ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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第16話 シロナ編

 シロナとジュピターが槍の柱にたどり着いたころには、周辺は静けさに包まれていた。

 力を使い果たしたのか、アグノム、ユクシー、エムリットは地面に落ちてウトウトと眠っていた。

 

 シロナは槍の柱にたたずむエムリットを抱え上げてあたりを見渡した。

 アカギとマーズの姿は見当たらない。

 

「何があったのでしょうか?」

 

 シロナはエムリットの頭なでた。

 

「あなた、何か知っていますか?」

 

 シロナはエムリットに問いかけた。

 目を覚ましたエムリットはゆらゆらと空中を漂い、ユクシーとアグノムを起こして回った。

 

「二人は別の世界に向かったと見て間違いないわ、この子たちの仕業ね」

 

 ジュピターはエムリットに質問した。

 

「あなた、二人をどこに連れて行ったの?」

 

 エムリットは人間には理解できない言語で話した。

 ジュピターはわかったように2度うなずいた。

 

「二人のもとに連れて行ってくれるかしら?」

「……」

「私の声は届かないかもしれない。けれど、私にはリーダーを助け出す使命がある。だから連れて行って」

 

 ジュピターの思いに感化されたのか、エムリットはゆっくりとジュピターの肩の上に移動した。

 

「ありがとう、連れて行ってくれるのね?」

 

 エムリットはうなずくと、今一度力を集中させた。

 アカギとマーズを新世界に導いたときと同じ光があたりを包み込んだ。

 

 シロナはその光を見渡した。長い間追い求めた伝説の光景が目の前に広がっていると思うと感慨深かった。

 

「チャンピオン、1つお願いがあるの。聞いてくれる?」

「何でしょうか?」

「すべてが終わったら、これまでのことはなかったことに。すべてを忘れてくれる?」

「……」

 

 シロナはまっすぐジュピターの瞳を見つめた。

 ジュピターの願い、それはアカギのことを忘れてくれというものだった。

 

 アカギとはこの場所で出会った。自分が目指している場所と同じ場所を見ていたアカギに好意を覚え、それを原動力に3体の妖精を見つけ出した。

 シロナにとってアカギは特別な存在だった。その特別におぼれる形でここまでやってきた。

 

 しかし、いま思うと、夢見る少女の恋心と同じだった。

 周りのことが見えなくなって、盲目的にアカギのことを見つめ続けていた。

 その背景に、何があるのか見えていなかった。

 ジュピターがいて、マーズがいて、アカギの人生は成り立っているが、シロナは何も見ていなかった。

 シロナは愚かな恋だったと悟ることができた。いまは冷静に世界を見つめることができた。

 

 シロナはうなずいて答えた。

 

「約束します」

「ありがとう」

「あなたがあの人を助けてあげてください」

 

 シロナはそう言うと、これまで見ていた夢のすべてを振り切った。

 同時に、まばゆい光がシロナとジュピターを新世界へといざなった。

 

 □□□

 

 アカギを守るために、マーズはパルキアとディアルガと対峙したが、二体の圧倒的なパワーの前にはマーズのポケモンは歯が立たなかった。

 マーズのブニャットを念力でたたきつけると、身動き一つさせなかった。

 このままでは、この2体に殺されてしまうかもしれない。

 

 マーズはアカギのほうに振り返って言った。

 

「リーダー、逃げましょう。こいつら、私たちを追い出そうとしているみたいです」

「どけっ!」

 

 アカギはマーズを振り払うと、パルキア、ディアルガの前に出た。

 

「聞け、おれが神だ。この世界はおれが支配するのだ。おれに従うのだ」

 

 アカギはそのように命令したが、パルキアとディアルガがアカギを新世界の神とは認めなかった。

 ディアルガが咆哮を上げると、アカギは何メートルも後ろに吹き飛ばされた。

 

「ぐ……」

「リーダー!」

 

 マーズはアカギのもとに駆け寄った。

 

「逃げましょう。このままじゃ、私たち殺されちゃう」

「そこをどけ……この世界の神はおれだ……」

 

 アカギはあくまでもこの世界にこだわった。もうかつての世界に引き返す意思は持ち合わせていなかった。

 

「おれが神ということを分からせねばならぬようだ」

 

 アカギはパルキアとディアルガを従わせるために、相棒のマニューラを繰り出した。

 アカギもポケモントレーナーの心得がある。マニューラの扱いには自信があった。

 

 しかし、マニューラの攻撃はパルキアとディアルガには通じなかった。

 マニューラが2体の懐に潜り込むや否や、パルキアは高エネルギーの波動を発生させて、マニューラをたたきつけた。

 

「これがパルキアとディアルガの力か……神をも脅かす力か……」

 

 アカギはその力に慄きつつも、その力に惹かれるように歩き出した。

 

「リーダー、ダメです」

 

 マーズの声はもはやアカギには届かなかった。

 アカギはパルキアとディアルガに向けてゆらゆらと歩を進めた。

 

 ディアルガはそのアカギに狙いをつけて、エネルギーを溜めた。

 しかし、アカギは自らの力に近づいて行った。

 

 ディアルガの攻撃。

 すさまじいエネルギーがアカギに向かった。

 

 アカギはそのエネルギーを無防備に迎え入れた。

 

「アカギリーダー!」

 

 マーズの叫びもむなしく、ディアルガの放ったエネルギーが炸裂した。

 エネルギーの余波がマーズのもとにも吹きかけてきた。

 

「……」

 

 アカギの安否を確認しようとするマーズの視線には大きなたくましいポケモンの背中が見えた。

 そのポケモンはアカギのを守るように立っていた。

 

「ガブリアス……ということは?」

 

 マーズが振り返ると、そこにはシロナの姿があった。

 シロナはポケモンバトルに集中しているときと同じ鋭い視線を前方に向けていた。

 

「シロナ」

「驚きました。あれがパルキアとディアルガ」

 

 シロナは目の前に現れた伝説をしっかりと見据えた。

 ずっとこの伝説を追い求めてシロナは考古学の研究を続けてきた。

 それを目の当たりにした感動はあったが、パルキアもディアルガも敵対の態度を明確に示していた。

 

 ここは人間の入り込む世界ではない。

 パルキアとディアルガはそのように警告していた。

 

「私が何とか食い止めます。その間に二人を助けてあげてください」

「わかったわ」

 

 ジュピターはうなずいた。

 とはいえ、この世界、入り込んだはいいもののあたりは闇に包まれていて、どこからもとの世界に戻れるかは皆目わからない。

 何より、パルキアとディアルガは不純物を排除するために、攻撃行動を続けてきた。

 

 パルキアが咆哮をあげると大きなエネルギー波動が生み出された。

 シロナはシンオウチャンピオンを長く防衛しているが、このような攻撃を見るのは初めてだった。

 

 シロナは瞬時に波動の速度と方向を見抜いた。

 モンスターボールはトレーナーの心の内をポケモンに伝える力がある。

 シロナの考えを受け取ったガブリアスは紙一重にパルキアの攻撃をかわすと、鋭いステップでパルキアに接近した。

 

 ガブリアスの一撃がパルキアを襲った。

 マーズのブニャットもアカギのマニューラもパルキアには何のダメージも与えることができなかったが、ガブリアスの一撃はパルキアを後退させた。

 

「早くいまのうちに逃げてください」

 

 シロナはそう言ったが、アカギはその言葉を無視してこの世界にとどまろうとした。

 アカギはディアルガの方向に一歩足を踏み出した。

 シロナはそんなアカギの手を取った。

 

「あなたは神にはなれません。人が神になることは不可能です」

「……」

「でも、あなたは誰かの未来を創造する力があります、私もあなたから未来を授かった身。私はあなたと出会ったことに感謝しています」

 

 シロナは最後にアカギに真心を伝えた。アカギがシロナにもたらしたものが夢か現実だったのかはわからない。

 しかし、二人は間違いなく出会った。

 シロナはその出会いに感謝の言葉を示した。

 しかし、その言葉は別れの言葉でもあった。

 

「この夢が覚めたら、きっとあなたはもっと素敵な世界に目覚めることができます。私が請け負います」

 

 シロナはそう言うと、アカギから手を離した。それはアカギにとって目覚めの一歩だった。

 おそらく二人はもう二度とめぐり合うことはないだろう。しかし、お互いに新世界に目覚める。

 今よりずっと素敵な世界に目覚めることができる。

 

 シロナはアカギの前に出ると、パルキアとディアルガにだけ集中した。

 

「私がお相手します」

 

 パルキアとディアルガは新たな標的としてシロナにターゲッティングした。

 

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