ポケモン トレーナーズエピソード   作:やまもとやま

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第7話 シロナ編

 シロナはひとまず、マーズを食事に連れて行った。

 元気づけるために高級料亭に連れて行ったところ、それが功を奏したようだ。

 先ほどまで元気をなくしていたが、あっさりと立ち直り、遠慮することなく高いものを注文しまくった。

 このあたりは子供だなとシロナは感じた。

 

「いいわね、お金持ちは好きなものが食べれて」

「あなたも幹部なのでしょう。給料はいただいていないのですか?」

「年収500万以上はあるわよ。でもこんなお店には行けないわよ。あんたは毎日来れんでしょ?」

「いや、私も毎日こんなお店には行きませんよ」

「あんた、年収いくら?」

「……」

 

 そんな質問には答えたくなかった。

 しかし、マーズはある程度の額を調べ上げた。

 ロトムタブレットでインターネットに接続すると、トレーナーの獲得賞金ランキングはすべて公開されていた。

 去年はワタルに次ぐ2位だったので、すぐに見つけることができた。

 

「14億4000万、マジ?」

「まあ、だいたいそれぐらいだったと思います」

「はー、トレーナーは儲かるのね……」

 

 マーズはランキングを見ながら感心した。

 しかし、トップポケモントレーナーは全世界3000万人以上の争いを潜り抜けたエリートであり、そこにたどり着く道のりは茨の道だ。

 リーグの主催する世界大会に参加できるトレーナーはシンオウリーグで103人。最も大きなカントー・ジョウト大会でも165人しか出場することができない。

 シロナはその熾烈な競争を勝ち抜いてここにたどり着いている。

 

「は、食った食った。お風呂借りるわよ」

 

 食事をおごってやると、マーズはあっさりと機嫌を取り戻して、まるで自分の家かのように、シロナの仕事場でくつろいだ。

 

「着替えも貸してよ。歯ブラシとタオル、あとドライヤーは?」

「……」

 

 シロナはマーズのために世話を焼くことになった。

 どちらが奴隷なのかわからなくなった。

 しかし、変に対立しているよりはいいのかもしれない。

 

 風呂から出てきたマーズはやはりシロナの許可を得ることなく勝手に冷蔵庫から飲み物を取り出してきた。

 

「聞きたいんだけどさ、あんた私と同じころ、バッジいくつ持ってた?」

「すべて」

「うわ、やっぱガチ勢は頭おかしいわ。私はまだ3つ目を取ったばかりなのに」

 

 マーズもトレーナーとしての心得があった。

 実際に対戦したシロナもマーズが一定の実力を持っていることはよくわかっていた。

 

「ねえ、なんかコツあんの? やっぱ才能?」

「どうでしょうか」

「私も才能があれば、トレーナーを目指したいけど、いまさらバッジ3つじゃあね」

「マーズは誰にポケモンを教わったのですか?」

「誰にも。一人でよ」

「一人ですか?」

「そうよ。仕事の都合でジムに通う暇なんてないし、その前は孤児院暮らしだから、そんなお金も自由もなかったしね」

 

 マーズはそう言うと、ドライヤーのスイッチを入れた。

 我流であそこまで強くなるのなら、マーズには大きな才能があるのかもしれないとシロナは思った。

 シロナは元名トレーナーのナナカマドのもとで修業を積み、同期のドラセナと世界中のジムを巡って実力をつけてきた。

 それがシロナの実力を支えていた。

 しかし、マーズは誰にも頼らずに3つのバッジを獲得していた。それはすごいことなのかもしれない。

 

 マーズと対戦したシロナはマーズの特徴を理解していた。

 セオリーに大きく外れた攻撃的なタイプだと分析したが、それは我流で練習したことが影響しているのかもしれない。

 セオリーを学べば、マーズは大成する可能性があった。

 

「孤児院ということは、親はいないのですか?」

「そうよ。院の先生の話だと、捨て子だったみたいね」

「そうですか」

「ま、どうでもいいけどね。子供を捨てる親なんて会いたいとも思わないし」

「……」

 

 シロナはマーズに同情した。

 自分と同じ境遇だったからだ。

 

 翌日、シロナはマーズを連れていつもの練習施設に向かった。

 二人は犬猿の仲だったが、一晩のうちに化学反応が起きて、傍からは親しい仲のように見えるようになっていた。

 

 シロナは門下生たちにマーズを

 

「こちら、マーズです。みんな、仲良くしてあげてください」

「どうも」

 

 マーズはにこやかに笑った。アカギを巡ってシロナには厳しい態度を取っていたが、そうでない者には女の子らしい態度だった。

 

「私はナタネ。よろしく」

「あー、あんた、どっかで見たことあるわ」

「私はスズナよ」

「あ、あんたも見たことあるわ。見たことあるのばっかり」

「この子たちはみんなバッジ8つ集め終わってますからね」

 

 公式バッジを8つ集めると、リーグが主催する世界大会への出場資格が与えられる。

 世界大会は予選からテレビ中継されるし、マスコミも取り上げるから、まだ若手のナタネやスズナも知名度は全国区と言ってよかった。

 

「とりあえず、確認したいことがあるわ。あんたたちの年収は?」

 

 いきなり何を聞くんだと誰しもが思ったが、マーズにはずれている自覚がなかった。

 

「私は全然。ナタネは予選突破したから今年はけっこうあるんじゃないかしら」

 

 スズナが説明した。

 ナタネはイッシュリーグ最終予選に出場して、32勝3敗という好成績を残して本戦出場を決めていたので、若手の中でも一歩リードする形になっていた。

 

「あんたの年収は?」

 

 マーズは無邪気な顔でそう尋ねた。

 

「一応、予選突破で300万かな」

「勝った!」

 

 マーズはにんまりと笑った。負けず嫌いの性格なので、何でも勝つと嬉しいようだった。

 

「私の去年の年収は656万円よ。どう、すごいでしょ?」

「えー、すごいな。アイドルか何かやってるの?」

 

 ナタネがそう尋ねると、マーズはまたにんまりと笑った。

 

「あ、そう見える? そう、私アイドルにも向いてるのかしら。ふふふ」

 

 マーズは若手トレーナーたちと瞬時になじんだ。

 長く共に練習しているシロナよりもなじんでいた。

 シロナは彼女らと自分との間で大きな隔たりを感じた。

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