チームワタルには優秀なスコアラーが幾人かついていて、彼らは世界中を駆け巡って、ライバルらのデータを取っていた。
ゴトウは主にシンオウ地方を拠点に、シンオウ地方のトレーナーの分析を行っていた。
「いやはや、なかなか濃密なデータ分析ができましたよ。シロナはリーグ戦後、マスコミの対応に追われていてあまり練習できてない様子でしたが、ホウエンリーグの制覇に向けて秘密裏に練習を始めたようです」
「秘密裏?」
後援会の会長が尋ねた。
「そうです。シロナはマスコミの前で公開練習しないんで、データの取りようがなかったんです」
「ならばどうやってデータを取ってきたんだ? さっきデータ分析ができたと言っていただろ?」
ワタルが尋ねた。
「そこはこのゴトウをなめてもらっては困ります。私はシロナ陣営の関係者に頭を下げ、土下座をし、接待を繰り返し、特別に練習場に入れてもらえたのです。で、じっくりとデータ分析することに成功したわけです」
ゴトウは得意げにそう言った。
「シロナの練習場には、若手がけっこう集まっているみたいですね。イッシュリーグに初めて参加したナタネ、ほかスズナやコゴミなど前途有望な若手を集めて練習しているみたいです」
ゴトウは持ってきていたノートパソコンで練習の一部始終を公開した。
「ディアルガの戦いぶり、このカメラにじっくり収めて来ましたよ。ご覧ください」
チームワタルのメンバー各々は寄り集まってノートパソコンの中を覗き込んだ。
「ロトム仕様のスーパーカメラで60分の1フレーム感覚で静止画を取りました。敵の攻撃パターン、速度、モーションすべて筒抜けです。丸裸にしてやりましょう」
ゴトウはチームワタルをけん引するスコアラーだけあってかゆいところに手が届くようにデータを取っていた。
高いレベルの戦いでは0コンマの判断が求められるが、360分の1秒間隔で敵のモーションをカメラに収めていた。
素人の目にはわかりにくい細かい映像解析だったが、トレーナー経験の長いワタルやドラセナ、タケシはその映像からシロナの実力を推し量っていた。
「いやさすがっすね。反応が早すぎですよ。このシーン、相手のラフレシアがわずかにかがんだだけで、次の行動を完ぺきに予測してディアルガが反応してますよ。うーん、チャンピオンになる日とは芸が細かい」
タケシはそのように解説して腕を組んだ。それからワタルに顔を向けた。
「それに比べてワタル先輩は雑っすね。そりゃ、シロナさんに勝てないのは当然っすよ」
「ちょっと黙ってろ」
ワタルは頭を押さえつけた。
「このように、シロナは昔から緻密な作戦で戦ってきます。ワタルさんのようなパワーで攻めるタイプにとって、緻密なシロナは天敵だと思うのです」
ゴトウがそのように解説をまとめた。
ワタルは目を細めて、パソコン画面に映るディアルガを凝視した。
昔から言われていることだが、パワー型は技巧型に不利である。ワタルはそのハンディを克服して、これまでに技巧型のトレーナーを倒してきたが、シロナはその中でも別格に細かかった。
相手の攻めの急所を咎めて、確実性の高い方法で反撃する。これがシロナの基本戦術だが、それがディアルガの加入により洗練されていた。
ワタルにとって、最大の容易ならざる相手と言えた。
「このディアルガに弱点があるとすれば、攻撃のモーションが大きいことです。ここのフレームをご覧ください」
ゴトウは別にまとめていた動画をスローモーションで再生した。
「これがワタルさんのカイリューを叩き伏せた亜空切断による攻撃です。この攻撃には140フレーム以上のモーションを擁しています。つまり2秒以上も攻撃にかかっているのです。もっとも、そこから繰り出される波動は軌道が読みにくく、4メートルを1フレームで駆け抜けているわけですが」
「すごい攻撃ね。どう対処するのがいいのかしら」
ドラセナは亜空切断の攻撃を見ながら、対処法を思い浮かべた。
「やっぱ接近してガツンと頭を叩くしかないっすね。ワタルさんに緻密な芸当なんてできないでしょ?」
タケシは他人事のように言った。タケシはこう見えても、ワタルの性質をよくわかっていた。
ワタルは図星だったので反論しなかった。
「しかし、亜空切断が高フレーム技だとしても接近のリスクはかなり高いです。隣接で放たれると一撃必殺級の威力があります」
「ならばどうするというのだ?」
ワタルには解決策がわからなかった。
「実際にシミュレーションして確かめるしかないのですが、問題はどこからディアルガを持って来ればいいのでしょうか?」
ゴトウの言った問題はまさに最大の課題だった。
シロナが良く使用するポケモンは、ガブリアス、ミロカロス、ルカリオあたりだが、これらは調達することができる。特にガブリアスに関しては、ドラセナもガブリアスの名手だから、練習することができる。
だが、ディアルガはシロナ以外の誰もが持っていない。ゆえに、練習しようにも、シロナ本人をここに連れてくるほかない。
「誰かシロナさんを連れてきます? シロナさんの美しく華麗な技をぜひ僕に教えてくださいなんつって」
タケシはワタルよりシロナのほうが尊敬しているようだった。
「シロナは絶対よそのチームには参加しませんね。かたくなに自分の土俵にとどまる傾向があります」
ゴトウが言った。シロナはデビュー当時から、他のトレーナーとの交流を避ける傾向が強く、実績が上がっても、自前のチーム内でしか練習はしなかった。
「ならばどうするんだ?」
「一応、ディアルガの亜空切断に近い挙動として、フライゴンの竜の波動があります。フレームレベルと弾道が酷似しています。ひとまず、フライゴンで練習してみては?」
「それなら私が相手してあげられるわ」
ドラセナはドラゴンタイプならたいていのポケモンをトップレベルで使いこなすことができる。ただ、ドラセナがフライゴンを使う機会はほとんどない。
「わかった。ともかくフライゴンで対策だ。ドラセナ、手ごろなフライゴンは持っているか?」
「ゴン太君がいるよ。連れてくるからちょっと待っててね」
そう言うと、ドラセナはポケモンセンターに出かけて行った。ゴン太君。ワタルはドラセナのニックネームの流れをいまだに理解しきれないでいた。
◇◇◇
ひとまず、ドラセナが連れて来たゴン太君がしばらくの練習相手だった。
ワタルはさっそく練習に参加したが、あくまでもディアルガの妥協点であるから、何度練習してもいまいち手ごたえがなかった。それがそのままディアルガに通用するような気があまりしなかった。
そんなこんなでワタルの厳しい練習は夕方まで続いた。
ゴン太君は疲れ果て、その後タケシもイワークやサイドンでワタルの相手を務めたが、みな疲れ果ててしまった。
「いやー、ワタル先輩のポケモンはパワーがダンチだからみんな疲れ果ててしまいますよ」
ワタルのポケモンを相手にするポケモンは大変である。ポケモン界最強ともいえるパワーアタッカーが揃っているワタルのドラゴンポケモンはその一撃が圧倒的に重たい。強固なサイドンも3度の攻撃で根を上げていた。
「そんなことだから、お前は未熟なんだ」
ワタルはそう言ってタケシに喝を入れた。
「おれのパワーに耐え凌げなければ、お前がチャンピオンになる日は永久に来ない」
「相変わらずキビシー」
タケシはそう言いながらもヘラヘラと笑っていた。常に真剣で笑顔など一度も見せないワタルとは正反対だった。
「ワタルのポケモンも疲れてると思うよ。ちゃんと休ませてやらないとだめよ」
「この程度で根を上げていてディアルガに勝てるものか」
ワタルはドラセナの忠告を話半分にしか聞かなかった。常にオーバーワーク気味に戦い続ける。それがワタルの力の源だった。
◇◇◇
本来なら、もう少し遅くまで練習するところだが、ワタルが早めに練習を切り上げたのには理由がある。
今日夕方、師匠から「裏試練」を受けることになっていた。
ワタルはその足で師匠のもとに向かった。
「それじゃあ、私は夕飯の支度して待ってるから。あまり根を詰めちゃ駄目よ」
「ああ」
途中ドラセナと別れて、ワタルは師匠のもとに向かった。