ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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3、チームワタル

 ワタルとドラセナは対戦のためにステージ上で向かい合った。

 

 フスベジムには、公式戦で使用するものと同じステージがある。

 公式戦は、縦8m、横24mのステージ内にお互いにポケモンを1体ずつ繰り出して戦う。高さも16mと決められている。

 トレーナーはそのステージの外にあるトレーナーエリアからポケモンにモンスターボールを介して命令を出すことになっている。

 

 勝敗は、ポケモンが指定されたフィールドの外に出てしまうこと、ポケモンボールに累積したダメージ点数が一定値を超えた場合に決する。

 プロ同士の戦いでは、フィールドアウトで勝敗がつくことは珍しく、高火力の攻撃で相手のきゅうしょを狙い、速やかにダメージ点数を増やすことが基本戦術になる。

 

 トレーナーになって最初に覚えることが、各ポケモンのきゅうしょの位置だ。

 きゅうしょを狙うと、通常の約2倍のダメージが累積するので、効率よく攻めることができる。

 うまいトレーナーはこのきゅうしょを撃たせないような試合展開に持っていく。

 

 きゅうしょはポケモン距離が縮まるほど狙われやすいが、言い方を変えると、距離が縮まるほど相手のきゅうしょを狙いやすい。

 ワタルは徹底した接近戦術を取るインファイターとして知られる。

 

 ドラゴンダイブで相手を圧倒して、ゼロ距離からきゅうしょをはかいこうせんを狙うアグレッシブな試合を目指すことが多い。

 

 ワタルにこの戦術を授けたのがドラセナだった。

 ドラセナは過去にカロスチャンピオンに4度輝いた実績がある。

 

 ドラセナはもともとカロスの地で四天王をしていたが、捨て子であったワタルを引き取ってからはフスベシティに渡ってきた。ワタルが自立してからは、再びカロスの地で四天王として復帰した。

 しかし、ワタルが史上最年少の15歳でカントーリーグを制覇すると、再びワタルの練習相手を務めるためフスベシティに戻ってきた。

 

 各地を忙しく転々とするようになったドラセナだが、ドラセナは幼少期からシンオウ地方、アローラ地方、カロス地方、カントー地方、ジョウト地方と渡り歩いていて、むしろ定住するほうが不慣れだった。

 

 ワタルはドラセナと向かい合うと、モンスターボールを取り出して、ワタル最大の相棒であるカイリューを繰り出した。

 ワタルにとって、カイリューは魂の相棒だった。

 

 ワタルはフスベの北方にある氷の抜け穴で凍死寸前の状態で発見された。そのとき、ワタルを守るように寄り添っていたのがミニリュウだった。

 そのミニリュウがいなければ、ワタルの命がなかったとも言われており、まさにミニリュウはワタルの命の恩人だった。

 

 ミニリュウはワタルにとても懐いており、ドラセナのもとワタルと共にすくすくと育ち、現在世界最高のカイリューと言われるようになった。

 

 ワタルはそのカイリューと共に竜の試練を突破し、その後トレーナーデビュー。

 デビューから連勝を続け、33連勝はポケモントレーナーの世界では世界記録となっている。

 

 ワタルは現在、勝率7割8分台を維持しており、これは全トレーナーの中で最高の数字だ。

 15歳でチャンピオンに輝いてから7年。ワタルはカントーリーグ5回、ホウエンリーグ3回、イッシュリーグ3回、カロスリーグ2回、アローラリーグ2回など、世界中のリーグを次々と制覇。

 史上初の同一チャンピオン5つという空前絶後ともいえる記録を打ち立て、世界最強のトレーナーと称されるまでになった。

 

 それだけに、ワタルの実力は圧倒的。

 ドラセナも6割を超える勝率を超える実力者だったが、ワタルはドラセナを圧倒した。

 ドラセナが繰り出したジャラランガは接近戦でめっぽう強く、一般論としては、カイリューは接近戦ではジャラランガには後れを取るということになっている。

 

 しかし、ワタルのカイリューはドラセナのジャラランガを力でねじ伏せてしまった。

 ワタルは公式戦でこれまで11度対戦しているが、1度も負けたことがなかった。

 

 今回の手合いでも、ワタルはドラセナを圧倒した。

 

「ほんとに強くなったわね、ワタル。私の教えることは何もないわ」

 

 ドラセナは完敗を認めた。

 

「だが、この攻撃がシロナには通じなかった。何かが足りないのだ」

 

 ワタルは圧倒的な力で勝利したものの、まだ手ごたえを掴めなかった。

 

 ワタルは勝率7割8分を超える最強のトレーナーだが、もともとシロナには苦戦しており、これまで28度の対戦で11勝17敗と大きく負け越している。

 ワタルに勝ち越しているトレーナーは俗に「ワタルキラー」と呼ばれるが、シロナはワタルキラーの筆頭だった。

 

 世界各地でチャンピオンに輝き続けるワタルだが、これまでにシンオウリーグだけは制覇の経験がない。

 その背景には、シロナが壁として立ちはだかってきた経緯がある。シロナはワタルがデビューする前からシンオウリーグのチャンピオンだったが、現時点までその座を守り続けている。

 シロナはシンオウリーグではめっぽう強く、これまでワタルの3度の挑戦をすべて退けている。

 そのうえで、シロナがディアルガを手に入れてさらに強くなったため、ワタルの天下に乱れが生じるようになった。

 

「ドラセナ、お前はシロナキラーなのだろう。おれに足りないものが何かわからないのか? 師匠が言ったおれにない輝きとはいったいなんだ?」

「そう言われてもねぇ……」

 

 ドラセナはワタルに足りないものを薄々と感じ取っていたが、それを言葉で説明する方法がわからなかった。

 ワタルはシロナに苦戦しているが、ドラセナはそのシロナにはめっぽう強く、過去41度の対戦で26勝15敗とかなり大きく勝ち越している。

 

 ドラセナはカロスリーグでシロナと3度対戦しているが、その大舞台ですべて勝利している。

 

 それだけに、ワタルはドラセナに期待していたが、ドラセナにもワタルに足りない要素はわからなかった。

 ホウエンリーグ戦が始まるまで時間がない。ワタルは焦っていた。

 

「ドラセナ、まさかだとは思うが、おれの前でだけ手加減していないだろうな?」

「まさか、私はそんなことしないよ。いつも全力が私のモットーよ」

「ならば、なぜおれはシロナに勝てないのか」

 

 ドラセナはシロナには強く、シロナはワタルに強く、ワタルはドラセナに強い。三すくみの関係があった。

 ドラセナに強いなら、ドラセナに弱いシロナにも強いのではないかと思えるところだが、結果はまったくそうはならなかった。

 

「そうねえ。精神的な問題かもしれないわね。苦手意識があるからいつもの力が発揮できないのよ。私もそういうことよくあるわ」

「そんな精神論程度のことか?」

 

 ワタルは自分の過去の対戦を振り返った。

 たしかに、対シロナ戦で負けが続くと、いつもより力んでしまっているところがあったかもしれない。

 しかし、ワタルはそういう点以上にシロナから差を感じていた。

 

 この差を埋めなければ、ホウエンリーグでもイッシュリーグの二の舞。ワタルはあと1か月でこの差を埋めなければならなかった。

 

「坊ちゃん、チームメンバーを連れてきましたよ」

 

 そのとき、後援会の会長がチームのメンバーを連れて来た。

 

 チームワタルはワタルが15歳でカントーチャンピオンになったときに結成された。

 

 もともとドラゴン使いは親交が広く、世界中のトレーナーとネットワークを持っている。

 例えば、イッシュ地方にはシャガが会長を務める「ドラゴンライダーズ」があり、ワタルは何度もドラゴンライダーズの中で、シャガの教えを受けた。

 ホウエン地方には、ゲンジが会長を務める「ドラゴン連合」があり、ワタルはそこでも揉まれて実力をつけてきた。

 

 このように、ドラゴン使いはチームを好み、そこで交流を通して実力者を育てていく。

 ドラゴン使いが会派を好むのには理由がある。

 

 一昔前、まだ戦争が繰り広げられていた時代、最も多く戦争に利用されたのが、ドラゴンポケモンだった。

 ドラゴンポケモンは攻撃力と飛行能力ともに優れており、エスパーポケモンと並んで、戦争の主力兵器として利用された。

 戦争が終わり、ポケモンの軍事利用が全面禁止となってからも、ドラゴンポケモンはクーデターなどに利用された。

 

 そこで、ドラゴン使いを相互監視によって管理していこうという風潮が生まれた。

 ドラゴンポケモンを使う者は清い心が必要ということで、会派の多くが人格形成に力を入れた。

 

 ワタルもこうした会派の中で厳しくしつけられた。

 

 そして、ワタルもチームワタルという自分のチームを持つようになった。

 ただ、チームワタルを作ったのはワタルではなくドラセナである。

 

 ドラセナはワタルがトレーナー業に専念できるようにと、ワタルの専用チームを作り、後援会がそれを支援した。

 現在、チームワタルには、スコアラーが5人いて、世界中を飛び回り、対戦相手となるトレーナーの視察を行っている。

 そして、チームワタルには色々なトレーナーが参加している。

 

 現時点でのメンバーは以下。

 

 ワタル

 ドラセナ

 タケシ

 ナツメ

 ヒガナ

 その他8人のドラゴン使い。

 

 ワタルとドラセナの2人から始まったが、ワタルの後輩にあたるタケシや幼馴染のナツメなどが参加して、メンバーもかなり充実した。

 

「ちーっす、ワタル先輩」

 

 独特の笑顔でやてきたタケシはワタルに馴れ馴れしく挨拶した。

 

「いやー、まさか先輩が負けるとは思ってなかったっすよ。でも、シロナさん強かったっすよね。このまま、先輩のチームを脱退して、シロナさんのチームに混ぜてもらおうかななんてね」

「貴様、おれの恩を忘れたのか?」

「冗談っすよ、冗談」

 

 タケシはそう言って陽気に笑った。

 タケシは強くなりたいという理由でチームワタルに弟子入りしてきた少年だった。

 

 当初はドラゴンポケモンを使いたがったが、どうしてもうまく使いこなせない。そこで、ワタルが「岩ポケを使え。そのほうがお前らしい」と助言して、ドラゴンから岩ポケに転向。

 すると、タケシは水を得た魚のように順調に活躍し始め、現在は7つのバッジを獲得。来年にはプロになれそうな勢いだった。

 

「ところでお前だけか?」

「ナツメさんは明日来るって言ってましたよ。ヒガナさん家に遊びに行ってるみたいで」

「ったく、肝心な時に気まぐれなやつめ」

 

 ワタルは拳を握り締めた。

 ナツメはワタルの幼馴染で、イッシュリーグを制覇するほどの実力者である。

 ナツメもまたワタルキラーとして知られ、ナツメがイッシュリーグを制覇したときは、ワタルからその冠を奪取していた。対戦成績は9勝9敗と5分だった。

 ナツメは幼馴染であり、ライバルでもあった。総合的には、ワタルのほうが出世したが、ナツメはワタルにも強いほか、シロナにも互角の成績を上げており、なくてはならない練習相手だった。

 

「坊ちゃん。シロナの分析を担当していたスコアラーのゴトウさんを連れてきましたよ。ともかくこれから対策を立てましょう。対ディアルガが最大の命題でしょうからね」

 

 ひとまず、集まったメンバーでシロナ対策を練ることになった。

 

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