真・恋姫†無双 -革命- 餓狼奇譚   作:黒絵の具

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御使いの覚醒と未来の可能性

 

「…ごうさん。起きてください、北郷さん」

「…栄華(えいか)。あ…れ?俺消えたんじゃ」

「消えた?もしかして怖い夢でも見たのですか?それに、よく見たら涙の跡まで残って」

 

寝台に腰掛け頬を優しく撫でる栄華の温もりに止まっていた涙がふたただ溢れ、頬を伝う。

 

「…栄華、俺、未来の知識を使って、歴史を滅茶苦茶にしたんだ。何もかもひっくり返して、後悔は一切してないけど、それでこの世界から消されるって夢を」

「…なるほど、この場所はそういうことですか。

大丈夫ですわ。私はここにいます。お姉様も私も華侖さんも柳琳(るーりん)だって、私たち皆」

 

そう言って栄華は左胸に手を添える。そして俺の右手を掴み自分の左胸に当てた。豊かな胸の奥からトクン、トクンと心臓の鼓動を感じる。

 

「一刀さんのここにいます。月並みの台詞かもしれませんが、私達はどれだけ離れていても、想いと心は繋がっています」

「栄華?」

 

突然部屋の隅から煙の様に壁や家具がその輪郭を崩して消えて行く。

謎の現象に理解が追いつかず混乱する俺を栄華は強く抱きしめた。

 

「そんな顔をなさらないででください。

私だって悲しいです。寂しくてたまりませんわ」

「栄華っ」

 

部屋だったものは消えてなくなり、栄華や俺も体の半分は白い空間に溶けるように消えていった。

 

「でも、いつか再会できると確信しています。

私達が天の国に行くのか、貴方が大陸に帰ってくるのか、わかりません。ですがもう一度会えた時はまた私とでぇとをしてください!」

「待ってっ!栄華っ!行かないで!」

「んっ。愛してますッ!いつまでも北郷一刀をッ!私達は心から愛してますっ!」

「栄華ッ!栄華ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

一瞬だけの口付けと愛の叫びを最後に、一刀の意識は夢の世界から現実に戻っていった。

 

◾️◾️◾️

 

「……ぅ」

 

鼻につく異臭に思わず唸り北郷一刀は目を覚ました。

 

「ここは」

 

ぼんやりと意識の定まりきらない頭で周囲を見回した。白い壁やベッド、調度品の類は観葉植物が2、3個あるだけで棚や機材には薬品の瓶や医療品に関するものが多く見られた。どうやら簡易的な医務室らしい。

 

「ようやく起きたか」

「えっ?」(デカッ!)

 

開けたままの出入り口から2mは超えるのほどの大男が入ってきた。

獅子の立髪を連想する雄々しい金髪。

本人の趣味なのか派手な柄のアロハシャツや黒のハーフパンツから除く胸元や手足は荒縄の様に盛り上がり、一目見て戦闘に特化した身体だと推察できる。

サングラスの奥から向けられる視線には、こちらを圧倒する様な覇気に思わず身構えてしまう。額から頬、顎にかけて汗が流れる。

 

(よくわからないけどヤバい。この人、春蘭や呂布なんて目じゃない。

みんなと比べるのも烏滸がましいくらい、強い!

 

それよりも、なんでこの人鼻栓してるんだ!)

 

鼻栓をしているせいか声がくぐもって聞こえてしまい、こっちの片言英会話も相まって、ただ話してるだけなのによくわからなくなる混沌とした状況だった。

 

「ようやくお目覚めか、カズト・ホンゴウ」

「なんで、俺の名前を」

 

男は胸ポケットから小さい濃紺の手帳を取り出した。

制服の胸ポケットの中を確かめるがいつも入れていた生徒手帳がなくなっていた。

 

「俺はトーマス・アンドレだ。ここの社長をしている。

見たところ混乱してるな。だがまずはお前、シャワー浴びろ。

言っちゃ悪いが臭くてな、今のままだと落ち着いて話もできやしない」

「マスター、お呼びでしょうか?」

「ようローラ、小僧にシャワー貸してやるから案内してやれ。

そのあと管理局で適性審査を受けさせる」

「…わかりました。

Mr.ホンゴウ、私はローラと言います。

ここスカベンジャーギルドでギルドマスター専属秘書して働いてます。

あぁ、日本語で結構ですよ、英語は少し不慣れなご様子とお見受けしましたから」

「は、はい。北郷一刀です。よろしくお願いします」

「まずはシャワールームに案内します。こちらへ」

「は、はい」

「俺は戻る。終わったら連れてこい」

「わかりました」

 

◾️◾️◾️

 

(何年ぶりのシャワーだろ)

 

シャンプを熱いお湯でボディソープを洗い流しながら思った事は文明の恩恵についてだった。

 

(あの世界じゃ風呂自体毎日入れるもんじゃ無かったからなぁ。

遠征とか戦じゃ水浴びどころか濡れタオルで体拭くだけだったし)

「泣きたいけど、それよりも先に自分の事を何とかしなきゃな」

 

シャワールームに向かう最中ざっくりではあるが自分の現在の状況をローラさんに教えてもらった。

現在俺は現代、それもアメリカにいる。そして俺ゴミ箱に頭から刺さって気絶していた俺を助けてくれたのがさっきのトーマス・アンドレさんだった。

そしてここからが一番重要な部分だ。

まず結論から言えばこの現代は俺のいた現代の世界ではなかった。

 

10年以上前から世界各地に異次元とこちらの世界を結ぶゲートが発生。

ゲートの先には魔物が跋扈するダンジョンが広がっていた。

だが危険ば魔物だけではなかった。ダンジョンは出現後一定の期間が経つとダンジョンブレイクという内部に生息する魔物がこちら側の世界に一斉に放出される恐ろしい現象が発生する危険性を帯びていたのだ。

高位ダンジョンブレイクであれば地形を変えてしまう事など容易い。そんな最悪の事態を起こさないために魔物を討伐することでダンジョンブレイクを未善に防ぎ、資源を持ち帰る彼らを人はハンターと呼称した。

正式には言えば彼らは覚醒者と呼ばれ魔力に適合したことで、常識では考えられない魔法や超能力、人間離れした身体能力を得た者達を指す。

 

キュッ!バルブを捻ってお湯を止めると掛けてあったタオルで髪や体を拭いて渡された野戦服着て、ローラさんについて行く。

 

「すいません、すぐに用意できたのがその服でしたので」

「あっいやシャワーだけじゃ無いくて新品の服までいただけただけるだけでも十分なんで」

「ありがとうございます。

つきました。マスター、一刀さんをお連れしました」

「おう、入っていいぞ」

「…あ!失礼します!」

 

連れてこられたのはトーマス・アンドレの待つ豪華な執務室だった。

 

「ちゃんと綺麗にしてきたみたいだな。ローラこの後の業務は他の奴に任せておけ」

「よろしいですか?」

「あぁ構わない。

さて、これから予定が詰まってるがちゃんと確認しないといけない事があってな。正直に答えろよ?Mr.ホンゴウ。

 

お前、何者だ?

 

ゾクリッ!自分に向けられたものが殺気であると認識した時にはもう遅かった。ガクガクと体が震え汗が噴き出る。心臓を動かすだけで許しを乞わねばならない、そう錯覚してしまう程の存在感に恐れを抱かずにはいられない。

指の一本も瞬きすらも出来ない、させてもらえない。

 

「改めて名乗ってやろう。俺はトーマス・アンドレ。

アメリカのS級ハンターで、このスカベンジャーギルドのギルドマスターを務めている」

「ぁ…あ、あぁハッ…ハッ!」

「俺はな?自分の財産に手を出されるのが一番嫌いなんだ。

俺にとって財産は資金であり、武器であり、防具であり、このスカベンジャーギルドだ。

俺にとってギルドは家で、ギルド員は家族みたいなもん、つまり誰にも譲れないかけがえのないものに他ならない。

だからこそ、俺は俺の財産に手を出した奴、出そうとする奴を許さない。例えそれがアメリカ政府だったとしてもだ。その可能性があるそれだけでも芽を積んで置く理由には十分すぎる。つまりお前の事だ。

単刀直入に言ってやる。手帳にあったお前の写真や住所を日本大使館に問い合わせた。もちろん大使館経由で日本政府にもだ。

旅行者でもないガキの不法入国でも無さそうだ、そう思ってたら面白い答えが返ってきた」

 

薄々は感じていた。目を覚ましたらアメリカにいたこと、そしてゲート、魔物、ハンターの要素全てがカチリカチリと難解なパズルが閃きにより瞬く間に組み上がるように、情報と情報が組み合わさり現実となって行く。

 

「大使館、そして日本政府からの返答は”北郷一刀なんて人間はアメリカの移住者、旅行そして日本国内にも存在しない“手帳に記載されてた学園や実家住所もショッピングモールや公園だそうだ。

俺の聞きたいことがわかっただろう?

もう一度聞く、カズト・ホンゴウ正直に答えろ。

どうせゲートにモンスターなんて訳わからない存在と殺し合ってる、今更多少の事で驚きもしない。

お前は一体何者だ?」

 

気が付けば跪いて全て話していた。

学生寮で寝ていたら1800年以上前の三国時代、それも武将の全員が女性であるという過去のパラレルワールドとも言える世界に迷い込んだこと。

真名こそ伏せて置いたが曹孟徳に拾われ、共に日々を過ごし想いをかわしたこと。

死んでしまう運命持つ者たちを守る為に未来の知識を使い世界から消され、今に至ることを洗いざらい話していた。

トーマス・アンドレは腕を組みただ聞いているだけで何も言わなかった。全てを聞き終わると「わかった」とだけいい思案に耽る。

 

「成程、普通なら頭の病院を勧められて終わりだが、お前は運がいい。

お前を拾ったのがこの俺だからだ。

着いてこい、行き場のないお前に居場所を作ってやる」

 

サングラを外したトーマスは跪く俺に手を差し伸べると初めて会った時と同じように不敵で豪快な笑みを浮かべた。

彼から放たれる華琳以上の覇気に身震いしてしまう、そして俺はその手を取った。

 

◾️◾️◾️

 

覚醒者通称ハンターの等級は実にシンプルだ。下は最弱のEから始まりD級C級B級A級そして最強格に分類最上位の等級あるS級。S級にはS級で明確な実力差があり、トーマスはゴリアテの二つ名で呼ばれS級ハンターの中でも最強の称号を得ている。

精鋭のA級ハンターが何十人と集まらないといけないA級ダンジョンを単独踏破した傑物であり怪物とも言える人物に連れてこられたのは警戒厳重な巨大オフィスビルだった。

 

「カズト迷子になるなよ?

ここはアメリカのハンター管理局、つまりアメリカ中のハンターを統括してる組織だ。主に、と思ったがローラ」

「わかりました。ハンター管理局は覚醒者の判定審査、ゲートや魔物の調査や研究、罪を犯したハンターの検挙にマスターのような強すぎるハンターの監視など主に裏方の業務が多い組織ですね。

カズトにはこれから覚醒者判定審査を受けてもらいます」

「えっと、ランクが高ければ高いほど覚醒する人が少なくなるんですよね?

できれば高い方がいいですけどもしE級「それはないな」トーマスさん」

 

現代とはいえ見知らぬ世界だ。ハンターのランクが高ければ安定した生活を送る事が出来るが低い場合は正直考えたくはない。

衣食住を持たない俺にとってハンターのランクの高さとは文字通り死活問題に直結するわけだ。そんな俺の不安をトーマスは切って捨てた。

 

「ハンターでできる奴はある程度感知ができる、それをより詳しく判定する為の設備がハンター管理局にある。俺の大雑把な見立てで悪いがA級、低くてもBと見ていいだろ。

まぁ右も左もわからない世界だ、不安になるなってのは無理な話か」

「あ、ありがとうございます」

「それでは私は受付に行ってきます」

 

そう言ってローラは受付に向かっていった。受付嬢はトーマスの姿を見ると驚いたのか立ち上がり挙動不審になる。

 

「ご、ゴリアテっ?!あっ!すいません!

本来でしたらお断りしていますが、Mr.トーマスの要請ということで覚醒者判定審査でご予約いただいてますが、受けるのはどなたでしょうか」

「受けるのはこの小僧だ」

「かしこまりましたお名前を伺ってもよろしいですか?」

「か、カズトホンゴウです」

「アメリカ在住でなければ日本でお受けするのが良いですが、ホンゴウさんは事前に伺った事情の関係で身分証明書の提示などは必要ございません。

すぐに審査の方に移ります。担当の者の案内に従って下さい。

良い結果である事をお祈りしています」

 

その後すぐ後に来た呼ばれてきた職員の後に続いて行くと通されたのは、台座の上でいくつものケーブルに繋がれた真っ黒な球体で、一瞬GA◯TZを思い出してしまった。

 

「ホンゴウさん、少しの間球体に触れてもらいます、それで魔力を自動で解析してランクを判断いたします。

呼吸を楽にして下さい」

「は、はい。……」

 

強く目を瞑り、ゆっくりと深呼吸をした。落ち着かない気持ちのまま目の前の球体に触れる。そして判定が下された。

 

ブーッ。ERROR

ブーッ。ERROR

ブーッ。ERROR

 

足元が崩れるような気がしたという表現を小説でよく見かける。

絶望や悲しさのあまり立っていることすらできなくなる事を言葉で表現したのだろう。ただ所詮はありふれた心情描写の一つで現実にそうなることはないだろう、そう思っていた。だが言葉があるということは体感した事がある人物が多く存在すること意味する、そして俺自身もまたその一人であった。

崩れ落ちる俺とは裏腹にトーマスはなんと喜色を浮かべ笑っていた。

 

「マスター、コレってまさか」

 

それなりに長く務めるローラでさえ目の前の光景は初めてだったようで、驚愕と緊張を抑えきれない。

 

「ククッハハハハハハハッ!そうかッ!そうきたかッ!

最高だッ!本当に最高だよカズト!

俺も可能性は”だけ“は考えはした!だがすぐに切り捨てた大方Aに収まるなんて思って見れば、まさか“S”を引き当てるなんてな!」

 

トーマスは冷めない興奮に取り憑かれたように腹を抱えて爆笑した。

呆然としていた職員は「すぐに局長へ報告しますッ!しばしお待ちくださいッ!」と弾かれた様に判定室を飛び出していった。

 

「え?ローラさん俺、エラーで、Sで、は?え?」

「いきなりERRORなんて結果出れば驚くのも無理はありません。ですが安心してくださいERRORとは覚醒者判定装置で測定不能を指します」

「測定不能?ってことは測定できないほど魔力が無い「ってことじゃ無いんだよ。まぁ何もかもが初めてならそう思うのも無理ないがな」どういう、ことですか?」

 

腰が抜けてへたりこむ俺の頭をトーマスはガシガシと乱暴に撫で回した。

 

「お前は測定不能を測定できないほど魔力が無いと解釈した。だがこれは全く違う、覚醒者測定装置の本当の役割は測定結果の細分化だ、ランクを測るためのものじゃ無い。そんなのできたらS級以上のランクを設定することになってきりがない。

どうせこの後お前には呼び出しが、おっともう来たか。

カズト見ろ、あれがアメリカのハンター達の調整統括を担うハンター管理局局長と副局長だ」

 

厳重な鋼鉄製の自動扉から血相変えて現れたのは壮年の男2人だ。

 

「アンドレハンターっ!」

「ヨォ、ブレナン局長、相変わらず50後半の爺さんとは思えないガタイだな」

「君こそ、いい歳こいた大人とは思えない挨拶だ久しぶりだトーマス。

それで、無国籍のS級覚醒者はそこの青年だな?」

 

トーマスには若干おとりはするがブレナン局長と呼ばれた壮年の男性はへたりこむ俺に目を合わせた。

 

「私はアメリカ合衆国ハンター管理局局長デビット・ブレナンだ。

最初は驚いたよ。いきなりアンドレが『無国籍のガキに拾ったから覚醒者判定受けさせる。準備頼んだ』と一方的に連絡をよこしてくるからな。

 

単刀直入に言おう。

 

Mr.ホンゴウ、アメリカ人にならないか?」

 

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