ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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第一話 シロナ編

 シロナはシンオウ地方を代表するトレーナーであり、世界で最も強いトレーナーの一人として君臨している。

 シンオウリーグが主催する大会では、9年もの間、チャンピオンの座を守っている。

 ワタル、ダイゴ、カルネ、名だたるトレーナーを打ち倒し、シンオウリーグの絶対王者の地位に君臨している。

 

 10歳のころにポケモンと出会い、ポケモンと歩んできたシロナは誰よりもポケモンに向かい合ってきた。

 その気持ちはもしかしたら大きすぎたのかもしれない。

 気が付くと、シロナは孤高の存在になっていた。

 他者とは明らかに違う。

 性格も、趣向も、IQも庶民から大きくかけ離れた存在。

 それゆえ、彼女の周りには誰もいない。誰も彼女に近づけなかった。

 

 彼女の一日は、約5時間のポケモンバトルから始まる。

 午前5時過ぎから、シロナ専用の練習所に、幾人かのトレーナーが集まる。

 若手が20人ほど集まってくる。

 最近出世したトレーナーもいる。ナタネ、スズナあたりはシロナの養成所で成長した新時代のトレーナーだ。

 

 ポケモンバトルは無言で厳粛に行われる。

 緻密なデータ分析に裏打ちされた練習だ。

 シロナは0コンマ単位でポケモンと連携することを可能にした。

 相手トレーナーの癖を分析して、完璧に対処する。

 シロナが得意とするポケモンは多岐に渡る。

 ガブリアス、ミロカロス、ルカリオなどの得意分野から、バシャーモ、フーディン、イシヘンジンまで何でもほぼ完ぺきに使いこなす。

 こんなトレーナーは滅多にいない。

 シロナがこれまでに公式戦で使用したポケモンは約120種。

 これは世界で最も多い。

 最強のトレーナーと言われていたオーキドでも95種類だった。

 

 練習は午前10時ごろに終わる。

 練習が終わると、シロナはそのまま仕事場に向かう。

 シロナにはポケモントレーナー以外にももう1つの顔がある。

 

 考古学者

 

 それがシロナのもう1つの職業。

 しかし、多くの考古学者が大学に所属するのに対して、シロナは自分の仕事場にこもって仕事をする。

 大学を出た後、多くの研究所から誘われたが、シロナは一人研究室を選んだ。

 

 シロナが考古学に興味を持った理由はポケモンだ。

 彼女の基本はポケモン好きだ。

 それゆえ、シンオウ地方に言い伝えられている伝説のポケモンにも興味を持った。

 伝説のポケモンについて記された古文書はたくさんあるが、それらの多くが未解読状態だった。

 

 シンオウ地方に残る古文書は解読がかなり難しく、何百年もの間、解読されずにいる。

 その理由は、規則性が隠ぺいされているから。

 

 シンオウ地方に言い伝えられている伝説ポケモンはわかっているだけで5種。

 

 ディアルガ 空間に干渉する大いなる龍。

 パルキア  時間に干渉する大いなる龍。

 ギラティナ 世界に影を作り出した邪龍。

 ダークライ 世界に悪夢をもたらした鬼。

 アルセウス 世界の起源を想像した神。

 

 すでに解読されている古文書には、とある賢者がこれらを永遠の闇に封印したと書かれている。

 これらのポケモンは世界を崩壊させる力を持っているがゆえに、誰の目にもつかない場所に封印された。

 

 しかし、暗号を用いてこれらのポケモンの封印場所が残されていた。

 未解読文字というだけでも暗号と同じなのに、さらにそれが暗号化されている。

 それゆえ、量子コンピュータを使っても解読に至っていない。

 カントーのヤマブキシティにあるとある研究所が、これらの暗号に規則性はないと断定された。

 

 それでも、シロナはそれらのポケモンを追い求めて、大学を出てからずっと一人で解読に臨んできた。

 ヒントを得るために、色々な遺跡に出向くこともある。

 

 シロナはいま1つの遺跡に注目している。

 テンガン山頂上にある「槍の柱」だ。

 

 この遺跡はすでに多くの者が探索を終えている。かつては一般人の立ち入りが禁じられており、シンオウ地方が管理していた。

 ところが特に重要なオーパーツが発見されなかったことで、いまでは登山家がピクニックにやってくる程度になっている。

 

 もはや誰も注目しないテンガン山頂上に、シロナは頻繁に通った。

 シロナは今日もあることを確かめるために、槍の柱に向かった。

 いまはロープウェイがあるので、頂上近辺まで向かうのは容易なことだ。

 この日も、槍の柱に学者の姿はなく、子供たちが鬼ごっこで遊んでいるだけだった。

 子供の声を通り抜けて、シロナはある場所にやってきた。

 

 本来誰も来ない場所。なぜなら、そこには何もないから。

 唯一景色だけはいいかもしれない。

 しかし、他に景色のきれいなところはある。

 カップルが写真を撮る場所はほかにある。

 しかし、その日はそこに先駆者がいた。

 

 シロナは不思議に思いながら、その人の背中を見つめていた。

 視線に気が付いたのか、その者は後ろを振り返った。

 冷たい目をした中年の男だった。

 ちょうど、シロナと同じ、孤高の存在のように見えた。

 

 サインをねだりに来ることはなかった。

 その男はその場に立ち尽くして、しばらくシロナのほうに目を向けていたが、やがて後ろに向き直った。

 それから、その男はずっとそこに立ち尽くしていた。

 

 人と関わることがほとんどなかったシロナだったが、その男には興味をひかれた。

 自分が立とうと思っていた場所に立っていたから。

 

 その場所はシロナが目をつけていた場所でもあった。

 ある古文書からヒントを得た場所だった。

 だから、シロナはその男に近づいた。

 

「どうして、その場所に立っているのですか?」

 

 シロナは後ろからそのように質問した。

 男はしばらく無反応だったが、やがてつぶやくように言った。

 

「新しい世界が見える」

「……」

「お前も見えるのか?」

 

 男はそのように尋ねた。

 

「ええ、今日はそれを確かめに来たのです」

「そうか、見えるか……」

 

 男はそう言うと、シロナのほうに目を向けた。

 その目は非常に冷たかったが、シロナには温かく見えた。これまで、自分と同じ類の存在に出会ったことがなかったからだろうか。

 

「あんた、たしかシンオウチャンピオンだよな?」

 

 シロナはうなずいた。

 

「だが……富も名声も得た者が放つ雰囲気じゃないな」

「そうかもしれません」

「何を望んでいる? ほかに望むものがあるのか?」

 

 シロナはこう答えた。

 

「新世界が見たいのです」

 

 その答えを聞いた男は口元を緩めた。

 

「おれと同じだな」

 

 シロナにとって、初めての出会いだった。

 同じ夢を持つ存在はこれまでかつて一度もいなかった。

 だから、その男に強く惹かれた。

 

「だが、新世界を見るためには要素が足りない。他に何かが必要だ。おれにはそれがわからない」

 

 男はそう言って、もどかしい表情を作った。

 

「あんたなら、もしかしたら必要な何か見つけられるかもしれないな」

 

 男はそう言うと、シロナに一歩近づいた。

 

「おれの名はアカギ。新世界を見つけるために、おれに力を貸してくれないか? あんたの力がどうしても必要なんだ」

 

 アカギはそう言うと、シロナの手を握りしめた。少年が母親にすがるような、そんなはかなさが感じられた。

 シロナにとってこれまでに経験したことのないぬくもりだった。

 ずっと孤独の中を生きてきたから、誰しもが当たり前に知っている手の温もりを今この時まで知ることがなかった。

 

「力になります。必ずあなたを新世界に導きます」

 

 シロナはこのときはじめて、誰かのために生きるという喜びを知った。

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