ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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12話 シロナ編

 ジュピターが男に襲われているシーンを目撃したアカギはジュピターが自分のことを裏切ったのだと強く思い込むようになった。

 もちろん、ジュピターは何度も弁明した。

 

「リーダー、あれは誤解です。私が愛しているのはあなただけ。本当にあなただけを愛しているの」

 

 ジュピターは涙声でアカギの背中に訴えた。本心だった。ジュピターは真心をアカギに伝えた。

 しかし、その声はもうアカギには届かなかった。

 アカギはこうつぶやくように言った。

 

「すまない、ジュピター。私は君の心を独占しようとしてしまった。反省している。多くは望まない。ほんの少しでいい。力になってくれ」

「……」

「ありがとう、ジュピター。君は私にとっての天使だ」

 

 アカギはジュピターに一度も顔を合わせることがなくなった。それでも、まやかしの中にいるジュピターに語り掛け続けていた、

 

「君のおかげで私は生きていられる。ありがとう」

「アカギリーダー……お願い、戻ってきて。お願いだから……」

 

 しかし、アカギが闇の世界から戻ってくることはなかった。

 

 アカギが壊れると、ジュピターも壊れた。

 ジュピターの前に再度現れた例の男は執拗にジュピターに迫った。

 

「なあ、いい加減よりを戻そうぜ。本当はお前もおれを愛しているんだろ」

「……」

 

 ジュピターの目は悪魔にとりつかれていた。

 

「あなたさえいなければ……」

「あ?」

「死ね、死んでしまえ!」

「お、おい!」

 

 ジュピターが振るったものは刃物。繰り出したポケモンはブラッキー。いずれも殺意に満ちていた。

 

「や、やめろ! おれが悪かった」

 

 しかし、ジュピターの心はすでに壊れており、自制することはできなかった。

 ジュピターは殺人未遂で実刑1年。

 

 ギンガ団の要だったアカギとジュピターがいなくなると、ギンガ団は荒廃。

 シルフカンパニーがアローラ国際宇宙研究所とタッグを組んだ新しいロケットが打ちあがると、ギンガ団の技術は見捨てられ、スポンサーも離れていった。

 

 □□□

 

 翌日、マーズはシロナが利用しているポケモン練習場を訪れた。

 ジュピターは釘を刺されていたが、マーズは無視した。

 

 アカギに認められて上機嫌のマーズはにこにこ顔でシロナの前にやってきた。

 

「ありがと。おかげで人生が楽しくなったわ」

「それは何よりです」

「ちゃんと恩返しするわ。とりあえず、奴隷期間1週間延長してあげる」

 

 それはつまりさらに手柄を横取りするということなのだろう。

 しかし、マーズの笑顔に釘をさすのは気が引けたので、シロナは受け入れることにした。

 

「私、決めた。トレーナーになるわ」

 

 勢いづいたマーズはそう宣言すると、シロナの練習場で練習するようになった。

 もともと、シロナが良い練習環境を用意するために作ったのだが、あらゆるシロナの産物はマーズに浸食されていった。

 同時に、新世界の扉を開くために必要な最後のポケモン「ユクシー」を見つける解読についても、マーズはいいところを取ろうと虎視眈々と目を光らせた。

 

 シロナが解読にいそしむ中、マーズは漫画を読んでいるだけだった。

 さすがに、シロナはマーズに釘を刺すことにした。

 

「あなた、それで給料をもらっているんですか?」

「そうよ、結果出してるからね」

「……」

 

 マーズに悪びれるそぶりはなかった。

 

「安心しなさいよ。ちゃんと感謝はしてるから」

 

 感謝の気持ちですべてがまかり通るあたりまだまだ子供だと思った。

 

「で、なんかわかった? ユクシーの居場所」

「エイチ湖にいると思います」

「それは私もわかるわよ」

「エイチ湖の記録はほとんどありませんから現場に行って確かめるしかないでしょう」

「じゃあ、さっそく行くわよ」

 

 なぜか、マーズが仕切った。

 

 エイチ湖は寒冷地にあり、夏場を除いては雪が積もっていることが多い。

 夏場でも気温は上がりづらく、半そでだと肌寒さを覚えることがあった。年中冷たい風が吹き抜けてくる。

 観光地としての知名度は十分だが、考古学者にとってはエイチ湖にまつわる古文書がないこともあり、あまり知られていない。

 ユクシーが封印されたと言われているが、手掛かりはほとんどなかった。

 

 手掛かりがないときはほとんど手当たり次第に歩き回るしかない。

 しかし、何も見つかることもなく1時間が経過した。

 マーズも退屈し始めた。

 

「お弁当買ってくるわ。あんたの分も買ってきてあげるわ」

「お願いします」

 

 マーズはとぼとぼとエイチ湖のほとりにある弁当屋まで歩いて行った。

 マーズと交代するようにして現れる人物があった。

 タイミングとしては、マーズがシロナのもとから離れるのを見計らっていたとしか思えなかった。

 

 ジュピターはシロナの目の前にやってくると小さく会釈した。

 

「うちのマーズが世話になっているようですね」

「あなたは?」

 

 マーズのことを知っているということは、ギンガ団の者と見て間違いなさそうだが、シロナは警戒した。

 

「アカギリーダーの妻のジュピターです」

「……!」

 

 驚かずにはいられなかった。

 アカギのことを詳しく知っているわけではなかったが、配偶者がいるというのは想像もしていなかった。

 ジュピターとアカギは結婚しているわけではないが、ジュピターは嘘を匂わせないほど感情を表に出さなかった。

 

「あなたが何をしようとしているかはわかっています。アカギリーダーに近づくのはやめていただけますか? それとマーズとも縁を切ってください」

 

 ジュピターは淡々と言いたいことを言った。

 本来なら、「わかりました」と言って引き下がらなければならないが、素直に引き下がれなかった。

 

「お願いしますよ」

 

 ジュピターは多くはしゃべらず、それだけ言うとそのままそそくさと立ち去って行った。

 入れ替わるようにマーズが戻ってきた。

 

「なにぼーっとしてんの?」

「……」

「なによ、気が抜けたみたいに」

 

 シロナはしばらくエイチ湖の水面を見つめていた。

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