ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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10、かつての思い出

 いよいよ、ヤマブキシティ主催のアマチュア大会の日を迎えた。

 アマチュアの大会ということで、世間的な知名度はそれほどでもないのだが、ワタルの一番弟子としてマスコミがアイリスを取り上げたことで、史上最も注目される大会になった。

 

 アイリスは朝から興奮していた。

 昨夜から緊張で眠れなかったということで、目にクマができていたが、気合は入っていた。

 

 ドラセナも早起きしてアイリスのお弁当を作っていた。サポートは万全だった。

 

「アイリスちゃん、昨日あまり眠れなかったって言ってたけど、大丈夫?」

「き、緊張しています」

 

 アイリスは朝からそわそわしていた。

 

「そうよね、緊張するよね、大きな大会だもの」

 

 ドラセナはアイリスの姿を昔のワタルの姿に重ねて見ていた。

 ワタルも大きな大会に参加することが決まったとき、アイリスと同じようにそわそわしていた。

 

「そんなに緊張すると力が入らなくなるんじゃない?」

「緊張なんてしてねえよ」

 

 ワタルはそう言ったが、その言葉とは裏腹にワタルの緊張感ははたから見ていてわかった。

 ドラセナはそんなワタルのために、自分の名のもととなった観葉植物のドラセナの葉を渡した。

 

「なんだよこれ?」

「お守り。どんな時でもワタルの力になってくれる神様が宿っているの」

「こんな葉っぱにそんな力があるかよ」

 

 ワタルはそう言いながら、ドラセナの葉を手に握り締めた。不思議と体に戦う勇気が湧き上がってくるようだった。

 

 ドラセナは同じようにアイリスにドラセナの葉を渡した。

 

「アイリスちゃん、手を出して」

「手ですか?」

 

 ドラセナはアイリスの手のひらにドラセナの葉を置いた。

 

「ワタルをチャンピオンに導いた魔法の力が込められているから、きっとアイリスちゃんもチャンプオンに導いてくれるわ」

「魔法の力ですか……」

 

 アイリスはその葉を握り締めて、しみじみとその力を感じた。

 

「なんだか、体の底から力が湧き上がってくるようです。ありがとうございます、ドラセナさん」

 

 アイリスの顔に笑顔が宿った。

 

 ◇◇◇

 

 そのころ、ワタルは自室で電話の応答をしていた。

 今朝、ヤマブキシティに到着したというククイからの電話だった。

 

「お前に隠し子がいるとは思わなかったよ。現地から応援させてもらうぜ」

「隠し子じゃねえよ。で、何しに来たんだ?」

 

 ワタルはベッドに寝転がった。ククイとは古くからのライバルであり、友人でもあった。

 ククイはポケモントレーナーへの道を閉ざしてしまったが、いまはポケモンの研究者になるべく大学院への進学を決めていた。

 

「大学院への進学やめようと思ってな」

「なに?」

 

 ワタルは表情を変えた。ククイはポケモントレーナーの道をあきらめてでも研究者の道を選んでいた。そのために、大学院の進学は大きなポイントになる。

 

「何があった?」

「別にたいした問題じゃない。少し先を急ぎたくなっただけだよ」

「……」

 

 ワタルにはククイの言葉の真意がわからなかったが、ククイのその言葉には迷いがあるように思えた。

 

「なあ、ワタル。今から会えるか?」

「今から? おれはいまフスベだぞ」

「なら来てくれよ。おれはヤマブキのホテルにいるからよ」

「……」

 

 何か事情がありそうだったので、ワタルはアイリスらより一足先にヤマブキに向かうことにした。

 

 ◇◇◇

 

 ワタルはフスベシティのライディング場にやってきた。

 そこは山の中腹にあり、ポケモンライディングの発着ができるようになっている。

 

 ポケモンライディングはライセンス制であり、ワタルは「タイプ7」の一番上のライセンスまで所得していた。

 ポケモンライディングとは、ポケモンに乗って空を飛ぶことであり、ドラゴン使いはみなそのライセンスを取るのが風習になっている。

 ワタルは4年前にすべてのライセンスを所得し、「リザードン、カイリュー、ボーマンダ、ウォーグル、ピジョット、チルタリス、エアームド」の現在ライディングが許可されている7種類のポケモンすべてのライディングができる。

 タイプで分類され、タイプ7は7種すべての飛行が許可される。

 

 ワタルのライディング技術は天下一品であり、ライディングはその技術を競う大会もあるが、ワタルは何度か優勝している。最近は出場しなくなったが、代わりにシガナがワタルの後を引き継いで、大会を制覇していた。

 

「坊ちゃん、飛ばれるんですか?」

 

 腹の出た中年のオヤジが尋ねた。彼はこの施設に昔からいて、こう見えてもポケモンライディングの達人で、ワタルにライディングを教えていたこともある。

 いまは経営者になって、腹もたるんできていた。

 

「ああ、風は?」

「165度、風速8m.なかなかの飛行日和ですぞ」

「なら、チェックを頼む」

 

 ワタルはオヤジにモンスターボールを渡した。

 飛行前には、ポケモンの体調をチェックする必要があった。今は機械で精密にチェックされる。

 チェックの結果、オッケーサインが出た。

 

「坊ちゃん、オッケーでしたよ」

「よし」

 

 

 ワタルは風舞う発着場に立つと、相棒のカイリューを繰り出した。

 目の前には、高台からのいい景色が広がっていた。これから、カイリューと共に目の前に広がる山を越えていくことになる。

 ワタルはゴーグルを身に着けると、カイリューに搭乗して、いつものスタイルを取った。

 ワタルは体を大きく前に倒した「アンダースタイル」である。これはライダーによって型が異なる。

 

「ではお気をつけて」

 

 オヤジに見送られる中、カイリューは翼を広げて、大空へと浮上した。

 

 ワタルは高度計で高さを確かめながら、高度780mまで上昇したところで、高さを固定させた。

 安定した気候だから、飛行は難しくない。

 飛行は強風ほど難しい。風速が30mを超えると飛行が禁止される。

 雨が降ったり、雷が鳴ったり、その場合でもすぐに飛行を中断しなければならないが、降り立てる場所にも制約があり、飛行中に天候が悪化すると危険な飛行になることもある。

 

 今日は天気の変わることのない安定した飛行だった。

 

 ◇◇◇

 

 2時間強の飛行の末、ワタルはヤマブキシティのライディング施設に降り立った。

 時刻は9時20分。大会は11時に始まるので、おそらく今頃ドラセナとアイリスも現地に向かっているところだろう。

 

 ワタルはバスでククイのいるホテルに向かった。時刻は10時前になっていた。

 ククイからメールがあって、ラウンジにいることを告げていたので、ワタルはラウンジに向かった。

 

 ククイがサングラス越しに笑みを浮かべて手を振った。

 

「悪いな、突然」

 

 ワタルはククイと向かい合う形で椅子に座った。

 

「飛んできたんだろ? 何か飲むか?」

「水で構わん」

 

 ワタルはそこに置いてあった水を手に取った。

 

「で、話はなんだ?」

「実はな……」

 

 ククイはコーヒーを一口飲んだ。

 

「自分の研究所を持つことにしたんだ」

「そうか」

 

 ワタルにはそれがどれぐらい大変なことなのかということはわからなかった。

 

「研究所の建設に1億。機材に5000万。学会に加入するのにもざっと5000万はかかるだろうな」

「まさか、その金を貸せというのではないだろうな?」

「バカ、お前にだけは金を借りるわけにはいかねえよ。一応、オーキド博士が援助してくれると話してくれているが、いまはスポンサーを探して右往左往の毎日だよ」

 

 ククイは大変なことを笑顔で話した。

 

「なぜそこまで急ぐんだ? 大学院を出て大手の研究所に入れば、そんなことをしなくてもいいのだろう?」

「まあな、それが無難だから、愛しのガールフレンドもそうしたほうがいいと心配してくれた」

「ならばなぜだ?」

「単刀直入に言うと、輝かしく活躍するお前がうらやましくて仕方ないから」

「……」

 

 ワタルは目を細めた。ククイはおよそ他人に嫉妬するような性格には見えなかったし、そういう性格とは対極にあると思っていた。

 

「今でも夢に出てくる。お前に敗北したあの日のこと」

 

 ククイがそう言った戦いが、新人王戦の決勝戦であることはワタルには理解できた。

 

「いや、別にワタルを責めるわけじゃねえよ。これはおれが作り出した悪夢なんだ。だが、いつまでも離れてくれねえ。おれの中ではトレーナーの道にはけじめをつけられたと思ってたんだが、どうしても克服しきれなかった」

 

 ククイはいつもの調子とは違って、悲壮感を漂わせた。

 ずっと明るく振舞っていたが、その後ろには大きな苦悩があった。ククイはその苦悩をワタルに打ち明けた。ライバルであり友人であったからこその告白だったのかもしれない。

 

「そのことはガールフレンドにも言ってないが、このままじゃその悪夢に殺される気がした。だから、その悪夢を断ち切るためには、夢を叶えるしかないと思ったんだ。悠長に進学している暇はないんだよ」

 

 ククイは進学をやめた理由をそのように話した。

 ワタルにはどうしても解せないことが1つだけあった。

 

「ククイ。なぜ、トレーナーの道を去った? お前はかつておれに言っただろう。世界一のトレーナーになると」

「……」

 

 ククイは口元を緩めた。ずいぶん昔のことだった。まだ二人とも13歳になったばかりのころのころだった。

 ククイがジョウト地方を旅していたときに、二人は出会った。ククイはアローラの島めぐりを終えて、より広い世界を知るためにジョウト地方を訪れたのだが、そこでワタルという最大のライバルと出会うことになった。

 

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