マーズはテンガン山を下る道中で、夜空を見上げているトレーナーの姿を見つけた。
そのトレーナーはマーズの目標、いまは手を伸ばしても届かない遥か高みの星だった。
「シロナ」
声をかけると、シロナはマーズのほうに顔を向けた。シロナは何も言わず、マーズの次の言葉を待っていた。
「ポケモントレーナーとしてあんたに勝負を仕掛けるわ」
「……」
「と言いたいところだけど、私はまだ地面に這いつくばる駆け出しだからその資格はないわね」
それでも、マーズはシロナにライバルとしての視線を送った。
「でも絶対倒す!」
「……」
「だからさ、私が挑戦するまで絶対にチャンピオンでいなさいよね」
「……」
「絶対よ!」
シロナはうなずいた。
「わかりました。チャンピオンの座にて、あなたの挑戦を待っています」
「オッケー。これでやる気が出たわ」
マーズはそう言うと、旅の第一歩を踏み出した。
駆け足で走り抜けていくマーズの姿は光り輝いていた。
シロナはその姿を見て、原点の自分と出会ったような気がした。
自分の進むべき道が明確に見えた。
シロナは手持ちのポケモンをすべて解放した。
ガブリアス、ミロカロス、ルカリオ、キリキザン、キュウコン、ミミッキュ。
多様なポケモンが並んだが、その中で最も存在感を放っていたのは第6のポケモン――ディアルガだった。
ディアルガは夜空に映るように神々しい姿を解放した。
「険しい道になると思います。ついてきてくれますか?」
シロナの問いかけに、ポケモンたちは迷うことなく肯定の意思表示をした。
「私も覚悟を決めましょう」
シロナはキリキザンに攻撃指令を出した。
対象は自分自身。
キリキザンはシロナめがけて刃を振り下ろした。
闇夜の中にシロナの髪が舞った。
シロナはすべてを振り払うように風に身を任せた。
過去との決別、未来に立ち向かう覚悟。シロナはその覚悟のために夢の中にいた自分を切り捨てた。
目を見開いたシロナは10年前に戻ったかのように笑みを浮かべた。幼さの残るその表情にはたくましさが感じられた。
「行きましょう」
シロナは未来に向けて足を踏み出した。
◇◇◇
シロナはイッシュリーグ戦を前にナナカマドのもとを訪れた。
ナナカマドはシンオウ地方を代表するポケモン博士であり、ポケモンの進化研究の第一人者でもある。
ナナカマドはシロナの原点でもある。ナナカマドからフカマルを授かったところから、トレーナーとしての道が始まった。
新たなるスタートを前に、シロナはどうしてもスタート地点に立ちたかった。
シロナは研究所の中庭で、ナナカマドにこれまでのことを話した。
ディアルガのパートナーとして認められるまでにあったこと。人に話しにくいことだったが、シロナはすべてを話した。
ナナカマドはうなずきながらシロナの話を聞いた。
「そうして、私は伝説と出会いました」
シロナは話し終えると、シロナのパートナーとなったディアルガを解放した。
ナナカマドはディアルガを見上げて、メガネを整えた。
「ディアルガ……なるほど、伝説の通りだ」
「ナナカマド博士、私の夢を聞いていただけますか?」
シロナはディアルガの荘厳な瞳を見つめながら言った。
「私の夢、世界で最も強いトレーナーになること」
シロナは夢を語る少女の趣で夢を語った。
それはトレーナーを目指す誰しもが語る夢と同じシンプルなものだったが、それにはとても深い意味が込められていた。
「私についてきてくれたポケモンたちには強くなってほしいのです。誰よりも強く」
それは険しい道。シロナはその道の険しさをよくわかっていた。
強くなること、それが簡単ではないことをよくわかっていた。
力、それはあらゆる要素の集大成であり、単なる戦闘力とは一線を画す。
しかし、シロナはその力を手に入れる道を歩むことを決断した。
「世界で最も強いトレーナーか。たしかに険しき道。しかし、君ならたどり着くことができるだろう」
ナナカマドは優しくそう言った。
「見ていてください、私の戦いを」
シロナはちょうどポケモントレーナーを目指し旅を出たときと同じ表情で言った。
風は追い風。
シロナはその風を受けて最初の一歩を踏み出した。
シロナ編終わり
次回、ワタル編です。
ワタル編開始までしばらくお待ちください。