ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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12、ワタル

 カントーにやってきたククイはオーキド博士の支援を受けながら、カントーとジョウトにある合計16個のジムを巡る旅を始めた。

 ククイはアローラを出てカントーにやってきたが、アローラにいるころは「アローラ最強のトレーナー」としてたたえられていた。

 それがカントーではお山の大将になるかという不安もあったが、そういうことはなかった。

 

 ククイは圧倒的な実力で次々とバッジを獲得し、わずか4か月で11個のメダルを獲得するまでになった。

 ポケモン先進国であるカントー地方のトレーナーに対しても、ククイの力は十分に通用した。

 

 それを見たグリーンもククイの実力を認めざるを得なかった。

 

「ほーう、アローラの田舎もんにしてはたいしたもんじゃねえか」

 

 グリーンはククイの頭を押さえつけて、一応そのように褒めた。

 

「ふん、カントーにはすげえトレーナーがたくさんいるって聞いてたけど、たいしたことないな」

「調子に乗ってやがんな。バッジを集めたぐらいでポケモンリーグに通用すると思ってんのか?」

「いずれ、王座を取りに行くから楽しみに待っててくれよ、グリーン先輩よ」

 

 ククイは自信満々に言った。

 

「そのうち、おれがお前に洗礼を浴びせてやるから、せいぜいその時まで、天狗になってるがいい」

 

 グリーンも自分の実力に絶対の自信を持っていたから、ククイ以上に堂々とした態度で返した。

 

「おや、ククイ、帰っていたのか」

 

 オーキドが研究所から家に戻ってきた。

 オーキドは研究熱心で、なかなか実家に戻って来ることがないが、今日は家でじっくりと論文を仕上げるために仕事を持ち帰ってきていた。

 

「調子はどうじゃ?」

 

 ククイはちょうどグリーンとリビングでやり取りをしていたところだった。オーキド博士はククイに朗らかな笑顔を向けた。

 

「11個目のバッジを獲得したんです。ほら」

「ほー、たいしたもんじゃ。やはりワシの見立て通り、ククイ君には才能があるな」

 

「じいさん、おれも帰って来てんだが」

 

 グリーンが間に入った。

 

「はて……誰じゃったかな?」

「孫のことを忘れんなよ! グリーンだよ、グリーン!」

「ほほ、冗談じゃ。グリーン、お前は残念じゃったな。お前のカロスリーグの戦いはテレビでじっくり見させてもらっていたよ。予選リーグで敗退するとはお前もまだまだじゃな」

「ふん、初戦で凡ミスして調子に乗れなかっただけだよ」

 

 グリーンは言い訳した。

 グリーンはククイがバッジ集めに出ている間、カロスリーグの戦いに参加していた。

 いま、カロスリーグは名女優でもあるカルネが王者に君臨している。

 カルネはトレーナー業と女優を兼業することで有名であるが、昔から実力者として知られていた。

 カルネはシロナと同世代で、通算で10度以上チャンピオンに輝いており、その実力はトップクラス。

 

 グリーンはカントーチャンピオンになる際に、その予選リーグでカルネにも勝利していたから、自信満々勢いのままにリーグ戦に参加したが、予選で負けが込み、3勝6敗のかんばしくない成績で、カロスリーグの戦いを終えることになってしまった。

 

「ミスをするのは凡人の証。それに、そこから調子を崩すのも典型的な凡人の性質じゃよ」

 

 オーキドはグリーンに対しては非常に厳しかった。

 

「ポケモンへの信頼と愛情を忘れておるから、一度崩れると立ち直れないんじゃよ。自分を見失った時こそ、自分のポケモンを信じる気持ちが問われる。お前はいつまでも自分の実力を過信し、ポケモンに命令するばかり。それではトップには立てん」

「へいへい、じいさんの説教は聞き飽きたよ」

 

 グリーンはオーキドの教えに疎く、今でもオーキドの教えをただのお節介としか考えていなかった。

 しかし、ククイにはオーキドの言葉は心に響いた。グリーンに対する説教だったが、ククイは自分のことのように聞いていた。

 

「自分を見失った時こそ、ポケモンを信じるか……」

 

 ククイはオーキドの言葉から非常に多くのことを学んだ。それがククイの快進撃につながっていた。

 

 しかし、そんなククイにも大きな壁が立ちはだかることになる。

 

 ◇◇◇

 

 ククイは快進撃を続け、カントーに渡ってきて1年でジョウト・カントーのバッジを15個獲得した。残るバッジはただ1つ。

 そのバッジを獲得したら、ククイもポケモンリーグの参加権を得ることができる。プロのトレーナーという到達点までもうまもなくだった。

 

 しかし、その最後の1つにククイは壁を覚えることになる。

 

「ここがフスベシティか。田舎だな。なんとなくアローラに似てる」

 

 最後のバッジを獲得するため、ククイはフスベシティにやってきていた。

 このあたりは交通が不便であり、たどり着くのに難儀した。

 まだ人間の足が踏み入れていない原生的な山々に囲まれており、盆地ということもあり、秋風が寒く感じられた。

「龍の都」の異名を持つフスベシティはドラゴンポケモンのメッカでもあり、このフスベシティから多くのドラゴン使いを輩出していた。

 

「ドラゴン使いのメッカか。いまさらドラゴンポケモンに苦戦するおれじゃない。待ってろ、フスベジムも圧倒的実力で制覇してやるから」

 

 ククイは意気揚々にフスベシティへと降り立った。

 さっそくジムに向かったのだが、あいにくジムリーダーが不在だった。

 

「困るなぁ。ジョウトリーグから公式に認められたジムが勝手に休み取られちゃ」

「ごめんね、ぼうやの言う通りよね。ほんとにワタルったら、ジムリーダーとしての自覚が全然ないんだから、困ったものだわ」

 

 ククイに対応したドラセナは困った顔をした。

 ドラセナはシンオウ地方を代表するトレーナーであり、色々な事情で世界を転々としてきたが、いまはフスベシティに渡ってきていて、ワタルの面倒を見る保護者の立場だった。

 

 ワタルは最近最も注目されているトレーナーであり、ちょうどククイが「アローラ最強」と呼ばれているように、ワタルも「フスベが産んだ怪物」として注目されていた。

 弱冠15歳にして、ドラゴン使いの登竜門「竜の試練」を突破し、少し前にプロのトレーナーとしてデビューした。

 カントーリーグが主催する新人王戦の前哨戦である「ホドモエシティが主催する新人王戦」に参加して、さっそく優勝し、その実力を世界に知らしめていた。

 同時に、ワタルはフスベジムのリーダーも任されていた。

 

 しかし、ワタルはジムリーダーの仕事をさぼりがちだった。

 

「ろくなトレーナーがいない。練習にならない」

 

 ワタルはその理由でジムにはあまり姿を出さず、ヤマブキシティのゴールドジムなどの大きなジムに出稽古に出ることが多かった。

 

「ワタル、いまどこにいるの? 挑戦者が来ているのよ。早く戻ってきなさい」

 

 ドラセナはワタルに電話を入れた。

 

「いま忙しいんだ。いまゴールドジムにシャガが来ててな。稽古をつけてもらってるところなんだ」

 

 ワタルは自分の都合を話した。

 

「あのね、だからってジムリーダーの仕事を放り出していいわけじゃないでしょ。ジムリーダーはれっきとした公務員よ。ちゃんと仕事しないと懲戒処分になるわよ」

「いいよ、それで。ジムリーダーなんて面倒くさいだけだからな。もうおれには必要ない肩書きだ」

「いいから戻ってきなさい」

 

 ドラセナが言い聞かせたので、渋々、ワタルは夕方には戻って来ると言って電話を切った。

 

「ごめんね、ジムリーダー、夕方には戻って来るって。挑戦受付は3時50分までだから、明日になっちゃうかもしれないけどいいかな?」

「明日? こっちにはこっちの予定があるってのに」

「ほんとにごめんなさいね」

 

 ドラセナはていねいに謝った。いまはワタルがジムリーダーなので、ワタルが挑戦者の書類に捺印しなければ、挑戦は認められない。

 リーグは国営なので、そのあたりの手続きは厳格で、ジム側が柔軟に対応することはできなかった。

 

「まあしょうがないな。でも宿代が余計にかかっちまうな」

「ひょっとして旅をしている子かな? どこから来たの?」

「アローラからです」

「まあ、そんなに遠くから」

 

 最近は世界中から、カントー・ジョウトバッジ巡りの旅に参加する者が集まっている。

 カントー地方も優秀なトレーナーを発掘するために公式に彼らを支援している。

 しかし、このバッジ巡りで、16個のバッジをすべて獲得できる者は1500人に1人ほどと言われており、狭き門だった。

 ククイはその一人になれる寸前まで来ていた。

 

「名前を聞いてもいい?」

「ククイです」

「歳は?」

「15歳です」

「まあ、それならワタルと同い年なのね。そっか」

 

 ワタルも15歳になったばかりであり、ククイはワタルと同期の少年だった。

 

「そうだ、うちに寄って行ったら? フスベジムのジムリーダーは私の一人息子なの。あなたと同い年でトレーナーを目指しているからきっといい友達になれると思うわ」

 

 ククイはドラセナの好意に甘えることにした。

 こうして、ククイはワタルと出会うことになった。

 

 ◇◇◇

 

 夕方になってワタルはようやくフスベシティに戻ってきた。

 ワタルはドラゴン使いであり、ドラゴンライディングの達人でもあった。なので、相棒のカイリューと共に空をゆうゆうと飛び、フスベの山々を越えて戻ってきた。

 

 ワタルは夕方には戻ると言っていたが、家に戻ってきたときには午後6時を過ぎていた。

 

「戻ったぜ」

 

 ワタルが戻って来ると、ドラセナが玄関口まで出迎えにきた。ドラセナの隣には見慣れない少年がいた。

 

「ん、誰だ、お前?」

「ククイだ。邪魔してるぜ」

 

 ククイは戻ってきたワタルに対して、好敵手を見るような力強い目を向けた。

 その目に反応して、ワタルも同じ視線を送った。

 出会ってさっそく、二人の視線は力強くぶつかった。

 

「おかえり、ワタル。ククイ君よ。ジムに挑戦しに来たんだけど、ワタルが戻って来ないから色々話を聞いてたの」

「ふーん」

 

 ワタルはもう一度ククイのほうに目を向けた。一目でククイの実力を感じ取った。

 

「ククイ君、すごいのよ。14歳でアローラの島巡りを終えたんですって。ワタルのいいライバルになれるんじゃないかしら」

 

 ワタルには、島巡りの経験はないから、そのすごさはわからなかったが、ククイの目を見る限り、只者ではないことは間違いなかった。

 ワタルの中の闘争心に火が付いた。

 

「それは面白いな。だったら、さっそく挑戦を受け付けてやるよ」

 

 ワタルはそう言うと、臨戦態勢に入った。

 

「望むところだ。あんたの話はドラセナさんから聞かせてもらった。すげえトレーナーなんだってな」

 

「二人とも、もう遅いからまた明日にして……」

「関係ねえ、勝負だ」

「望むところだ!」

 

 ドラセナの制止は効かず、二人の戦いは問答無用で成立した。

 ジムの挑戦者は3時50分までしか受け付けていないが、そのルールを取っ払って、二人は対戦することになった。

 


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