ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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23、前触れ

 チームワタルはホウエンリーグに向けての特訓を初めてが、初日はアクシデントがあって早々と切り上げることになった。

 

「ナツメさん、大丈夫ですか?」

 

 アイリスが心配そうに尋ねた。

 特訓を初めてしばらくは元気にしていたナツメだったが、しばらくして強い頭痛を訴えるようになった。

 それでも、しばらく無理をしていると、ほどなく意識を失うほどに重症化してしまった。

 

「ワタルのせいだわ」

 

 イブキが非難した。

 

「なんでおれのせいなんだよ」

「ワタルがドカドカ破壊光線撃つから。私の目もまだチカチカしてるし」

「いつものことだろ」

 

 医者の診察によると、脳震盪。

 ナツメはワタルと立ち会って、繰り返しワタルの誇るカイリューの攻撃を受けていたので、強い光の影響ではないかと推測された。

 

 ワタルは複数種類のカイリューを持っていて、今回は破壊光線の威力に特化して育てたタイプを使用していた。

 ナツメは光の壁を器用に使うタイプのバリヤードで応戦しており、いつも以上に光が多く放出される対戦が続いたため、その影響だったのかもしれない。

 

 しかし、ワタルは以前から破壊光線に特化したカイリューは使用しており、ナツメのバリヤードとは過去に200戦以上は立ち会っている。

 今回に限って、特別なマッチアップになったわけではなかった。

 

「私もチカチカしてる」

 

 ヒガナも目をぱちぱちした。

 

「私もしてます」

 

 アイリスも同じように目をぱちぱちした。

 試合を見学していた者全員が強い閃光を経験していた。

 

「救急車来たみたいです」

 

 ジムの外に待っていた後援会の者が呼びに来た。

 

「ワタル、手伝って」

「ああ」

 

 ドラセナに言われて、ワタルは腰をかがめた。

 

 ワタルは首を傾げた。

 医学のことはわからないが、ナツメがこういう症状を訴えることは以前にも何度かあった。

 そのときはたいてい何かが起こるときだった。

 

 1度目の前兆はワタルが7歳のとき。

 ナツメとは幼馴染だったから、学校の通学を共にすることが多かった。ワタルはよく学校を休んでいたが、通学したときはたいていナツメと一緒に学校に向かっていた。

 

 横断歩道で信号を待っていたころ、ナツメは強い頭痛に襲われた。

 

「おい、大丈夫か?」

「それより逃げて……」

 

 ナツメは頭痛に苦しみながら、何かを訴えた。

 

「は?」

「いいからあっちへ早く」

「……」

 

 

 ワタルはよくわからず、ナツメを連れて、歩道を離れた。

 その直後。

 

 大きな音がした。

 見ると、ワタルが立っていた場所にタンカーが突っ込んで、大きく炎上した。

 

「……」

 

 もし、ナツメが訴えなければ、そのままワタルに直撃していた可能性があった。

 

 2度目の前兆はワタルが初めてバッジを獲得したとき。

 ドラセナと3人でささやかなパーティーに参加していた。そのときにナツメが頭痛を訴えた。

 

「目の前が揺れてる……地震だわ」

 

 ナツメは頭を押さえながらそんなことを言った。

 

「しっかりして、なっちゃん。地震なんて来てないわよ」

 

 ドラセナの看病の末、ナツメの頭痛は治まったが、その後、テレビではグレンタウン北東の海で震度7の地震が発生したことを伝えていた。

 このように、ナツメは昔から突発的な予知能力を発揮することがあった。

 

 今回もそれらのときと同じだった。

 ワタルは何か大きな事件が起きるのではないかと不安になった。

 

 ◇◇◇

 

 ナツメは病院に運ばれた。

 幸い、1時間後には頭痛もなくなり、意識も正常に戻った。

 

 その後の検査でも特に異常は見当たらなかった。

 大事を取って一日入院することになったが、命に別状はないようだった。

 

「良かったわ、一時はどうなるかと思ったけど」

「すみません、ドラセナさん。ご迷惑おかけして」

「お父さんが夕方には来てくれるって。今日はゆっくり休んだほうがいいわね」

「ナツメさん」

 

 ドラセナの隣からアイリスが顔を出した。

 

「あの、これ受け取ってください」

 

 アイリスは折紙で織ったたくさんのスワンナが入ったかごを差し出した。

 

「スワンナ1000匹で百人力です。ですが、時間の都合上85匹しか織れませんでした。それでもきっと85人力ですから」

「ありがとう」

 

 ナツメは笑顔で受け取った。すでにナツメはいつもの調子に戻っていたが、アイリスはひどく心配していた。

 

「し、死んでしまわないでくださいね!」

「大げさね。全然大丈夫よ。もう元気いっぱいになったから」

 

 ナツメはアイリスを心配させた。

 

「ところでワタルは?」

「検査の時まで一緒にいたけど、どこに行ったのかしら。あの子はジッとしない子だから困ったものね」

 

 ドラセナはあたりを見渡したが、いつの間にか、ワタルとヒガナの姿が見えなくなっていた。

 

 ◇◇◇

 

 ワタルは病院の外にいた。

 駐車場を離れて、人気のないところでただ時間が経つのに身を任せていた。

 時折、空を見上げた。

 

 空は快晴。大雨が来そうもない、台風が発生したという話もない。何もなかった。

 

「考えすぎか……」

 

 ワタルは息を吐いた。

 たしかに、ナツメが頭痛を訴えたときには何かが発生していたが、偶然ということで片付けることのできることではあった。

 

 ナツメは物心ついたときから不思議な力を発揮することがあった。

 ちまたでは、そういう人たちをサイキッカーと呼んでいるようである。

 

 ナツメもサイキッカーの兆候があったため、サイキッカーの集いによく参加していた。

 ワタルもナツメのサイキックパワーの片鱗を何度も感じ取っていた。

 

「ワタル、見て、サイキックパワーでこの岩を砕いてみせるから」

 

 ナツメはそう言うと、ワタルの目の前で、空手チョップによって岩を砕いてみせた。

 

「ね、すごいでしょ、私のサイキックパワー」

「……ただの怪力じゃないのか?」

「なんか言った?」

「いや、何でもねえ」

「私、スプーンを投げて曲がって以来エスパー少女になったのよ」

「エスパー少女ねえ……」

 

 ワタルはずっと半信半疑だったが、その後に見せた予知能力のいくつかで、ワタルもそうした力を信じるようになった。

 今回もナツメが何かを予知したのではないかと思っていたが、特に地震が起こるというようなこともなかった。

 

「さて、戻るか」

 

 そろそろ検査も終わったころだろう。ワタルはナツメの病室に戻ることにした。

 

「……」

 

 駐車場に差し掛かったところで、ワタルは足を止めて、地面にいる怪しい物体に目を向けた。

 

「ヒガナ、何してるんだ?」

 

 ワタルが声をかけると、ヒガナは地面に耳を見せたまま、上目にした。

 

「聞こえた?」

「何がだ?」

「地面から……ううん、空からだ」

 

 ヒガナはずっと地面に耳を張り付けていたが、とっさに立ち上がって空を見上げた。ワタルも同じように空を見上げた。

 

「ほら、聞こえるよ」

「だから何が聞こえるんだよ」

「わからないけど」

「さっぱりわからんやつだな」

 

 ナツメの予知能力とヒガナの謎行動はワタルにとっての二大オカルトだった。

 

「あのね、先輩も聞こえたんだと思う」

「……」

 

 ワタルはもう一度空を見上げた。ナツメが頭痛を訴え、ヒガナも何か聞こえると言っている。ワタルも二大オカルトが共鳴していることを無視できなかった。

 

「大雨か、それとも台風か?」

「それとも違う気がする」

「他に何がある?」

「お星様の声とかかな」

 

 ヒガナはそう言って首を傾げた。

 

「星……」

 

 ワタルは嫌なことを連想した。

 

 ◇◇◇

 

 その夜、国際宇宙観測センターが世界各国にある警告を出していた。

 

 ホウエン地方のトクサネ天体観測所にもその警告が届いた。

 

 警告内容は以下のようであった。

 

 直径1キロに及ぶ隕石が接近中。

 落下確率が低く見積もっても15%以上であること。

 落下予測地点はホウエン地方西の海上。

 

「所長、我々もいま隕石を捉えました」

「この赤い部分か?」

「はい」

 

 所長はモニターのレーダーで隕石を確認した。

 

「うー、狙いすましたような位置だな。これは落下する可能性のほうが高いぞ」

「我々のシミュレーションプログラムでは落下確率21パーセントです。このままそれてくれればいいのですがね」

「最悪の事態を想定しておく必要がある。官邸には知らせたか?」

「はい、これから総理官邸で緊急会合が開かれるようです。こちらからも専門家を派遣してほしいとのことですが、山田先生と西山先生に準備してもらっています」

「わかった。しばらく隕石の動きに注視してくれ」

「わかりました」

 

 所長は部下にそう伝えると、ある者に電話を入れた。

 

「もしもし」

「おー、ダイゴ君か。申し訳ない、もうすぐホウエンリーグの戦いが始まるというのに」

「いえ、そうも言っていられないでしょう」

「隕石の件はもう聞いているのかね?」

「はい、父から。今からそちらに向かいます」

「ありがとう。ところで、1つ気になることがあるのです。このことは我々科学者よりダイゴ君のほうが詳しいと思うので確かめたいのじゃが」

 

 所長は壁に取りつけてあった絵画に目を通した。その絵画には、とある伝説のポケモンが描かれていた。

 

「レックウザの伝説の件なのじゃが」

 

 所長はとあるホウエン地方に伝わる伝説についてダイゴに尋ねた。

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