極東の騎士と乙女   作:SIS

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久しぶりの更新、申し訳ないです。
ちょっと色々あってパソコンに触れれない状態でした。


code:21 ミミック・ボックス

 

 

 

 

 IS学園近海。

 

 海面に複数のフロートが浮かび、あちこちを監視用の無人ヘリ……といっても、ボールにプロペラとガスバーニアがついたようなもの……が飛び回るエリア。

 

 普段から、ISの実践訓練を行う者達に解放されているエリアを、飛行する漆黒の機影があった。

 

 アメリカ製第二世代IS、ブラックナイフ。

 

 高性能でありながらコストが高く、IS学園にも配備されている数は少ない。当然、搭乗を許される者も少なく、自然とその操り手は想像できる。特に、ISスーツの上からメイド服なんか着用してるとなると、そりゃあもう一人しかいない。ちなみに訓練時もメイド服を装備しているのは、この前の代表決定戦で撃墜されたペナルティだ。一年相手に撃墜されたのは事実なので、しぶしぶ従っている。

 

「…………」

 

 鋭い目つきのまま、響子はターゲットの位置を把握する。視線を巡らせる必要はない、ISのセンサーによってもたらされる全方向視界を使いこなす彼女にとって、前も後ろも右も左も等しく、己のシューティングレンジの中にある。直後、放たれた弾丸によって、複数のターゲットが四散する。

 

 見事なまでの射撃技術。だが、真にみるべきは、ターゲットへと銃を向ける際の動きだ。副腕を持たない状態のブラックナイフの射撃範囲は、当然人間のそれに準拠する。だからいきなり真後ろに射撃とか間接の限界を越えたことはできない。ターゲットを斜線に確保する為に方向転回や減速が必要になってくる。

 

 だが、響子の動きはあきらかにそういった常識を超越した動きを見せていた。方向転換こそするものの、一切の減速なく最高速のまま急角度・急旋回といったUFOじみた機動の中、一切の迷いなく全ターゲットを撃墜。とうてい、既存の物理法則の中にある動きではない。

 

 慣性支配。ISの持つベクトル操作能力によって、本来発生する運動エネルギーの方向をねじ曲げ、超絶的な機動を可能にする超高等技術だ。前回の代表決定戦にそなえて鍛え、実戦の中でモノにしたそれを確かにするべく、響子は訓練に余念がなかった。

 

「…………ふぅ」

 

 今回の動きはどうやら納得がいくものだったらしい。彼女は朝からはじめて緊張をゆるめると、ISを自動設定に切り替えて空中にとどまった。完全自動で空中にホバリングするIS、その腰背部に備え付けられた補助スラスターを椅子に見立てて、体を預けたままふわりと漂う。さらに量子転換でペットボトルを呼び出して、彼女はしばしの休憩としゃれ込むことにした。ちなみにこれ、セシリアからのアドバイスで始めた事だったりする。

 

 高所からは、IS学園とその周囲を飛び回る訓練生の様子がよく見える。そのほとんどが、打鉄やラファールといった量産機だ。かなり離れたところには、見覚えのある専用機の姿もあるがあれは響子としてはあまり関わりたくない部類の人間だ。みなかったことにして海原を眺める響子は、ふとある機体に目をとめた。

 

 中国製第二世代機、暴風(バオフェン)。軽量さとシンプルな構造からくる軽快な運動性と省エネが売りの、割とメジャーな機体だ。発表直後、その基本設計がイタリアのテンペスタを丸パクった上で劣化再設計をしたという事が発覚して盛大に国際社会を騒がせた曰く付きの機体だが、機体性能が落ちてむしろオリジナルのテンペスタより扱いやすいと評判な事からIS学園でも複数用意されている。響子も一度のった事があるが、操作系がマイルドながらも軽快で、なるほど悪い機体ではなかった。しかし、響子が目を止めたのはそんな話からではなく、もっと別の心を占める懸念からだった。

 

「……中華人民共和国、ね」

 

 思い返されるのは、軽快に跳ねる黒のツインテール。

 

 凰鈴音。

 

 先日、IS学園に時期外れの転入生として現れた少女。そして中華人民共和国の代表候補生であり、あの織斑一夏の幼なじみだという。

 

 この時期に学園に転入してくる……それ自体がまず、無茶がある。今、転入してくるぐらいなら、普通に一年生として入学式から入ってくればいいだけの話だ。なのにこんな中途半端なタイミングで入ってきたのは、考えるまでもない、おそらくは織斑一夏が”本物”だと判断したからとしかあり得ない。あり得ないはずの男のIS搭乗適正者……誤報、あるいは偽装を考慮して監視していたそれが本物だった事を知り、少しでも情報を得ようと手の者を送り込んできた。雑多な仕事だが、別にあり得ない話ではない。

 

 そして、それに織斑一夏の幼なじみであるというアドバンテージを持つ少女が選ばれるのは、まあ別に不思議ではない。目的からすれば、その人物に実際に国家代表候補生としての実力があるかどうかなど二の次なのだろう。IS乗りを目指す身としては、業腹物ではあるが……同じ女子として、道具として振り回されている事に同情を感じないわけでもない、というところだろうか。少なくとも、当初はそのように響子は考えていた。

 

 これらの考えを総合すれば、不愉快ではあるが彼女の存在そのものは説明できる。だがしかし、響子が彼女に抱く認識は”疑惑”そのものに尽きる

 

 何故か。答は簡単だ。

 

 その、見せかけのはりぼてにすぎなかったはずの中国代表候補生は……その実、その名にふさわしい隔絶した戦闘力を誇っていたからだ……。

 

 

 

 

「どうも、先輩」

 

 

 

 

 

 思考に言葉が浮かぶ事もなく。

 

 電気仕掛けのトラップのように、全身が瞬時に立ち上がる。

 

 脳の電気信号が像を結ぶ、それよりも早く指先はトリガーを捕らえ、つま先は空を踏みしめる。弾けた体がターゲットを銃口に補足し、ロックオンしてからようやく、響子の認識が像を結んだ。

 

 みたことのないIS。だが、機能性を廃し堅実性を重視した設計が見て取れる。装甲厚高めの設計は近接大パワー型か。その鎧の中で、両手をホールドアップの形にしてひきつった顔を浮かべる少女。特徴的なツインテールと背丈に、一人の名前が導き出されるのに時間はいらなかった。

 

「凰、鈴音」

 

「……あの、流石に過剰反応だと思うんだけど……。いきなりアサルトライフル突きつけられるとか、私、なんかした……?」

 

「反射よ。他意はない」

 

 がちゃり、とアサルトライフルを構えなおす響子。ようやく銃口をはずされて、その少女……鈴音は、ひきつったように浮かべていた笑みを緩ませた。続けて、その瞳が好奇心に彩られる。

 

「でも、今の反応凄いわね。一体、何万回ぐらい訓練したの?」

 

「……さあ。数えている間は二流だとはいえるけど」

 

「あの。私マジでなんかしました?」

 

「だから他意はないわ。私、あまりおしゃべりが得意じゃないの。……なにの用かしら?」

 

 フレンドリーに話しかける鈴音に、セメントな反応を返す響子。端から見れば、響子が鈴音を敵視しているようにもみえる。そんなことはぜんぜん無いのだが。まだ疑惑ではあっても、敵認定はしていない。

 

 それを会話の端からくみ取ったのか、鈴音も困ったようには笑うが少し雰囲気が楽になる。なんだかんだで緊張していたらしい事を読みとって、かわいいところもある娘じゃないか、と響子は少し内面の鈴音像を改めた。

 

「いや、その。先輩って、一夏のおつきのボディーガードみたいな事してるって聞いたんですけど、本当ですか?」

 

「違う。罰ゲームの罰を実行しているだけ」

 

「……???」

 

「理解できないなら忘れて。ただ事実として、結果的に彼の生活を支援、保護しているのは認めるわ」

 

「えっと……?」

 

「それでなに? まさか挨拶だけかしら、用事は」

 

「あ、いえ、そうじゃないですそうじゃないです」

 

 響子の剣呑な視線に、鈴音は焦ったように両手をわたわたさせる。メイド活動の事についてふれると途端に不機嫌になる、とは聞いていた鈴音だったが、しかし実際のところ予想以上だった。これ以上話をこじらせてしまうと機会を逸すると判断し、鈴音は率直に用件を告げる事にする。

 

 つまり。

 

「私と軽く、模擬戦してくれませんか?」

 

「…………へえ?」

 

 ぎろり、と響子の視線が剣呑から明確な敵意にチェンジする。あれ、と首を傾げる鈴音の前で、響子は凶悪な笑みを浮かべて肩に担ぐようにしていたアサルトライフルを構えなおした。

 

「どういうつもりかしら。障害の評価でもするのかしら」

 

「い、いってる事がよくわかんないんだけど?! わ、私はただ単に、こないだあったっていう公式試合で一夏と一緒に戦ったっていう人の実力をみておきたかっただけで……」

 

「そう。ならそういう事にしておいてあげるわ」

 

 ばしゅん、とガス音をたてて、ブラックナイフのバイザーが響子の相貌を隠す。黒いスモークガラスの向こうで戦意に双眸を爛々と輝かせながら、黒い猛禽が羽ばたく。スラスターの火の粉は、舞い散る羽毛か。

 

 なんだか物騒な展開に頬をひきつらせながらも、鈴音も素早く両手に武装を展開する。刃渡り2m以上の、大型の青竜刀型熱単分子ブレード”双天牙月”。

 

「こちらとしても願ってもない。国家代表候補生の実力、この身に刻ませてもらう!」

 

「……なんだかんだいって、先輩、戦闘狂じゃないー!?」

 

 

 

 

 

「なあ、セシリア」

 

「なんでしょう?」

 

 食堂のカフェテラス。

 

 いつものように食後のティータイムとしゃれ込むセシリアとその友人一同、といった体の一夏達。

 

 その席で、一夏がぽつりと切り出した。彼はセシリアに視線をあわせることもなく、じっと手にした紅茶のカップ、そこに満たされた琥珀色の水面にうつる自分の顔をじっと見つめている。

 

「国家代表候補生になったの、セシリアの場合、何年前だ?」

 

「……本当はそういうの、国家機密なんですけども……。まあ、一夏さんならいいでしょう。ざっと、三年前ですわ」

 

 ただし、とセシリアはカップをテーブルに戻しながら続ける。

 

「はっきりいって、国家代表候補生っていうのは、素質やそれだけでなれるようなものじゃありませんわ。私の場合、英国でも有数の資産家であり

 

、現国家代表候補生である教官からの推薦、BT兵器への高い適性、そういった立場による影響が非常に大きいですわ。国により多少は違いがありますけども、逆に言えば国のメンツにこだわる政府ほど、実力以外のところに価値を見いだす傾向が強いですわ」

 

「……簪も、そうなのか?」

 

「うん。私の場合、家の影響が大きいと思う。だからって努力しいない訳じゃないけど」

 

 横で話を聞いていた箒の疑問に、簪も肯定するように頷く。

 

 そんな二人の現役代表候補生の話に、何か思うところがあるのだろう。一夏は真剣な顔で考え込み、カップを抱えたまま沈黙する。そんな彼に、セシリアは自分のカップを空にして、あらたに液体をそそぎ込みながらさらりと告げた。

 

「凰さんの事ですね」

 

「……っ」

 

「一夏さんの気持ちもわかりますわ。二年、そう、わずか二年前に分かれた幼なじみ。その時はただの一市民だった彼女が、あろう事か国家代表候補生という肩書きをひっさげて、このIS学園に現れた。尋常な事態ではありませんわ」

 

「……そ、その、なんだ? 凰さんが、死ぬほど努力してなおかつ天才だったら、あり得ない事でもないんだろう?」

 

 話にわってはいったのは箒だ。彼女は一夏の口から直接、凰鈴音という少女とその思い出を聞いている。セカンド幼なじみとでもいうべきか、自分と同じく織斑一夏という少年と短くない時間を共有し、友情をかわしたであろう少女について、彼女は少ない情報からその実多くの真実を理解していた。それこそ、当の織斑一夏ですら把握し切れていない、多くの柔らかく密やかな事情に至るまで。そんな彼女にとって、鈴音は決して他人ではない。その彼女が、疑惑を前提にはなされる事に耐えられなかったのだろう。鈴音をかばうような箒のセリフに、しかしセシリアは沈痛そうに目を細めた。

 

「……箒さん。貴女の気持ちはわかります。ですが……国家の都合というものは、時として一個人の意志、人生すら踏みにじる事があるのです。この場合、凰鈴音さんが利用されているのはまず間違いないと思われますわ。いいえ、違いますね。この学園にいるというその事実が、彼女が政争の駒である事の証拠ですわ。……きつい言い方ですが、貴女こそ、その事実を身にして理解しているはずです」

 

「…………っ」

 

「でもセシリア・オルコット。腑に落ちないことがある。貴女も気がついている事だけども」

 

 言い負かされて、黙り込む箒をかばうように簪が口を開く。彼女の言葉に、対面の一夏も顔をしかめた。

 

「転入試験の実践演習か」

 

「ええ。何度も繰り返し要素を確認したけれど、あの映像がねつ造である可能性も、中にいる凰鈴音がこの学園にいる凰鈴音と別人であるという証拠もつかめなかったわ。事実として、凰鈴音は、IS学園教師レベルの人間と、機体性能が隔絶しているとはいえ互角に戦えるだけの戦闘力を備えている。単純な操縦技術なら、私やセシリア・オルコットを上回りかねない」

 

 IS学園の転入試験。それは、ただ単に入学試験に比べて高レベルの学問を問われるだけではない。実践試験も、それ相応に難度が高い、というよりも、落とす気満々で行われる。IS学園にしてみれば、季節はずれの転入生なんぞ政争の種でしかない。元々年中実弾と策謀にさらされているのに、それ以上のもめ事なんかノーサンキューという訳だ。たとえハンデつきであっても、割と本気の教師相手に学生レベルが歯が立つ事はまずあり得ない。

 

 だが、凰鈴音はその壁を越えてきた。それはつまり、その実力が生半可なものではないという事だ。

 

 そしてその事実を、一夏達は当然真っ先に確認した。試験の情報は隠されてもいないので普通に手に入る。そして彼らが目の当たりにしたのは、中国の送り出した第三世代型IS”甲龍”の隔絶した性能と、その繰り手である鈴音の驚異的な技量だった。総合性能において第二世代最強とされ、単純性能においてなら第三世代にすら匹敵するフランス製量産型IS”ラファール・リヴァイヴ”を纏った教師……当然リミッターがかけられ性能は落ちているがそれでも国家代表候補を名乗れるクラスの実力者相手に、一歩もひかないどころか、あろう事か鈴音と甲龍のコンビはそれを圧倒してみせたのだ。

 

 その手にしたブレードで、正面から銃撃を剣撃を跳ね返す圧倒的なパワー。

 

 高機動性を誇るラファール・リヴァイヴに追従し、背中すらとってみせる軽快な機動性。

 

 いまだに正体不明の、謎の特殊兵装。あり得ないタイミングと角度で、ラファール・リヴァイヴにダメージを与えた見えざる牙。ブルー・ティアーズにおけるBT兵器にあたるとされるそれは、現在も詳細が不明なままだ。

 

 そしてそれらすべてを、手足のように操り使いこなす凰鈴音の技量。銃弾の豪雨の中的確に命中弾だけをたたき落とし、亜音速で迫る刃の軌道を見極め切り払い、残像を引いて高速で移動する敵機の未来位置を見抜き、最高のタイミングで切り札を切って勝負の流れを決めつける、その戦闘力。

 

 機体も、パイロットも、間違いなく超一流だ。それだけは、疑いようのない事実として存在する。

 

「だからこそ、あり得ないのですわ。二年前は武とも縁遠かった少女が、いかに才能に環境に恵まれたとしても、あれほどの力を手にすることが。現実は現実、しかしそれこそが最大の矛盾。ですが……」

 

「……だけど?」

 

「実際のところ、そうではないでしょう? 一夏さん……貴方が気にしているのは、果たして”そんなわかりきった事”でして」

 

「っ」

 

「? 一夏、どういう事だ?」

 

「それは………その」

 

「あてて上げましょうか?」

 

 え、と一夏に箒、簪がセシリアに注目する。三者三様の視線を浴びながら、セシリアはどこか蠱惑的にほほえんで、くすりと意味ありげにほほえんだ。

 

「……わからなかったのでしょう? 彼女が、凰鈴音であるという事が、初見で。顔をみて、声を聞いて、記憶と照らし合わせて……ようやく彼女が彼女だと、把握したのではなくて」

 

「なんで、それが……」

 

「教官もそうでしたから。一種の特異的な才能を持つ人間は、五感に優先して使われる感覚がありますわ。直感と呼ばれるのが、それ。ただの思いつきでなく、意識の裏にて常時行われている無意識の情報分析、それが見いだした結論……意識が介入しないからこそ、それはありのままをただ、ありのままに導く。その直感が、彼女を知らぬ人間として把握した。貴方の、その深刻な疑惑は、それが原因でしょう」

 

「……ああ。そうだ。箒の時は、雰囲気を感じた瞬間に、顔をみる前、声を聞く前に箒だってわかった。顔をみて、声をきいて、絶対的に箒だって理解できた。けど、違ったんだ。鈴は、アイツは確かに凰鈴音だ。声も、顔も、なにもかも。だけど俺は……わからなかったんだ。アイツを目にして初めて浮かんだのは、知らない人、だったんだ」

 

 まるで罪を告白するような、重苦しい口調で絞り出すようにして告げる一夏。その言葉の意味を、箒と簪は、背筋が凍りつくような気持ちで聞いていた。

 

 だって、それは、そういう意味だ。人間、顔や声なんていくらでも変えられる。くせとかそういうのだって、モデルがあれば訓練すれば身につけられる。だけど、雰囲気だけはダメだ。それは、その人間固有のもの。ありとあらゆる要素が積み上げられた上で醸し出される、個人証明のようなものなのだ。

 

 だから、それは、つまり……。

 

「結論を出すのは早計ですわ」

 

 暗い雰囲気を打ち切るように、ぴしゃりとセシリアが言い放つ。その表情には、いかなる怒りも悲しみも浮かんではいない。

 

「一夏さん。凰さんの幼なじみであった貴方なら、何か秘密の一つや二つ、共有しているのではなくて? それを使って確認すれば、最悪の事態か否かは知る事ができるはず。何かなくて、そういう、絶対に他人にはもらさない、貴方とだけの秘密の出来事とか」

 

「俺と、鈴の秘密……」

 

 ある。

 

 思い当たるものは、ある。もう一人の幼なじみである、五反田弾とだって共有していない、二人きりの秘密の出来事。

 

 

 

 黄金の夕焼け。

 

 

 

「……わかった。どうにか、確認だけでもとってみる」

 

「それがよろしいですわ。……私も、母国の諜報組織に確認をとってみますわ」

 

「すまん。なんだか大げさなことになってきたな」

 

「いいえ。我が国も技術流出の際にお世話になりましたしね、あの国には。イギリス代表候補生としては当然の事です。……という訳ですので、篠ノ之さん、更識さん、一夏さんのフォロー、お願いしますね」

 

「うむ、わかった。まかせてくれ」

 

「本当は私がこういうの関わるのは良くないんだけど……箒のためでもあるし仕方ない。ちょっと実家にも協力してもらう」

 

 ちなみに簪、実家はガチの暗部である。

 

「……悪い。いや、ありがとう、皆」

 

「いえ、べ「気にするな、一夏! 私たちは友人なのだから、助け合うのは当然のことだ! なあ、簪!」

 

「……うん」

 

「こほん、そういう事ですから、まあお気になさらないで」

 

 間違いなく国家の裏事情に首をつっこむことになるであろう、今回の事例。そんなヤバげな状況に、無知故ではなくそうと理解して、それでも助けになると声を上げる三人の友人。感極まって、一夏は声をふるわせて、ありがとう、とだけ返すのが精一杯だった。

 

 

 

 そうして、今後の方針が定まり。

 

 四人がそれぞれ、一つの目的のために独自に動きだそうとした、そのタイミングで。

 

 

 

 凶報が。

 

 

 

 息を切らせ走るクラスメイトの形を借りて、やってきたのだった。

 

 

 

「大変! 織斑君、大変よ! 訓練場で、凰さんと村上先輩がやりあって……! 村上先輩が、大怪我して医務室に運ばれたって……!」

 


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