無事更新できていると幸いです。
新世界はどこまでも深い闇に満たされていた。
歩けど歩けど、光が見えることはなく、むしろより深い闇に沈んでいくようだった。
しばらくして、アカギは地面に膝をついた。
「アカギ様、大丈夫ですか?」
ジュピターはアカギの背中に手を置いた。アカギの背中が小さく震えているのがわかった。
「おれは新世界でもなお、拒絶されるというのか……この世界でもおれは悪夢の中をさまようことになるというのか」
アカギは頭を抱えて震える声で言った。
現実という悪夢を抜け出しようやく新世界に降り立ったアカギだったが、そこで待っていたのは拒絶だった。
ディアルガ、そしてパルキアは明確にアカギを否定した。この世界で生きることを許してくれなかった。
「……」
マーズは少し離れたところからアカギの崩れ去った後ろ姿を見つめていた。
ちょうど、アカギの姿がマーズのかつての光景と重なった。
「もうダメだ」
そう言って崩れ落ちた父親の姿。
父親はその翌日に、死によってこの世界を旅立った。
アカギの姿はちょうどマーズの父親が死にゆく前に見せた姿と一緒だった。
マーズはその姿から目をそらし、後ろを振り返った。
その先には何も見えない。
振り向くと、そこには崩れ去ったアカギの姿。
新世界は悪夢そのものだった。
心が締め付けられる鬱屈とした世界。
マーズは歯ぎしりをした。
「戻る」
マーズはそう言うと、ここまで歩いてきた道の先を見つめた。
「マーズ、何をする気?」
「ディアルガとかパルキアとか言うやつをぶっ倒す」
マーズはジュピターの質問にそう答えた。
それがアカギを助けることになると思った。もし、それに失敗すれば、アカギは父親の二の舞になってしまうかもしれない。
「それは無茶。やめなさい」
「やめない」
マーズは来た道を引き返すために歩を進めた。
「……」
ジュピターはマーズが闇の先に消えていったのを確認すると、アカギのほうに目を向けた。
「あなたはどうして気づいてくれないの? 私がここにいること」
ジュピターは小さくそのように言ったが、アカギに反応はなかった。
「あなたの目にはやはり私は映っていないのね……私の声も決して届かないのね」
アカギは地面にひれ伏したまま、ぶつぶつと何かをつぶやくばかりだった。
そのとき、ジュピターは背後に何かの気配を感じた。
ジュピターはその気配に背中を向けたまま立ち上がった。
「教えて、私はどうすればいい?」
ジュピターがそうつぶやくと、背後の気配がより強大になり、やがて、その気配はジュピターと対峙するように現れた。
闇から現れたのは影だった。
その不気味な影は闇が持つ影のように、闇よりもずっと深い闇のように思えた。
ジュピターはその影を見つめた。
「どうすれば私の声は聞こえるかしら?」
ジュピターがそう問いかけると、影は迫力のある大きな咆哮を上げた。
ところが、その咆哮にアカギは少しも反応しなかった。
目の前の影は、ジュピターにしか見えないものなのかもしれない。
ジュピターはその咆哮から何かを理解することができた。
「ギラティナ。あなたはギラティナなのね」
ジュピターは目の前の影に問いかけた。
闇はやがてその姿を解放した。
ギラティナ。
それはシンオウ神話に伝わる世界の影。
その影は同じ影にしか認識されないと言い伝えられている。
ジュピターはいまはっきりとギラティナの姿を捉えていた。
「あなたも影なのね」
「……」
「誰にも見てもらえない、聞いてもらえない。ずっと独りぼっち。あなたは寂しくないの?」
ジュピターの問いかけに、ギラティナは咆哮で応えた。
「影は存在の証明……そうね、そのとおりだわ」
ジュピターは視線を落とした。
アカギの姿の先には、赤い影が漂っていた。ギラティナの力なのか、その影は強く強調されていた。
しかし、マーズの姿の先には影は見えなかった。
「私はあなたの存在を証明する影……それが私の使命」
ジュピターは自分が明確に影であることを悟った。
しかし、それは最も重要な存在であることも理解した。
影は光を、万物を証明する。
ジュピターは自分が何をすればいいか理解した。
「ギラティナ、お願い力を貸して。アカギリーダーに光を授けたいの」
ギラティナはジュピターの思いに応えた。
ギラティナは再びその姿を闇に消し去り、そのままジュピターを抱擁した。
ギラティナをまとったジュピターはうなずくと、アカギの背中に両手を置いた。
「大丈夫。あなたは光を得ることができる。前を向いて」
ジュピターの手が輝きだした。
アカギは顔を上げた。
闇に包まれていた新世界の先に光が輝いた。
「あの光は……」
「あの光はあなたの進む道」
「おれの進む道……」
アカギはその光に引き寄せられるように、フラフラと立ち上がった。
「懐かしい光だ……まぎれもなくおれが追い求めていたもの……」
アカギはフラフラと歩き、輝く光に手を伸ばした。
アカギの手が光と重なると、世界の誕生のようなまばゆい光が闇全体に広がった。