その宝具の開帳に、わざわざ取り出して手に取る必要はない。いつも身に着けているものだから――それでも間に合うかは一か八かだった。
「『
日本武尊が持ちうる最強の結界宝具。前回ライダーの宝具を受けた時には障壁の三分の一が破壊されたが、今回はいかほどか。単純計算なら同じく三分の一である八枚が突破されるだけのはずだが――
次元を割く雷――混沌を太極へと分けた原初の雷が至近距離で迸った。障壁の展開から、セイバー自身は位相のずれた世界に隔離され、そこから現実世界のありさまを目撃し、美玖川の氾濫の様を見続けていた。走る激震、対界宝具の力を再度目の当たりにしセイバーは歯を食いしばった。
光の横溢が終わった世界へ、セイバーは元の世界へ帰還した。須臾の判断だったが、戻ってこれたことはライダーの宝具を防ぎきったことの証左でもある。間違うことなく、櫛はその威力を発揮した。横溢する光を目撃しながらも、宝具による結界への浸食を感じながらも傷を負うことはなかった。
――帰還の異相がずれて美玖川上空に投げ出されていたが、宝具の櫛と、周囲の惨状をを見て目を疑った。
一時的に美玖川の水が押し上げられ、堤防を越えて流れ出していた。どろどろになった河川敷を見てセイバーは驚いたが、さらに櫛を見て絶句した。
――櫛にヒビが入っている。既に壊れる寸前になっていた。
烏の神性を吸収した布津御霊剣の一端を見た思いがして、セイバーは口を固く結んだ。前回よりも宝具の威力が向上しているのは火を見るより明らかだった。そして櫛の様子を見るに、後一撃の宝具も防ぐことはできないだろう。
水面に泰然と立つライダーは、どうせ戻ってくるだろうと微動だにしない。もう剣戟でやりあうことの無意味さをお互いがわかっている。また先程までのせめぎ合いのやり直しで、決着がつかない。
ただいたずらに戦い続けてもセイバーの消耗が先、そして宝具を開帳しても回数的にセイバーが負ける。一撃のもと、確実に霊核を破壊するしか勝つ方法はない。
セイバーは宝具よりも剣同士の戦いにおいて、ライダーの隙をえぐりだし殺すことを狙っていたがそれは難しい。目がないとはいわないが、厳しいというのが本音だ。相手は慢心しているのではない。楽しんでこそ万全で臨んでいるからこそ油断はせず難しい。
――大聖杯を破壊したいと明が言った。それをするにはセイバーの宝具がほしいとも。だからまだ――セイバーは魔力をとっておきたいという意味で、宝具を使いたくないとも思っていた。
しかし、そんな余裕は許されない。先のことを考えていたら、死ぬ前に死んでしまう。
ライダーはすでに魔力の再充填をはじめ、再び宝具を放つ構えだ。何回でも、どこまででも付合おうと赤い瞳が笑っている。
セイバーは深く息を吐いた。「――決着をつけるぞ、ライダー」
ライダーは笑って首を傾げた。「これは異なことを。公はさっきからそう言っている」
闇のしじまに、さらに深い沈黙が下りた。嵐の前の静けさか――セイバーは先ほど護られたばかりの櫛を取り出した。
もうこの櫛は宝具を防げないなら、使い方は一つだけ――セイバーは一息にそれを砕き壊した。
この宝具は日本武尊だけを護るもの。何しろかつての妻が日本武尊を護るべく、命を懸けた結果の宝具なのだから。
妻はせめて自分には生き残ってほしい、と考えていたのかもしれないが――日本武尊が誓っていたのは、やはり皆で帰ることだった。
それは、今も昔も。
だから、皆で帰るために――そして死を迎えるために、セイバーはこの宝具を壊す。
元来宝具は『
そして壊れた幻想として使われるこの櫛は――本来人を傷つけることができない神話の巫女の魔力が籠った礼装は、担い手たる日本武尊の霊核の破壊さえ修復して余りある膨大な魔力塊として機能する。
その溢れる魔力を令呪の代わりに、日本武尊はひとつのことを願った。
「――ふるべ、ゆらゆらとふるべ。我が名は日本武尊大神なり!」
砕け散った櫛の破片が綺羅綺羅と散っていく中に唱えられた言葉。セイバーの体が青く光り、その瞳はきっとライダーを見据えていた。
令呪並の魔力行使による、一時的な神性の引き上げ――もしこの場にマスターの誰かがいれば、セイバーの神性は今やEX(規格外)のランクを示していることがわかるだろう。
わざわざそれをした理由はひとつ――『
ゆえにこの選択。セイバーが何をしたか瞬時に悟ったライダーは、突然呵々大笑した。
「ッ、ハハハハ!!神の剣よ。神を嫌うお前が神になるか」
セイバー自身はこれまで意識したことさえないが、現界にあたり彼の神性は本来の神性より下がっている。
理由はセイバー自身が無意識のうちに神霊を嫌っているためだ。天津神や国津神の差はあれど、彼は神霊なるものの手によって生まれながらに人生を歪められ、旅路において妻を奪われ、概ね役目を完遂したとみなされて伊吹山の死も放置された。
そのくせ、彼がこれまで戦ってこられたのはその加護の多さゆえでもある。
己に欠かせないと知りながら、半ば己自身でもありながら、彼は神霊を嫌っていた。
神霊よりも人間にあこがれて、彼らと共に生きたいと願い続けていた。
それでも今、このときだけは。
この力があってこそ、救える何かがあるのならば――日本武尊はまっすぐにその方策へ手を伸ばす。
セイバーはもう迷うことなく、ただ己の真実だけを口にした。
「――もう否定のしようもない。お前は俺より強い。我が祖、
ライダーは静かに口を閉じ、セイバーの様子をうかがった。深く沈む夜の闇が終わり、黎明は近い。太陽神の直系である二人の時が、すぐ間近にまで迫っている。
「それでも今は、負けない――決着をつけるぞ」
天叢雲剣が鳴動し、それ自身が魔術回路となり魔力を精製し始める。白銀の光に包まれたセイバーは天叢雲剣の呪布を巻きつけることはせず握りしめる。
セイバーが神性を上げた状態の天叢雲剣と、今のライダーの布津御霊剣でやっと互角。
その時、ライダーが楽しげに、それは愉しげに笑った。
「――よくぞお前はたどり着いた。認めよう我が子孫よ――ゆえに全力を以て撃ち殺す!」
ライダーの白い髪が舞い踊る。最大の一撃を与えるべく、川面がさざなみ立ち二つの魔力が渦を巻く。大気が動き、唸りをあげて逆巻く突風。空気中の水分が電気を帯びて火花を放つ。
遥か東のかなたに伺える地平線から、一筋の赤光が漏れ出している。夜明けはほど近く、二振の神剣は朝日を待ち、終わりが始まる。
白金の魔力と白銀の魔力の相克の後――幻想は、紡がれた。
「八岐大蛇の尾より出でた剣よ――その伝説、断絶せよ!」
宝具と英霊の伝説を断絶する――その効果は、草薙剣が未だに使えないことで良くわかっている。それでもセイバーは止まらなかった。
この春日を護るため、明の未来を守るため、そして己の運命を繋ぐための戦いだ。
最強になるというただ一つのためではなくて、様々なモノの為にこの戦いはある。
今も、昔も。本当にずっと一人だったなら、自分はここにさえ至れなかった。
己が最強と謳うのならば、己と共に闘ってきた輩も間違いなく最強なのだ。
ライダーからその真名が紡がれる直前、己にしか聞こえない声で、セイバーは呟いた。
「――そうだ、俺は、勝つためには手段を選ばない」
セイバーが両手で持っていた天叢雲剣は、いつの間にか右手だけで支えられていた。
「天地神明!
セイバーの空いた左手には、いつの間にか脇差程度の長さの刀が携えられていた。これはセイバーの宝具ではない。
左に鞘に装飾のある美しい脇差、右に天叢雲剣を掲げ、セイバーは高らかに謳う。
「我は皇統を助けし者 我は皇統を保護し者 我は皇統を長らえし者!」
――これは託された刀。消えゆくアサシンが繋いだ、対神性用拘束宝具。アサシンの宝具の本質は強奪ではなく『所有権の書き換え』。
アサシンが一度自分のモノにした宝具を、他の誰に明け渡すもアサシンの自由。
そしてアサシンは、消える前にこの宝具をセイバーに託した。
この土壇場で、己以外の力を頼るなど論外か?そんな発想は元々セイバーにはない。
そんなちっぽけな誇りより、勝ちとらねばならぬものがある。
気は合わない暗殺者にまでも、託された勝利がある。
「『
銀色の光がライダーを襲う。
決してライダーを傷つけることはないが、アーチャーの宝具は神を縛る。
両親を神に持つという最高の神性によって、ライダーの動きは刹那、完全に止まる。
だが、今や神霊にも等しい神性を持つライダーほどの相手を拘束するためには、莫大な魔力が要求される。数秒動きを止められれば御の字――だが、その数秒が運命を変えることは、戦いの中に身を置くものならば誰でも知っていることだ。
セイバーは壺切御剣を左手に、天叢雲剣を右手に持ったまま。
「な……それは……!!」
ライダーはこの宝具のことを思いもしなかったはずだ。なにしろアーチャーはライダーが姿を現す前に消滅しているのだから。
ライダーの布都御霊剣は、宝具を解放する直前で停止している。
ライダーが動きさえすればすぐさま断絶の剣はセイバーを襲うだろう。
「我が神威の剣で消え去るがいい!ライダー!」
この一撃で消えてもいい――セイバーは今己の持てる魔力の全てを注ぎ込む。
己は人か、神か、剣か?
そんなこと、どうでもいい。
空気が唸る。夜明けを呼ぶ。水が迸る。遠き古き神代の猛威がこの世に具現する。そして壺切御剣を消して、両手を己が剣に添える。
ライダーの体が大きく震える。セイバーが全力を天叢雲剣に注いだせいで、壺切御剣による拘束が解けた。ライダーは完璧に神剣解放の準備は整っていたが、絶対的にセイバーよりも遅い。
その刹那で十分だ。
セイバーの体は如何なる突風よりも敏速で、如何なる雷よりも迅速だった。
「『
白い――清冽なる一条の光だった。直線状の川水は膨大な圧力と熱量を受け、蒸発しながら押し出され再度激しい水柱を噴き上げさせた。
水と水の壁の間にセイバーとライダーが二人きりで――そうして神造兵装の一部も無駄もなく、完全に力を破壊の光線として変換しきった一撃が決して違うことなく、ライダーの体に直撃した。
闇を割り、遥か彼方の朝日に届くように――一条の光は原初の帝の体を貫いていた。
噴きあがった川水は夕立のように降り注ぎ――神の剣たちに降り注いだ。まだその体を維持しているライダーに向かい、セイバーは決して隙を与えずに水面を疾走して確実に霊核を破壊しようと剣を突き立てた。
その剣はまるで今までの苦戦が嘘のように、吸い込まれるかのように天叢雲剣はライダーの核をえぐり取った。
――この感覚を思うに、今の一撃がなかったとしても、おそらくライダーは現界を保つことができなかったろう。
ずるり、と血まみれの剣を引き抜いてセイバーは冷静に思った。当のライダーは鮮血を吐き出しながらも、決して膝をつかずに立ち続けていた。
それでも、ライダーの限界は手に取るようにはっきりとわかる。
「――あの盗人、いや……公が現れる以前にいたとかいう、貴族の剣か……」
「お前の方が強い。だが、俺の勝ちだ、ライダー」
からん、と布津御霊剣を取り落としたライダーは、セイバーを見つめてやはり笑っていた。
「……やはり、最初から見物しているべきであった。損をした気分だ。そのあたりは業腹だが、よしとしておくか――」
今際の際にも、後悔などなく。ただ残念そうに、赤い瞳の天皇は呟いた。
きっとこの男は――生前も今も、僅かな心残りがあっても、後悔はなく生涯を終えたのだと、なんとなくセイバーは思った。
払暁。東から強くなる橙色の光を最後に――ライダー・神武天皇は消滅した。
「……」
ライダーの消滅を確認したとたん、セイバーの体にはどっと疲労が押し寄せた。この一撃で消えてもいいと覚悟したほどの宝具開帳のため、もう魔力がほとんど残っていない。
まともなサーヴァント戦は不可能だが、魔術師同士の戦いなら助けられる。明とのパスは生きている――彼女を助けるべく、そして聖杯を破壊すべく――セイバーは力を振り絞って、夜明けの春日の空を飛んだ。
*
シグマを虚数送りにしても、大聖杯が消えるわけではない。今もこの星の祭壇で、黒い太陽を捧げる巨大な柱はその根を下ろし続けている。
明は自分の魔力の大部分を使い果たした――剣から放つ魔力ではなく自身への身体強化、セイバーに与え続けたこと、さらに想像明に多くの量を割いたからである。サブの回路も使用しており、ここまで派手に消耗したのはいつぶりか。
明はじっと、己の右手の甲を見つめた。もう僅かな跡を残すだけとなった令呪だが――セイバーの繋がりはまだはっきりと感じる。そして、彼女は勢いよく振り向いた。
「……セイバー!」
「マスター、無事か」
振り返った先には、少し前に別れたばかりだが、長らく会っていなかったような気のするサーヴァントがその姿を現した。
煤汚れていているのは当然として、五体満足の姿を見て明は胸を撫で下ろした。
「セイバーも無事で良かった」
ここにセイバーが居る――即ち、残るのはセイバーだけ。
正真正銘、セイバーと明は春日聖杯戦争の勝者となった。
だが、セイバーと明に喜ぶところはない。聖杯を不要と断じた彼らには、まだ為すべき役目が残っていた。ゆえに彼らは安堵することも喜ぶこともなかった。
大聖杯――目の前に坐すこの大魔法陣を破壊しなければ、時を経て再び聖杯戦争は開かれる。それに此度の戦争で願いを叶えた者がいないため、魔力が大いに残っており、より短いスパンで再び起こる可能性も大きい。明はセイバーに尋ねる。
「セイバー、宝具開帳分の魔力はある?」
もう明から与えられる魔力は雀の涙程度だ。ほとんどをセイバーに賄ってもらわなければならない。
「俺の全部の魔力をかき集めればどうにかなる」
あっさりとそう言い放ち、彼はちらりと後ろに振り返った。それは、ここに来るまでの道を振り返る所作だった。
「この閉鎖空間での天叢雲剣はお前も巻き込みかねない。しばらく待つから、早く地上へ行け」
すでに高ランクの神性を失っているセイバーは『全て呑み込みし氾濫の神剣』しか使えない。屋外の大西山ではよかったが、この閉鎖空間では宝具開帳と同時に発生する激流を逃がせる当てがない。
それに対城宝具を放てば、空洞そのものが崩壊する危険もある。セイバーの判断は至極当然のことだった。
「――」
セイバーを召喚した時から、ずっと、この時が来ることは知っていた。むしろこれは最上ともいえる終わり方で、これ以上のナニカを望んではいけない。
たとえ大聖杯が無くなろうと、明は明の魔力でセイバーを現界させ続けることができる。
しかし、それはすべきことではない。
僅か、昨日の夕方。ショッピングモールの屋上が沈む夕日に燃える中。
セイバーは聖杯戦争後に現界し続けることを拒んで、死を迎えることを選んだ。
「それでも俺は帰るさ」
それは、決して絶望して死を望んだからではない。
「だって、人間は死んで終わるものだろう?」
太陽は東から昇って西に沈む、空が青いと言うように――当然のごとく、彼は言ったのだ。
たとえその体と運命がどんなに歪であっても、最期は人として死を迎えたい。
名もなき人間として生きたかった英雄の、星を掴むような話。
だから、このうす暗い場所が最後の別れ。もう二度と出会うことはない。
明は唇を強く噛んで、それから深く息を吸った。土と血で汚れた手を、無造作に彼に差し出した。
「セイバー!……ありがとう」
セイバーは目を見開き、それから自分も手を差出し、明の手を握った。
「俺からも礼を言おう。碓氷明……それから、地上の土御門にもよろしく言っておいてくれ」
セイバーは露骨に嫌そうな顔だったが、それでも礼を言うところは生真面目さである。一成とセイバーが顔を合わせた頃を思い出し、随分仲良くなったものだと勝手に微笑ましい気持ちになっていた。
セイバーはこほんと咳払いをすると、剣で来た道を指示した。
魔力に満ちた大空洞、春日の聖杯戦争、始まりの場所。
「そろそろ、夜が明けている筈だ。神社では土御門とキリエスフィールが待っている。――行け」
明はセイバーの言う通り出口へと向かおうとするが、足が動かない。
セイバーが宝具を解放したとしても、直ぐにここが崩壊を迎えるとは限らないのではないか、せめて地上まで共に、夜明けを迎えられはしないのか。こんなところにセイバーを一人にしておいていきたくない――それが、今に至っても明の足を遅らせていた。
「お前を巻き込むわけにはいかない。早く行け」
一方のセイバーは腹を決めたのかあっさりとしたもので、さっと明に背を向けた。
「……うん」
セイバーの様子に明も心を決めて、勢いよく踵を返した。魔剣をかかえ傷だらけで走り始めたその時だった。
「そうだ、言い忘れていた」
ぬけぬけとそう言い放った剣の英霊は、くるりと振り返った。当然、明もつられて足を止めて振り返ってしまう。
折角踏ん切りがついたのに、と少々腐れた気持ちでいた明だったが――その表情に、目を奪われた。
「――明、俺は」
その言葉は、朝の挨拶のようでもあり。
その言葉は、感謝の言葉のようでもあり――彼の希望に満ちていた。
「お前の幸せを、願っている」
ああ、本当にこの人は。
人ならざる体を持って、人ならざる運命を持って、
人らしい願いが相応しい存在ではないと、死ぬほどわかっているくせに――身近な人の幸いという、どこまでも人間臭い願いを捨てられないのだ。
本当に愚かで、本当に真っ直ぐだったあまりに破滅へと歩むことになっても、不釣合いであっても、その願いは彼の在り方そのものだった。
その願いになんと答えればよいのか、明にはわからなかった。願いが叶うかどうかは、まだ遥か未来の話だから。
ゆえに、明はセイバーの目を見て、強く頷いた。
「うん。頑張るよ――」
明の姿が見えなくなってからも、セイバーは消えた先をしばらく見つめていた。地上ではもう夜が明けて、黎明の光が覗いていることだろう。今でも体内時計には自信がある。
明が地上へ戻るまで、あと三分程度か。セイバーは禍々しく輝く黒い太陽――孔を見上げた。穢れた願望器、呪いの釜――正体はそのような紛い物であれ、この聖杯は間違いなくサーヴァント七騎を召喚する力を持っていたのだ。
もし、ここで自分が大聖杯を破壊せず自害して果てたらどうだろうか。
自分は世界との契約を破棄して、人としての終わりを迎えて大和に帰る。
だが、この春日の地に聖杯は残る。また、時間かけて魔力が溜まる。
そうすれば再び聖杯戦争が開かれ、再びサーヴァントが召喚される。
さすれば、もしや、自分は再び、この地に置いて召喚され。
さすれば、もしや、自分は再び、もう一度、今一度、彼女と共に――
そのような
「――さて」
再び目を開いた日本武尊に、迷いはない。
役目は果たすもの。約束は護るもの。ゆえに彼は剣を取る。
これが正真正銘、ラストファンタズム――最後の幻想。
「八雲立つ出雲八重垣、其は暴風の神よ――」
魔力が濃いこの空洞自体、サーヴァントにとっては良い環境である。天叢雲剣は自ら鳴動を始め、魔力を生成していく。
蒼白の光、自然の猛威の凝縮――全ての準備は整った。
凛冽にして壮烈、獰猛にして清廉な光が闇をかき消す。
「以て朝敵討ち果たさん!『
――俺は、帰るよ。
「99話更新」の活動報告で、アンケ的なものを置いているのでよければ見てください。