俺の時間を穏やかにしてくれないのはなぜだ 作:ジンジャー・エール
北野くんも出てきます。
恋愛してないじゃないかと思うかもしれませんが気にしないでくだせぇ…
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「たーける!」
「あ、なんだ和斗か」
「ちぇー、少しは驚けよな」
とある昼休み、羽丘学園にて。
突然背中を押されて現れたのは、羽丘学園の一年生、大木和斗。
一方的に思っているだけかもしれないが、僕の親友だ。
彼は同じテニス部で、いつも僕の練習相手になってくれる。
「なぁ、健。お前に抱きついてるその女の子って誰?」
「? モカちゃん先輩だよ」
「え、その人が?」
「うん、今はエネルギー補給の真っ最中だよ」
「ちょっと待って、エネルギー補給?というかお前彼女いたの?」
「いや別に彼女じゃ」
「抱きつかれといてよく言うぜ!お前は仲間だと信じてたのによ!」
そう言って和斗は走り去っていった。
頼むから話くらい聞いてくれよ。
「モカちゃん先輩、まだかかりますか?」
「もうちょっとだけ〜」
「はいはい、分かりましたよ」
「はっ!モカちゃん、今日パン食べてなかった!」
「パン好きなんですか?」
そんな話をしているとチラシを持った和斗が走って帰ってきた。
一瞬、嫌な顔をされたのは気のせいだろう。
「健!見ろよこれ!」
「なにこれ、商店街テニス大会?」
「健、出てみないか?」
「え、やだよ」
「優勝したら商店街の商品券一万円分だってさ」
「先にそれ言ってよ。もちろん出る」
やったー、と喜ぶ和斗。
商品券なんているに決まってるだろ。
これでモカちゃん先輩になにかプレゼントしよう。
僕のような若者が大会に参加することで、商店街も盛り上がるってところか?
まぁ、商品券貰えればいいけど。
「いやー、良かったよ。これで会の人からのおつかいが済んだ」
「あー、やっぱやめようかなー」
☆☆☆☆☆
同刻、花咲川学園にて。
俺はいま、とても困った状況に陥っている。
「諏訪颯人!君にはテニスの才能があるんだ!君がテニス部に入ってくれれば、我が花咲川は全国大会だって狙える」
「だから何回も言ってるでしょ?俺はテニスをするつもりはないんですよ」
「な、なんだと…!」
目の前にいるのは花咲川三年、テニス部部長の東秀吾。
どういうわけか、毎日諦めずにテニス部に勧誘してくる迷惑な先輩だ。
本人に悪気は無いようなので、生徒会につき出すようなことはしないでおこう。
「本当に入ってくれないのか?」
「入りません」
やっぱりこの先輩、生徒会につき出そうかな…
ようやく諦めてくれたようで、東先輩は教室を出ていった。
「いやー、颯人くんモテモテじゃないですか〜」
「男にモテても嬉しくないけどね。望も女子にはモテモテなようで?」
「別にそんなことないと思いますよ?」
こいつは小森望。
俺が小さい頃から一緒にいる、いわば幼馴染といったところだ。
成績優秀、花咲川テニス部期待の次期部長。優しく、見た目の割には力が強く、男らしい。
そんなやつがモテないわけないじゃないか。
去年もチョコをたくさん貰ったとかで、おすそ分けに来たくらいだ。
「ところで颯人くん。久しぶりにテニスしませんか?」
「絶対ヤダね」
「商店街でテニス大会があるみたいで」
「ちょっと話聞いてよ」
「なんと優勝したら、一万円分の商品券が貰えるんです!」
「それでもやらないよ?」
一万円分の商品券なんて持ってても、使わないならただの紙切れだ。
自分のために買うものはなにもないのだ。
「残念ですね〜。その一万円分の商品券で、颯人くんの彼女が喜ぶものプレゼントすればいいのに。残念です〜」
「ちょっと待った。どうして俺に彼女がいること知ってるんだよ。まだ誰にも話してないぞ?」
「え、みんな知ってますよ?」
みんな知ってるだと?
このことを知っているのは、俺と紗夜さんと、あとは日菜さ―
「くそったりゃぁぁ!」
「颯人くん、落ち着いて」
あのアマ、絶対に許さん。
こうして俺は、商店街のテニス大会に渋々出ることになった。
☆☆☆☆☆
テニス大会当日。
僕と和斗は、大会の会場に来ていた。
そこは見ただけで分かる豪邸の敷地の中にあり、大規模な大会でも使用できそうなくらい広かった。
「ついに、ここまでやって来たな」
「予選なんてなかったよ?」
「別にいいじゃねぇかよ!だって、こんなに大きい会場だぞ?」
「気持ちは分かるけど…」
和斗はここに来てから、テンションがやや高めだ。
まぁ、その方が彼の実力を発揮できるというやつだ。
「それにしてもさ、健ってテニスで負けたことあるの?一回も見たことないけど」
「あるよ。和斗とは中二からの仲だから知らないと思う。」
「えぇ!?大人とかじゃないだろうな?」
「いや、一つ年上の」
忘れはしない。
中一のころ、一年で地方大会を優勝すると期待されてたときの話だ。
決勝でその人と出会った。
「そいつの名前は…」
「その人は、'タチカゼ'って人だ」
「タチカゼ?聞いたことないぞ?」
「調べてみたんだけど、テニスで戦績を残していないどころか、名前すらヒットしないんだ。」
「まさに、謎の戦士ってやつか」
戦士はちょっと違うんじゃないか、と思ったのは黙っておこう。
「まぁ、そのタチカゼってやつが参加してなかったら優勝だったんだろ?今回もいけるでしょ、商店街の小さな大会だし」
「和斗、それはフラグっていうんだよ」
「あっ…だ、大丈夫だって!」
そう笑ってみせる和斗。
まぁ、商店街の大会にタチカゼが来るとは思えない。
気楽に行こう。
「それじゃぁ、準決勝を始めようねぇ」
「「え?」」
初戦が準決勝だとは思わなかった。
☆☆☆☆☆
「準決勝、第一回戦は北野選手VS上原選手!!実況はあたし、氷川日菜が!解説はー!」
「ミ、ミッシェルがお送りしま〜す」
初戦は上原先輩と、か。
上原先輩は、中学のときにテニスを教えてくれた師匠だ。
つまり、弟子VS師匠というアニメのような展開である。
「健くん、このひまりちゃんを倒せるかな?」
「あ、集中するんで」
「ええー!もうちょっと何かないの!?」
何かと言われても特に何もない。
試合開始の笛が鳴る。
僕のサーブからか…
師匠を倒して、僕は決勝へ行く!
☆☆☆☆☆
すごい激闘が繰り広げられると思いきや、あっさりと上原先輩を倒して決勝へ進んだ。
女の子をいじめるなんてひどい、なんて言ってたが、勝負は勝負だ。仕方ない。
和斗の方も、試合が終わったらしい。
「なぁ健、俺負けちまったよ」
「えぇ!?」
和斗が負けるなんて信じられない。
羽丘学園の中で、テニスの実力は五本の指に入るのに…
一体誰が和斗を倒したのだろう。
トーナメント表を確認する。
「な、なんだと…!」
「どうした健?」
「タチカゼだ」
「はぁ!?」
タチカゼがこの小さな大会に参加していた。
いや、これはチャンスだ。
ここでタチカゼを倒し、中一のときのお返しをしてやろう。
☆☆☆☆☆
「颯人くん、上出来ですね!三年ぶりとは思えませんよ」
「お世辞はいいよ。それよりこの北野健って人」
「あぁ、なんでも羽丘学園のテニス部のエースらしいですよ?」
「ふぅん…」
北野健、どっかで見たことあるような気がするんだが、どこで見ただろうか。
「それじゃぁ、決勝戦いってみようねぇ」
もう決勝が始まるのか。
コートへ向かう。
そして、コートについた途端、声をかけられた。
「タチカゼさん!」
「た、タチカゼ…?」
俺は諏訪颯人ですけど。
「とぼけても無駄です!三年前、地方大会の決勝戦。覚えていますか?」
あ、思い出した。
北野健ってあのときの相手だったのか。
でも、タチカゼ?
どうしてタチカゼなんだ?
タチカゼ→たちかぜ→立風→颯→はやと→颯人
「こういうことか!」
「急にどうしたんですか」
トーナメント表には颯人が、颯だけで表記されていたのか?
だとしたら、俺は名前を偽装したことになるのか?
な、ならないよね、うん。
これは運営側のミスだ。きっと。
「タチカゼさん!ここであなたを倒して、三年前の屈辱を晴らします!」
「よし、かかってこい青二才!」
人生で一回、これを言ってみたかったんだよね〜。
青二才がなにかは知らないけど。
こうして決勝戦は始まった。
☆☆☆☆☆
「サーブは北野選手からだよ!」
僕のサーブかららしい。
このサーブでタチカゼの体勢を崩して、そこに一発強いのをお見舞いしてやる。
思いっきり、全力のサーブ。
ラインギリギリでバウンドしたボールは、その速さを緩めることなく相手コートを駆け抜けた。
「すごーい!えっと、15-0!ミッシェルさん、今のどうでしたか?」
「あ、今のはとても速いサーブでラインギリギリを狙ったすごいサーブだと思います。さすが、羽丘学園のエースといったところだと思います」
その後に、これでいいのかな、とミッシェルの小声が聞こえたのは気のせいだろう。
このままサービスエースを決め続けて、優勝してみせる!
同じく全力のサーブ。
今回もラインギリギリを狙うことが出来た。
普通なら届かない位置。
今回も僕が点を取れる。
「あらよっと」
「!?」
返された!?
なら、コートの反対側に速いボールを飛ばすだけだ。
「ほいっ」
「な、なんで」
なんで戻って来ているんだよ!
「結構続いてるね〜。これっていい勝負してるんじゃない?」
「いいえ、北野選手はずっと点を決めにきているんです。それを諏訪選手は、余裕を持って捌いているんです。」
「え、でも返すだけじゃ勝てないよ?」
いや、ただ返しているだけじゃない。
常に、それも的確に僕の死角を狙っている。
和斗が負けた理由がわかった。
「全く、恐ろしいな」
タチカゼ、やはり三年前と変わらない強さを持っていた。
☆☆☆☆☆
15-0、ここから全くゲームが進んでいない。
あれから十分、ずっとラリーをしているのだ。
僕はラリーをするつもりはない。
しかし、そうしないとタチカゼには勝てない。
しかもタチカゼは、なぜか強い球を打ってこない。
油断させるためか、それともただ打てないだけか。
どちらにせよやることは変わらない。
相手の隙をみて、そこを叩く。
それを繰り返せば必ず勝てる。
「諏訪さん、どこですか?」
「あ、紗夜さん」
後ろを向いた。今だ!
強い一発。
焦って、相手の正面に打ってしまったが、振り向いて体勢を整えている間には、もう終わっている。
「いっけぇぇ!」
「あ、ちょっと待ってて」
ボールのバウンドする音。
その音が自分のコートで出たと気づいたのは、自分の斜め後ろに転がるボールを見たときだった。
「ミッシェルさん、いまなにがあったの?あれ、ミッシェルさん?」
「は、背面で相手のコートに強打を入れたんですよ」
確かに背面で打った。
しかし、タチカゼはボールを見ていなかった。
鳥肌が立った。
「諏訪さん、今日は生徒会の仕事を手伝ってくれると約束したじゃありませんか。」
「あ、ごめんなさい。すぐに終わらせて向かいます」
すぐに、だと?
あれが実力と言うのか。
あれはまぐれだ。
その自信が命取りになる。
「それでは、諏訪選手のサーブだよ!」
サーブを返して、今度こそ僕が勝つ。
そして、商品券でモカちゃん先輩になにかプレゼントを―
「おりゃぁ!」
「!?」
サーブを打たれた。
でもボールはどこにも見当たらない。
観衆の声に振り返ると、そこにはフェンスにめり込んだテニスボールがあった。
「言ったろ?」
次元が違う。
タチカゼは僕が戦える相手じゃなかったんだ。
「すぐに終わらせるって」
☆☆☆☆☆
大会の決勝戦は、俺の華麗なサービスエースで幕を閉じた。
ちゃんと賞品を貰って、今は紗夜さんへのプレゼントを選んでいる。
とは言っても、ただ店の前で立ち往生しているだけだ。
「一万円だもんなぁ…」
そんなことを呟きながら、もう一時間が経とうとしていた。
日菜さんを連れてくればよかったなぁ。
「タチカゼさん」
「ん?」
振り返ると、そこには北野健がいた。
「先日はありがとうございました。タチカゼさんと戦えてよかったです」
「そりゃどうも。あと俺の名前、タチカゼじゃなくて颯人だから」
失礼しました、と謝る北野。
別に気にしてはいないからいいけど。
なんというか、かわいい後輩ができたようで嬉しい。
「それにしても颯人さん、ここで何をしているんですか?」
「えーっと、ちょっと買い物をね」
後輩の前で、彼女へのプレゼントを探して一時間が過ぎたなんて言えない。
「奇遇ですね、僕も買い物なんですよ!一緒にどうです?」
なんということだ。
適当な言い訳をして帰るつもりが、一体どうすればいいのだろう。
いや、ここは一緒に買い物をして、何を買えばいいかのヒントを貰おう。
ヒント、貰おう!うん、絶対それがいいと思う!
「仕方ないな〜、付き合ってやるよ」
付き合わせてくださいお願いします。
北野、俺のプレゼントはお前にかかっている。
頼んだぞ。
☆☆☆☆☆
「はぁ…」
ため息もつきたくなるよ。
北野が買いに来たのは、テニスラケットのグリップだった。
颯人さんもどうです?、なんて言ってたがごめんだ。
テニスはなんというか、すごく疲れる。
というかこの商品券、商店街でしか使えないんだよ?
結局あの商品券は北野にあげて、店員さんにおすすめされたネックレスを自費で買った。
俺のお財布は泣いているよ…
「あ、諏訪さん」
「紗夜さん、こんにちは」
ディスイズプレゼントチャンス!
ここでプレゼントを渡すぜ!
「紗夜さん、これをどうぞ!」
「これは…」
どうだ?気に入ってくれたか?
「値札がついていますよ」
「えぇ!?」
痛恨のミス…!
俺としたことが、なんというこだ。
「えっと、すみません」
「なんで謝るんですか?」
「ね、値札がついたままだったから…」
「それなら大丈夫ですよ」
「え?」
「諏訪さんからのプレゼントなら、どんなものでも喜んで貰います。諏訪さん、ありがとうございます」
こ、この人はもしや女神なのでは?
紗夜さんの笑顔はとても眩しく、神々しかった。
「紗夜さんとても綺麗ですね」
「や、やめてください」
「照れてます?」
「照れてません!」
やっぱり俺は、紗夜さんに出会えてよかったと思う。
これからも隣で、紗夜さんと話していたい。
些細なことだが、一番大切なこと。
この日常を守っていこう、と思った。
☆☆☆☆☆
学校が終わり、バンドの練習に行く。
諏訪さんは、東さんという人に連れて行かれてしまった。
「あ、紗夜〜!」
「遅かったわね」
「すみません、ちょっと先生の話が長引いてしまって」
「あら、そのネックレス…どうしたの?」
「紗夜がオシャレしてるなんて珍しいね!」
「あ、これは…」
諏訪さんから貰ったネックレス。
諏訪さんのことだから、きっとたくさん悩んでくれたのだろう。
日菜から聞いた話では、私のためにテニス大会に出てくれたらしい。
私は、諏訪さんと一緒にいるだけで、それだけでいいのに。
「紗夜〜、それ誰からもらったの?」
「ふふっ、秘密です」
「えー!教えてよ〜」
諏訪さんの隣にいたい。
これまでも、これからも―
たくさんの新キャラが出てきましたね〜
作者はやりたいことが多すぎて、結局なにも決まらないのが欠点なんです。
評価、感想とか書いてくれたら泣いて喜びます。