*キャルのキャラストーリー、プリコネ前作のメインストーリー、プリコネRのメインストーリーの『大きなネタバレ』、
プリコネアニメ第一シーズン、2021年3月のメインストーリー最新話までを見た状態での筆者の考察・妄想を含みます。
(少なくとも一章の最後までのネタバレを含みます)
アニメだけを見ている人はネタバレに対し、特にすごい衝撃を受けるので超注意!!
筆者もプリコネの真実にすごい衝撃を受けました。
*これらを踏まえた上で時系列など細かいことを気にせず、キャルと『陛下』(覇瞳皇帝)との和解を見たい方はこのまま進んでください!
真那によって洗脳状態となったキャル。
かつての彼女の優しさは姿を消し、真那の命を満たすことのみを生きがいとするマシーンと化した。
そんな彼女を救おうと立ち向かう美食殿と仲間たち。
ネネカ、ラビリスタ、ラジニカーント、クリスティーナたち、七冠。
彼女らに忠誠を誓うプリンセスナイトたち。
ギルド、ラビリンスのメンバー。
ムイミ……もといノウェム。
────そしてアメスと自らを名乗るフィオの助けにより。
ついにキャルの洗脳は緩み、真那の呪縛からの解放の兆しが見え始める。
キャルの精神世界。それはアストルムではない、現実の世界に非常によく似た光景だった。
街を見下ろせる展望台。
そこでキャルは一人、飛び降り防止のための柵の向こう側で。
────空を見上げていた。
『────ペコリーヌ!』
『────キャルさま』
『キャルちゃん……♪』
『────って! なんでこうなるのよ!!』
『……♪』
「……」
キャルが儚げに見上げる空に映っているのは、美食殿との思い出の────いつもの日常だった。
笑って。怒って、泣いて。
いろんなことがあった幸せな日々。
「あ……あれは……私たちの……?」
「キャルさまとの……記憶……?」
『おにぎり! 美食殿のみんなで作ったんです!』
『────あら、本当に美味しいわ』
そして唯一、食事を通じて。
美食殿の出会いから生まれた、陛下との唯一の繋がり。
互いに心を通わせられる可能性を感じられた、たった一つの記憶。
それらの思い出が。絆が。
キャルを……自殺願望から踏みとどまらせているようにも見えた。
────彼女は、戦っている。
一条のか細い光と。深い闇との間で揺れ動いて。
そして────彼女はペコリーヌを自らの手で傷つけたことで。
潜在意識の中で、自らを。
自らの意思で最後の一歩を踏み抜こうとしていた。
「彼は……偽物のユースティアナは」
「────これだけよ。あたしの幸せな記憶は」
しかし、美食殿の前に立ちはだかったのは。
キャルですら明かそうとしなかった。
その表情豊かな表情の裏に隠した深い闇と絶望だった。
「本当に……これだけよ」
もうわかっただろう。
こんなあたしを早く突き放してくれ。
どうしようもないと切り捨てて、楽にして。
もう嫌だ。苦しいのなんて嫌。
どうしてあたしだけが。
どうして生まれだけでこんな。
誰かを。幸せで優しい奴らを傷つけなければいけない人生を歩まなければいけないの。
不幸になるしかない人生しかないの。
もう嫌だ、まっぴらだ。
全部嘘だ。嘘だらけだ。
こんな嘘つき────早く終わらせて。
『────キャル(ちゃん)(さま)!!』
美食殿のみんなは首を横に振る。
……料理人たちが必死になって調理した料理のように、出された皿の上に残していい食べ物なんてない。
好きだ、高級品に違いないと感じた料理が。
たとえ予想を超えて、ひどい環境で作られた安い素材であっても。
そこから作られ、美味しいと感じたことに変わりはないのだから。
「どうして……!?」
キャルの過去を垣間見ても。
仲間と信じてくれた人達を欺き続けた裏切り者とわかっても。
敵も味方も裏切りきれない半端物と、彼女が自身を卑下し続けていても。
美食殿のみんなは、キャルを見捨てなかった。否、見捨ててなんて『くれなかった』。
「だって」
────大好きなあなたにいて欲しい。
優しいあなたを助けてあげたい。
心から支えたい。
あの輝かしい日々の裏にあったものが、たとえ偽りに塗りつぶされていようとも。
あなたの優しさは。笑顔は。思いやりは。
────あなたの親愛は。
思い出は。
全て本物だと私たちは信じているから。
あなたは────嘘つきじゃない。
誰よりも、自分に素直に生きているよ。
繋がりを消すまいと、命をかけて。
心を一つにして、キャルに手を伸ばし続けるユウキ、ペコリーヌもとい本物のユースティアナ、コッコロ。
「あんたたち……」
その深いまでの愛と繋がりに、ついにキャルは真の意味で美食殿の手をとる。
*****
「……さぁ、始めましょうか?」
キャルを洗脳の呪縛から解き放った美食殿たちが目にしたのは、覚醒した『覇瞳皇帝』────千里真那の姿だった。
皇帝はかつての白き衣を捨て去り、黒く禍々しい鎧と、七冠の頂点と己を誇示するような黒と紫の外套を下ろしていた。
真那の蓄えた荒れ狂うまでの圧倒的な力と、
ユウキの紡いだ絆によって生まれた、幾多もの奇跡がぶつかり合う。
────そして、ついに決着の時が訪れる。
戦場となったのは、ランドソルの城下町。
ユースティアナとユウキたちを中心とした人々。
そして神にならんとする『覇瞳皇帝』……千里真那との総力戦。
彼女らの終わりの見えない熾烈な戦いは、ついにクライマックスを迎える。
千里真那はそれがどうした、と不敵な笑みを浮かべる。
「さぁ集いなさい! ランドソルに集う全てのマナよ────!! 『覇瞳皇帝』、千里真那の名の下に!!」
一気に勝負を決めようと、千里真那はランドソル中の魔力をその身に取り込む。
「か、カイザーインサイトさんの姿が……!!」
黒き外套はひび割れ、王冠は砕け散り、圧倒的な魔力が花開くように顕現する。
皆が戦慄し刃を構える中────キャルだけが顔を俯かせていた。
「はっは……あーっはっはっは、ハーッハッハッハッハッ!!!」
『皇帝』は『獣』へと姿を変えていく。
圧倒的なまでの力を振るい、目の前の全ての敵を灰塵と化すための獣の姿へと。
『────!!』
────天をその巨大な爪で穿ち滅さんとする、美しくも醜く、先ほどまでの神々しさから遥かにかけ離れた姿へ。
魔力の渦を消しとばし、その姿を露わにする。
かろうじて人の姿を保ってはいるものの、人あらざる影を纏うその姿は────まさに神を殺さんとする魔の獣そのものであった。
砕け散り、残骸だけが魔力によって浮かぶ七冠。魔力で練られた巨大な爪。
彼の全身からは、常にとてつもない量の魔力が放出されていた。
『さぁ────全てこの神の前に跪け!!!』
狂笑を浮かべ、限りなく邪悪な笑みを。
獣と化した『皇帝』が浮かべる。
その姿に対し、全員が顔を強張らせていたが、
「……陛下、そんな。そんな……どうして、どうしてそこまでして……」
────キャルだけが別の意味で身体を震わせていた。
常にとてつもない魔力を放出させた、肉体の限界をも超えた真那のパワーアップ。
たしかに凄まじいものだ。圧倒的だ。
だが────。
それはキャルも一時、意図せず体感した己の身をも滅ぼしかねない危険な状態。
キャルは本能的に今の真那の状態をそう感じとった。
────とてつもなく不吉で危ういものと。
いつ彼自身が蓄えた魔力が暴走して弾けてもおかしくない。
今の真那は、大量破壊の魔力を秘めた時限爆弾にも見えた。
「もうやめてください……陛下」
あなたの願いは────自分の命を捨ててまで、本当に叶えたい願いなんですか……?
ユウキやペコリーヌみたいな……なんの理由もなく優しくしてくれるような人達を、こんなにも傷つけてまで叶えなきゃいけない願いなんですか……?
あたしでは────ダメだったんですか?
「もう終わりにしましょう、陛下。あたしたちは……なにもかもやりすぎた」
────キャルは杖を握り直す。
もう彼の瞳には、裏切り者で役立たずのあたしなんか映っていないけれど。
「罪を────一緒に償いましょう。陛下」
どんな罰をも共に受ける覚悟を、彼女は決めた。
美食殿、陛下。
恩人たちに報いるためにも。
暴走し本当の願いを見失った恩人を助けるために、止めるために。
彼女は杖を。
向かってくる魔物たちへと力強く向けた。
「グリム────バァ────ストッ!!!」
*****
「はぁ……はぁっ……なぜ……!? なぜだ……まぜだぁっ!?」
「やぁーっ!!!」
「はぁーっ!!!」
「ちぃっ!!」
ヒヨリやレイの追撃をその爪で防ぐ真那。
「なぜ消し飛ばない……!! はぁっぁあ!!」
「きゃぁぁ!!」
「うわぁぁぁっ!!」
「ヒヨリちゃん!! レイちゃん!! まってて……今、回復するね!!」
「────させるものかっ!!!!」
────この一撃でもって滅殺する。
そんな殺意を込めた魔力の光弾が回復役であるユイに向かって一斉に叩きつけられる。
「はっはっは☆ 私を前にしてよそ見とはっ! 陛下ともあろうものが行儀が悪いじゃないか!!」
「クリスティーナァ……!!」
クリスティーナが盾となり、背後のユイに向かった弾丸の軌跡が不規則に捻じ曲げられる。
「忘れたわけではあるまい────私の『絶対攻撃、絶対防御』を!!!」
「くっ────!!」
「遅い!!」 ────【ナンバーズアヴァロン】!!」
『絶対攻撃』。放たれれば確実に急所を捉える必殺の刃が真那に振り下ろされる。
「ぐ、ガァァァァッ!!!」
そんな攻撃をまともに食らう真那。
形態変化、そして七冠とユウキたちの活躍により精度を完全に失った彼の強大なる権能『覇瞳天星』。
「お、おのれぇぇぇぇ……!!!」
加えて度重なるダメージや、ヒヨリとレイの攻撃によって失われた集中力では。
クリスティーナの『絶対攻撃』を避けることすらままならないのだ。
「ぐ、うううう……!!!」
割れる。破れる。崩れていく。
この『覇瞳皇帝』の定めた覇道が。音を立てて絶対なる肉体と共にひび割れて────!!
「ほう☆ まだ立つか! そうでなくてはな! だが陛下────総力戦だということを忘れては困るなっ!!」
「なに────っ!?」
「たぁーっ!!!」
背後から放たれたペコリーヌ……ユースティアナの一撃。それを反射的に真那は魔力の爪で防御する。
「くぅ……!! 全力ッですっ!!!」
「この程度……!! はぁぁぁっ!!!」
互いに満身創痍。そして勝負を決めるのは意地の
魔力を放出し、どういう原理か『絶対防御』を貫通し、クリスティーナとペコリーヌを弾き飛ばし壁へと叩きつける。
「ぐぁぁぁっ!!」
「きゃぁぁっ!! ────ぐぅっ!」
ペコリーヌは小さく悲鳴をあげて、地面へと叩きつけられる。
「な、なぜ攻撃が……!! もうあの能力は……もう……!!」
「ふ、ふふふふ……アハハハッ!! 絶対ですって、クリスティーナ? 笑わせないでちょうだい!」
魔力の波動と共に巻き上げられた土煙を真那は払い除ける。
「……私が無意味に建物や街道を壊していたとでも思っているの?」
真那は冥土の土産とばかりに、魔力で土煙や瓦礫を宙へと浮かべる。
先ほども、クリスティーナが気にならない程度に土埃を彼女の元へと浮かべていたのだ。
それで全ての攻撃に無条件に反応してしまう『絶対防御』の精度も狂う。
「やはり……それでこそ、陛下……だ」
がくりとクリスティーナは力なく首を俯かせる。
……これで七冠のほとんどは戦闘不能。
しかし────
「みんな……!! しっかり!!」
ユウキを中心とした少女たちの進撃は止まらない。止めきれない。
「おうさ!! いくぜ!! ────【ウルフェンバイト】!!」
「【琉球犬ナックルアロー】!!!」
「【プリンセス────ストラァ──ーイクッッッ!!!】」
「ぐぅ、あぁぁぁぁっぁぁあああああ!!」
ついに、『皇帝』は天空から地へと堕とされた。
「回復いたします……!! 【オーロラブルーミング】……!!」
「終わりです……!! カイザーインサイト!」
再び放たれる一斉攻撃。
しかし、
「────ぐうううっ!!! おのれぇぇぇぇ!! どこまでも目障りな虫けらどもめぇぇぇぇぇっ!!!」
「……っ!!」
皇帝に、千里真那の心に敗北の文字はなかった。地に落ちてなお、彼は少女たちの攻撃を五体満足で受けきった。
「はぁ……はぁ……!! あなたたちに……あなたたちに力を使わされる度……遠のいていく……! 私の覇道が……私の未来がっ……!!」
すでに戦いの始まりの際にあった絶対感はない。真那の無限に思えた圧倒的な魔力を使い果たし、肉体の疲労はすでにピークを迎えていた。
それは向こうも同じ。
故に体力面は目に見えて互角。
だが客観的に見ても、数の面で。
正義は我らにあるという精神面で。
そしてユウキという精神的な支柱が。
切り札が。眩ゆい光が。
一度死んでも、一度殺してもなお立ち上がってきたくれた希望がある彼女らに。
それこそ────敗北などという文字はないのだ。
「今度こそ……終わりです、カイザーインサイト! 大人しく降伏してください。もうあなたに味方してくれる人はいません!」
────味方。
真那はそのたった一言から、ユースティアナたちに最高の絶望と敗北を与える解を見出す。
「味方……?」
乾いた笑みを口元に浮かべる。
ひどく、ひどく歪みに歪んだ笑みを。
それこそ、『彼女』がしてくれた、これまでの好意を全て踏みにじるであろう最低で最悪な下劣な笑みを。
「……ふふ、ふふふ……そう、そうだわ。味方……いるじゃない……っ! いるわよ……! この場で、たった一人! 私に唯一味方してくれる、たった一人の人間が……!!」
それはもはや、執念などと呼べるものですらなかった。
「キャル……!!」
────悪辣な欲望だ。
「え……?」
ひたすら醜い、彼がかつて心の底から唾棄した人間の抱く欲望に。人間が執着の果てに行き着きうる汚れきった部分に。
最後の最後で。
孤独だった皇帝の、その弱い心は縋ってしまったのだ。
「へい……か……!?」
「あなたは……あなただけはわかってくれるわよね……? これまでの失敗も、裏切りも全て水に流してあげる……!! そうだ……食事を……! 二人で一緒に食事をしましょう……! そんな奴らではなくて、この私と……!!」
「……っ」
「あなたは私の……! プリンセスナイトなのだから……!!!」
唯一その弱い心を受け入れ、寄り添ってくれた優しい人間に。
「ぅぅ……!! どうして……!! 陛下……!! どうして、今になって……!!! ううう……っ!!」
「キャルちゃん!!」
「キャル様!! お気をたしかに!! 惑わされてはいけません!!」
「キャル……!!」
美食殿。そして最後に聞こえたユウキの声に。
「────大丈夫」
キャルはある決意を胸にする。
*****
キャルは口が悪いだけで、相手のことを心の底から思いやれる優しい少女だ。
「あたしを信じて、ユウキ」
不幸な人生を歩んできたが故に。
相手の痛みや辛み、そういったものに敏感で理解できる聡明な女の子だ。
そんな彼女の優しさを────皇帝は利用した。それがいかに下劣な行いであるか。
「キャルちゃん……!? だめです!!」
「────」
「ゆ、ユウキくん!? どうして!?」
「キャルを、信じよう」
「あるじ様……」
心の奥底ではそれを理解した上で。
孤独ゆえに失うものなどないと思い込む真那は、そんな罪悪感をも勝利の方程式として割り切ってしまえるのだ。
全ては勝利のために────必要なことだと。
「陛下……」
キャルは真那に向かって歩む。
「あぁ……キャル」
*****
キャルは、最後はどんな形であれ真那が心の底から助けてほしいと。
キャルに手を差し伸べてほしいと本気で思ったのであれば、その手をとることを厭わないつもりだった。
その上で、ペコリーヌの立場……いいや。奪われた存在を返してくれるなら。
────それでもいいと思っていた。
みんなが幸せになる未来。
陛下や美食殿のみんなと楽しく食事ができる未来。
最初は陛下と二人で。
陛下が美食殿の輪に入るのは無理かもしれないけど、あたしが始まりになって……いつか。
監視でもなんでもなく、心の底から笑って。
美食殿とも。陛下と。
もっともっと食事がしたい。
「陛下……本当ですか? あたしと……ご飯を食べてくれるんですか?」
「えぇ……もちろんよ……!! ごめんなさいね、『今までそんなことさえ、してあげられなくて』……」
────たとえ、『あの時』のことを、覚えていなかったとしても。
私の望んだ未来が来るなら、あたしは喜んでこの身を削ろう。
「本当に────よく来てくれたわ……!!」
「あ、ぐっ!?」
────だが最後の最後で。
キャルの暖かな想いは、真那に届かなかった。
「あなたを吸収して……その血と魔力を糧とすれば……!! 私は────!!」
キャルはこの時、はじめて心の底から真那に怒りを覚えた。
裏切られたと。本当に思った。
────どうして……ここまでしても私の想いは届かないの!!
────わかって、くれないの!!!!!
「……陛下は」
「……?」
「陛下は、覚えていないんですね。……あたしと、食べたおにぎり。最初で最後の……二人でしたあの食事のこと……っ!」
キャルは目に大量の涙を浮かべて叫ぶ。
────どうして。
どうしてどうしてどうして……!!
「あなたは……!! そんな思い出なんかどうでもいいって!! 価値のないものだったって!! そう言うんですね!!」
悲しみと怒りに歪んだ目に浮かべて。
「……え?」
「お返しします────!! あなたから貰ったプリンセスナイトの力……全部!!!」
最後に叩きつけたのは、キャルの離縁の一撃だった。
その後、皇帝が敗北を喫したのは言葉にするまでもない。
*****
牢の鎖に四肢を繋がれた彼女には、敗北の理由を考える時間は山ほどあった。
『陛下は、覚えていないんですね。……あたしと、食べたおにぎり。最初で最後の……二人でしたあの食事のこと……っ!』
だが、唯一不可解だったのは。
最後の最後でのキャルの裏切りだった。
あの言葉の意味はなんだったのか。
あの言葉を事前に理解していればキャルは私に味方したのだろうか。
解が出ない。証拠が足りない。
説明に足る理由が足りない。自分の中に決定的に欠けている。
「────食事」
何を言っていた。何を言っていた。
あの子は……キャルは一体何を。
「────おにぎり……」
────真那の脳裏にかつての光景が脈を打つ。
「かつお節……?」
────ノイズが、走る。
『陛下は、梅干しは嫌いでしたか!? だったら、こちらのかつお節の方をどうぞ! あたしは残った梅干しを……ん〜美味しい!』
『んもう、行儀が悪いわよ。私の食べかけよ?』
ザザッ────と。白黒の色褪せた光景がテレビのように流れていく。
『────あはは……あたしも、同じです。親は仕事の都合でいなくて……いつも一人で食べてました。店で適当に買って作ったあり合わせで……』
『……そうね。堅苦しくてナンセンスな伝統と規則で……雁字搦めな家で育ったわ』
────あ。
『この記憶は…………』
最終決戦の準備時に備え、最終調整に入った時だ。山場に入った時は、常に頭の整理を心がけていた。
その際に見つかった記憶を、神に不要な弱さとすぐに断定したはずだった記憶を。
なぜか……自分は少しの間だけ消すのを『ためらった』。
『……不要ね。来るべき戦いに、こんなぬるい記憶は要らない。────捨ててしまいましょう』
……。
「ふ、ふはは……っ」
そうか。自分は……最後の一手を。
よりにもよって────自らの手で、自らの意思で仕損じたのか。
もうあの時点で、真那は最後の瞬間の勝ち筋を自ら知らずに潰していたのだ。
「あんなことで……ふふ、くっく……はは……はははっ……」
あれは────忘れてはならない記憶だったのか。不要では、なかったというのか。
「バカね……本当に、愚かだわ」
それはキャルに言ったものだったのか。
それとも────
「あれを……あんなものを、少しでも大切にしていたなんて」
皇帝は初めて自分に対し、心底呆れたのであった。