ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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22、新たなる舞台

 ヤマブキシティで開かれたアマチュア最高峰の戦いが終わると、休む間もなく、ポケモントレーナーたちの次の戦いが始まる。

 年に1度のビッグイベントである「ホウエン地方チャンピオンリーグ決定戦」が開幕する。

 

 世界中で行われるポケモンバトル大会の中でもビッグタイトルと認定されているのが、各地方で開催されるチャンピオンリーグ決定戦だ。

 優勝賞金は数千万円になる。ホウエン地方の場合は4400万円である。

 現在のホウエンチャンピオンはミクリ。

 彼は非常に人気の高いトレーナーであると同時に、ワタルと同世代のライバルでもある。

 

 リーグ制覇してチャンピオンになることは世界中のトレーナーの見果てぬ夢である。

 このリーグ戦の場合、参加するだけでも難しいことになっている。

 

 リーグ戦は2段構成となっている。

 

 まずは認定ジムのメダルを8つ以上持っている者たちだけが参加できる「チャンピオンロード」が開催される。

 このチャンピオンロードを免除される条件がある。

 

 1、認定ジムのバッジを40個以上所持している

 2、公式大会における成績優秀者

 

 ワタルは1、2共に満たしているため、チャンピオンロードを免除されてさっそくリーグ戦を戦うことができる。

 

 今日、ホウエン地方のチャンピオンを決める今期の戦いの割り当てが発表された。

 

 ワタルはさっそく組み合わせに目を通した。

 ワタルはブロックDに配属された。

 

 ブロックD

 

 ワタル

 キョウ

 アデク

 センリ

 オーバ

 チャンピオンロード勝者D

 

「うわ、えぐいっすね、Dブロック」

 

 ワタルのところを訪れていたタケシがブロックDのメンツを見て声を上げた。

 

「ワタル先輩の日ごろの行いが悪いからっすよ」

 

 タケシは冗談半分にそう言った。ワタルは冷静にメンツを見ていた。

 タケシは一応チームワタルのメンバーということになっているが、日ごろの練習にはあまり顔を出さない幽霊部員だったが、今日は早朝からワタルのもとを訪れていた。

 

「先輩でもこのメンツじゃ、勝ち抜けるのは大変そうっすね」

「……」

 

 ワタルは無言で立ち上がった。

 今回、ワタルと同じブロックになったメンバーはいずれも強者だった。ワタルもそのことはわかっていた。最後のチャンピオンロードから勝ち上がってくる枠も勢いのある若手が来るから簡単な相手ではない。

 ネット上では、早くも魔のブロックDとして注目されていた。

 しかし、組み合わせをどうこう言っても仕方ない。

 こういうときは鍛錬あるのみ。それがワタルのスタイルだった。

 

「行くぞ」

「えー、これからドラセナさんの朝食をごちそうになる予定だったのに」

「いいから早く来い」

「まったくせっかちなチャンピオンで困っちゃいますよ。もっとどっしり構えたらどうですか?」

「つべこべ言うな」

 

 ワタルは世界最高のトレーナーと称されているが、まだ若手に入る。はたから見ていると、まだ精神的に未熟なところが感じられた。

 

 ワタルが降りてくると、ドラセナがゆっくりと朝食の準備をしていた。テーブルには少し前から預かっているアイリスの姿もあった。

 アイリスの保護者であるシャガからしばらく面倒を頼まれていたが、その後も引き続き、ワタルが面倒を見ることになっていた。

 シャガ曰く、「しばらく勝利の女神を貸してやる」ということで、ワタルは勝利の女神を手に入れていたが、ワタルはそういうことを信じるタイプではなかった。

 強い者が勝つ。それが原則であり、その他の要素などポケモンの世界にはないと思っていた。

 

「ドラセナ、ジムに行くぞ。早く支度しろ」

「えー、いまできたばかりよ。ワタルも久しぶりに食べてったら?」

 

 ワタルは基本的に朝食を食べる習慣がなかった。

 ドラセナはだいたいワタルに合わせていたが、いまはアイリスを預かっているので、ここしばらく朝食の支度が日課になっていた。

 

 ワタルだけジムに行っても、練習相手がいなければ練習にならない。チームワタルの最大の練習相手がドラセナである以上、ワタルも待つしかなかった。

 ワタルはそわそわした様子で、団欒の朝食が終わるのを待った。

 

「とってもおいしいです」

 

 アイリスは毎日のようにドラセナの料理をおいしそうに食べた。

 

「ありがとう、アイリスちゃん」

「先輩は1日1食っすからね。まったく、こんなおいしい朝食を食べないなんて、人生半分損してますよ」

 

 タケシも団欒に混ざって朝食を食べていた。タケシもワタルのもとで修業をするようになってかなり長かった、

 ワタルはただ待つのみだった。

 

 ワタルは誰かと楽しく食事をするという概念がなかった。

 ワタルにとって、食事も修行の一環。強くなるための食事だった。

 ワタルは師匠のもとに弟子入りしてから、厳しい断食指導なども受け、精神統一の理念を授かった。

 

 怠惰な食事は雑念を呼ぶということで、ワタルは厳しく戒めていた。

 アイリスはワタルとは対極的に、ポケモンも交えてみんなで食事を取る風習を持っていた。

 

 アイリスはいま育てているハクリューにも食事を与えながら、ポケモンと共に食事を取った。

 アイリスのポケモンは強くアイリスに懐いているが、そうした蓄積からもたらされたものでもあった。

 

 どちらが正解というものではないが、風習はそれぞれに独自の性質を生み出す。

 トレーナーの風習はそのままポケモンにも引き継がれた。

 

 ポケモン研究の中には、「トレーナーによって、ポケモンの内面のほとんどが決定され、ポケモンの力の7割以上が内面の影響である」というものもある。

 そのため、同じポケモンでも、どのトレーナーとどのように暮らしてきたかによって、その力は大きく異なった。

 

 ワタルのポケモンはよりストイックに、アイリスのポケモンはより絆深く育っていった。

 そんなワタルとアイリスが邂逅したことで、お互いの性質が対立することもあれば、調和することもあった。

 

 ワタルはアイリスがポケモンと共に食事を取る光景を見て、感化されるところがあった。

 ワタルも今現在ハクリューを3体育てている。アイリスのハクリューと自分のハクリューでは目つきが明らかに違っていた。

 ワタルはポケモンにもストイックを命じていたが、アイリスの示した心も必要なのかもしれないと思った。

 

 ◇◇◇

 

 朝食が終わると、一行はフスベジムに向かった。

 これからは、ホウエンリーグを目標にここで修業が繰り広げられていくことになる。

 とはいえ、来週にはホウエン地方に入るので、ここで練習するのもほんの1週間だけである。

 

 ナツメ、イブキ、ヒガナとチームワタルのいつものメンバーもそろって、練習環境は悪くなかった。

 ナツメはドラセナに会うなりため息をついた。

 

「まさかドラセナさんと同じブロックになるなんて」

「むふふ、今回ばかりはライバル同士ね。若い子にはまだまだ負ける気ないからね」

 

 ドラセナは笑みを浮かべたが、その背景には並々ならない闘争心があった。

 ドラセナはもともと負けず嫌いで、勝負事には熱くなるタイプだった。表にあまり表さないのでわからないが、これまでにいくつもチャンピオンに輝いた実績を持っている。

 

「イブキちゃんもロード勝ち上がったら同じブロックね。そのときは全力でねじ伏せてあげるから楽しみにね」

「お、お手柔らかに」

 

 ドラセナは静かに闘争心を燃やした。イブキも気の強いトレーナーだったが、ドラセナの静かな闘争心に圧倒されていた。

 

「ヒガナ、お前は出ないのか?」

「出ない」

 

 ワタルがヒガナに尋ねると、ヒガナははっきりと答えた。

 

「バッジないもん」

「ホドモエカップ優勝の実績で出られるんだろ」

「いまはまだそのときじゃないから」

 

 ヒガナはホウエンリーグのチャンピオンロードに出る資格を持っていたが、自ら事態していた。

 ヒガナの行動は昔からまったく予測できなかったが、今回も意図がよくわからなかった。

 トレーナーを目指しているのなら、チャンスが1つでもあればそれを活かすべきだというのが常識だが、ヒガナにはあてはまらなかった。

 

 ワタルはヒガナの実力を高く評価しており、もしヒガナが参加すれば、十分チャンピオンになれる可能性があると考えていただけに実にもったいないことだった。

 

 チームワタルにはスコアラーもついており、スコアラーの分析に基づいて対策を立てていくことになる。

 スコアラーのゴトウはさっそくデータを開示した。

 

「さて、今回のワタルさんの相手、魔のブロックDのメンツは蒼々たるものです。チャンピオン27期のアデク、ワタルさんの苦手なキョウ、ケッキングマスターのセンリ、最近勢いのあるオーバ、そしてブロックDのチャンピオンロード組には、ナタネ、スズナなどシロナ一門の若手も入ってます。かなり手ごわそうです」

 

 今回、ワタルの相手となるブロックDは手ごわく、決勝トーナメント進出のためには、リーグ1位になる必要がある。

 

「ワタルさんの対戦成績は、対アデクが27勝9敗。アデクに27勝はさすがワタルさんですが、油断は禁物です。オーバも最近かなり勝ってますね。イッシュリーグでも勝率7割でしたね。苦手のはずのミクリにも勝ってますしね。炎一筋をやめてミミロップを使い始めたようですね。この辺の対策も必要です。センリもポリゴン2の選出が増えてますし、今までの通りにはいかないかも」

 

 トレーナーも日々進化する。いつも同じ手でやってくるわけではない。

 それに対して、ワタルはあまり自分の手を変えなかった。

 一般に、勝ってるときは変えない、負けが込むと変えていくのが良いと言われている。

 

 手を変えないメリットはいつも同じ調子で戦えること。しかしデメリットとして、対策されやすいということがある。

 

「相手もワタルさんの対策をしてくるでしょうからね、こっちも新手を用意しておいたほうがいいでしょう」

「そうだな」

 

 ワタルはうなずいた。

 ワタルもいくつか新しい手は開発しており、最近はドラパルトを熱心に使っている。ドラパルトはドラセナから教えを受けて育てて来たものだった。

 

「では、まずアデクの対策を。予想できる選出メンバーは、ウルガモス、デンチュラ、モルフォン、ハッサムあたりでしょうか」

 

 かくしてホウエン地方制覇に向けての戦いが始まった。

 

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