Fate/beyond【日本史fate】   作:たたこ

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12月8日③ 決戦前夜

「……さて、今日で決着がつくよ」

 

 悟の作った夕食のカレーを平らげ、二人の明・一成・セイバーに悟は引き続き食堂に顔を突き合わせていた。場の全員が息を詰めて、主導の本体の明の言葉を待つ。

 しん、屋敷の外は深い闇に覆われていて、住宅街にも拘わらずこの家しか息をしていないかのようだ。

 

「ライダーの撃破が最優先、大聖杯自体も破壊したいところだけど……セイバーはそれのために力をセーブしようとしないでね。とにかくライダーをなんとかして」

 

 セイバーは無言で頷いた。勝算はある――問題はタイミングと、ライダーがさらに何を持ち出してくるかである。最後の戦いは二人どころか三人共、別々に戦うことになる。

 

「もうわかってると思うけど、私たちがシグマ、一成は神父、セイバーはライダーと戦うことになると思う」

 

 二人の明は一成の千里天眼通を通してシグマの力を把握している。そして、土御門神社地下に広がる大聖杯の全容もわかった。

 一成の得た知識をもとに、おおまかに図に起こしてもらった。

 

 テーブルの上にはその図をコピーしたものが人数分広がっている。木々の生い茂る丘の上に立つ土御門神社に向かう階段を上らずに、森の中にある入り口から地下への階段をひたすらに降りていく。

 大聖杯の魔法陣のある最下層は直径二キロ以上ある円形の広場になっていると、一成は視たそうだ。そしてキリエはまだ生きており、地下ではなく土御門神社の境内に捧げられている。既に七騎中五騎が消滅しているため、たとえ神父たちに身柄を奪われていなくともキリエは意識を失っているだろう。

 

 さて、問題は神父にシグマ、ライダーがどこにいるかだ。土御門神社には違いないが、地下か境内か。神父の願いは「聖杯戦争の継続と再開」であり、イレギュラーであるとはいえ世界の中で完結する願いのため、一応小聖杯たるキリエがいれば叶えられる。

 

 とすれば彼らは境内にいることになろうが、シグマはそれとは別に地下大空洞にて待っているかもしれない。魔術師として大儀式の魔法陣を調べることはもとより、工房を築くのならば、開放的な神社そのものよりも閉鎖空間の方が適しているからだ。

 

 魔術師の創り上げた工房に乗り込むことは自殺行為に近い。キャスターのサーヴァント酒呑童子の陣地で苦戦を強いられたように、本来するべきことではないのだ。

 しかし今の状況になってしまった以上、立ち向かわねばならない。明はおめおめ神父を信用し、中盤まで色々な情報を自ら提供してしまっていた。ハルカのことももっと詳細に神父や父に聞きただしていれば、今よりましな状態だっかのかもしれない。

 自分の見る目のなさと失態に頭が痛くなる。想像明の視線もどことなく痛いが、明は咳払いをして話を続けた。

 

「少しでも体力を温存、回復してから行きたい。皆ゆっくり休んで準備して、夜のうちに行くよ」

 

 想像明とセイバー、一成、それに悟も頷いた。当然悟は行かずに、明たちの帰りを待つ。大本の明はセイバーとの話は昼に済ませてある。一成は強制的に千里天眼通を落とした反動を回復させ全快に戻るべく、ぎりぎりまで体を休める。

 

 それでも重さがぬぐいきれない沈黙を最後に、一同は解散した。

 

 

 

 

 

 空気が重い。夜が深い。セイバーが現界した約二週間前とは、やはり春日の空気が違うと感じる。元々ここは住宅街の中で夜の人通りが多いわけではないが、それでも日が暮れると不気味なくらいに人がいない。

 

 作戦会議の後、セイバーは碓氷邸の屋根の上に立ち、春日の住宅街を見下ろしていた。バーサーカーの凶行がなくなっても、その恐怖はまだこの春日を覆っている。それでも、人気がないからこそ感じるのか、澄み渡った冬の空には星々の煌めきが良く映っていた。

 

 当然、セイバーの生きていた時分の数には遠く及ばないが、その煌めきは二千年が経過しても変わるものではなかった。

 

 寒々しい風がセイバーの衣袴を翻す。彼の右手には小さな櫛が握られている。

 元々この櫛を使うつもりは毛頭なかった。いや使ってはいけなかった。再び戦いにおいて、彼の妻を殺す真似をすることは許されない。

 だが、彼の願いの為にその櫛の力がどうしても必要だった。

 果てのない戦いを続けるためではなく、自らの終わりを受け入れる為に。そして人生を続ける彼のマスターの為に。

 

 苦しくても生きていること自体が、誰かの希望になる事もある。

 

 セイバーには、妻が何を願い思って身を投げたのかは永遠にわからない。しかし――

 

 

「――お前は、ただ、俺に生きていてほしかったのか」

 

 明の友人が明の健やかなることを願うように。セイバーが明の未来を願うように。

 かつての妻は、日本武尊の使命が果たされることでもなく、最強たることでもなく、ただ生きることを望んでいたのかもしれない。

 

 死者の気持はわからない。

 わからないなりにセイバーは考えて、未来を拓くために、力を借りようと決めたのだ。

 

 ふと屋根から庭を見下ろすと、ポーチから見慣れた神主姿が出てきた。何か目的がある様には見えずふらふらしているので、庭の散歩のようだ。

 セイバーは勢いをつけて屋根から飛び降りると、丁度良く彼の目の前に着地した。

 

「どわっ!!セ、セイバー!!」

 

 唐突に立ちふさがった闖入者にたたらを踏んで、一成は危うくひっくり返りそうになった。

 

「そういえばお前、その服はお前の普段着なのか?」

「違げえよ!魔術礼装だっつーの」

 

 聖杯戦争当初は制服である学ランを身に着けていた一成だが、明と共闘するようになってからは常に魔術礼装である神主服を着るようになっていた。碓氷邸にいる分にはいいが、キャスター戦前にホテルに宿泊していた時期もこれで通していた為無駄に目立っていた。

 セイバーは聞いた割に興味なさそうに話を変えた。

 

「それより、お前とは色々あったが世話になった。礼を言う」

「………」

「どうした」

「……お前、本当にセイバーか?」

「ついに壊れたか」

「やっぱセイバーだった。悪い」

 

(セイバーの意思ではなかったとはいえ)腕を切断されるわ、殺すと言われるわ、共闘しても扱いは雑だわ、何故か世話を焼かされるわロクな目にあっていない一成である。まさか今になって礼を言われるとは思ってもいなかった。ただそれでも感謝されれば、一成も悪い気はしない。

 

「……俺も世話になったから、お互い様だ。あと少しだけどよろしくな」

「ああ。そして非常に遺憾だが、お前に頼みたいことがある」

「……ほんっとーに一言多いよな」

 

 とはいえ、一成にとってはもう慣れたことである。セイバーの様子もふざけたところなく、極めて真面目な話だろうことはわかる。

 

 そして、セイバーは深々と一成に向かって頭を下げた。

 

「この戦いの結末がどうあれ俺は消える。だからその後、もしお前が生きていたらマスターをよろしく頼む」

 

 時が止まった。むしろ一成の脳はかつてないほどの超高速で動いていたが、早く動き過ぎて焼け付いていた。

 完全に石化した一成を不審に思ったセイバーは、無遠慮に彼をどついた。

 

「何を呆けている。返事は」

「……いや、セイバー、落ち着け。っていうかお前は碓氷の何なんだ!?」

「妙なことを聞く。俺は碓氷明のサーヴァントだ」

「いやそーじゃなくて!!その、よろしく頼むってのは、その」

 

 セイバーの真面目くさった態度と、自分が消えるから頼む、というのは、つまりだ。一体セイバーが明の何気取りなのはか全く以って不明だが、まさかの発想が一成の脳内を占拠している。

 セイバーは、ああと何気なく呟いてから説明を始めた。

 

「マスターとサーヴァントは嫌なところばかり似るもので、アレは内に籠りやすい。お前くらいのバカが友人にいた方がいいだろうと思った」

 

 再び時が止まった。一体この勘違いは、一成が思春期真っ盛りなせいなのかそれともセイバーの言い方が悪いのか判断がつきかねる。

 

「……あ、うん、そうだよな、うん。わかった」

「ならばよい。お前も少しでも寝ておけ」

 

 セイバーは一成の答えに満足したのか、踵を返して碓氷邸に戻った。無駄に動揺続きの一成は、肩を落としたがもう少し碓氷邸を眺めることにした。

 セイバーに言われるまでもない。出会ったのなら、その出会いを無かったことにすることはできないししたくない。だから最後まで戦う。

 

 まだ明け方の千里天眼通が尾を引いており、頭が痛い。自分も休もうとセイバーに続き、一成は屋敷へと足を向けた。するとセイバーと入れ替わりに、想像明が玄関から顔を出して一成を呼んだ。妙に真面目な顔つきである。

 

「ちょっと一成」

「んだよ」

 

 一成は後ろ手に玄関の扉を閉めると、想像明に向き直った。彼女は小声で一応、と前置きしてから話を続けた。

 

「たぶん大丈夫だと思うから言わなかったけど、やっぱり心配だから伝えとく。一成、ちゃんとコントロールできるようになるまで眼を使うのはやめといて」

「そりゃ使う気はねえけど」

 

 正直、眼を起動する感覚なら掴みかけている。死を意識する――それは、魔術回路のスイッチのオンオフと近い。ただやはりネックは止める方だった。一回目は自分の魔力切れによる強制停止、二回目は明の術式妨害による回路の強制ショート―-自分の意志で止められない。

 最後の戦いでは頼みの綱である明が傍にいるわけでもなく、キリエの意識も遠い。ゆえに眼を開いてキリエの魔力すら使い切るころには、「」からの洪水の如き情報で脳が死んでいる。

 

「……あなた、まだ体があちこち痛かったりしてるでしょ」

「……おう、よくわかったな」

 

 とりあえず行動に支障はないが、筋肉痛のような状態が朝から続いている。学校では帰宅部とはいえ運動部の助っ人によく出るため(運動は得意だが部活動レベルでは人数が足りない時の人数合わせ)、筋肉痛とすれば久々だが――そうではないことは流石に理解している。

 魔術回路のショートが治りきっていないのだ。

 

 明とて重度な後遺症が残るようなやり方はしていない。問題は一成の方で――彼はすでに一度、魔術回路をオフにしないまま焼け付かせかけたという前科がある。

 そして日をおかずに無理にショートさせたため、今一成の魔術回路は非常に脆弱な状態になっている。せめて一ヶ月以上は間をおいて治療をうけるべきなのだ。

 

「朝は私が使わせといて都合良いのはわかってる。だけどもしショートならまだしも焼け付かせたりしたら、よくて魔術が使えない、悪くすれば体自体が壊れる」

 

 それは、薄々一成も感じていた。腐っても魔術師の端くれで、自分の身体の状態が危ういかどうかくらいはわかる。

 さらに明は何事か言うべきか言わざるべきか迷っているのか、しばらく黙ってから意を決して口を開いた。

 

「ぶっちゃけた話、最後の戦いで神父は強くないしライダーとシグマをなんとかできれば大丈夫なんだ。神父を倒せなくてもいい。本当に危なくなったら逃げて」

 

 一成は沈黙した。確かにもう神父を倒してもライダーが消滅するわけでもなく、魔力が足りなくなるわけでもない。一成が逃げても、戦闘の大局に影響はないのだろう。

 自分の身体を損なうことを覚悟してまで神父を倒す意味があるのかどうか。

 

 本体の明がそれを言わなかったのも、想像明が作戦会議でそれを告げなかったのも――一成の意思を汲んでのことだろう。

 腕を失ってもアーチャーとの邂逅を求めた一成の姿を、虚数の少女は鮮烈に覚えていた。

 だから、一成は思わず笑ってしまった。

 

「お前、やっぱり魔術師のくせに甘いよな」

「……それは(あの子)に言ってよ。私を理想としたのはあっちなんだから」

「それだ。理想ならもっと魔術師然とした想像明(おまえ)にもなれたはずなのに、ならなかった。だからあいつは甘いってことを良しとしてるんだろ」

 

 それが魔術師としては良いかどうかはともかく、一成には好ましい。甘さを理想から消さなかったということは、魔術師としてふさわしくなくても「そうあることが良い」と思っているからだ。彼女は矛盾を受け入れると決めている。

 

「俺、お前のそーゆーとこいいと思うけどな」

「……」

「何だその顔」

 

 一応褒めたはずなのに、苦虫を百匹くらい噛み潰した顔をされて一成は首を傾げた。想像明は盛大に溜息をつき、ジト眼で彼を見据えた。

 

「なんであなたは非モテをこじらせたようでありながらそういうことをさらっと言うかな?キリエが泣くよ?」

「なんでそこでキリエが出てくるんだよ」

「まあそれは置いといて。とにかく、無理をしないで。神父が妙なことをしないようにしててくれればいい。一成が無理をしたって得るものはないはずなんだから」

 

 想像明は妙にムキになっている。本体の明よりも想像明の方が自信もあり大人びていると感じていたが、今はそうでもない。一成も自殺志願者ではないのでしなくていい無理をする気はない。

 

 しかし、力が必用とされるのであれば――一成のすることは決まっている。それに一成の目算では、あと一回の使用に限って言えば自分の意志(・・・・・)で接続を切れる。

 

「あーあーわかったって。お前、本体の明よりおせっかいなんじゃないか?」

「それは否定できないね。(わたし)の姉は、基本的にお節介なマセガキだったから」

 

 かつて明が憧れていたという彼女の姉。一体どんな人間だったのか興味があるが、聞くタイミングを逸してしまっている。すると想像明はやおら一成の方に振り返って、人差し指を一成の唇の前に突き出した。

 

「気になるなら全部終わった後、(あの子)に聞いてみて。だから、ちゃんと生き残ってね」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 ――光が、見える。

 

 有りうべからざる色、眩い黄金。その色は往古から人心を惑わす魔性を持つと同時に、人々が目指し続けていた完全性の具現でもあった。錬金術が黄金の練成を目的としていたのも、完全なるものとしての金、人間をさらなる高い階梯へと登らせるための一歩だったからだ。

 

 そして女が纏うは遥か悠久の過去に在りし黄金。

 

 女は笑う。女は笑う。女は笑う。刺され焼かれ砕かれても、女は笑う。

 

 しかし眼ではなく感覚でとらえる女の姿は、すでに人ではない。そも、最初から人ではなかった。

 

 

 黄金そのもの。遥か極寒の大地に輝く、終天の黄金華――。

 

 

 

 

「……う……」

 

 キリエが意識を取り戻したのは、外と気温の変わらない寒々しい室内だった。さりとて、既に感覚を失いつつある彼女にはあまり関係のないことではあったが。

 その聖杯の少女は一目で概ね、自分がいる場所を了解した。

 

 畳張りの部屋、木造建築の社。天井の造りから見るに、様式までは判断できないが神社の神殿である。それに、キリエが寄りかかっている段――さらに部屋を前後に分かつ扉の装飾に、五芒星を刻んだ提灯が左右に取り付けられていた。

 

 春日の神社で五芒星の提灯を飾る神社は、土御門神社しかない。そもそも自分が聖杯である彼女にとって大聖杯がどこにあるかはあまり重要ではない。

 

 キリエは立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。全身が異常にだるく、立ち上がろうとすると気を失いそうなほどのめまいがした。有り余るはずの魔力も全くない。

 この状態を鑑みるに、おそらく血を致死量ギリギリにまで抜かれているのだろうとキリエは判断した。

 

 魔術師の血には魔力が溶けこんでいる。魔力と体力を同時に奪い取る、単純だが簡単な方法だった。ただ、既にサーヴァント五騎が消滅した状態では、そんなことをしなくともキリエは自力で行動できない。

 既に味覚と触覚を切っているのだが、その工夫も焼け石に水であった。

 

 キリエは全身が聖杯だが、核はある。それは心臓であり、キリエを殺し心臓だけ抜いてもかろうじて聖杯として機能はする。しかし万全に願いを叶えようと思うのならば得策ではない。ゆえに大西山で敵の手に落ちた時も生かされていたのだが――。

 

 英霊五騎の強大な圧迫感の最中にあり、周囲に人のない今の状況で指一本動かすことさえ至難のキリエに許されていることは僅かだ。

 一成とつないだパスはかろうじて生きているが、今は彼の生存がわかるくらいだ。この身は聖杯であり、さらに春日の大聖杯から流れ込む魔力があるうえ、英霊五騎の魂に浸されている彼女とより深くつながるものに意識は占領されている。

 

 それは、大聖杯。ゆえに彼女は大聖杯の異変に気付く。

 

 ――何者かが大聖杯に触れようとしている。

 

 この状況でそんなたいそれたことをなそうとする人物はただ一人。キリエは今だにその姿を見てすらいない、シグマ・アスガード。

 

 彼女が何をしようとしているのか、キリエには把握できる。それより気になることは、何故彼女が神父に協力し、あまつさえきちんと御雄神父の願いを叶えようとしているのかである。

 

 そう、今シグマが大聖杯を改竄しようと試みているのは、神父の願い「聖杯戦争を何度でも繰り返す」を正しく叶えようとするがゆえなのである。

 

 摩訶不思議な神父の願い。大聖杯を破壊しなければ三十年後以降に、春日で聖杯は再び満ちる。しかし神父はより短いスパンで――一年ごととか――聖杯戦争を行いたいと考えている。ただそうすると神父自身にも告げたように、いつか魔力の帳尻が合わなくなる。

 

 シグマが成そうとしていることは、絶対的に訪れる魔力不足を解消するための所業。

 正直、彼女であってもそれは不可能だとキリエは見ている。

 ただ成り行きを見守っているに過ぎないのだが、「動機」の疑問は尽きなかった。

 

『シグマ・アスガード。貴方は何を望み、オユウの願いを叶えようとするの』

 

 聖杯に触れんとする黄金に、キリエは語りかけた。むこうもキリエの存在を感じていたようで、滑らかに会話は始まった。

 

『――聖杯戦争は、大聖杯だけでははじまらないでしょう?マスターたる魔術師がそろわなければ、ね』

『……目的は人だとでもいうつもり?ハルカ・エーデルフェルトを傀儡にしたように』

『違うわよ。傀儡にしたのはそっちの方が便利だっただけ。だけど、人が目的というのは間違っていないわ。ああ……聖杯の、泥。これを浴びれば私はきっと死ぬでしょうけど、きっと今なら浴びれるのかしら』

 

 最後にはキリエの言葉が届いているのかいないのか、恍惚として蕩けた声音が広がった。シグマが一流以上の魔術師であることは了解しているが、聖杯の改竄が成るかは別の話である。

 

『聖杯の娘。天の衣を持たない今のあなたには何もできないでしょうけど、特等席で見ているといいわ』

 

 遠ざかる弾む声を、キリエはただ送るだけだった。凍える寒さの神殿に、一人。

 しかし彼女は待っている。彼女が生きることを願った未熟な陰陽師が助けに来ることを。危ないから止せと言って止まる人ではない彼を、待っている。


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