ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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第10話 シロナ編

 ジュピターはマーズを自分の部屋に連れてきた。

 ジュピターの部屋に入るのはこれが初めてだったが、本人の性質をそのまま反映するように殺風景だった。

 

「お茶いる?」

「いらない」

 

 マーズは早く自分の部屋に戻りたかった。

 

「あなたに最初に言いたいこと、アカギリーダーを放っておくとこの世界が消えてなくなってしまうということ」

「……」

 

 マーズはおかしなものを見るような目をした。

 

「アカギリーダーを止めなければならない」

「隕石でも落ちてくるって言いたいの?」

「それに近いこと」

「はー、そんなことあるわけないでしょ。あんたがそんなおかしなものを信じるやつとは思わなかったわ」

「これは真面目な話」

「じゃあ止めりゃいいじゃないの。私に言わなくったってリーダーに直接言えばいいでしょ。隕石が落ちてくるって」

「私の言葉は届かないから」

「なんでよ、あんた、第一幹部じゃないの」

 

 ジュピターはしばらく間を置いてから言った。

 

「私がアカギリーダーの心を壊してしまったから、私の声は届かない」

「は?」

 

 マーズには言っていることの意味がわからなかった。

 

「あなたがまだここに来る前の話を少しだけ聞いてほしい」

 

 □□□

 

 マーズがギンガ団にやってきたのは最近のことであり、ギンガ団はそれなりに長い歴史を持っている。

 ギンガ団設立の経緯には一波乱あった。

 

 アカギはもともとシルフカンパニーで働くエリートだった。

 アカギは宇宙開発を任されており、世界で初めて宇宙に飛び立ったコロンビア号の開発にも携わっていた。

 ところが、ロケット団が暗躍する中で、シルフカンパニーの中で内部分裂が起こるようになっていった。

 研究者の中からロケット団側に背信する者が数多く出た。

 

 アカギは正義心が強かったので、ロケット団には媚びなかった。

 当時ロケット団のボスであったサカキはアカギの才能を見抜いていて、アカギに悪魔の話を持ち掛けた。

 

「なあ、うちに来ないか? 宇宙利権を勝ち取るためには君の力がどうしても必要なんだ」

 

 サカキは殊勝な顔をしてアカギに話を持ち掛けた。当時のアカギはまだ29歳と若かった。

 

「やり方が気に入らないな。薄給研究者らに金を掴ませて買収するって手口には反吐が出る」

「若いな。我々がやっていることは正当な経済行為だ。薄給で苦しむ研究者に救いの手を差し伸べたんだ」

「ふん、その軍資金はポケモンの密売で手に入れたもんだろうが」

 

 アカギは徹底的にロケット団と対立した。

 

「聞け、うちの部下には指一本触れさせねえ」

「くくく、それはそれは。部下思いで素晴らしいですな。しかし、あんたの部下はあんたのことをどう思っているかな?」

「どういうことだ?」

「人の心なんてお金で買える。まあ、君もその現実を目の当たりにすることになるよ。そのときにまた会おう」

 

 サカキはそう言うと、会議室を後にした。

 

 このころのアカギは部下思いのまっすぐな上司だった。

 自分の部下のことを信頼しており、決して自分のことを裏切るはずがないと考えていた。

 

 その当時、新人としてシルフカンパニーにやってきたのがジュピターだった。

 ジュピターは名門大学を出たエリートで、そのままキャリアを活かして、アカギのもとで働くようになった。

 

「ジュピター、お前はなかなか優秀と聞いているぞ」

「まだ右も左もわからないふつつか者ですが、色々と勉強させてください」

 

 ジュピターはそう言ってにこりと微笑んだ。いまはもう失ってしまった笑顔をこのころのジュピターはまだ持っていた。

 

 ジュピターは優秀であり、当時研究していた新型観測機の開発において、重要なアイデアを次々ともたらした。

 新人にして、ビッグプロジェクトになくてはならない存在となった。

 

「このプロジェクトがうまくいけば、月の様子を鮮明に捉えることができるかもしれない」

 

 アカギはこのプロジェクトに誰よりも強い野心を抱いていた。

 

「おれは月の石がなぜピッピやニドランの力を増幅させるのかずっと疑問に持っていてな。月を観測することができればわかるかもしれない。おれの予想では月にピッピやニドランが住んでいる」

「月にですか?」

 

 ジュピターもまたアカギの野望を聞くのが好きだった。

 

「間違いない。それを確かめるのはおれの夢なんだ。ジュピター、お前のおかげでうまくいくかもしれん。もうひと頑張りだ。おれについてきてくれるか?」

「もちろん。私も見てみたい、月を飛び回るピッピの姿」

 

 だが、この野望は打ち砕かれる。

 アカギのチームが開発途中だった観測機が完成するか否かというとき、ロケット弾がクーデターを起こした。

 シルフカンパニーはロケット団に占拠され、アカギが管理していた工場もロケット団の配下に置かれることになった。

 

「アカギ、あんたのことはボスから聞いてるぜ。優秀な研究者なんだってな。ひっひっひ」

 

 アカギのチームを拉致したのは、ロケット団幹部のラムダ率いるチームだった。

 

「頼む、やめてくれ。このプロジェクトはおれの悲願なんだ」

「まあ聞け、おれは別に工場をぶっ壊すように命令されてるわけじゃねえ」

「何が狙いだ?」

「おれはな、金にしか興味ねえんだよ。わかるだろ。あんたは金になる。だからロケット団に来い」

 

 ロケット団の狙いはアカギの才能であった。

 しかし、正義心の強いアカギはそれに反抗した。

 

「馬鹿な。お前たちのような犯罪者に従うわけがないだろう」

「なんて純情なやつだ。それでもこれから30歳になろうって大人か?」

 

 ラムダはにやにやと笑った。

 

「素直になれよ。おれの部下になればいくらでも金はくれてやるぜ」

「断る。おれは貴様らのような犯罪者には屈しない」

「はー、こいつは重病な熱血野郎だな。まあいい、おい」

 

 ラムダは振り返って自分の部下に何かを示唆した。

 

「この熱血野郎に現実ってやつを教えてやれ」

「ははっ」

 

 部下は指示を受けて、ある人物を4人連れてきた。

 その4人とは、アカギと共にやってきた優秀な研究者たちだった。

 アカギが信頼する部下であり、当然このプロジェクトに欠かすことのできない人員である。

 

「お前ら……」

「悪いな、アカギ。ロケット団が3倍の金を出してくれるってよ。だから、ロケット団につくことにした。だからさ、アカギもロケット団に来い」

「お前ら……何を考えている。こいつらはマフィアだぞ」

「でもな、アカギ。シルフカンパニーからするとおれたちは不採算グループ。このままじゃジリ貧だ。だから、アカギ。おれたちでシルフカンパニーを裏切ろうぜ」

 

 部下はすでに正義の心を失っており、ロケット団の色に染まっていた。白衣を身にまとっていてもその色は黒く汚れているように見えた。

 

「アカギ、どうする? お前の部下はおれたちにつくってよ」

「お前ら……」

「結局、世の中金だ。てめえら薄給の研究者はみな5万ドルでビンタするだけですぐに願える。ひっひっひ」

「貴様!」

 

 アカギは大きな怒りを覚えた。アカギは手首を縛られているが、その縄がはちきれそうなほどに大きな力が加わった。

 

「無駄よ。あんたの立派な部下はプロジェクトの機密情報はすべて吐いてくれた。この工場もロケット団の名義になる。おれに従わないってんならあんたはクビだ。ひっひっひ」

 

 アカギは怒りに身を任せようとしたが身動きを取ることはできなかった。ラムダを殴り飛ばしたいが、いまは手も足も出なかった。

 

 しかし、そこへ状況を一変させる介入者が現れた。

 

「うわっ!」

 

 ラムダの部下が突然、ブニャットに襲われた。

 

「何事だ?」

 

 狼狽するラムダの前に現れたのはスリーパーだった。

 スリーパーはさいみんじゅつによってラムダを眠りに落とした。

 

「アカギリーダー!」

 

 工場にやってきたのはジュピターだった。

 ジュピターはこの日、タマムシシティに出かけており、ロケット団の襲撃から身を逃れていた。

 ロケット団のクーデターを聞きつけて駆けつけてくれたようだった。

 

「くっ……」

 

 先ほどまでアカギの部下であった研究者たちはそそくさと工場を後にした。

 

「アカギリーダー、大丈夫ですか? すぐに逃げましょう」

「……お前はおれを助けるのか?」

「え?」

「いや……」

 

 アカギは部下に猜疑心を覚えずにはいられなくなっていた。しかし、ジュピターは心からアカギを信頼していた。

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