この物語には大きな諸注意が二つあります!
*キャルのキャラストーリー、プリコネ前作のメインストーリー、プリコネRのメインストーリーの『大きなネタバレ』、プリコネアニメ第一シーズン、2021年3月のメインストーリー最新話までを見た状態での筆者の考察・妄想を含みます。
(少なくとも一章の最後までのネタバレを含みます)
アニメだけを見ている人はネタバレに対し、特にすごい衝撃を受けるので超注意!!
(筆者もプリコネの世界の真実にすごい衝撃を受けました)
*作者は赤ちゃんなので、ストーリーの細かい一言一句のセリフは覚えていません。見直してはいるけどね、ばぶううう!
*ユウキ(騎士くん)のキャルルートは確定という前提です。ご注意を。
陛下とはあくまで『家族』という関係です。勘違いなさらぬように。
これらを踏まえた上で時系列など細かいことを気にせず、キャルと『陛下』(覇瞳皇帝)との和解を見たい方はこのまま進んでください!
▶︎OK?
────
「……はい。お父様」
────お前は天才だ。お前は生まれついての皇。全ての人間の頂点に立つ選ばれた神子なのだ。失敗など許されん!!
たとえそれがいかに些細であっても。計算に一つのズレもあってはならない。
1℃のズレなどあり得ない。0.01秒のズレもあってはならない。0.001のズレも。些細では済まされない。
「……お父様。今日もお食事を召し上がらないのかしら?」
────食事など一人で黙々と静かにとれ。
「仲間というのは……役に立つものなのかしら」
────お前に友など不要だ。仲間など不要だ。全ては道具。計算のための数字記号に過ぎん。
彼を神とするための、彼を最高の天才へと育てあげる千里家の徹底的な教育。
────お前に娯楽など不要だ。神は人間を超越した存在。楽しみや悲しみといった余計な感情は捨てろ。
────お前はただ私の言う通りに動けばいい。余計な考えなど一切捨てろ。そうすれば、お前はいつか全人類を支配できる。
「支配……?」
────そうだ。支配すれば、全てが思いのままだ。思うように全てが運ぶのは素晴らしいぞ。人を超越しろ、真那。お前にはそれができる……! 全てを計算できるのだ……!!
そこには世間一般の『愛』など、これっぽっちもなかった。
天才は常に孤独────それは価値観の相違から生まれる。
理解などいらない、求めない。
されたくもない。
たった一人の完成した人間を生み出すための行為。
そう言えば聞こえはいいが、人間とは社会的に他者と協力することが前提となって生まれている生き物だ。
そんな生まれつき不完全な生き物を、
どうしても不完全になる生き物を、
自己完結した完全な存在として再定義させるための教育。
そんな教育がまともであるはずがない。
端的に言えば────ひどく歪んでいた。
だがその教育の甲斐があったのか、それとも彼の心身が歪んだ環境を超越したのか。
彼は礼儀作法など当然、帝王学、医療、統計、量子力学────あらゆる学問を統べた。
だが……それは全て。
彼が幼少期に抱いたたった一つの……他者を利用してでも手にいれたい────野望と成り果てた夢のためだった。
────ま、真那……な、なぜだ……!! なぜ父である私を……!!
「もうあなたは用済みよ、お父様。もう私の望みを達成するための土台はできてしまったもの……口うるさい羽虫は潰しておかなくてはいけないわ♪」
そして、10代となった『彼』は完成した。
「貴方がくれた環境。貴方の下した徹底的な教育。この私が、貴方の与えた全てを利用してあげる……!!」
────ま……まなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
彼の父が憎悪に満ちた目で、赤子の頃は黒かった髪を美しく白く染め歪みきってしまった『彼』を見つめる。
「あ──ーっはっはっはっはっ!! さぁ、計算を始めましょう!! 貴方が言ったように……神となった私が統べる理想郷のために!!」
寸分狂わず、千里全てを見通し、計算し、見下ろす。全てを思うがままに支配する皇帝。
────
*****
父母、執事、一族郎党を社会的に抹消した『彼』は飛び級で学んだ大学や教授経由など、あらゆる場所で出会った天才たちを招集した。
後に『彼』を含めた七人の皇帝にして天才────『
「この私をさしおいて七冠ですって……? 馬鹿らしい。俗人には理解ができないのかしら。七冠において真の皇帝は。頂きにふさわしい人間が、この私だけということに……ふふふっ」
彼は常に玉座にて全てを見下ろしていた。
「ちっ……私と比肩すると言われておいて、ずいぶんな体たらくじゃない。『
仮想世界、レジェンド・オブ・アストルム。
後に生まれる最新万能端末Mimiを利用しダイブするファンタジーの仮想世界創造。
「けれど……『長老』の呼び寄せた
そしてアストルムを管理するAI……後にミネルヴァと名付けられるモノの製作。
「目障りだけど……彼女は私の計画を大きく進ませる最後のピース。なんとかして『長老』にはがんばって彼女を勧誘してもらわなくてはならないわね……」
それに真那は晶の才能は目障りに思ってはいたが────近頃の彼女の人間性までは邪魔に思っていなかった。むしろ好ましく思っていたのだ。
彼にとって、彼女と会った時からその瞳に抱えた絶望を。天才が故に、辿り着く絶対の境地。
この世界に対する────この世界に住むありとあらゆる存在への諦観。
その瞳が、千里真那にとって唯一共感のできる好ましいものだった。
*****
しかし────その全てが、彼の思い描いていた通りには、進まなかった。
「どうして……私の計算は完璧なはずなのに……!! 私が招集した計画の核となる『七冠』の性格や行動分析も……! すべて私が想定した通りに動いている……!! それなのに、それなのになぜ……!?」
計画は難航していた。資金面、賛同者は十分に集まっている。全ては千里真那の計画通りに。
「どこで計算が狂ったの!? 晶が加わらなくても、計画の完遂はあと数年以内にできると出ていたはずよ!!」
全ては想定内、全ては彼の手の内だった。
計画が完遂することは間違いなかった。
────アストルムの完成が、彼が三十代手前になるまで遅れるということを除けば。
*****
この時の千里真那は十代後半。
二十代一歩手前だ。
もう既に、彼にとってはファンタジーの世界になんの躊躇いもなく溶け込めるギリギリの年齢だった。
「あのAIの機能は『ほぼ』完成していると言ったはず……!! 最終調整といって……! あのジジイめ、一体何を考えて……!!」
模索路晶が計画に加わってくれたことはいい。しかし計画が思ったように早く進まない。
一体どういうことだ。
「まさか……あのAIに余計な機能をつけているとでも……? くっ……また計算をやり直さなくてはならないわ……! 『私の世界』を完成させるためにも……!」
******
久しぶりに顔を合わせた『迷宮女王』模索路晶。変わるはずもないはずだった彼女が抱く世界への絶望。
尊敬する父が裏切られ人の悪意によって殺されたことによって生まれた、唯一、千里真那が信じ変わるはずもない好意的に思えた部分。
「やぁ、真那! お久しぶり。元気してた?」
「……っ!?」
しかし、久方ぶりに会う彼女の瞳には、彼の信じた絶望の光は……『世界への諦観』は映っていなかった。
「……変わったわね、晶」
「そう? そっちは相変わらずだね」
そこには代わりに、後の彼女のプリンセスナイトの少年、彼から渡された希望の光が灯っていた。
一体何が彼女を変えたのか。この時の真那は理解など一切できなかった。
────人は、人との出会いを通じて変わっていくということを、彼は計算に入れていなかったからだ。
****
「ふふ、あははははっ!! やってくれたわね─────あの
真那は青筋を立て、苛立ちを虚空へとぶつける。
アストルムをゲーム化することでの資金面での増加、改善を図ったおかげで三十になる一歩手前で、彼の夢見た仮想世界は誕生した。
しかし────それはまだ大衆が夢見る理想の異世界に過ぎない。
今のアストルムはまだ未完成だ。
彼が作りたかったものは大衆によって分け与えられた仮想世界ではない。
彼だけの、彼だけの理想とする仮想世界だ。
だが────アストルムの管理AIミネルヴァを掌握すれば全ては変わる。
ミネルヴァの権能を乗っとれば、あの世界を思うように上書きし、再構築できる。
何人たりとも立ち入ることのない、理想世界に作り替えることができるのだ。
彼の理想の世界、真のアストルムへと。
「そろそろ私自信が動くべき時のようね……案の定、他の七冠が互いに潰し合ってくれているし……全ては私の。最後はこの、千里真那の望む答えに辿り着く……ふっふ、ふふふ……っ、あーっはっはっは!!」
我が覇道は常にあり。
道の上に残る脅威、我が敵は模索路晶────ラビリスタのみ。
只人に堕ちた迷宮女王の選んだ凡人のプリンセスナイト。恐るるに足らず。
全てをデータとして可視化、予測、計算し、常に彼の目的のための最適の行動を与える、この『
……そしてその考えは最後の最後で砕け散ると、この時の彼には知る由もない。
*****
「あ、あの……!!」
「ん……?」
晶のプリンセスナイトについて調べるため、アストルムへとログインしていたある日のことだった。
「その孤高なるお姿……もしかして『七冠』……真那さま……! それも『覇瞳皇帝』の千里真那さまですよね……!!」
若干興奮気味に話しかけてきたのはネコ獣人アバターのプレイヤーだった。
ステータスも職業も普通。突出した要素もなし。いわゆるただのモブ。それも流行に乗って始めた程度の初心者プレイヤーだ。
「そうよ。それがどうかした?」
アストルムにおける、この狐の獣人モデルは真那が自分用にこしらえた特注品。
誰にも真似は出来ないし、複製も不可能のものだ。他の七冠のアバターも同じように唯一無二のものである。
「私以外にこのアバターを設定できるプレイヤーはいないはずだけれど?」
「あ……あぁ、や、やっぱり、そうなんですね……!! あ、あの……!! よ、良かったら! よかったらフレンドになってくれませんか……!」
────身の程知らずが。消え失せろ。
……普段ならそう言って、このコミュ障のアカウントを丸ごと消し去る真那だったが。
そんなことを行った暁には、他の七冠にすぐに自分の存在を気づかれてしまう。
アカウントを消されたことに苛立ち、このネコ獣人のプレイヤーがネットの書き込みに私の情報をぶち撒ける可能性もある。
ここは歯を食いしばってでも、感情を抑えるべき時だ。情報収集の段階で、派手に動くわけにはいかない。
「……悪いけれど、今はあなたに構っている暇なんてないの。あとにしてくれないかしら」
「そ、そうですよね……私のような凡人が……む、無理をいって申し訳ありません。ただ……私、家が真那さまの分家って聞いて、ずっと真那さまに憧れてたから……その、どうしても声をかけずにはいられなくて────」
しばらく話していたが、彼女の話よりも、真那は彼女の記録の方に興味が湧いていた。
────このネコ獣人のプレイヤーは……晶のプリンセスナイトと、このアストルムで接触している!
これは貴重な情報源だ。何としてでも手元に置いておきたい。
「私、さっき言ったみたいな生活だから、真那さまにずっと────」
「あぁ、失礼。キャル……だっけ? 話を遮って、ごめんなさいね」
「い、いいえ!! あたしのほうこそ……しゃべりすぎました……」
話し方もオドオドしていて、臆病そうで。自信が無いくせに、時折自我が強いところはムカつくが、仕方がない。
彼女は貴重な情報源になる可能性がある。ここは優しくしておいて、将来のためにも、友好的な関係を作っておくに限るだろう。
千里真那はそう考えていた。
────アストルム内の手駒は多いに越したことはない。ノウェムやオクトーもいつ裏切るかわからないのだから。
……長々と熱の入った話を聞き流す前、このキャルとかいう小娘は私に心酔していると、
憧れていると言っていた。
利用する駒は従順であればあるほど良い。
憧れといった理解から遠い感情を持っている点も良い。
その上でうまく上下関係をハッキリさせておけば、この私を理解しようなどという愚かな行為にでることも少ないだろう。
────採用だ。
「いいわ」
「……え?」
「さっきは横柄な態度をとってしまってごめんなさいね。いいわ、フレンドになりましょう、キャル」
真那は端末を操作する。
「これが私のIDよ。ネットにバラ撒いたりしたら、すぐにわかるからそのつもりでいてね」
そんなことをすれば、この小娘を社会的に抹殺して自殺させるつもりでもいた。
アカウントIDの変更には特に苦労はしないが。
これは彼女の真那への忠誠心が本物かどうか測る意味合いも含んでいる。
「そ、そんなことしません!! 大切にします……!! 一生大切にします……!!」
「よろしい。じゃあ、クエストを選んでくるから、そこで少し……あなたの実力を見せてくれるかしら?」
「は、はい……!! 真那さまのために、一生懸命がんばります!!」
────これが、キャルと千里真那の馴れ初めであった。
*****
はぁ……どうして私の手駒にはロクな者が居ないのかしら。
ノウェムもオクトーもまともな報告を持ち帰ってこない。いくつか虚偽の報告もしていることも問題だ。
現実世界では優秀な手駒に事欠かないが、このアストルムにおいてはその反対とは。
……全く難儀なものだ。
「? どうかしましたか、陛下?」
「……いいえ。なんでもないわ」
千里真那はこめかみを人差し指で押さえる。
キャルは確かに私に対し、ネコというよりは犬と言っていいほどの凄まじい忠誠心を抱いてはいる。
だが、それ以外がてんでダメだ。
無能。役立たずもいいところだ。空ぶってばっかりで全く私の役に立ちはしない。
私でなくとも、猫の手も借りたい状況でもなければ絶対に頼ろうとは思わないだろう。
これならば忠誠心はなくとも、言われたことだけはキチンとこなすノウェムやオクトーの方が遥かにマシと言っても良いかもしれない……。
「それよりも見てください、これ! 陛下から貰ったプリンセスナイトの権能! こんなヤバいモンスターまでコントロールできちゃいました!」
キャルはウキウキと目の前で大人しくなったドラゴンの群れを真那に見せる。
────なにがそんなに楽しいのか。
彼女に権能を与えたのは、私の忠誠心への褒美。キャル自身の実力を認めてのものではない。
むしろ、私に与えてもらった力が無くては役にも立たない。
緊張した顔でキャルが真那を見つめている。
「まぁ……及第点と言ったところかしら」
そう真那が口にした瞬間、キャルの顔にパァッと笑顔の花が咲く。
いかにも撫でて欲しそうだったので、思わずその頭に手が伸びてしまった。
……まぁいい。人材の育成には時間と労力がかかるのは当然のことだ。
最初は役立たずでも、成長を重ねれば非常に役に立つ手駒がいた事例を私は何度も見てきている。
今のところは私の貸し与えた能力とその忠誠心をもって、精進を重ねてくれれば文句はない。
「ところでキャル。あれ以降、このアストルムでユウキの姿を見たのかしら?」
「い、いいえ。最近は会っていません。そもそも学校も歳も違いますし……」
訂正。キャルは情報源として全く使い物にならない。
*****
「それで? しばらく、連絡がなかったようだけれど? ────キャル」
「……申し訳ありません、陛下」
彼女によると、親の妨害もあって中々アストルムにログインできないらしい。
ゲームをやると頭が悪くなるとか言う、前時代的な教育かしら、くだらない。
やることさえやっていれば、ゲームをしようが運動をしようが変わらないだろうに。
読書もテレビも音楽も。所詮はゲームと同じ娯楽の一つに過ぎないと言うのに。
「はぁ……まぁいいわ」
「あ、そ、そうだ!! 陛下! アイツと……晶のプリンセスナイトと何回か会ったんです。それで────」
今さら役に立ちそうもない情報だ。
それに彼女の伝える大半の情報は主観的な感情を含んでいる。まるで役に立たない上に、雇った諜報員たちが彼女が言った情報を既に私に伝えている。
真那はほとんど聞いた覚えのあるキャルの報告を、左耳から右耳と聞き流していた。
それよりももっと考えるべき方策についての案を頭の中で練っていた。
「そ、そうだ! あたし、親の目を盗んでレベルを上げて新しい魔法を覚えたんです! 魔力量だって上がってるし火力だって……! 少しでも陛下のお役に立ちたいと思って……!」
「そう」
おそらくキャルはミネルヴァ争奪戦においては全くの戦力外だろう。
魔法のスキルはそこそこだが、体力面においては平凡だ。
足手まといにしかならないし、決戦の時は連れて行かないほうが無難。
千里真那はそう結論づけた。
「ごめんなさい……奢って、いましたよね。私なんかまだまだで……陛下のお役に立つなんてできるはずもないのに」
「ぐずぐず言ってないで、早く歩きなさい」
「しょ、承知しました!」
……どちらにせよ、これでこの旧アストルムも見納めだ。
アストルムの空が現実と同じように夕日色に染まっているのを見る。
────決戦はおそらく明日。
いよいよソルの塔で迷宮女王のプリンセスナイトたちとの決戦が始まる。
ミネルヴァを手に入れ、この世界はこの千里真那の手で新たに生まれ変わる。
せっかくだから、この旧世界を歩いて見るとしよう。そんな思いつきで、キャルを気まぐれで従者として横につかせた。
当の本人は真那の隣で何故か嬉しそうな顔をしている。
「どうしたの。そんなにニヤニヤとした顔をして……なにか嬉しいことでもあったのかしら?」
「い、いえ! 陛下の隣にいることができるのが嬉しくて……つい」
……。
思えば、現実世界で自分の横に嬉しそうに立っていたものなど……いただろうか。
「あ! 陛下! あそこの屋台の食べ物! 美味しそうですよ!? 見に行ってみませんか!?」
それも……本心から。
損得なく、理由もなく心の底から親愛の情を向けてくれる。
────遠い日の私が望んだように。
もしかしたら……私が彼女をプリンセスナイトに選んだのは、
「……ふぅ」
────その考えに蓋をする。
くだらない。そんなわけがない。
私は帝王。神である者の覇道の道は常に一人。
わたしの道に────彼女が収まる枠はない。
「……そんなに、はしたなく大声で喋らないで。主人の私まで作法がなっていないように見えるでしょう」
「……あ。も、申し訳ありません」
しゅんと、借りてきた猫のように大人しくなるキャル。元から感情は豊かな方だったが、最近はさらにその起伏が激しいように見える。
「それに、ここで売られているものは所詮、私たちが作ったデータに過ぎない。本当の食べ物ではないわ」
「そ、そうですよね。けど……陛下は本当にすごいです! こんな……味覚や匂いまで再現した……もう一つの世界と言っていいものを、作るだなんて」
────あたしなんかには、一生かけたってできません。
キャルは真に尊敬を向けた眼差しで真那を見つめる。
────媚びへつらい、私の権力に怯える下心ある者たちとは違う。
純粋な敬意をもった、真摯で、好意的な感情で。
「……」
キャルの背後の山から夕日がチラつく。
喧騒がやかましいと思う城下が、今日は何故か静かに感じた。
「陛下は……常に忙しいと思うんですけど。もし! ……もしよかったら。いつか『あっち』で。あたし……一度でいいから、陛下と顔を合わせてお食事ができたらなぁって思ってます」
────食事とは一人で黙々ととるものだ。
今さら、あのどうでもいい父親の顔と言葉が脳裏に浮かぶ。
「……くだらない」
滑るように真那の口から言葉が出る。
「陛下……?」
キャルが怯えたような目で真那を見つめる。
無意識のうちに怒声が出ていたようだ。
「なんでもないわ。それよりも、もう少し静かな場所を探しましょう」
「は、はい! ……静かな場所の方が落ち着くと思いますし、私、飲み物を買ってきます!」
キャルは急ぎ足で屋台の方へと向かっていった。
「……バカね。ここにある全ては虚構のものなのに……飲み物も、本当にあるわけではないのよ」
まるで自分に言い聞かせるように。
そう真那は二つの飲み物を握って、笑顔で戻ってくるキャルを見つめていた。
彼自身気づくことはなかったが、その顔には生まれて初めての穏やかな笑みを浮かべていたという。
その後しばらく会話をして、キャルの境遇や彼女の家系が本当に自分の分家であることを確認し、二人は別れた。
夕陽が二人を照らす。
────影と日向。
何度か道を交わった二人が、これから先、一方がどちらの道へ行くのかを暗示するように。
*****
後編に続きます!
明日の15時に続きを投稿予定です!
感想もよければ、ぜひ書いていってください!
お待ちしています!