う、其れだけである。

 

 だが、その反応のなさを奇異に思わず――むしろ得たりとした声で神父は笑った。

 

『ははは、動揺することはないか』

「サーヴァントなど所詮は使い魔ですから」

 

 教会に対しては「根源を目指す」ことになっているため、ハルカはおざなりに言いつくろう。だが、聖杯の真実よりも気になることは、なぜこの御雄神父が今、ハルカにそのことを話そうと思ったかである。

 

「なぜ、そのような話を私に?」

『いや、協力者であるあなたに話していないことを思い出したのだ。申し訳ない。私たちと明だけが知っているというのはフェアではあるまい』

 

 ハルカは自分でもしらじらしいことを言ってばかりだと自覚しているが、この神父もまた同じである。一体何を考えているのか、とハルカが思った時、空気が笑った。神父の声音は変わらない。

 

 

『ところで、お前は一体誰だ?』

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 セイバーと明は戦いにそなえ今日は体調を万全に整えた……と言いたいところだが、そうは問屋が許してはいない。昨夜に起きた、春日総合病院のテロ事件――真相はバーサーカーとそのマスターが、病院一棟の患者を食い殺したこと――が原因である。

 

 死因は全てショック死・失血死――バーサーカーが暴れ狂って、死体の原型も不確かになるほどの殺戮を行った結果だ。明は神父・美琴と共に後処理に奔走したが、ある程度まで手伝うとあとは二人に任せてセイバーと共に病院を後にした。

 

 最低限の処理を教会のスタッフが行ってから結界を解いたようで、少しの間様子を見ていたがすぐに病院は警察や病院関係者、野次馬であふれかえった。立ち入り禁止のテープが張り巡らされ、夜であるのに昼間のような騒ぎでありながら、同時に物々しい雰囲気が立ち込めていた。

 未だに美琴を筆頭に聖堂教会のスタッフは出払い、この事件を丸く収めるために奔走していることだろう。

 

 帰宅した後直ぐ明は眠りにつこうとしたが、なかなか寝付けなかった。突然大量の死体を眼にし相当気分を害したせいもある。しかし、それだけではなかった。

 

 バーサーカーはこれまでの殺害を全て深夜に行っていた為、明はそれより遥かに早い午後七時前に殺戮を行うとは考えていなかった。もし夜中と思いこまず、セイバーを行かせていれば抑止力になったかもしれない。土御門にもっと早く監視を依頼していれば、気づけたかもしれない。

 ああすべきだった、こうすべきだったとばかり考えた。

 

 そして明は自分で自分に疑念を抱く。まさか、よもや自分はまだ真凍咲を信じていたということはないか?もしかしたら、同情さえしていたのではないか?

 

 これまでバーサーカーは人を食っても深夜であり、結界を張っていた。ギリギリのところで護っていた。なにしろ、余命半年の少女だ。

 何としてでも生きたくて、その一心でバーサーカーを呼んで必死で生きようとした。

 それだけならば、まだ大丈夫では――と、思う心が全くなかったと言えるだろうか。

 

 そうだとしたら、何と愚かな事だろう。

 

 その油断が、同情が、この悲劇を呼んだとしたら、むしろ咎は明にある。

 

 明が真凍咲と話したのは、バーサーカー戦が初めてである。それまでは存在を知っていただけで、相手も同様のはずだ。何故彼女が明を目の敵にしているのか、明にはわからない。

 だが、今更そんなことは些事であった。

 

 ―――殺意には殺意で応じよう。

 

 真凍咲はしてはならないことをした。人として、魔術師として、超えてはならない一線を越えたのだ。ならばそれを始末するのが、明の義務であり責務である。

 

 

 

 

 思いにふけってようやく眠りにつき、明が起きた時には時刻は昼の十時を回っていた。

 その後、教会から送られてきた使い魔から、ランサーがガンナーというエクストラクラスに遭遇したという話を聞かされた。しかし、霊器盤に新たな反応があったわけではない為、どれかのクラスのサーヴァントがクラス隠蔽のために嘘のクラスを詐称しているに違いないと神父は言った。

 となれば、ガンナーなるクラスを称しているのは消去法でキャスターしかいないことになる。

 

 ガンナーを詐称するキャスターはともかく、今はバーサーカーを倒すことだけに集中するべきだ。

 

 そして教会との連絡を終えて、ひと段落ついたところでセイバーが伝えたことが、「ランサーも参戦する」ということだったのである。明は疑いの眼差しでセイバーを見たが、セイバーは昨夜、病院で出会ったランサーの発言をそのまま伝えた。

 そして明はランサーのマスターは来ないことを知ると唸った。

 

「バーサーカーは五十人以上の魂を食べてるし、それを考えると味方は多い方がいいし……マスターはアレだけどランサーは信頼できそうだし」

 

 マスターの意向には反しているから宝具は使えず、途中退場する可能性があるといっても通常の戦闘ができるなら有利に戦闘を進められる。たとえセイバーたちだけでバーサーカーに勝てたとしても辛勝すると、魔力回復のため数日動けなくなるなど、次の戦いに響くからだ。

 

 ただ、サーヴァントに信頼は置けても令呪がある限りマスターには逆らえない。バーサーカーと戦っている時に、令呪によってセイバーを倒せと命令されたら大変なことになる。明はハルカ・エーデルフェルトという魔術師を信用できていない。

 

「ランサーのマスターは来ない。しかし普通に考えれば、ランサーのマスターが令呪を行使して俺を殺しにはこないだろう。俺に対し襲撃をかけたとしても、二人で争っているうちにバーサーカーの餌食になっては元も子もない」

 

 確かに、バーサーカーを目の前にしてセイバーを狙ってもその隙をバーサーカーに襲われる可能性がある。バーサーカーが消えるまでは信じてもよいとは思える。

 

 しかし、当初はランサー陣営との共闘を渋りまくっていたセイバーが、進んでランサーの意を伝えてきて、しかも共闘を厭わなくなっている。明の知る範囲で、セイバーとランサーがあったのは教会で初めて顔を合わせたときと、彼らの拠点を訪問した時だけだ。

 確かに気が合いそうな雰囲気ではあったとは思うが、随分な変化だ。

 

「セイバーってランサーのこと結構好き?」

「……悪いやつではないと思っている。生前の知り合いに似ていてな」

 

 セイバーは顎に手を当てて斜め上に目をやった。セイバーの生きた時代に武士という概念はなかったはずだが、ああいう戦好きな益荒男といえば誰だろうか。明は思わず聞き返した。

 

「え?誰?」

「イズモタケル。あれはいい奴だった」

 

 イズモタケル。父帝からの命により西方のクマソタケル兄弟を暗殺し、大和への帰路の途中で、日本武尊は途中の出雲国のイズモタケルを殺そうと企てた。まず日本武尊は、イズモタケルに接近し、友誼を結ぶ。二人は刀を合わせたり時を共に過ごし、仲を深めた。

 

 ある日、水浴びをしていた時に、日本武尊は「お互いの剣を交換して手合せしよう」と提案した。イズモタケルは快諾し、先に体を拭いた日本武尊は剣を交換してイズモタケルに渡した。そしていざイズモタケルが刀を抜くと、それは刃のついた剣ではなく、刀身が木でできていたものだった。驚き慌てるイズモタケルを、日本武尊は容赦なく切刻み殺した。

 

 実は日本武尊が渡した剣は、前日に彼が木で作っておいた偽物の剣だった。

 

 こうして日本武尊はまつろわぬクマソタケルだけではなく、イズモタケルをも殺し意気揚々と大和に帰った。

 

 昔の良き思い出を語るような顔でセイバーは頷いていた。しかしセイバーの父も、セイバーのこういうところが怖かったのではないかと、伝説を鑑みて明は思った。

 友でも殺すべきならば殺すし、兄でも殺せと言われた(と思った)なら殺す。

 仲が良かろうとも、殺す必要があるなら殺す。

 そこに情の入る余地はない。そこでふと、明は冷や汗を流した。

 

(――あれ?これってもし私がセイバーの力を発揮させられないマスターだったり、私より条件のいいマスターがいたらあっさり裏切られて殺されるんじゃない?)

 

 今更ながら、これまで明はセイバーのやり方に散々文句を言ってきている。セイバーは渋々ながらも明の言うことを護っているが、本当はどう思っているのかはわからない。

 

 使い魔とはいえ、サーヴァントは歴史に名を遺した英雄だ。彼らが素直に言うことを聞いてくれること自体、感謝すべきことであろう。だが、仮に明より優れた魔術回路を持ち、手段を本当に選ばないマスターがいたとしたら、セイバーは明を裏切ってそのマスターに乗り換えるのではないだろうか。

 

 そんなことはないと明には言い切れない。

 

 日本武尊は、暗殺もだまし討ちも人の死も是とし、己の目的の為ならば手段を問わない英雄だ。

 その上彼は、はっきりと「勝つことのみが目的」とも宣言している。

 

 明はそっと右手の令呪を撫でた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 セイバーと話を済ませ食事をとり最後に寛いでいるうちに、いつの間にか時刻は十時半を回った。

 聖杯戦争開始前のこの時間はまだ人気があり、家から光が漏れていた。だが、今や誰もいなくなったかのように暗く静まり返っている。医療事故、通り魔事件、一家連続殺害事件、ホームレス殺害事件、そして春日病院のテロ事件とここまで異様な事件が短期間に重なれば、一般人でもおかしいと思うだろう。早くいつもの街に戻したいと、明は思う。

 

 ランサーとアーチャーが来る予定の時刻だが、双方とも来ない。セイバーと明は自邸の庭に出て、闇に沈んだ空とそこに瞬く星々を見上げた。夜はもう冷えが厳しい。明がそんなことを考えていた時、知ったサーヴァントの気配を感じた。アーチャーだ。

 

 明とセイバーは歩いて門を出た。会うのは昨日振りのはずなのに、長い間会っていないような気分だ。一成は白衣に浅黄袴、その上に黒のコートにブーツという和洋折衷の出で立ちだ。初めて会った時も同じ格好をしていたはずだが、すっかり綺麗な装束――魔術礼装になっている。

 一成はよう、と軽く手を上げた。

 

「また似非坂本竜馬みたいな格好してるね」

「うるせぇ!これが一番歩きやすいんだ」

 

 傍に立つ衣冠束帯のアーチャーは準備万端と言いたげな顔をしている。なんとなく昨日話し合いをしたときより、清々しい顔つきに感じるのは気のせいだろうか。とにかくマスターは体調も良いようで、気力に満ちている――のだが、思った通り何か問いたげな顔もしていた。

 

「あのよ、昨日の電話は何なんだ」

「……あのニュース見た?」

「あのニュースって?」

 

 一成は昨日から今まで実家に帰っており、ニュースなど少しも見ていないのだから春日総合病院の事態を知らなくても当たり前である。しかしそのあたりの事情をつゆ知らない明は、半ば呆れつつ、昨夜の春日総合病院の惨状を告げた。流石に一成は言葉を失っていた。

 

「……ま、ニュースで言ってたのはそんなもんなんだけど、病院のある壁に、私を名指しで指名する血文字があったからさ。ああ、これは宣戦布告で決着をつける気なんだってなったわけ」

「血文字!?」

 

 ぶっきらぼうな電話になってしまったのは、あの状況の収拾をつけるためにあわただしかったためだと、明は詫びた。それからそういうわけだから、と驚くばかりの一成を仕切りなおした。

 

「絶対に相手は倉庫街に来る。私とセイバーは倉庫街にいるから、アーチャーとあなたは視認できる距離、それでできるだけ遠くにいて、バーサーカーの気配を察知してから来て。ギリギリまでこっちが二人がかりってことを気づかれたくないし」

「……わかった。絶対倒すぞ」

 

 衝撃から抜け出せないまま、一成はそれでも力強く頷いた。明とて緊張を表に出さないだけで、緊張しているし何より、腸が煮えくり返っている。

 

 けれど――明はちらりとセイバーを見た。彼は黙って首を振った。セイバーの言葉によればランサーが援軍に来るはずなのだが、姿を見せない。セイバーは来ないならばそれでいいと言いたげで、何も表情には浮かべていない。

 ランサーが協力したいと告げたのは嘘ではないと思う。そのランサーは姿を現さないことは気にかかったが、確かにいないなら仕方がなく、約束の時間もある。

 元々セイバーとアーチャーのみで考えていたことでもあり、一成にランサーと言う援軍がいる、と言おうとしたところで明は口を閉じた。

 ランサーが来ないなら、むしろ言わない方がいい。面倒な話になる上、ランサーとランサーのマスターは意見に相違がある状態で、来たとしてもどういう状態かはわからない。

 

 セイバーも何も口出しをしてこないため、明と一成は目配せをして別れた。

 

 

 

 

 

 明はセイバーに捕まりながら、初冬の闇を駆ける。高所が苦手なため、セイバーにがっちり負ぶわれて、しがみついての移動である。セイバーは飛行したいらしいが、それは明が絶対反対しているため屋根から屋根へ走る移動法が妥協点になっている。

 

「目を開けたら死ぬかもしれないから!目を開けたら死ぬから!目を開けたら完全に終わるから!索敵は頼むよ!!」

「…………」

 

 これでも明は必死である。今まで高所が苦手でも別に高所に行かなければいい話だと高をくくっていたが、まさか聖杯戦争でこんな目に遭うとは想定していなかった。

 セイバーはげんなりした声を隠さない。

 

「いい加減少しは慣れたらどうだ、マスター」

「無理無理ホント無理無理マジで無理無理」

 

 うんざりしているセイバーに反論する元気もなく、明は念仏まで唱え始まる。彼女の魔術は北欧発祥で、実際の魔術もそれに色濃く影響を受けているくせに実に現金なものである。

 

(奴は既に多くの魂を食らっている。マスターもバーサーカーも俺を楽に殺せると踏んでいるだろう)

 

 いくら人の魂を食らおうと、サーヴァントを倒さなければ聖杯戦争は終わらない。力を十分蓄えたバーサーカーは、いよいよサーヴァントとマスターを食らおうとしている。

 

 海岸沿いは勝手な夜の巡回で少し寄ったことはあるが、しっかり寄るのは召喚の翌日に明とセイバーが街を散策がてら歩いた時以来である。

 

 黒い海が、満ち掛けた月光を受けて波が寄せるたびにちらちらと光る。波止場に留まる船を見て、セイバーは明とここを訪れたことを思い出した。あの時はまだ戦争は始まっておらず、のどかささえ感じる場所だった。

 しかし、今や真っ黒に染まる海は禍々しく、底のない闇のようにも見えた。元より、セイバーは海に良い思いではない。

 

 その時、ぞくりとセイバーの肌が粟立った。急ぎ波止場に着地すると、地に足がつく感覚に明も我を取り戻した。そして二人で北東の方角を睨んだ。

 

「……なんかすっごいのがもういるけど、間違いないよね」

 

 もう一成たちもこの気配に感づいているだろう。最初はセイバーが一人であれを相手にするが、彼は決して遅れをとらないと明は信じている。

 

「……狂戦士め、殺る気にあふれているな」

 

 夜の倉庫街に人はいない。魂食いの狩場としては向いていない――しかし、サーヴァント同士の戦いにはもってこいだろう。バーサーカーは準備が整ったと言わんばかりに、その大量の魔力を溢れさせている。セイバーがバーサーカーに気づいているなら、その逆も然りである。

 闇に沈んだ倉庫街からおどろおどろしいまでの殺気と魔力が漏れ出し、それが強くなりながらセイバーと明に迫っている。

 

 セイバーたちまでの距離にある倉庫の壁を突き破り、切り倒して迫ってくる。しかし、セイバーと明も腹は決まっている。今宵、人を生贄に願いを唱える主人と従者を葬り去る。

 

 明は両腿につるしたナイフの感触を確かめた。

 

「セイバー、いくよ」

「マスターの方は任せる。だが、危なくなった場合は」

「わかってる」

 

 セイバーは魔力で編んだ銀の鎧を纏い、霧に覆われた剣を構えた。

 夜の波止場と倉庫街。月が清かな光を放つ夜に、闇と一体化したような狂戦士の咆哮が地を海を震わせる。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ァァァ―――――!!!」

 

 一昨日ぶりに見えた暴力と魔力の嵐が、今再び襲いかかる。

 


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