ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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6、竜星の民

 ワタルが師匠から受けた試練は、アイリスをしばらく預かること。

 それはこれまでにない不可解な試練だった。

 

 ワタルはこの試練にどのような心構えで望めば良いのかわからなかった。

 名だたるトレーナーと対戦をするような試練であれば、集中力と闘争心を持って臨めばいい。ワタルもその心構えは慣れ親しんだものだった。

 しかし、アイリスの面倒を見るというのは、これまでにワタルが身に着けたものとは対極にある要素を必要とした。

 

 翌朝、目覚めたアイリスは顔を洗い歯磨きを始めた。アイリスは言い聞かせなくても良くしつけられた少女だった。

 それだけに、ワタルがあれこれ世話を焼く必要もなかった。世話を焼く必要がないということは、試練の意味を見つけ出す糸口もまたないということだった。

 

 その後、ドラセナと3人で朝食。

 ワタルはいつものとおり黙々と食事に専念したが、アイリスとドラセナは出会って間もないにも関わらず、会話が弾むようであった。

 ワタルは昔から世間話が苦手で、無駄口を叩かない性格だった。

 ワタルはもしかしたら、そういうところなのかもしれないと思った。例えば、幼い子供とコミュニケーションを取る能力を問うた試練なのかもしれない。

 

 しかし、ドラセナの真似はできそうもなかった。

 

「ワタル、今日もジムで練習するの?」

「当然だ。ホウエンリーグまで時間がないのだからな」

「でもせっかくアイリスちゃんを預かったんだから、観光に連れて行ってあげたら?」

「そんな時間はない。少しでも多く修行を積まなければならんのだ」

 

 ワタルはドラセナの提案を否定した。

 

「あんまり根を詰めても良くないと思うけどな。アイリスちゃんもどこかに出かけたいよね?」

「いえ、ワタルさんの戦いが見れるなんて光栄ですから」

 

 気を利かせたのか、アイリスは笑顔でそう答えた。

 

「私もポケモントレーナーになるのが夢なのです。おじいちゃんに将来はイッシュリーグのチャンピオンになると約束しました。ワタルさんの戦いから色々と勉強させていただこうと思います」

「そう、アイリスちゃんは勉強熱心なのね」

 

 ドラセナはそう言いながら、幼いころのワタルと面影が似ていることを感じ取っていた。

 

 ◇◇◇

 

 フスベジムには、いつものようにチームワタルのメンバーがそろっていた。

 昨日はいなかったナツメとヒガナも今日はやってきたということで、ベストメンバーで練習できる環境が整った。

 

 ナツメはフスベジムにやってくると、ワタルがアイリスを連れていたので、次のように尋ねた。

 

「ワタル、あなたいつからロリコンになったの? マザコンだったはずでしょ?」

「誰がマザコンだ。ロリコンでもねえ」

「じゃあ、その子は?」

「シャガが仕事だから世話を頼まれただけだよ」

 

 ワタルは答えた。

 

「アイリスです。ナツメさんは何度もテレビで見たことあります。ちょー、感動です」

「よろしく」

 

 ナツメとアイリスもすぐに打ち解けた様子だった。ナツメはワタルの幼馴染であり、昔から社交性が高かった。

 

「ナツメさんはエスパー少女だと聞いたことがあります。何か超能力を見たいです」

「そうね……じゃあ、このスプーンを曲げてみせるわね」

 

 ナツメはそう言うと、どこからともなくスプーンを取り出した。

 すると、それを指先1つで曲げてみせた。

 

「このようにいとも簡単にスプーンが曲がってしまいました」

「わー、すごーい。それがサイキックパワーなのですね」

 

 アイリスは感動していた。

 

「ただの素の力じゃねえのか?」

 

 ワタルが独り言のようにつぶやいたが、ナツメの地獄耳には届いたようだった。

 

「ん、何か言った?」

 

 ナツメはそう言うと、持っていたスプーンを握り締めてぺしゃんこにした。

 

「いや、何も……」

 

 ワタルは目をそらした。ナツメとは昔からの付き合いだが、ワタルは昔からナツメには力負けしていた。

 

 ナツメもポケモントレーナーとしての実力者であり、ヤマブキジムのリーダーを務めながら、世界的に活躍している。世界最強と評されるワタルには強く、ワタルからイッシュリーグのタイトルを奪取した実績がある。

 そんなナツメは気が付いたように自分の後ろに隠れていたヒガナのほうを振り返った。

 

「なに照れてるの。ほら」

 

 ナツメはそう言うと、ヒガナの背中を押してワタルと向かい合わせた。

 しかし、ヒガナは恥ずかしそうに顔を背けて、再びナツメの背中に隠れてしまった。

 

「そちらの方は?」

 

 アイリスが尋ねた。

 

「ヒガナ。恋する乙女よ」

「……?」

 

 アイリスはいまいちよくわからない様子だった。

 ヒガナはかつてホウエン地方の少数民族であった竜星の民の末裔であり、昔からとてもおとなしい性格だった。

 

 竜星の民は昔、強い迫害と共に魔女狩りの対象にもなっていて、今でも偏見の目で見られる。

 竜星の民は「竜の災いをもたらす悪しき血の持ち主」とされてきた。

 神話によると、竜星の民は「レックウザの怒り」をもたらし、それがホウエン地方に災いをもたらすとされ、その影響で強い迫害を受けていた。

 村は焼き討ちされ、過酷な環境を生き残れたのは少ししかいなかった。ヒガナはその数少ない生き残りである。

 

 いまは表立って差別されることはないが、かつての忌々しい記憶がDNAに刻まれているのか、ヒガナは常に何かにおびえるように生きていた。

 そんなヒガナだけに人を避けて生きる傾向にあったが、ナツメとは親友になり、ワタルには恋心を抱くようになったようである。

 しかし、ワタルはもともと恋愛とは無縁の力だけを追い求める日々を送ってきたうえに、ヒガナも奥手だったので、その思いがワタルに伝わったことはなかった。

 ナツメが二人の仲を仲介することがあったが、それはうまくいっていなかった。

 

「よろしくお願いします。私はアイリスです」

 

 アイリスはヒガナに挨拶したが、こんな幼い少女に対してもヒガナは恐怖心を喚起させてナツメの背中に隠れた。

 そんなヒガナだが、ポケモントレーナーとしての実力は高く、まだチャンピオンになったことはないが、その実力はワタルも認めるほどだった。

 

「しかしヒガナが来てくれて助かった。フライゴンを使わせたらやはりヒガナが一番だからな」

 

 ワタルはヒガナが来たことを感謝したが、あくまでも練習台としてヒガナを見るだけだった。

 ナツメやドラセナに言わせると、もっと乙女心に気を遣えということになるが、鈍感なワタルにはそういうことは理解できない様子だった。

 

 ◇◇◇

 

 ワタルはシロナのディアルガと戦うために、フライゴンを仮想敵として対策を立てている。

 ドラセナもフライゴンの名手の一人だが、最強のフライゴンの使い手と言えば、ヒガナの右に出る者はいない。

 

 というわけで、ワタルはヒガナと対峙した。

 ヒガナは臆病な性格だが、ポケモンバトルとなると人が変わったように、その目は竜の眼光を放ち、とても野生的になるところがあった。

 ワタルと向かい合ったヒガナは先ほどまでの恋する乙女の表情から、戦闘民族の表情に変わった。

 二人の目はどことなく似ているところがあった。ワタルも集中力を高めたとき、竜星の民が持つ独特の眼光を放つようになる。

 

「な、なんだかすごい熱気を感じます」

 

 アイリスは二人を見ていて、独特の熱気を感じ取っていた。

 

「あの二人はポケモンオタクだから。対戦になると人が変わるのよ」

 

 ナツメがそう説明した。ワタルもヒガナも対戦になると、対戦の世界に没頭した。

 

「それが一流の目なのですね。私もやってみます。むむむ、むっ。どうですか?」

 

 アイリスは二人の真似をしたが、二人の持つ眼光とは違うものだった。

 

 ワタルとヒガナの対戦が始まった。

 

 ワタルは最高の相棒であるカイリューを繰り出し、ヒガナは最高の相棒であるフライゴンを繰り出した。

 ワタルのカイリューは普通のカイリューよりも力強く、その眼光も研ぎ澄まされているが、ヒガナのフライゴンもそういうところがあった。

 

 フライゴンはスピードの権化とされ、カイリューはパワーの権化とされているが、まさに最高峰のスピードと最高のパワーのぶつかり合いになった。

 その迫力は見る者を魅了した。

 

 パワーがわずかに勝ればカイリューが押し込み、スピードがわずかに勝れば、フライゴンがカイリューを叩きつけた。

 紙一重の戦いだが、たいてい最後には、ワタルがパワーでスピードを叩きつけることになった。

 

 しかし、二人の戦い方は同じ方向性を持ったものだった。

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