ロケット団事件のあと、アカギはジュピターと共にシルフカンパニーを出た。
それでも、アカギらの才能を評価するスポンサーがいくつかあって、資金援助を受けることができ、シルフカンパニーからシンオウ地方にある宇宙科学事業を買収することができた。
アカギはギンガ団として再起することにした。
古巣の優秀な研究者はいなくなってしまったが、ジュピターだけはついてきてくれた。
「いいのか、ジュピター。こんなベンチャー企業についてきて」
「ええ、私はアカギリーダーと共に夢を叶えたいのです」
「悪いな、またお前の力を借りることになる」
多くのものが失われてしまったが、まだ夢は途絶えていなかった。
アカギはジュピターと共にギンガ団で背一杯の努力をした。
しかしなかなかうまくいかなかった。2度の打ち上げ失敗。打ち上げ失敗のたびに、アカギは大きなため息をついた。
「やはりダメか」
「顔を上げてください、アカギリーダー。まだチャンスはあります。少しずつですが成功に近づいています」
ジュピターは優秀な科学者であると同時に、アカギの心の支えでもあった。
アカギが顔を上げることができたのもジュピターのおかげだった。
ジュピターの支えもあり、ギンガ団は有力な技術を数多く世に送り出した。
ロケットの打ち上げは失敗しても、技術が評価されて、会社のほうは黒字が続き、経営状況も安定した。
仲間も増え、スポンサーからの資金援助も十分。ロケット打ち上げ成功に向けて機運が高まっていた。
しかしこの輝かしいギンガ団の背景には、ジュピターとアカギの強いきずながあった。
そのきずなが二人を特別な関係にしていた。
アカギにとって、ジュピターは優秀な部下としてでなく、心の大黒柱として欠かすことができなくなっていた。
ある日、ジュピターはアカギに呼び出された。
深夜を回っていたので、緊急事かと思い、ジュピターはアカギのもとに急いだ。
「アカギリーダー、こんな時間にどうかしたのですか?」
「すまない、ジュピター。恐ろしい夢を見たんだ」
「夢ですか?」
「まるでダークライの悪夢のようだ。あまりに恐ろしくて体が震えてしかたなかったんだ。しかし、君が来てくれると震えが治まったようだ」
「それは良かったです。大丈夫です、アカギリーダー、次の打ち上げはきっとうまくいきます」
「いや、うまくいかないかもしれない」
「どうしてですか?」
「夢に出て来たんだ。君が私を裏切る瞬間を。かつての仲間のように私から遠ざかっていくところを」
「……私がリーダーを裏切るなんてそんなことあるはずがないですよ」
「しかし、あの夢はリアルだった。ダメだ、私はどうしても明日を迎える勇気がない。私は孤独になってしまうんだ」
アカギはかつて仲間に裏切られたことがトラウマになっていて、定期的に神経障害をこじらせた。医者にかかっていたこともあったが、精神安定剤では抑えられないほどに症状がひどくなることもあった。
そんなとき、ジュピターが特効薬になった。
ジュピターはアカギを優しく抱きしめた。
「わかりました。では、リーダーのもとにずっといます。あなたのそばにずっと」
「ジュピター……」
二人は一夜を共にした。
数日後、ジュピターの支えもあり、アカギは落ち着いた状態でロケットの打ち上げ日を迎えることができた。
その日、多くのマスコミが打ち上げ場に集まっていた。
今回、ギンガ団が打ち上げるロケットは世界的に注目されている。
これまでにない構造で造られたものであり、世界中のメディアが報道した。
メディアの取材に応えるため、ジュピ、ターはテレビカメラの前に立った。
こんなに注目された経験はなかったが、ジュピターは懸命に質問に応えていった。
マスコミのカメラが注目する中、打ち上げの時を迎えた。
ギンガ団にとっては社運をかける打ち上げである。今回の新構造ロケットの打ち上げが成功すれば、ロケットの革命が起きる。
ギンガ団はその先駆者として莫大な利益をあげることができる。
カウントダウンと同時にロケットは打ち上げられた。
結果は成功。
ロケットが華々しく飛び立っていく姿はマスメディアを通じて世界中に届けられた。
アカギの長年の夢もついに叶うことになった。
打ち上げ成功の瞬間、アカギもガッツポーズをして喜んだ。ジュピターも涙を目に溜めて喜んだ。
「やりましたね、リーダー」
「ああ、すべては君がこれまで私を支えてくれたからだ。本当にありがとう」
ギンガ団はこうして1つのハッピーエンドを迎えた。
しかし、ここから二人のきずなに亀裂が走る事件が発生し、ギンガ団は転落に向かうことになる。
ロケット打ち上げ成功後、ギンガ団には電話が殺到した。
一緒に仕事がしたいという会社が世界中からギンガ団に集まり、嬉しい悲鳴状態が続く。
そのことは良かったのだが、この知名度が、ジュピターに不穏な影を落とすことになる。
ジュピターは忙しい仕事からようやく解放されると、夜遅くに借りているマンションに戻ってきた。
「疲れた……でも、ギンガ団にとってはいいことね」
ジュピターは忙しい中でもそつなく仕事をこなし、ずっと夜遅くまで働き続けていた。
今日、ジュピターの部屋の前に一人の男が立っていた。
「やっと帰ってきたか。久しぶりだな」
雑にハンサムな男はにやにやと笑いながらジュピターに近づいた。
「あなたは……」
「覚えてくれていたか。そうだ、おれだ」
「……」
ジュピターの表情が険しくなった。
この男は、ジュピターの学生時代の元交際相手だった。
1年以上交際していたが、男が浮気をしたことで仲がこじれ、それからジュピターは二度とこの男と関わらないようにと誓った。
「そんな顔するなよ、裸を知る仲だろ」
「すぐに帰ってください」
「なんて冷たいことを言うんだ。しばらく泊めてくれねえか、仕事がクビになって金がねえんだ」
「馬鹿じゃないの。早く帰って、警察呼ぶわよ」
「だから、わかってくれ。あれは誤解なんだ。おれは今までもずっとお前のことを愛している。な、よりを戻そうぜ」
この男はジュピターがメディアに取り上げられたことで、ジュピターのひもになろうとやってきた。
ジュピターにそんな気はない。だから、ジュピターはためらいなく警察に電話をしようとした。
「お前!」
男は狼狽して、ジュピターにつっかかった。
「何するの、触らないで!」
「だからおれの話を聞けって」
「触らないで!」
ジュピターは必死に抵抗したが、男の力は強く、やがて男はジュピターを押し倒して抑えつける形になった。
その現場を見られてはいけない人物に見られることになる。
アカギはジュピターに会うためにマンションを訪れていた。
そのアカギはジュピターが男といるシーンを目の当たりにすることとなる。
それは、かつてアカギが見た悪夢のそれと同じ光景だった。
誤解である。
しかし、大きなトラウマを抱えているアカギにはその光景は心を壊すに十分な衝撃となった。