Fate/beyond【日本史fate】   作:たたこ

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島国であるこの地は、大陸と比べ神秘が長く生きながらえる土地である。だが、神々が影響を及ぼせる度合いは、時を経るにつれて漸減していきそしてゼロとなる。

葦原中国が人の法則に支配されるのは時間の問題である。

その事実を前に、神々は焦りを覚えた。

既に葦原中国は彼らの血を引く天孫によって、治められている。しかしその範囲はかつての東征から大きく増えてはいない。その上、降臨の聖地高千穂は、今や熊襲なるものに取り囲まれているありさまである。


――今一度、かつてのように神命を帯びさせた者をしてまつろわぬ者どもを刈り取り、我が天孫の国を安んじなければらない。それも、我ら高天原の神々が遥か葦原中国に力を及ぼせるうちに。


高天原の神々が力を及ぼせなくなるのは、悪神――葦原中国に住まう神々――が人の法則により姿を消すよりも早い。高天原の神々はその力の強大さゆえに、代わる法則に囚われることも悪神たちより早まる。もはや神々は、かつて建御雷をして国譲りを成し遂げたように神霊を降臨させることは叶わないのだ。


――我らが手を加えれなくなり、彼らもいずれ消えるとはいえ、それまでに悪神どもが天孫の国を食い荒らしては困る。


そこで神々が思うことはひとつ。「東征の続きを行う」ことである。


東征には前例があるのだから、行うことは可能。しかし神々の脳裏には、ある苦い経験が蘇っていた。

――かつて東征を成して国を建てた開闢の(おう)

あろうことか彼は、天孫をこの地に永劫残すという役目を担っていることを知りながら、その剣を以て完全に「神代」と「人代」を断絶しようとしたのだ。
其れがいかに高天原を動揺させたかは推して知るべしである。高天原が与えた断絶剣によって神代を終わらせられてしまうとは、滑稽にもほどがある。
最終的に彼はその暴挙をすることはなく、むしろ遠き未来にも神々の神秘が残ることをも良しとしたために事なきを得た。
だが、いまだに何故彼がそれを成そうと思い、そしてやめたのかはいまだにわからない。その上、死後は神の一柱として高天原に迎えられるにも関わらずそれを断り、英霊の座などというものにいけしゃあしゃあと座しているのである。


誰もが沈黙していた時、神々の中でも知者とされる神が語りだした。

「思うに、我々は彼に与えすぎたのだと思います。神命を果たすために、武器を与え、己が何者であるかを知らせ、導きの使いを与え、物事を見とおす力を与えた。彼が一体何を見て何を思ったのかわかりませんが、知ることは新たな視界と見識を与えます」
「それにより、彼奴はなにがしかを思いあの蛮行に出ようとしたと。建御雷、あれは貴様の一部でもあろう、どう思うか」

最高神たる太陽の女神は、最強の武を誇る雷の神へと問うたが、彼はいつもの通り黙して語らない。ただ静かに首を振っていた。

「――そうさな、ならば此度はこうしてはどうか。我らの力の一端と武具は必須ゆえ、それは与えるがそれだけにする」

神々はなるほど、と頷き疑義を述べる者は居なかった。天孫の治める国よ永遠たれ。再び東征を成し遂げ、この国を、神の子孫の国を、人の法則に移り変わっても伝える為に。

「何も知らぬ方が、余計なことを考えまいよ」



繰り返しになるが、既に葦原中国は高天原――神の手を離れつつある。ゆえに今の時期にいて、色濃く神の血を含んで生まれるモノは、そのほかの人間とは決定的に異なる。

確かに神命を成しうるモノである。だがしかし、こと人間という点においては初めから欠陥を持っていることになる。
否、そもそも――神々は人間を遣わそうとはしていない。人間ではないものに、人間として「欠けている」ものがあると言ったところで当たり前の事柄でしかない。人世にあって、それが不協和を来すのは火を見るよりも明らかである。いくら人らしくしようが、所詮はごっこ遊び。


体は神で、心は人で、運命は剣。人の外装を纏う神の剣。


そうして、生まれ落ちたモノは――かつての開闢の帝の偉業を継ぐべき立場にありながら、その旅路と生涯を全く異なるものする。


12月5日⑬ 全て呑み込みし氾濫の神剣

 ――走水の海には、神が棲む。

 

「貴方はこんなところで足止めくらっちゃだめですよ。御役目果たさないといけないんですから」

 

 ――神の生み出した空想具現の異界から抜け出すためには、術者(かみ)を殺すか、

 

「大丈夫ですよ。だって貴方は、この国で最も強いんですから――日本武尊」

 

 ――その身を賭して、世界を斬るか。

 

 

 

 

 死刑宣告にも等しい、難局続きの東征。その過酷な旅に同行を願い出た、一人の奇特な妻がいた。

 彼女が何を思い旅についてきたのか、そして最後に何を思い身を投げたのかはわからない。

 今はもう、永遠に。

 

 だから彼女が最後に何を思ったのかは、届いた言葉から考えるしかなかった。

 

「だって貴方は、この国で最も強いんですから」――――

 

 ああ、なるほど――つまり、お前は、俺に日本武尊に「最強」を望んでいるのか。

 

 そしてきっと、それ望んでいたのは妻だけではない。東征の旅で道半ばにして倒れて行った少ない仲間たちも、日本武尊という「最強」を信じて、絶望的な東征の旅についてきてくれたのだ。

 

 死んでもこいと言われたに等しい、あの旅に。己さえいなければ、そのような苦難とは無縁に生きたであろう彼らは、それでも共に旅路へついてくれたのだ。

 彼らには望む旅路ではなかったとしても、あの旅は間違いなく己のあるべき場所であったのだ。故郷にはいられなかったが、それでもキャスターに「自分の居場所はあった」と告げたことは虚勢でも見栄でもない。

 

 

 だからこそ。

 その命を散らした者達がそう望むなら。かの女が身命を賭してまで強く望むなら。

 

「俺は確かにそうあろう。未来永劫、この国で『日本武尊(さいきょう)』になる」

 

 そうして己は剣を取る。いかなる状況、いかなる敵が相手でも関係ない。

 東征で誰が死のうと、自分は神の加護の元に生き残ってしまった(・・・・・・・・・)のだ。

 ならば、彼らが残した夢は、自分が叶えなければならない。

 

 負けてはならない。

 負けることは許されない。

 負けることはあってはならない。

 負けることは認めてはならない。

 勝利しなければ先はなく、其れ以外に道はない。

 

 たとえこの力が原因で、愛した故郷から追われていたのだとしても。

 東征から全員で帰る夢が、潰えても。

 己の矮小な希望が、全て打ち砕かれたとしても。

 

 それでも自分の愛した人々が、己に「最強」をユメみるのならば、この身は「最強」を謳わなければならない。

 

 

「喜べ。お前たちの願いは叶う」

 

 人の気持ちなど知らぬ。

 人の助け方など知らぬ。

 人の救い方など知らぬ。

 人の導き方など知らぬ。

 知っているのは殺し方、ただそれだけ。

 

 それ以外には何もないが、戦うことしか能がないならそれで結構。元よりこの身は日本武尊。この国で最も強き者。

 

 

「俺は」

 

 

 ――クマソを殺した、異郷の宴の夜。あの時、一体自分は何を願い、何を思って、「最強になる」と誓ったのか。

 

 もう忘れた。忘れてしまうくらいだから、きっと、取るに足らぬことだったのだろう。

 だが、最初を忘れてしまっても、今でもこの一点(さいきょう)だけは誰にも譲らない。

 

 それを叶えるまでには、死ぬわけにはいかない。

 

「お前たちの望む俺であろう!!」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 空気が燃える。キャスターの拳によって燃え上がる木々の炎が周囲に燃え移り、焼け野原の如き様相になりつつある。冬は空気が乾燥しており、このまま戦い続ければ山火事にもなりかねない。

 

 俊敏さを生かすランサーが、周囲の木々や巨石をものともせず破壊しながら槍を振るう。力任せに真正面からではなく、背後死角を取るべく目にも映らぬ速さで地を駆ける。しかしパラメータランクが軒並みAを越しているキャスターの速さもランサーに劣らず、巨体もなんら動きを鈍らせることなく紙一重で槍を避ける。それどころか、背後を取ったランサーが槍を突出すのに合わせ、槍を見切ってクロスカウンターの如くすれすれに巌の如き拳を繰り出す――!

 ランサーはその驚異の挙動に気付いたものの、既に己が槍は鬼の心臓目がけて放っている。自分の力を信じる彼は、その槍を止めず、だがやはり肉を貫くべく軌道を微調整し走らせる。

 

「むん!!」

 

 己の力を信じるは、キャスターも同様。烈槍は槍兵の思惑が如く、胴を衝くが心臓ではなかった――リーチ差で槍が先に刺さるが、キャスターは気にもかけずに剛腕をランサーを叩きつける。

 

「―――ッ!!」

 

 拳がぶつかる瞬間、その速さと質量による風圧と衝撃波が発生して同時に襲い掛かる。ランサーはその拳を受けて、体が傾き地を転がる。だが無様に滑るわけでもなく、素早く体勢を整えなおし軽やかに起き上がる。

 そして驚くべきは、それだけの拳を受けて槍兵に傷一つ負っていないことだ。だが、その姿を未だ此処に在りと見せ付けつつも、ランサーは内心苦衷していた。

 

(とんでもない英霊だのォ。このままではじり貧だ)

 

 ランサーの鎧『黒糸威胴丸具足(くろいとおどしどうまるぐそく)』は、マスターの魔力を追加することにより――魔力消費が増えることを意味するが――スキル「無傷の誉れ」を強化する働きをする。スキルだけではBランクまでの物理攻撃の無効化だが、魔力を得ることでAランクまでの攻撃を無効にできる。セイバーの魔力放出が魔力消費によって攻撃力を上げるスキルならば、こちらは魔力消費で耐久を引き上げる礼装である。

 

 それによりキャスターの猛攻を受けながら、彼は傷一つ負っていない。しかし、傷を負っていないのはキャスターも同様なのだ。否、ランサーは数度キャスターを傷つけることに成功している。だがキャスターは膨大な魔力任せに傷をすぐに回復させてしまう。

 ハルカの魔力の続く限り、ランサーは斃れない。だがそれが無くなった時、ランサーは傷を負う。そして悪いことに、ランサーが一度負った傷は、時を置いても回復しない。

 

「――流石傷つかぬか。東にお前ありと言われただけはある、槍兵よ!!」

「――傷を負うようでは、この儂も終わりだからなぁ!!」

 

 互角に見えても長い目で見れば、この戦いはランサーに不利。それは当人も承知している。しかしいかに不利であっても、この状況そのものはランサーの願ってやまなかったもの。

 間を置かず再び迫りくるキャスターを見て、ランサーは切り開かれた場所へと地を蹴って着地する。幸いにも、ランサーの宝具は発動に時間を要すものではない。

 ハルカの言によれば、キャスターを相手取ることはこの山そのものと戦うことと同義である。それでも、キャスターそのものを殺すことをあきらめるランサーではない。

 

 己が槍に渾身の魔力を凝縮させる。生前のランサーが振るった天下三名槍の一。穂先に留まっただけの蜻蛉が真っ二つになって息絶えた逸話をもつその槍は、いかな英雄にも迎撃を許さぬ武の結晶。この烈槍の前にあっては、全てが致命傷となる。

 大いなる魔力の気配を感じ、キャスターも空気を変える。しかしこの大江山において、鬼の総大将が揺らぐことはない。

 

「――殺せるなら殺してみよ、神の加護なき侍よ――!!」

「――――御首頂戴致す!!」

 

 戦国において最強を謳う武将と常に共にあった、その名槍の銘は―――

 

絶てぬもの無き蜻蛉切(とんぼぎり)!!」

 

 白光は迸り、流星の如き鮮烈さを伴い、槍は赤銅の鬼へと突き抜ける。その槍は対象を掠めたのみ――たとえそれが服であれ髪の一本であれ――であっても、「掠めた」事実を「急所にあたった」という事実に書き換える。

 つまり、宝具を発動したランサーの前にあって敵は全身が心臓となったも同じ。その槍を前にして、いかな英雄も迎撃を許されない。己が武器でその槍を受け止めることは、槍が「当たる」ことと同義であるからだ。

 助かるにはただ一つ、完全なる回避を成し遂げること――それは、図抜けた戦人としての技量か直感か、因果を歪めるほどの強運があってなお成功するかどうか。

 

 

「―――――!!」

 

 そして、彼の槍は間違いなく鬼の胸を違わず貫いたのだ。赤銅の体に黒い穴が空き、覗けば向こう側の景色が見えるであろう死の穴。キャスターはその巨体をぐらつかせ、そのまま後方へと斃れる――はずだった。

 

「……何!?」

 

 ランサーの驚愕も当然、キャスターはその場で踏みとどまり、斃れない。胸に空いた黒々とした穴は確かにある――しかし、その部分だけみちみちと肉が盛り上がり、穴を埋めてしまったのだ。

 

「―――仮に頼光共のような、神威を帯びていればまた話は違ったかもしれないぞ、戦国最強よ」

「――キャスター、お前、よもやそこまで、この山となったか」

 

 ランサーの宝具は、確かにキャスターの霊核を砕いた。それでもキャスターが立つは、砕かれた霊核を膨大な魔力で再構成したという、至極簡単な話である。本来砕かれた霊核の修復は、三画消費ならまだしも、通常令呪でも追いつかないほどの業である。

 

 ――この山において、キャスターは不死身に至ったのか。キリエが絶対にキャスターは負けないと信じたのは、この状態となるのをひたすら待っていたが為。ランサーがそれでも戦意を奮い立たせようとした時、背後から涼やかな声が聞こえた。

 

「死なぬサーヴァントは存在しない」

「……セイバー!」

 

 先程いきなり姿を消したセイバーは、森の奥から姿を現した。その手にあるのは常に見る白銀に輝く両刃の剣ではなく、黒く曲りくねった蛇行剣。それは透き通った水のような青銅に縁どられ、月の光を受けて煌めいている。

 ランサーはどうしたと声をかけようとしたが、セイバーは顔を向けることなく淡々と告げた。

 

「最早貴様が倒すべきはあの鬼ではなく、この山そのものなのだ」

「セイバー」

「いかな陣地といえど、ここはまだ完全なる「異界」ではない。とすれば壊すことはできる」

 

 セイバーの声は普段と変わりないが、どこか据わっているようにランサーは感じた。セイバーが怒る姿を見たことのないランサーだが、今セイバーは怒っている。それは、目の前のキャスターに対してか。訝しげなランサーに対し、セイバーは軽く吐き捨てた。

 

「……本多忠勝。お前の宝具は一対一の勝負には強いが、あのキャスター相手には相性が悪いようだな」

 

 五十数の戦場を駆け抜け、なおその体に傷一つ負うことのなかった不朽の武将の名は、徳川四天王が一、本多忠勝(ほんだただかつ)。そして彼と共に名をはせた天下の名槍、蜻蛉切。彼の槍は間違うことなく、確実にキャスターの心臓を抉る力を持っている。だが、それでもキャスターは生きている――。

 

「わざわざ出向いてくるとは酔狂だな、セイバー。お前のマスターはまだ生きているか」

「おかげさまでな」

「また私の四天王が殺しに行くが、放っておいていいのか?」

 

 セイバーはその問いには答えない。そして傍らのランサーにだけ聞こえる程度の音量で何事か囁くと、顔を上げて巨大な鬼を直視した。

 

「――俺は誓っていてな、何があろうと全てのサーヴァントを倒すと」

 

 その言葉と同時に、ランサーは再度槍を構えて地を蹴った。ランサーはセイバーの宝具を具体的に知らず、それはキャスターも同じである。だが、伝説を鑑みればあの草薙剣以上のモノを持っていても何ら不思議はなく、キャスターはそれを最も警戒してきたのだ。

 

 なるほど、確かにここは敵地にして死地である。この陣地において、己の槍が通じないことを、ランサーは先程の一撃にて知った。悔しくないことはありえない。

 そしてここにおいて、ランサーがセイバーを助ける義理も貸し借りも存在しない。

 だが、主であるハルカに「セイバーに加勢し」と命を受けた。それにもまして、ランサーは戦いを求める。

 現界して初めて出会った高名な英霊と、正々堂々尋常な勝負をしたいと願っている。

 

 ゆえにランサーはその槍をキャスターへと向ける。「二十秒、稼げ」と頼まれたのならば請け負うことに否はない。

 生前となんら変わらぬ、策謀が渦巻き流血迸る戦場において、誰も謀らなかった鬼をも殺すのだ。

 

 ランサーの全力を振り絞るほどに槍は鋭さを増して、キャスターの腕を貫く。しかしキャスターの傷は膨大な魔力の為に治癒してしまう。セイバーの狙いを知ったキャスターはランサーよりもセイバーを殺すべく走る。だが一度請け負った以上、ランサーはその進撃を渾身の力を以て阻む。

 

 

 眼前に激しく火花を、鮮血を、魔力を散らすランサーとキャスターを見ながら、セイバーは己が剣を見た。

 その剣の柄は、ぐるぐると乱雑に白い包帯のような布がまかれている。それを外して、右手で柄を持ちその上から再度布で縛り上げてから左手で握る。

 

「アーチャーとかいう面倒な輩がいなければ、これほど手こずることはなかったのだが――ランサー、うまく避けろ」

 

 その声は届いたか否か。いや、仮に槍兵に届いておらずとも、かの高名な英霊は避けられるに違いないと、セイバーは確信している。ここに準備は整った。明の位置は遠くセイバーの背後にあり、巻き込む恐れはない。

 

 ――敵は倒し、殺す。それこそが我が使命。

 

 時は満ちた。かの東征の皇子は、全身に渾身の力を込めてその神剣を振り上げた。清水を思い起こさせるような、清浄たる魔力が凝縮し集約されていく。

 透明に煌めくかの剣は、時さえも止めるよう。

 

「――八雲立つ出雲八重垣、其は暴風の神よ――」

 

 ――遠く遠く、世界が神のものであった時代。素戔嗚命なる神は、その鳴き声で山を枯らし海を干上がらせたという。そして氾濫する河川の化身でもある八岐大蛇の尾から出でた剣は、とりもなおさず氾濫――豊穣と旱魃、天候さえも操る神剣となった。時を経て剣は素戔嗚命から姉の天照大神に献上され、倭姫命の手を通じて日本武尊に託された。

 

 日本武尊により振るわれ荒ぶる神々を斬り伏せ、東国を平らげた剣。それは人の思惑が全く介在せぬままに、神々の為の武器として鍛え上げられた神造兵装。それ故に人と神の間にある日本武尊にさえ制御しきれぬほどの神秘を秘めた、正真正銘の神剣。

 

「荒れ狂えよ天空。吹きすさべよ神風。迸れよ激流――以て此処に朝敵討ち果たさん」

 

 かつて、国なるものによって振るわれた剣の英霊は、悠久の時を超えて再びその名を轟かす。

 其は―――

 

全て呑み込みし氾濫の神剣(あまのむらくも)――――!!」

 

 蒼い稲妻が轟き、激流が吼える。燃えるような水が爆ぜる。セイバーそのものの焔によって溶岩の様に燃え上がる圧倒的な水流が迸る。それはセイバーが剣を振るった先より全てを破壊しつくす。

 されどその水流はあくまで余波でしかない――神剣より解き放たれた力は、青みを帯びた巨大な光の刃となり、キャスターを消し去るべく地を砕く如く駆け抜ける。夜を昼と帰るほどの極光が、神剣の矛先を向けられたキャスターを貫かんと欲している。

 

 溢れ出た爆流は岩を砕き木々をなぎ倒し土を抉り土石流と化しながら、この山そのものを削りとる。想像以上に広範囲に影響を及ぼす宝具であったため、光の刃には巻き込まれずとも、ランサーも爆流に捲き込まれる。

 

 

 一直線に向かう神の光刃からは避けられぬ。そう思った時――キャスターはかすかに声を聞いた。彼を呼んではいない――幻聴かと想う一方、その声はあまりにも悲痛に満ちていた。

 

今度は(・・・)、俺の番だろうが!!お頭――――ッ」

 


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