突然のひらめきがシロナの心の中に降りてきた。
シロナはハッとなって、もう一度古文書の文字列に目を通した。
エムリットと長く親しんでいた老人が残したとされる古文書のすべてを理解することができた。
シロナは隣にいる人物に目を向けた。
「なに? なんかわかった?」
シロナの隣には、古文書ではなく漫画を読むマーズの姿があった。
昨日から、シロナの仕事場に住み着いたマーズは現状好き勝手に暮らしている。
マーズはアカギが経営するギンガ団の幹部ということになっているのだが、アカギからエムリットの捜索を依頼されており、結果を出すまでは戻れない状況なのだという。
シロナはエムリットの封印されているであろう場所をおおよそ突き止めたが、マーズを連れていくと手柄を横取りされることになるだろう。
シロナは逡巡した。
手柄は取られるにしても、マーズに居候を続けられるわけにもいかない。
「なーによ? なんか企んでる顔してるわね」
マーズは鋭かった。シロナのわずかなそぶりから何かを勘付いた。
「さてはなんかわかったんでしょ。私に黙って手柄を独り占めにする気ね」
独り占めも何も、マーズは漫画を読むだけで何もしていない。
しかし、こうなった以上はシロナも決心した。
「今からシンジ湖に行きます。準備してください」
「エムリットの居場所がわかったの?」
「それを確かめに行くんです」
マーズは手柄を横取りする気満々で出かける支度をした。
二人はシンジ湖にやってきた。
「どこ? エムリットどこにいるの?」
先ほどからやんちゃに飛び跳ねているマーズをよそにシロナはシンジ湖の全景をカメラに捉えていった。
「なに写真撮影なんてしてんの?」
「静かに」
「はいはい」
マーズは黙ってシロナの写真撮影の後をついていった。
いくらか写真を撮影したシロナは写真を見比べながらある場所の前で立ち止まった。それから地面を調べてはまた移動を繰り返した。
「なんか遺跡発掘の映画のシーンみたいね。これまでになんか見つけたことあんの?」
「まあ、いくつかは」
シロナは世界中の遺跡の調査権限を持っている。調査権限はお金で購入することもできるが、シロナは有名大学の考古学部を出ているので、おおむねの場所を調査することができる。
ここシンジ湖近辺の調査権限も持っていた。
歩き回ること一時間、シロナは目的の場所を突き止めた。
「シンジ湖中央を通る三角形の頂点……ここで間違いないですね」
「何があるの?」
「今からこの場所を掘ります」
「ここ? なんもない気がするけど」
マーズはシロナが示した場所を足で蹴った。あたりさわりもない地面にしか見えなかった。
「どうやって掘るの?」
「発掘用のドリュウズを使います。あと自治体の許可を取りますのでちょっと待っていてください」
シロナは電話一本で許可を取ると、立ち入り禁止のマーカーで目的地を囲った。それから、モンスターボールからドリュウズを繰り出した。
遺跡考古学者はたいていドリュウズを使う。ポケモントレーナーと兼業している者はそれが理由でドリュウズの名手であることも多いが、シロナはドリュウズを公式対戦では一度も使ったことがなかった。
ドリュウズは一気に地面を掘り起こし始めた。
「頑張りなさいよ」
マーズのささやかな応援を受けて、ドリュウズは数分で5メートルもの穴を掘った。
「もう少し東側へ穴を拡大してください」
ドリュウズは疲れ知らずに穴を掘り続けた。
そして、やがて目当てのものを掘り当てることになる。
「変な石、拾って来たわよ」
地面から出てきたドリュウズは人が両手で持つほどの大きな石を持って出てきた。
「慎重にくだいてください」
ドリュウズはそのあたりの手加減もものにしており、少しずつ岩をくだいていった。
岩の中から姿を現したのは、1個のぼんぐりだった。
ぼんぐりはモンスターボールの材料になっている。モンスターボールが発明されたのは今から約70年前であり、それまではぼんぐりをゆりかごにしてポケモンはトレーナーと共に過ごしていた。
ぼんぐりは岩の中で時が止まっていたかのようで、劣化もほとんど見られない。
「マーズ、中を確かめていただけますか?」
「なんか毒蛇とか出てくるんじゃないでしょうね」
「それなら、私が見ましょう」
「やっぱ私が見る」
もし、中にエムリットが入っていれば、シロナに手柄を取られてしまうと思ったマーズはぼんぐりの綿を引っ張って中に手を入れた。
中から現れたのはピクリとも動かない妖精のような生き物……それは紛れもなくエムリットだった。
「エムリット?」
「間違いないですね」
「わ、私が第一発見者よね?」
「……まあ、そうなりますね」
やはりマーズに手柄を横取りされることになってしまった。
予想できていたことだけにシロナは納得するようにため息をついた。
「もらっていいわよね?」
「なんと言っても持っていく気なのでしょう?」
「ありがとう、シロナ。この恩、一生忘れないわ」
マーズは無邪気に笑い、初めてシロナに対して感謝の言葉をつづった。
それが演技にせよ、こうして感謝されるのは悪くなかった。
「エムリット、聞こえる? 私、マーズよ。今日からあんたのお母さんよ」
マーズの問いかけに応えるように、エムリットはゆっくりと目を開いた。
エムリットはマーズを親として認識したようにまっすぐと見つめた。