シナリオはアニメ版、ゲーム版とをなるべく違和感なく合体させております。
(セリフとか一言一句は丸々全部は書いてないので、そこは勘弁してね!)
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覇瞳皇帝は……もといユースティアナの存在に成り代わった。
洗脳魔法装置による集団洗脳と現実世界での社長としての手腕によって、ランドソル王国を中心とした法整備やインフラを整えたのだ。
『エリス』によって歪められたアストルムで。
「────ゴウシン議長? 一体この数字は何かしら? 説明なさい」
「い、いえ。その……ゆ、ユースティアナ陛下。それはその────ひぃっ!?」
魔力で編んだ鞭を、貴族議会の長のちょうど真横に叩きつける。
「もしかして……こんな小細工で私の眼を欺けるとでも思っているの……? ずいぶんと、ナメられたものね?」
「ひ、は……あ、あひっ」
頑丈な素材で作られた床が、軽い一振りで抉れるのだ。これを人間の顔に叩きつけられたら最後、どうなるかは自明の理。
「────残念ね。私があなたにそこまで内心見下されていただなんて。これは少し……私という存在がどういうものか、教え直す必要があるのかしら……?」
真那は変わらず女神が如き笑みを、不正な記述のある書類を堂々と突き出した議長へ向ける。
「ひ、ひぃぃぃ!! お、お許しを!! どうか、お許しください、陛下ぁぁ!!」
議長は泣き叫び懇願する。
彼に対し、真那は虫ケラを眺めるように見下ろす。
「……はぁ。あなたにはもう頼まないわ。この件は別の者に任せましょう。それと────今後、もしこう言った事態が起こったのなら」
次はない、と暗に言い捨てた後、貴族議長を扇子で指す。
「今度は真面目に働いてちょうだい。今回は特別に見逃してあげる…………あとがつっかえているの。早く出ていってくれるかしら?」
「は、はひっ!! 陛下のお心遣いに感謝いたしますっ!! 失礼しましたぁ──っ!!」
議長は必死に玉座の間から出ていったのを確認すると、真那は顔に手を当ててため息をつく。
「貴族という生まれだけで、よくもまぁアレだけ驕れるものね……野心を隠そうとしない人間は、一度心を叩き折らないと一向に懲りないのよねぇ」
使いようにもならないなら『処理』してしまっても一向に構わないわね……と真那は指を鳴らし、呼び出したシャドウに眼を向ける。
「あんな役にも立たない小物が一人消えたところで世界は何も変わらないのだもの……ふふ」
気に入らない人材を始末することなど、今のアストルムでは現実世界とは比べ物にならないほど容易い。
エリスはこのアストルムに住む人々に『人がモンスターに襲われて不運にも死ぬ』ということが『よくある話』と考えるような倫理観を植えつけている。
それにこのアストルムが歪んだことにより産まれたバグのような謎の存在、『シャドウ』。
『シャドウ』に襲われて殺された人間は世界から完全に抹消され、人々の記憶にも残ることはない。巷では、この現象を『ロスト』と呼んでいるらしい。
「こいつらを操ることも今の私には雑作もないけれど……」
『シャドウ』を取り込むことでアバターを補強……より強くすることができるのも彼は知っている。
これはアストルム全てをデータとして見れる真那だからこそできる裏技。
通常のプレイヤーが同じ行為をすれば、逆に『シャドウ』に取り込まれ、最終的には彼らの養分となってしまうだろう。
「私に忠誠心があって使える手駒は……七冠であるクリスだけでは物足りないわね。『王宮騎士団』ナイトメアは……」
少し玉座に座りっぱなしも疲れてきたと真那は分身を作り、城の外へと転移する。
……そういえば、まだ歪んだアストルムの姿をよく見ていない。
街の様子を散策するのも悪くない、とふと思ったのだ。
「────あら?」
路地裏でゴミのように転がっている少女を目にする。その姿に見覚えがあると思い、ゆっくりと近づく。
「……」
「だ、だれ……ですか?」
────キャル。
そうでかかった口を抑え、真那は歪んだ笑みを浮かべる。
「はじめまして。あなた、自分の名前は言えるかしら?」
「……え? きゃ、キャル……です」
────なんという腐れ縁だ。
死んでも死なないとは、まさにこのこと。
あの時、完全に消滅させたはずの彼女が。
全てを忘れ、記憶を書き換えられ。偶然とはいえ、こうして自分の前に彼女が再び現れるとは。
「なるほど……そういうことね。あの子が望んだのはそういう『願い』だったの……」
「……?」
ユイが、そして彼女と同化したエリスが、アストルムをどのような世界に書き換えたのかを真那は一瞬で察した。
「ねぇ、キャル……」
ユースティアナだけが例外ではない。
この様子ではユウキも、彼の仲間たちも全員蘇っていることだろう。
そして再び千里真那の野望を砕きに来ることは想像に難くない。
ならば、
「キャル。もし行くところがないなら……私と一緒に来る気はないかしら?」
────この捨て猫、利用する価値はある。
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キャルはユースティアナ……今はペコリーヌと名乗っていたか。
彼女とユウキ。その仲間たちと『前世』────以前のゲームだった頃のアストルムでも親しかったはずだ。
「陛下……」
その繋がりを利用し、何らかの形で接点を持たせてキャルをスパイとすれば、彼らの動きを知ることができる。
私への忠誠心が深く、彼らに信用されるキャルはまだまだ利用価値がある。
「陛下……!」
その上、もし私の与えたプリンセスナイトの権能でシャドウをコントロールできるようになれば、私の餌となるシャドウを強化、あるいは、より効率的に私の元へ集めることができる。
「陛下!!」
「うるさいわよ、キャル……今は取り込み中なの」
集めてきたシャドウは一斉に真那の方へと集まる。
「あはっ……! いいわ。いいわよ……!! さぁ、シャドウたち……! もっと! もっとこの私を神をこの世界の真の神とすべく力を与えなさい……! あ、はははは────っ!」
「陛下……っ……!」
キャルは心配そうな目で私を見ている。
────一体、何に怯えているの? 貴方の主人は、着実に神へと昇華すべき力を蓄えているというのに……♪
よく見ると、キャルはその両手に枯れた花を持っていた。
「あら、キャル。なによ、その汚らしい花は。早く捨ててきなさい」
「……はい」
キャルは真那を一瞥すると、肩を落としたまま、階段を降りていった。
「……陛下。喜ぶと思ったのに」
真那は変わらずシャドウを取り込み続け、新世界の構想を夢に見る。
────キャルの渡そうとした美しい白い花が、シャドウたちによって穢されたという事実を知らずに。
*****
「……陛下」
『にゃん……?』
キャルは自分と同じように黄昏ている一匹の黒猫を一人撫でていた。
先ほど真那に献上できなかった花を片手に。
……美しいと思い摘んできた花は、シャドウたちによって色を失い、しおれ枯れ果ててしまった。
「……陛下。あたし……陛下が怖い」
陛下が厳しく恐ろしい人なのはわかってる。
目的のためには手段だって選ばない人だっていうのも。出会った時からわかっていた。
けれど。
「あの影に……陛下が、陛下が壊されていくみたいで……陛下に、もしものことがあったら」
震えた声で一人恐怖を口にするキャル。
キャルには真那の在り方そのものを歪めていくあの『シャドウ』たちの方が、真那よりよっぽど恐ろしく感じた。
────まるであの影が、陛下を破滅へと導こうとしているみたいで。
『シャドウ』は真那には従順だ。
一見、奴らは真那に力を与えてるだけで、大人しく言うことを聞くし、暴走状態になければキャルや他の人々には危害を加える様子はない。
しかし逆にそれが不気味だった。得体の知れない力を持つ癖に、妙に大人しすぎるのだ。モンスターでも人間でもない未知数の存在。その危険性は計り知れなかった。
「あたしが……」
キャルは拳を握り、立てかけた杖を持ち直す。
「あたしが陛下を守らないと……! 強くならないと……いざと言うときに陛下を守るために……!」
キャルは枯れてしまった花をそっと土へと埋める。
「きっと……また……また咲いてくれるわよね」
そう言ってキャルが去った数週間後、花を埋めた土から、一つの芽が出たという。
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ユースティアナ暗殺に失敗したキャルに、彼女の所属するギルドとユウキの監視を命じてから半年が経つ。
特に変わったこともなく、世界は時を刻み続ける。
────この千里真那を王として、このランドソルの玉座に座らせたまま。
美食殿、そして秘密結社……ラビリンスだったか。彼女らに目立った動きはない。
変わったことと言えば、キャルからユウキのプリンセスナイトとしての能力が徐々に全盛期に近づきつつあることぐらいだろうか。
王宮騎士団やクリスティーナとの接触もあったようだし……彼の影響力は記憶を無くした今も健在というわけか。
「……はぁ。結局何の進展もなく戻ってきちゃった……陛下になんて言えばいいのよ」
玉座の間の扉前へとやってきて、ため息をつくキャルが目に入る。入ってきづらそうに扉をわずかばかりしか開けていない。
「────私が、どうかしたのかしら?」
キャルが身体をびくりと跳ねさせて扉をくぐる。
「へっ、陛下!! こ、これは、その……!!」
その背に背負った包みが扉に突っかかり転びそうになるキャル。
何でもないやりとりと報告を終えて、キャルの包みへと真那は目を移す。
「ところで、その袋はなに?」
「あ、こ、これは……! 私たちが作ったお米で作ったおにぎりです! プリ米って言って……! あ、この袋の中身全部そうです!!」
────キャル……あなた、仮にも私の刺客でしょう。何暗殺対象と仲良く米なんか育てているのよ……。
真那は額を指でおさえる。
「陛下もどうですか!? すごく美味しいですよ!」
キャルは満面の笑みで真那におにぎりを一つ取り出して見せる。
────食事というものは一人で黙々と……
ふと、幼き頃に聞いた父の言葉を思い出す。
真那は興味無さそうに顔を彼女から背ける。
「結構よ。私、食事というものに栄養摂取という目的以外を見出せないの。それに所詮はデータに過ぎないわ」
「し、失礼しました……! けど────」
本当に美味しいんです、と途中で無礼と思い、キャルは言葉を引っ込める。
「……何でもありません。差し出がましい申し出でした」
キャルは真那への想いを胸に顔を曇らせる。
外は夕陽で赤く照らされていた。
玉座の間の神々しいステンドグラスが陽に当たり、虹色の光をわずかに床へと照らす。
『────陛下は……常に忙しいと思うんですけど。もし、もしよかったら。いつか『あっち』で……一度でいいから……顔を合わせてお食事ができたらなぁって思ってます』
ふと、真那の脳裏に懐かしいような、暖かいような。そんな思い出が父の言葉を遮って突如浮かぶ。
「……」
真那はしばらく考えるようにキャルの荷物を見つめる。
「キャル」
「え、は、はい……?」
「気が変わったわ。一つ……そのおむすびをくれるかしら?」
梅干し、次にかつお節のおにぎりを片手に、
「どうですか!?」
「黙りなさい。食事は手早く一人でとるもの……そう幼少期から叩き込まれているから」
そして、少し。
彼女らは自身について語った。
「あはは……あたしも、同じです。親は仕事の都合でいなくて……いつも一人で食べてました。店で適当に買って作ったあり合わせで……」
ハッと自分のことを思わず話し込んだ自分に辟易する。
「ご、ごめんなさい! 陛下とあたしは全然違うのに……陛下はあたしなんかとは比べ物にならないくらい高貴で、美しくて……あたしなんかとは比べ物にならない家の方で」
「……そうね。堅苦しくてナンセンスな伝統と規則で……雁字搦めな家で育ったわ」
真那は目を閉じる。くだらない記憶と蔑んでいた思い出が一瞬だけ脳裏に浮かぶ。
「だからこそ────自由になりたかった」
欲しいもの、好きなもので生み出された理想郷で────存分に人生を謳歌したかった。
そのための才能も、頭脳も、環境も。
私には全てある。必ず成し遂げられるという希望を抱いて。
だから苦しいだけの日々を超えられた。
今ではない、いずれいつかと。
そう思ったから。
「そう……最初は、それだけだったのにね」
真那は表情を曇らせる。
────いつから、こうなったのだろう。
それはどこか遠い場所を見ているようで。
もはや叶わぬ諦観を。その瞳に映していた。
「……陛下?」
キャルはなんとなく、今話した内容が、陛下の本音なのだと本能的に感じとる。
心配そうな目を向けると、真那はいつもの態度に戻っていた。
「ふふ────失言よ。忘れてちょうだい」
そう。今はもう────違うのだから。
目的のためならば、あらゆる感傷もあらゆる感情をも捨て去ろう。
皇帝はいつも一人で通りの冷たい目で、玉座の下に映る景色を覗いていた。
手に持つ水晶に映るのは、美食殿として微笑ましい日々を送るキャルと、ユウキ、ユースティアナ、エルフの少女コッコロの姿。
そんな日々を仏頂面ながらも、照れつつ笑うキャルにかつての幼い自分を重ねる。
────役に立たぬならば、切り捨てるべき。
玉座に爪を立てて、皇帝は水晶を睨んだ。
*****