ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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14、力の差

 今年も一大イベントのジョウトカントー・ポケモンリーグ世界大会が開催される時期を迎えた。

 ポケモンリーグはすべてのトレーナーのあこがれであり、このリーグに参加できるのは、世界トップのトレーナーたちだけである。

 

 このポケモンリーグに参加するためには、公認バッジが16個以上必要である。

 ククイはすでに27個のバッジを獲得していた。バッジを40個以上所持していると、予選でシードされるが、バッジが16個あれば、ポケモンリーグの予選であるチャンピオンロードトーナメントに参加できる。

 

 ククイはついに夢の舞台に立つ日を迎えた。

 ただ、夢の舞台に向かおうとするククイの顔に、喜びの表情はなかった。今日この日まで、ワタルに勝てなかったあの1シーンが離れることがなかった。

 ワタルを倒さなければこの先はないという強い自覚のもとこの日まで修行してきた。

 

「絶対に勝つ。勝たなきゃトレーナーとしてやっていけないんだ」

 

 ククイは強い上昇志向をたぎらせて、トキワシティのターミナルにやってきた。ここからポケモンリーグまで列車が直通している。

 この日、ククイを応援するために、アローラからささやかな応援団もやってきていた。

 

 ククイが先にターミナルについて怖い顔で集中していると、ククイの間反対の抜けた顔をしたマーレインが顔をのぞかせた。

 

「ククイ君、ずっと電話してたんだよ。なんで出てくれないのさ」

「え? ああ、悪い、電源切ったままだった」

「まあいいけど、一応応援団をできるだけ連れて来たよ。師匠のハラさんは解説に呼ばれてるみたいだし、アウェーと言ってもそれなりにやりやすいんじゃないかな」

「……」

 

 ククイの口数は少なかった。緊張しているというより、気負いすぎているところがあった。

 

「おーい、ククイ」

 

 マーレインの後ろから快活な少女が手を振った。

 

「ククイ、バーネットさんも来てくれたよ」

「バーネット?」

 

 ククイはちらりと手を振っていた少女のほうに目を向けた。

 バーネット。彼女はククイがアローラの島巡りをしているときに出会ったポケモンブリーダーである。

 ポケモントレーナーの実力もそこそこで、ククイの島巡りをサポートしてくれた恩があった。

 

「久しぶり。ずっとカントーだったんだろ。電話もつながらねえもんな」

 

 バーネットはククイの隣に座って明るく話しかけたが、ククイは真顔を崩さなかった。

 

「そんなに気負うなよ。新人なんだから気楽にやりゃいいじゃん。負けてもともとだろ」

「負けられねえよ。特にワタルにはな」

 

 ククイはつぶやくように言った。

 

「ワタルって?」

 

 バーネットはマーレインに尋ねた。

 

「今大会再注目の新人のドラゴン使い。すでに世界トップの実力があるって言われてる天才だよ」

「ふーん、そんなのがいるのか。やっぱカントーはすげーな」

 

 バーネットは軽いノリで笑った。

 

「まあ、頑張んな。そんな天才に勝ったら、あんた有名人だよ」

 

 バーネットの励ましも、ククイの表情は変わらなかった。

 

「ところでバーネットさん、トキワのポケモン保護施設からポケモンを預かったって聞いたけど、何を預かったの?」

「ああ、ゴンべだよ。ほれ」

 

 バーネットはモンスターボールからゴンべを取り出した。ゴンべは居眠りポケモンで知られるので、ずっと眠ったままだった。バーネットはゴンべを優しく抱きしめた。

 

「ロケット団ってのが、カビゴンの密輸を繰り返してて、母親を失ったゴンべがたくさん保護されてるんだって」

「そういえばアローラでもニュースが流れてたね、ロケット団」

「ポケモンを粗末に扱うやつは許せない。とんでもないやつらだよ、ロケット団ってやつは」

 

 バーネットは珍しく険しい顔で憤慨した。バーネットのポケモンを愛する気持ちは誰よりも強かった。

 

「アローラではエーテル財団が立ち上がったけど、カントーじゃ慈善団体が動いてる程度で、ポケモンの保護が追いついてないんだ。それで、大学の卒論が終わったら、カントーでこいつらを保護する活動に参加しようと思ってな」

 

 バーネットはそう計画を語った。ククイがポケモントレーナーを志すように、バーネットは身寄りのないポケモンを助けるブリーダーを志していた。

 

「あんたは卒業後どうすんだい?」

「とりあえず普通に就職かな。けど、同級のマサキ君がポケモン転送システムを開発してるのを聞いて、共同開発を誘われてて迷ってるとこ」

 

 マーレインは大きな夢を語ることはなかったが、小さな野心を燃やしていた。

 みなそれぞれの道を歩もうとしていたが、その中で、ククイだけが、とてつもないプレッシャーの中で苦しんでいた。

 

 ◇◇◇

 

 ククイはチャンピオンロード予選を破竹の勢いで勝ち上がった。

 今年も実力者がチャンピオンロードに集まっていた。

 ジョウトから、ワタルのほかにマツリというゴーストポケモンのスペシャリストが参加していて、彼も注目を集めていたが、ククイはマツリにも勝利して、アローラの力を見せつけていた。

 準決勝では、ワタルと並んで高い注目を浴びていたシンオウのアイドルトレーナーのリョウを倒して、決勝戦に駒を進めた。リョウは「クリスタルビートル」と呼ばれて各方面から人気があって、完全アウェーの中だったが、ククイが勝利を収めた。

 

「あと1つだ」

 

 決勝戦を勝てば、ついにトップトレーナーが集うポケモンリーグの舞台に手が届く。

 しかし、あと1つがあまりにも遠い。

 決勝は、首尾よくワタルが勝ち上がって来ていた。ワタルもここまで危なげなく勝ち進んでおり、やはりククイの前に最強の壁として立ちはだかってきた。

 もっとも、ククイもワタルが勝ち上がってくることを想定していた。

 ワタルに勝つために今日まで修行を積んできたと言っていい。

 

 ワタルとククイの決勝は大きな注目の中で行われた。

 

 フスベジムでの対戦時とは比べ物にならないほどの観客の前での対戦。

 

 ククイは手持ち最強のガオガエン、ワタルも手持ち最強のカイリューで勝負が始まった。

 

 結果は……。

 

 ワタルの勝ち。

 白熱した試合ではなかった。ワタルが一方的に危なげなくククイを打ち破った。

 熱戦を期待していた観客もため息をつくほど一方的な勝負になった。

 

 そのとき、ククイは目の前が真っ暗になった。

 

 ◇◇◇

 

 その後、ワタルはオーキドの孫であり、当時最強のトレーナーと目されていたグリーンを倒し、新人にしてカントーリーグのチャンピオンになった。

 多くの者がワタルを祝福したが、ククイはそそくさとワタル祝福ムードの中を出て行った。

 

 その後、ククイの消息がわからなくなった。

 マーレインは何度かククイに電話を入れたが、例によってつながらない。

 マーレインは心配してバーネットに電話を入れた。

 

「バーネットさん、ククイ君から何か連絡あった?」

「あいつが自分から連絡してくるわけないよ」

「そっか。なんか心配だな。ハラさんのところにも戻ってないらしいし」

「なんかあったのか?」

「ククイ君の消息がわからなくなっちゃってさ。リーグ戦に賭けてたから、ショックで良からぬことを考えてるんじゃないかとか思っちゃって」

「ははは、ショックで首を吊るやつとは思えないけどな」

「だよね。でも一応、ククイ君見かけたら連絡してよ」

「了解」

 

 バーネットはいまトキワシティのポケモン保護施設でボランティア活動をしていた。今週いっぱいまでカントーに滞在するので、その間、ポケモンたちと一緒にいようと考えていた。

 

「お前、元気になったな。良かったな」

 

 バーネットは元気よく飛び跳ねるコイキングを抱きしめた。

 

「自然に戻ったら立派な主になるんだぞ」

「ドロンドロン」

 

 このコイキングもロケット団の犠牲になったポケモンの一匹だった。

 ロケット団はジョウト地方のイカリ湖に強力な磁場を流して、ギャラドスを興奮させ、現れたギャラドスを根こそぎ捕まえて密輸するという犯罪行為を繰り返していた。

 その影響でぐったりしてしまったコイキングが実に400匹余り保護された。

 そのうちの一部がトキワシティまでやってきた。

 

 バーネットの働きもあって、コイキングも元気になった。これでもとの湖に戻ることができる。

 

「バーネットちゃんが頑張ってくれたおかげで、ポケモンたちはみんな元気になった。ほうれ、ビードルも元気にはねてるよ」

「びょーたんびょーたん」

 

 保護施設の従業員が連れて来たビードルも元気になっていた。ポケモンたちはバーネットによく懐いていて、バーネットにはポケモンに愛される才能があるようだった。

 

「おばさん、ビードルってトキワの森で保護されたものですか?」

「ああ、山火事でな。もうすぐコクーンになって立派なスピアーになるところだったのに、焼けてしまって可哀想だったよ」

 

 バーネットはビードルを見つめた。ビードルは山火事で焼け出されたということもあり、火を必要以上におびえるようになっていた。これでは、厳しい野生の世界では生きていけない。

 このビードルを自然に返すにはそうしたトラウマにも打ち勝たなければならない。バーネットは保護には優しさだけでなく厳しさも必要ということをわかっていた。

 

「明日、森に行こう。な?」

「びびびび」

 

 ビードルはおびえるように首を横に振った。まだ森でのトラウマが抜けないようだった。

 

「いつまでもここにいるわけにはいかないんぜ。それに、お前だっていずれ立派なトレーナーに巡り合う日が来るかもしれない。そうなりゃ、こーんな大きなカイリューとも戦うことになるんだ。こーんな大きなヒヒダルマがぶつかってきても、負けちゃいけない。それが生きるってことだ」

 

 バーネットはポケモンを保護するために必要なことをよくわかっていた。保護のゴールは自立。自立につながらない世話は保護ではない。だから、バーネットは時にポケモンと厳しく向かい合った。

 

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