Fate/beyond【日本史fate】   作:たたこ

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Interlude-4 キャスター召喚

 三十数年前、冬木の聖杯を模倣した聖杯を作り上げる計画が始まった時から、キリエスフィール・フォン・アインツベルンの生は始まった。

 冬木の聖杯戦争の聖杯となったホムンクルスをモデルに、大聖杯の核の片割れとなった女と同系統の陰陽師の精によって生み出された、春日の聖杯用ホムンクルス。

 聖杯を求めて千年を数える一族は、気が遠くなるほどの年月の果てに、聖杯によって「第三魔法」を成すという目的を、「聖杯を手に入れること」そのものにすり替えてしまっていた。

 

 だから新たなる聖杯を手に入れること――それがキリエスフィール・フォン・アインツベルンに与えられた全てだった。

 

 五年で大聖杯に魔力が溜まり聖杯戦争が始まる予定であったが、何の手違いか一向に始まらない。聖杯の模倣という初の試みの為、失敗であってもおかしくはなかった。

 現に誘った土御門など十五年を経過した時点で戦争が開始されず殆ど失敗、と思っていた。

 

 しかし満を持して三十年後――聖杯戦争は始まった。この時ほどキリエが喜びに満たされたことはなかった。聖杯を得る為だけに作られた彼女にとっての無念は、聖杯戦争が永久に始まらないことだからだ。

 

 三十二年の間に何度もマスター最高適性を備えように体を調整され、「聖杯」であるにも関わらず魔術の研鑽にもいそしみ、城から一歩も出ることなく育った彼女は城の人間以外に知る者は殆どいない。

 

 実質的に彼女の父にあたる陰陽師はアインツベルンが雇った人間であったが、精をキリエの母のホムンクルスに与えたのちは、ある目的の為に生きながらにして死んでいるような状態で、城の地下に繋がれている。母に当たるホムンクルスは、耐用年数を過ぎて死に至った。

 

 キリエが常に接するのは家長たる翁と、メイドのホムンクルス。

 それにもう一人、この聖杯戦争の発端に関わる人間。

 かつて魔導の道を進んでいたが、それを辞め聖堂教会へと移った男である。

 

 彼は聖杯の復活を画策するアインツベルンに春日の土地を紹介し、さらに土御門の一族を紹介した。

 冬木の模倣である春日の聖杯には、教会はそこまでの興味を示すまい。冬木の聖杯でさえ「贋作」の聖杯とされているのだから、その模倣はいわずもがな、である――男はそう言い「神秘を秘匿するならば、アインツベルンの聖杯獲得に協力する」約束でアインツベルン城に出入りしていた。

 男のなすべきことは春日の土地とアインツベルンと土御門との橋渡しであり仲介役で、技術方面は担当していない。

 

 三か月に一度程度の頻度だったが、外の人間である彼が話すことはいつでもキリエを喜ばせた。度重なる肉体改造でキリエは十歳前後の姿で成長を止め、男は歳を重ねていってもキリエにとって唯一知る「アインツベルン以外の人間」だった。

 

 聖杯戦争が始まれば表向きは男と素知らぬ顔をしていなければいけないが、彼が聖杯戦争に関わることはキリエに大きな安心をもたらした。

 

 彼の神父が城に来るたび、キリエはその名を呼んで笑顔で迎えるのだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 かつて冬木の聖杯戦争で、アインツベルンのマスターはシステム干渉により大聖杯からは遠く離れたアインツベルン城にて、しかも開始の二か月前にサーヴァントを召喚できたと言う。

 此度は聖杯の都合により、御三家に準じる者ならば――アインツベルン・土御門・碓氷ならば――春日の地でなくとも召喚が可能となっている為、アインツベルンの優位性は失われている。しかし、時期についてはまだアインツベルンに利がある。

 

 キリエは一か月半前には令呪の兆しが浮かんだため、早急に召喚を決行することにした。しかし、まだ大聖杯そのものが本格的に出現していない状態でサーヴァントを召喚するということは、現界に必要な魔力を全てキリエの魔力で補うということを意味する。

 いくら聖杯戦争の為に調整された彼女とはいえ拷問にも等しい苦しみを受けることになる。

 

 しかし少女は躊躇わない。「それが、どうしたというの?」

 

 聖杯に全てをかけた少女は怖じることはない。それは、アインツベルンの一族も同様だ。かつて「殺す」ことに特化したサーヴァントを呼び、「最優」のセイバーを呼び、「最強」のバーサーカーを呼んだ。しかし、どれも満足のいく結果を得られなかった。

 

 ――ならば。数を増やしたらどうだろうか。

 二騎同時使役。けれど、一度の聖杯戦争で呼び出されるサーヴァントは七騎。一マスターが召喚できるのも一騎。このルールを歪めることはできなかった――それでもルールを歪めずとも、それに近しいことを可能とする方法をアインツベルンは編み出した。

 

 同時に、それにより呼び出す英霊も決まった。

 

 その英霊を呼び出し使役することは、バーサーカー以上に魔力を消費する可能性もある。だがそこはアインツベルン謹製のマスター・キリエスフィール・フォン・アインツベルンが操るのだ。問題はない。

 

 触媒が触媒だけにこのアインツベルン城に運ぶには難儀したらしい。西洋圏ではなく東洋の島国であり、魔術系統が異なる地域であることも災いしたのだろう。キリエは細かい経緯を知らないが渡りをつけるのに苦労したそうだ。

 

 しかし準備は整った。専用のチャーター便で輸送された触媒は城の礼拝堂に運び込まれた。

 

 

 外は強く吹雪き、雪に閉ざされている。凍土の地に立てられた古城は、常に外界を拒むが如く聳え立つ。その中の、森閑とした雰囲気の漂う礼拝堂。冷たく大理石の上を歩く音が響く静謐さの中、キリエは静かに魔法陣を描く。

 召喚そのものは大聖杯が行う為、彼女の描く魔法陣は簡素なものだ。間違いがないかを確認すると、キリエはその()を祭壇の上に捧げた。翁やホムンクルス、そして神父が見守る中、キリエは泰然自若として魔法陣の前に立つ。静まり返った空気の中、小さな唇から詠唱が紡がれる。

 

「告げる――」

 

 少女の全身に刻み込まれた魔術回路が鳴動を始める。オドが魔術回路を動かし、人ならざるキリエの体をさらに一つの機械の如く動かしていく。私が間違えるはずがない――なぜなら、私はこの時こそを待ちわびていたのだから。

 

 三十年の長き時を経て、少女はこの瞬間現世と幽世を繋ぐモノに成り果てる。

 

「汝が身は我が下に、我が運命は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ―――!」

 

 人の身でありながら人を超えた領分となった者。抑止の輪から、あまねく人々の夢に彩られた英霊が現れる。この世とは離れた場所と接続された魔法陣からは滔々と光が溢れ、誰もが目をくらませて思わず視界を失う。

 

 溢れんばかりの光りが消え失せた先に、その体からは圧倒的な魔力と威容を感じるモノがいる。にも関わらず――キリエは違う、と心の中で呟いた。輝く魔法陣の中央に立ち、豊かな真紅の髪を靡かせた美女は、艶めいた笑顔で少女に誰何する。

 

「あなたが私のご主人かしら?小さなマスターさん?」

「―――――――!!!!!!!」

 

 ありえない、まさか、そんなはずは―――己が現実を拒絶する声だけが何度も木霊して、キリエは意識を失った。

 

 

 

 

 キリエが目を覚ました時、体は彼女自身の部屋にあった。天蓋付の白いベッドは、いつも起居する愛用のものだ。暖炉ではぱちぱちと火が燃えて、この部屋を暖めている。何でベッドにいるのだろうか、と記憶を手繰った時すぐさま異変を感じた。

 

 己の魔力が別のモノに流れており、同時に人ならざる気配がすぐそばにあり――そして体中を走る激痛で身動きが取れなかった。サーヴァント現界の魔力が持って行かれていることはわかりきったことで、今更騒ぎ立てたりしない。

 キリエは目だけ動かして、毛布の外を見た。

 

 キリエの眠るベッドからほど近い位置にあるロッキングチェアに腰かけているのは、真紅の髪をした妖艶な美女。巫女のような姿をしているが、その白衣は黒い。袴は毒々しいほどに朱い上に、しわが寄って裾が千切れている。

 

「あら、お目覚めかしら?」

 

 キリエが起きたことに気づいた異形は、にっこりとろうたけた笑みを向ける。キリエは再び目を閉じようかと思ったが、閉じたところで現実は変わらない。其の顔をしかめながら、キリエは静かに誰何する。

 

「……あなたは誰?」

「キャスターのサーヴァントよ。真名は、酒呑童子」

 

 召喚したサーヴァントは――望んだ英雄ではなかった。酒呑童子――最高の幻想種といわれる八岐大蛇が人間の女と交わって産み落した鬼子。子供が尋常ではないことを恐れた母方の家族により伊吹山に捨てられ山にて成長し、その後同類の茨木童子と落ち合い、大江山に根を張り京都で暴れまわったと言う日本三大悪妖怪の一角。

 その最後は、彼らを恐れた朝廷により派遣された源頼光とその四天王により討ち果たされるというものだ。

 

 つまり、神とは真逆の魔物ともいうべき反英霊である。

 

 当初呼ぶつもりであった英霊の触媒も間違いなく本物であり、召喚時間もキリエに最も相性のいい時間を選んである。それにも拘らず全く見当違いのサーヴァントを召喚してしまったのだから、キリエは途方に暮れた。

 それは翁や神父も同様だろう。生まれて三十年、聖杯を得ることだけを存在意義として生きてきた彼女は、まさに雷に打たれたようなショックを受けた。

 

「ご主人、あなたの名前を教えてもらえるかしら?」

 

 キリエの心境を全く知らず、キャスターはにっこり笑って話しかけてくる。現実は変わりはしないとわかっていたが、それでもキリエは一縷の望みをかけて、キャスターの問いかけを無視して再び毛布にもぐりこんだ。

 

 誤召喚から始まったキャスターとキリエの関係は、険悪だった。というよりキリエが一方的に嫌っていたという方が正しい。それでも召喚してしまった以上は、このサーヴァントと共に聖杯戦争を勝ち抜かなければいけない。

 流石にこのままではいけないと思ったキリエは、召喚から十日にしてようやく二度目の会話を交わしたのである。場所はやはりキリエの部屋だった。彼女が無視し続けるのにも拘らず、キャスターは大抵この部屋のロッキングチェアで素足をぶらぶらさせていた。

 寒いとはいえ外が吹雪かない日もあるのに、彼女は全く外界に興味を示さなかった。

 

 

「……キリエスフィール・フォン・アインツベルンよ」

「え?」

「だから私の名前よ。主の名前くらい一度で覚えなさい、キャスター」

「結局私はご主人様って呼ぶからあんまり関係のないのだけれど、わかったわ」

 

 キャスターは無視されていたことなどまるで忘れたかのように、能天気に返事をした。流石に時がたって落ち着いていたキリエは、最早妙な意地を張るのもばかばかしくなって大きなため息をついた。

 

 神父はとうに帰国しており、翁や他の者も原因がわからないだけにキリエを怒ってもどうにもならないと思っており、それ以上騒がれることもなかった。

 

 ――そう、いかなるサーヴァントを呼び出そうとも。自分が聖杯を勝ち取ることは使命であり、同時に生きる意味であるのだ。

 

 そうとなればずっとアインツベルン城に居るのは得策ではない。本来ならば訪日は他のサーヴァントが召喚されてからでよいくらいに考えていたが、キャスターというクラス上一刻も早く陣地を作成するべきとのことで、すぐにキリエとキャスターは日本に向かった。

 

 春日一番の霊地である大西山のふもとに、アインツベルンが立てた屋敷がある。大西山は春日のはずれも外れで、屋敷は春日市と隣接市をまたいでいる。

 そこを拠点と定め、キャスターに陣地を作成させる。決して、特に碓氷の管理者には気づかれぬよう慎重にキリエが主導して結界を構築した。このキャスターは魔術には疎かったが、幸いにも山神の子であり、山を拠点としたキャスターはその気配を溶け込ませる――結界を山にある当然のモノと見せかける術に長けていた。キャスターの陣地を成り立たせる基点を山中にセットし、山ごと破壊するレベルの攻撃でなければ破壊されることはないモノに仕立て上げた。一ヶ月前に春日の地を踏んだ、時間の利点だ。

 

 キャスターは本人曰く「キャスターというよりはバーサーカー」だが、陣地作成のスキルが極めて高い。彼女は時間と魔力、土地さえ整えれば陣地から魔力を精製して自らの動力にすることさえ可能だと言い放った。さらには山そのものを依代として、マスターと契約を切っても現界し続けられるとも。

 

「でもそのためには、私は本当の姿に戻らなければならないのよねぇ」

 

 真の姿に戻ったキャスターは、今の麗しい姿よりも数倍強いと言う。キャスターが弱いサーヴァントだとキリエは思っていないが、確かにこの姿のキャスターのパラメーターは高くない。本領は真の姿に戻ってから、ということだろう。

 

 キャスターの宝具の欠点は、一度発動したら発動したままになることだ。発動するまでは結界の気配さえも消失させられるが、発動すればここにキャスターありと常に知らし続けることになり、同時に魔力も消費する。

 

 よってキリエは出来る限り穴熊を決め込むことにした。山を最強の陣地となし、勝てると思えるまで戦いからは潜み続けることを選んだ。

 そもそも、原因は不明なれど彼女はキャスターというカードを引いた時点で一度失敗しているのだ。これ以上の失態は許されないと、彼女は最強のマスターという名に奢ることはなかった。

 

 正体隠蔽に機能の殆どを割いたキリエ・キャスター特製の結界内に立つ洋館。それがアインツベルンが用意したマスター用の屋敷である。流石に本国の城に及ぶべくもないが、小さな城と呼んで差支えのない屋敷である。

 シャンデリアが輝き赤じゅうたんの敷かれた、場違いな洋館の中でソファに腰かけたキリエはゆっくりと口を開く。

 

「そういえば、あなたは一体何を望んでこの戦いに参加しているのかしら」

 

 話す内容は聖杯にかける望みから始まった。生前人間たちに討伐されたキャスターは、二度とそのような目に遭わないように鬼たちだけの理想郷を作りたいと楽しげに語った。

 人を食らう凶悪な鬼のキャスターだが、こうして話す分にはただの女、どころか無邪気な子供のようでもある。

 

「あなたたちって人間を食べないと生きていけないのではないの?」

「アハハハ、違うわ。私たちにとって人間と言うものは……そうね、デザートとかスイーツ?みたいなものかしら。生きるのに必須、というわけではないわ」

「なら私を食べなくてもいいの?」

「食べようと思えば食べれるわ。でも、ご主人ってちゃんとした人間じゃないでしょう?うーん、わかりやすく言うと、ごてごてに要らないものを飾り立てたお菓子みたいで、毒々しすぎておいしくなさそうなの」

 

 キャスターは無邪気に笑う。彼女は人間を食べることを悪いとさえ思っていない。人間が牛や豚の肉を美味しく食べることと、キャスターが人間を食らうことは同じなのだ。だからこんなにも屈託がない。キャスターは話を己の願いに戻した。

 

「生きてるとき、お父様――山の神様の眷属もどきとかやってるときよりも、茨たちと会ってからの方がずーっと楽しかったわ。多分、私がよくなったことは、楽しくて無制限に人間食べてたことだと思うの」

 

 人ならざるものと人が交わって生きるのはとても難しい、ということがキャスターの持論だった。だから仲間たちがもう死なないように生きるには、新しい世界が必要だと目をきらきら輝かせて語った。

 

「ご主人は人じゃないみたいね。もしよければ私たちの理想郷に入れてあげてもいいわ」

「遠慮するわ。あなたたちは勝手にわいわいやってればいいのよ」

 

 生まれてから城から一歩も出ず、メイドに傅かれて成長したマスターと、好奇心と己の欲求に正直であり続けた嘘嫌いのサーヴァント。双方は無邪気さゆえに人を殺めることに躊躇いを覚えないが、同時にあまりにも純粋に過ぎた主従が打ち解けるのは早かった。

 

 結界を強固に保つという仕事はあったが、本格的に戦争が始まるまではそれ以外にキリエがすることはなかった。外の世界を知らないキリエは、その時になるまでこれを機会に観光をして回った。

 一成を彼女が発見したのは偶然だが、並外れたマスター適性を持つ彼女がマスターの気配をいち早く感じたのは必然である。

 

 だが、奇しくも――感じたマスターの気配が、己に似通っていることにキリエは気づいた。土御門一成――キリエを造る際に用いられた陰陽師の精は、魔術系統が同一である陰陽師のもの。その縁に引かれるまま、キリエは彼に声をかけたのだった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 春日の地を踏んで一ヶ月、キャスターは嬉しそうにキリエに告げた。一ヶ月にわたる水面下での陣地作成により、大西山は宝具を発動すれば、山自体が魔力を生成しはじめる状態にまで至った。つまり、キャスターは戦う魔力も自分で補えることになる。

 

「ご主人、今の山なら私は魔力供給がなくても現界できるわ」

「私もそれを感じるわ。今は隠しているけれど、この山魔力の塊ね」

 

 キリエは満足げにキャスターに笑いかけると、人差し指を顎に当てた。

 

「じゃあ、契約を半分山そのものに移そうかしら。そうすれば万に一つ、私が魔力供給できなくなってもあなたは現界できるものね」

 

 奇しくもアーチャーが働きかけをしていた時のことだった。二騎同時使役を真剣に考え始めていたキリエは、そうキャスターに提案した。

 キリエならば三体なら使役できようが、キャスターが自在に使える魔力があるならそちらで補給してもらえばよい。キャスターは二つ返事で了承した――が、彼女は思い出したように声を上げた。

 

「そうそう、ご主人、宝具について相談があるのだけど」

「なにかしら」

「私の宝具が生前の仲間を召喚するものだと言ったと思うけれど、少し選択の余地があるの。本当はいい所どりをしたいのだけど、さすがにそれは無理みたい」

 

 能天気なキャスターにしては珍しく、本気で悩んでいるそぶりにキリエもつられて向き直った。「言ってみなさい、その選択肢」

 

「簡単に言うと、生前ほど強くないけれど陣地のある限り何度でも蘇る仲間を呼び出すか、生前に近くなるけど一回死んだらそれっきりの仲間を呼び出すか迷っているの。生前に近いっていっても、私――サーヴァントほどの強さは望めないんだけれどね」

 

 数分という短時間ならまだしもキャスターの宝具は長時間展開するタイプで、流石にキャスターと同格として生前の仲間を、しかも五人も呼び出すのは不可能だ。

 成すとしたら、それこそ大聖杯しかないゆえに理屈としてはわかる。

 

「……生前ほど強くない、というのはどの程度?」

「私の使い魔として呼ぶから、サーヴァント(仮)?くらいかしら?宝具とかもないわよ。もちろんマスターなんかは一ひねりでおいしくいただいちゃうけど」

 

 キリエはしばらく考え込み、顔を上げた。「私としては何回も蘇る方がいいと思うわ。蘇るなんてあっちは想像だにしていないはず――殺されたら殺し返せばいいもの。それにサーヴァントほど強くなくても、マスターを殺せばいいしね」

 

 それを聞くと、キャスターは満面の笑みを浮かべた。サーヴァントとしてキリエに尋ねたものの、彼女の中では結論が出ていたのだろう。そもそも、生前人間たちに討たれ、仲間の命を惜しむ彼女が、「一度死んでそれっきり」を避ける手があるならばそれを選ぶのは自明の理であったのだ。

 

「大将の私が元気でさえいれば、みんな元気なはずだものね。私、負けないから」

 

 いつもは男をとろかすような、魔性の微笑みを湛えているキャスター。だが一度生前の、仲間の話をする時だけはその魔性は消え去り、少女のようにあどけない表情になるのだ。

 

「――あなた、生前の仲間が大好きなのね」

「もちろんよ。みんな、茨と手分けして見つけてきた仲間なんだから!私が声をかけて一緒に来なかった鬼なんていなかった……あ、一人いたけど、みんなついてきたのよ!」

 

 魑魅魍魎、百鬼夜行の王と恐れられた彼女が少女のように笑う姿を見て、キリエはわが身を思い返した。自分はずっとこの城に1人きり。それでも彼女はこの戦いで一人ではない。このキャスターと、そして、白亜の城にやってきていた神父がいるのだから、一人ではないのだ。

 




☆一応お知らせ
本来本編のどっかにつっこむはずでしたが、色々な理由で「却下」としたセイバー過去編の一部を支部のマンガにそっと上げています。作者のヘタレ絵です。
「人の外装を纏う神の剣(http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47805004)」
タイトルからして中二で死亡。キャライメージを自分でして読んでらっしゃる方には不向き。
小説版もつくるかもしれないし作らないかもしれない。

却下理由
①オトタチバナが入水時以外はシリアスブレイク女でアレだった
②セイバーはただでさえ過去編長めなのにこれ以上長くするとうっとうしい
③というかこのパートは別になくてもストーリー的に無問題

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