ジュピターから釘を刺されたシロナだったが、この道を引き返すことはすでにできなかった。
たとえ、アカギに配偶者がいたとしても、それを理由に身を引くことは考えられなかった。
シロナは禁断の道に足を踏み入れた。
アカギのために、ユクシーを見つける。それ以外に考えられなかった。
とはいえ、ユクシーの情報はほとんどなく、このままではエイチ湖をくまなく探すぐらいしか方法がない。
「わかったわ。じゃあ、私がくまなく探してあげるわ。こうなったら総力戦ね」
策のないマーズはそう意気込んでエイチ湖を探し始めたようである。
そんな矢先、シロナの練習場にゴヨウがやってきた。
ゴヨウはシロナのライバルの一人でもあり、普段はあまり交流がないが、リーグ戦が近づいてくると出稽古にやってくることがあった。
ゴヨウはエスパー専門家の中でもトップクラスの実力があり、シロナとは公式戦で38回の対戦があり、シロナの22勝16敗と拮抗している。
ゴヨウはシロナと9戦、ナタネと9戦、マーズとも5戦を交えた。
「つよっ、全然歯が立たないわ」
マーズは5戦とも完敗。シロナに6勝、ナタネに7勝とゴヨウはイッシュリーグ戦に向けて好調に仕上がっていた。
シロナはこの時期になってもいまいち調子が上がってこなかった。
対ゴヨウでも3勝しかできず、対ナタネでも五分五分の成績だった。
対戦後、ゴヨウはシロナに1冊の本を紹介した。
「実はシロナさんに解読をお願いしたい本があるのです」
ゴヨウは丁寧にそう言うと、1冊の古びた本を取り出した。
「汚い本で申し訳ないのですが」
「いえ」
「叔父から授かったものですが、古代文字が使用されていてまったく読むことができません。シロナさんならば読めるかもしれないと思いお持ちしたのです」
「この文字は……」
シロナはその本を読むことができた。シロナが解読した古代文字の1つと同じものだった。
「しばらくお借りしてもよろしいですか?」
「お願いします」
ゴヨウはシロナに古文書を預けた。
ゴヨウから借りた古文書はシロナにとって目からウロコの内容が刻まれていた。
それはほとんど記録に残っていなかったユクシーに対する内容が描かれていた。
シロナは徹夜で古文書を解読し、ユクシーの居場所の目星をつけた。
翌日、シロナはさっそくユクシーを求めてエイチ湖にやってきた。
当然のごとく、助手がついてくる。
マーズはユクシーの手柄を獲得するべくシロナについてきた。
「なんかわかったの?」
「それを確かめに行くのです」
シロナはエイチ湖にやってくると、ジッと太陽を見つめた。
「なにやってんの?」
「太陽を見ています」
「いやだから、なんでそんなまぶしい思いをしてるのよ」
「目の保養です」
「はあ?」
シロナは歩いては太陽を見上げを繰り返しながら、エイチ湖を一周した。
マーズもそのたびに太陽を見上げたので、目がチカチカするようになった。
やがて、シロナはある場所で足を止めた。
「14時29分……」
時計を確認する。
「3時のおやつが近いわね」
「14時29分の位置がここ……」
シロナはエイチ湖を見渡しながら、頭の中でいくつかの計算をした。
「16n+12……」
「はあ?」
「あそこですね」
シロナはエイチ湖のある点を見つめた。
「さっぱりわからないけどあそこになにかあんの?」
「少し確かめてみましょう。潜る必要もあるかもしれません」
「どうすんのよ?」
シロナはモンスターボールからラプラスを繰り出した。
水辺を渡るうえで最も利便性が高いのがラプラスということで、シロナは水道移動に特化したラプラスを育てていた。
シロナとマーズを乗せたラプラスはゆっくりとエイチ湖を進んだ。
「いいわね、私もラプラスがほしいわ」
「買えばいいでしょう。いまは安価で出回っていますよ」
「200万以上もするじゃないの。管理も大変だと聞くし」
「それをするのがポケモントレーナーの仕事です」
「はいはい、どーせ私は未熟なトレーナーよ」
ラプラスは目的の場所に到達した。
ここからは水底を調べる必要がある。
シロナは水底を調べるためのポケモンもしっかり取り揃えていた。
シロナはサクラビスを繰り出すと水底に潜らせた。小さな穴の中にも入って行ってくれる便利屋でもある。
「このあたりは昔青魚がよく獲れたそうです」
「へー」
「昔の漁師はポケモンと一緒にこのあたりに潜っていたようです」
「へー」
マーズは退屈そうに待っていた。
1時間ほどすると、海底に潜っていたサクラビスが浮上してきた。
サクラビスは水生ぼんぐりを1つくわえて現れた。
「なんか持って来たわよ」
「水生ぼんぐりですね」
水の中で繁殖する水生ぼんぐりは水生ポケモンがねぐらとして利用するが、陸上ポケモンを水生ぼんぐりに入れて水中に隠すために利用されることもある。
かつて、このあたりで暗躍していた忍者は水生ぼんぐりに封印したリザードンを川に流して、ポケモンを敵地に送り込んでいたと言われている。
「まさかユクシーが?」
「確かめてみましょう」
「私が確かめる。私が。こういうのは奴隷の仕事でしょ」
マーズは例によって手柄を横取りしようとした。
「どうぞ」
「オッケー。開けるわ」
マーズは興味津々にぼんぐりを破って中身を取り出した。
中から出てきたのは眠りについた一体の妖精。
それはユクシーと見て間違いなかった。
「これ、ユクシーよね? ね?」
「そのはずですね」
「じゃあ、全部そろったわ。ねえ、これもらっていいわよね? ね?」
「どうぞ」
取られることはわかっていたので、シロナは即答した。
「これで全部そろった。リーダーの夢が叶ったわ。やったやった」
マーズはこれ以上ないほど喜んだ。
伝説が正しければ、槍の柱にて新世界の扉が開くことになる。
アカギと出会ってから盲目的に新世界を目指してきたが、この時、シロナは畏怖の念を抱いた。
自分がやってきたことが間違っていたのではないか。その気持ちを拭い去ることができなくなった。