ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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20話 シロナ編

 闇の中に輝く一筋の光だけを頼りに前に進んだ。

 その光が救いか絶望かはわからない。それがただ1つの道しるべだった。

 

 目指すべきはあの光しかない。

 それはわかっていたが、アカギはその光を信じ切れなかった。

 

 アカギは足を止めた。

 

「ダメだ……」

「アカギリーダー」

 

 ジュピターは足を止めたアカギの背中に手を置いた。

 

「あと少しです、リーダー」

「怖いんだ」

 

 アカギは目の前の光を見つめた。

 

「あの光もまたおれを拒絶するに違いない。おれはどこへ行ってもこの呪縛から解放されることがないんだ」

 

 アカギはそう言って体を震わせた。

 

「すべての者が私のもとから去っていった。そう、すべてだ」

「……気づいて、リーダー、私の存在に。私はあなたのもとから決していなくならない」

「なぜ、そう言い切れる?」

「私はあなたの影だから。どこまでもあなたについていく」

 

 ジュピターがそう言うと、前方の光がより強くなった。

 その光がアカギの目をくらませた。同時に、その光が自らの影に存在感をもたらした。

 

 アカギは振り返り、そしてそのとき、自らの影の存在に気が付いた。

 

「君は……ジュピター……」

 

 アカギはおそるおそる手を伸ばし、ジュピターの肩に手を置いた。

 

「君は……ずっと私のそばにいてくれたのか?」

 

 ジュピターはうなずいた。

 

「そうか……どうして今まで気づかなかったのか、そうだ……君はずっと私のもとにいてくれたんだ」

 

 アカギはそう言うと、ジュピターの体をゆっくりと抱きしめた。

 アカギの心に灯った光が自分の影の存在を教えてくれたのかもしれない。

 

「さあ、行きましょう、リーダー。新世界に」

「新世界……」

 

 アカギは振り返り、強い光を見つめた。

 そこはかつては見限ったもとの世界。しかし、その世界は新しい輝きに満たされていた。

 

「ジュピター、おれについてきてくれるのか?」

「私はあなたの影だから、必ず」

 

 アカギは力強く右足を前に出した。

 そのとき、アグノムが現れ、アカギを誘導するように遊泳した。

 

 アカギはアグノムを追いかけるように進んだ。

 もう迷いはなかった。

 

 やがて、アカギは光にたどり着いた。

 すると、すべての闇がかき消され、まばゆい光の先に、もとの世界の光景が浮かび上がってきた。

 光がすべて放出されると、夜空だけが輝く静かなテンガン山頂の景色が広がった。

 

 アカギはしばらくその場から夜空を見上げていた。

 その間にいくつかの流れ星が空を横切って行った。

 かつて、自分が夢見た月は満月として空の中でひときわ輝いていた。

 月を見ていると、もう一度その場所を目指したいという気持ちがしだいに強くなってきた。

 

「ギンガ団はこれで解散だ」

 

 アカギは月を見つめたままそう言った。

 

「0から新しい世界を創造したい」

 

 ジュピターはアカギに寄りそうようにもたれかかった。

 

「それがいいと思います。私がお手伝いします」

「本当に何もない無からのスタートだ。本当にそれでいいのか? ジュピター、お前には才能がある。もっと大きな世界に行くことだってできるのだぞ」

「私はあなたの影だから。それに、あなたの創造する世界が一番魅力的」

「ありがとう」

 

 アカギはジュピターの肩を抱き寄せた。

 

 それからしばらくして、マーズも暗闇の世界からこの世界へと戻ってきた。

 何日も歩き続けたような強い疲労感が全身を駆け巡った。

 

「疲れた……長かった」

 

 マーズは戻ってくるなり、しりもちをついた。

 暗闇の中、櫃筋の光だけを目指して歩き続けた。疲労感と同時に達成感もあった。

 もとの世界に戻ってきたという気分ではなかった。新しい世界に足を踏み入れたような新鮮な空気を感じることができた。

 

 アカギはマーズのもとに歩み寄った。

 

「マーズ」

「アカギリーダー! リーダーも無事に戻ってこれたのですね」

 

 マーズは笑みを浮かべて立ち上がった。マーズの表情にはどこか大人びたものが見えた。

 

「すまなかったな、マーズ。おれのエゴでお前にも迷惑をかけてしまった」

「迷惑だなんてまさか」

 

 マーズはアカギのほうにたくましい表情を向けた。

 

「リーダーのおかげでとても大切なことを勉強できました。ありがとうございます」

 

 マーズはそう言うと、ていねいにお辞儀をした。

 

「本来、お前は学生の身。そうだ、大学を紹介しよう。せめてもの償い、おれに世話をさせてくれ」

 

 アカギの提案にマーズは首を横に振った。

 

「リーダー、私、ギンガ団をやめます」

「マーズ」

 

 マーズは懐からモンスターボールを1つ取り出すと、大いなる力を解放した。

 

 現れたのはかつて新世界で敵対したパルキアだった。

 パルキアは圧倒的な存在感ですべての者の視線を集めた。

 

 パルキアはマーズをパートナーとして認めていた。

 

「リーダー、私、ポケモントレーナーになるために旅に出ることにしました。目標はもちろん世界一のトレーナーになること」

「……そうか」

 

 アカギは大人になったマーズの姿を見て、口元を緩めた。

 マーズはパルキアをモンスターボールに収めると、もう一度アカギにおじぎをした。

 そして、最後にもう一度だけアカギを見つめた。おそらくはこれがアカギの最後の姿になるだろう。

 マーズはそのことをわかったうえで、アカギに背中を向けた。

 アカギが視界から消えると、マーズの目には涙が浮かんだ。その涙は恋する少女の弱き思いが混ざっていた。しかし、マーズは強い気持ちでその涙をぬぐった。

 

「私はいつだって誰よりも輝く星でいるわ。だから……」

 

 マーズはその後の言葉を紡ぎ終わる前に駆け出した。

 やがて、マーズの姿はアカギの視界から消えてなくなった。しかし、マーズの輝きが決して消えることはなかった。

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