転生の戦車兵『銀鳩班』    作:タンク

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前回のあらすじ

無線が通じない中で戦う延岡校。別行動で動いていたホリ車はエンジントラブルを起こして前線を離脱していた。こんな状況下にも関わらず、敵は見事な連携攻撃で加藤たちを攻撃していた。
電波障害の原因は、敵が大型の無線機を使用してエリア全体に妨害電波を発信していたのだ。こんな状況下で連携が取れるのは、互いにモールス信号を使用して情報を共有しているからだった。

水田と秋川は妨害電波を発していると思われる戦車を発見し、修理が終わったホリ車と合流して撃破に成功する。その後は無線が無事に回復したことで攻勢に転じ、初戦は逆転勝利で終わった。

2回戦が近付く中、水田の中でとある問題が発生していた。



第十話 市街地戦の切り札

【平成24年5月7日 曇り

 大型連休が終わり、今日からまた学校生活が始まる。今はとにかく、ホリ車の様子が気になっている。

 次の相手も軽戦車を主軸としていると言うが、Ⅱ号戦車とは比較にならない性能を持っていると秋川から聞いている。かつて陸上自衛隊で運用された経歴があると聞く。どんな戦車なのだろう】

 

 

 学園の食堂にて、水田は頭を悩ませていた。目の前に置かれた唐揚げ定食にはまだ箸をつけていない。秋川が肩を揺する。

 

「水田さん・・・大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

「もしかして、2回戦目のこと考えてました?」

 

 水田は軽く頷いた。

 悩みの種は2回戦目のステージだった。今までの山岳地帯とはうって変わり、住宅街が広がる市街地で戦うのだ。

 前世でも市街地で戦闘を行ったことは全く無い。戦場は広い開豁地や山岳地帯ばかりで、住宅街のある市街地で戦闘をするのは今回が始めてだ。

 

 戦車乗りにとって、隠れられる場所が多い戦場は『諸刃の剣』と言って良い。

 歩兵が随伴している場合、建物の中に隠れて対戦車兵器を使用されてやられかねない。

 歩兵に限った話ではなく、戦車も建物を上手く利用すれば敵を待ち伏せして敵を撃破することも容易だ。また、住宅街と言えば狭い路地もある。

 今回の相手も軽戦車を主軸としていると聞く。裏路地を使用されて裏をかかれるような事になれば、なす統べなくあっという間に撃破される。砲塔がない戦車にとって一番戦いづらい戦場なのだ。

 

 これまでの訓練で何度か市街地戦をやったが、角で待ち伏せにあったり、一本道の通路で挟み撃ちにされたりと散々な結果に終わっている。

 水田も慣れない市街地戦で様々な戦術を組んで挑んだが、どの戦術もことごとく破られていた。次の試合をどう運ぶか、悩みは尽きない。

 

 

 昼休みが終わり、各戦車の車長たちが格納庫内に集められた。加藤からは重大な発表があると言われている。新しい戦車でも入ったのだろうか。

 

「全員集まったね。早速だけど、朝言っていた重大発表するわよ。今回の試合のフラッグ車は・・・水田くんのホリ車に決定しました!」

 

 加藤が拍手して盛り上げようとするが、誰も拍手しなかった。あまりに驚愕したので拍手するどころの話ではなかったのだ。

 

「ちょっ、本気ですか!?何でこいつ何です!」酉沢は詰め寄り、水田に指を指す。

 

「いくらなんでも、戦車道のド素人に任せられるわけないでしょう!?先輩たちはどうなんです!?」

 

「確かに新入生には荷が重いと思うけど、良いんじゃない?」

 

 VK45.02(P)車長、3年生の『井深(いぶか)(まい)』。電気系統に詳しく、自分の戦車の電気系の修理や改造をしている。

 

「良いわけないだろ!男子がフラッグ車を務めるなんて前代未聞だ!」

 

 VK30.01(P)車長、3年生の『盛田(もりた)三代(みよ)』。同じ機構を搭載している戦車に乗っているからか、井深をライバル視している。

 

「初戦で勝利に導いたの彼なんでしょ?だったら良いんじゃないんスか?」

 

 T25E1の車長、2年生の『村橋(むらはし)アンナ』。水田と秋川が受験した時にトラックの中で説明をしていたポニーテール姿の女子生徒だ。

 

「賛成と反対が半々かぁ。水田くんはどう思う?」

 

「・・・・・」どう思うと言われても、どうとも言えなかった。

 

「まず質問させてください。何故自分のホリ車にフラッグ車を任せるんですか?」

 

「今回のステージは固定式の戦闘室を持つ戦車で前線張るのはきついかなって思ってさ。フラッグにすれば後方支援に回れるかなって思ったんだけど、だめかな?」

 

「・・・少し考えさせてください。こんな重要なこと、急には決められないので」

 

「分かった。出来れば明日には答え聞かせて」

 

 

 

 午後8時。

 水田は湯船に浸かりながら、フラッグ車の件を考えていた。フラッグ車の車長・・・軍人時代で例えれば、中隊長に当たる。自分にそんな大役が担えるのか・・・

 だが、前線に出たところで満足な活躍が出来ないことは目に見えている。相手は軽戦車。機動力では圧倒的に負けている。となれば、加藤が言うように、後方から支援攻撃をする以外に方法はない。

 湯船を出て体を拭き、寝巻きに着替えて自室に戻ってベッドに寝転ぶ。こんなに悩んだのは、連隊長から戦車長に任命された時以来だ。

 戦車長は乗員全員の命を背負う。指示1つで生きるか死ぬかが決まる。自分に務まるのか、自分が搭乗していたチハ車の中で一晩中悩んだ。ひたすら悩んだが、拒否することは出来ないと感じて車長になることを承認した。

 それが今度は中隊長とほぼ同等の任務を任されようとしている。今度ばかりは断るべきだろうか。

 

(・・・俺が下りたら、加藤隊長のルノー乙がフラッグ車になるんだろうか。製造された年は昭和5年・・・80年以上前だ。そんな戦車で市街地戦か・・・)

 

 水田は目を瞑り、頭の中で色々と考え始めた。30分間の黙考の末、ホリ車に何か増設できる装備がないかと考えた。

 前世の記憶は曖昧だったので、ネットで検索してみた。情報サイトを開き、装備関係のページを開いた。

 主装備は105㎜の戦車砲が1門。ホリⅡ型のみに搭載された37㎜の戦車砲が1門・・・と見ていくと、まだ搭載したことがない装備品の名前があった。

 

「戦車の撃破は難しいかもしれないが、無いよりは良いか」

 

 

 5日後。

 延岡校の学園艦は、岩手県の大船渡市の港に到着した。ここから陸路で会場に移動するのだ。

 移動している間、水田はホリ車の後方に目を向けた。そこにはフラッグ車を示す青い旗が掲げられている。

 色々と悩んだ末、フラッグ車を任せて貰うことに決めたのだ。反対派からは散々な言われようだったが、任された以上、最後までやりきるつもりでいた。

 

 会場まであと5分。

 水田は秋川から聞いた、対戦相手の情報を整理することにした。

 対戦相手は『盛岡高校』。全校生徒数670名。内、戦車道科の履修生は約80名。今回は使用している戦車の情報もある。

 主力戦車はアメリカの『M24 チャーフィー』。1944年にM3/M5軽戦車の更新用として開発された軽戦車だ。

 アルデンヌ高地にて勃発したドイツ軍とアメリカ軍の戦闘、『バルジの戦い』で初陣を飾り、Ⅳ号戦車、ティーガーを撃破した記録が残っている。

 

 第二次世界大戦後は日本の警察予備隊に『重装備』という名目で供与されていた。この時は政治的な事情から『特車』と呼び変えて運用された。

 同時に供与されたM4A3E8と比べて小柄だったので、日本人でも運用しやすいと評価された。その後は『61式戦車』の制式化に伴って装備更新が始まり、1974年に全車退役した。

 

 盛岡校の勝率は全国3位か4位を行ったり来たりしているようで、去年は九十九里に負けて4位だった。

 そんな中、こんな噂が流れている。隊長の妹がフラッグ車の車長を任されるというのだ。中学生を対象にした戦車道の全国大会でフラッグ車を任されて優勝した経歴があるらしい。

 1回戦はこの姉妹が車長を務める2輌のM24が前線に立ち、あっという間にフラッグ車を撃破したという。元々市街地戦が得意のようで、ありとあらゆる裏道を知っているらしい。

 

 会場に到着すると、加藤が連絡事項を伝えるために車長たちを呼び出した。

 連絡事項は2つ。試合開始10分前まで自由時間とする。作戦は前日に立てた内容で実行する。最終の打ち合わせは試合開始10分前にするとのことだった。

 水田の横に立つ酉沢は相変わらず不満そうな顔をしている。水田がフラッグ車を任された事が余程嫌らしい。

 

 水田は連絡事項を秋川たちに伝えた後、会場を自由に散策してくるようにいった。その間、水田はホリ車に残って見張りをしながら点検を始めた。

 点検をしている時、携帯が鳴った。画面を開くと、『三吉』と表示されている。

 

「もしもし」

 

『もしもし?頼まれてたもの出来たから今から運ぶけど・・・間に合うかな?』

 

「なるべく急いでください。取り付けを含めるとあまり時間がないので」

 

『了解・・・急いで持ってくわ!』

 

 

 試合開始10分前。

 水田は腕時計の文字盤を見ながらそわそわしていた。三吉に()()()()()がまだ来ない。あれが無ければ作戦遂行は困難になる。

 

「お待たせー!!」三吉がの声と共に、トラックがスタート地点に現れた。加藤たちはこの事を知らない。

 

「三吉!?何しに来たのよ!もうすぐ試合始まるよ!」

 

「ごめんごめん。水田くんに頼まれたものがあって。5分あれば大丈夫だから」

 

 三吉はトラックに装備されたクレーンで頼まれたものを引き上げ、ホリ車のエンジン部に下ろした。

 

 

 盛岡校陣営。

 設置されたテントの中に車長が10人集められていた。盛岡校戦車道科隊長、3年生の『(はら)琴音(ことね)』は地図を広げて作戦の最終打ち合わせをしていた。

 

「良い?スタートと同時に8号車と9号車はこの裏道を通って敵の背後に回って。1回戦目の動きからして、敵は恐らく纏まって行動すると思うわ」

 

 原は敵の戦闘データに基づいて作戦を立案する。彼女の観察力と直感は敵の迎撃に大きく役立っていたので、乗員からの信頼は厚かった。

 

「あの・・・敵は纏まって動きはしないと思うよ。偵察班を編成して、動きを見た上で判断した方が・・・」

 

 原の作戦に意見を申し出たのは妹の『(はら)琴葉(ことは)』。1年生でフラッグ車の車長を任されている。それが原因か、周りからはあまり良い目はされていない。

 

「何?隊長の作戦に問題があるとでも?」2年生の車長が威圧的に琴葉に迫る。

 

「い・・・いえ。そんなつもりじゃ」

 

「じゃあ黙って従いなさいよ。どうせ姉の七光りでフラッグ車を任されただけのくせに」

 

「・・・分かりました」

 

 姉の琴音と違い、人と関わるのは苦手だ。それでも戦車道の道を進んだのは、憧れていた姉の背中を追いかけたかったからだ。

 

「とにかく、この作戦で行くから。それと琴葉。フラッグ車を任された以上、余計なへましないでね」

 

 琴葉は黙って頷いた。

 

 

 試合開始1分前。

 延岡校の陣営はスタート地点に到着し、試合開始の合図を待っていた。加藤はホリ車に増設された装備を訝しい目で見ている。

 

「・・・あのさ水田くん。念のために聞くけど、その装備って架空じゃないんだよね?」

 

「ええ、ちゃんと史実にも載ってます。これで多少は敵に対抗出来ます」

 

 信号弾が空高く打ち上げられた。同時に「試合開始!」とアナウンスが流れ、両者一斉に市街地に向かって走り出す。

 水田はスタートと同時に車外に出て、エンジン部に設けられた装備についた。

 

「水田さん。大丈夫ですか?」伊藤が心配そうに水田を見る。

 

「問題ない。織田、良いか?今回はお前の操縦技術がメインだ。止まらず走り続けろ。射撃の方は出来るだけ当てるよう努力してくれ。敵は後ろを取りたがりそうだがな」

 

 水田は停車して敵を待つのではなく、敢えて走り続けることで敵の目を反らそうと考えた。森林と違って敵を振切ることは難しくなさそうに感じたからだ。

 訓練では敵に動きを悟られないように慎重な行動をメインにしていたが、それだとどう動いても追い付かれていた。この方法なら敵に見つかっても振り切れる可能性があったのだ。

 

 

 盛岡校の陣営は、作戦通りに8号車と9号車が裏取りに動いていた。琴音はホリ車が2番目に遅いと考えていた。ティーガーⅠ並みの図体で高速で走るのは不可能と想定していた。

 

「ねぇ。あの日本版駆逐戦車、何㎞出せると思う?」8号車の車長が9号車の車長に話し掛ける。

 

「良くて20㎞ってとこじゃない?だって日本の戦車よ」

 

 この2人もそこまで速く走れるとは思っていないようだ。日本の戦車は軽戦車クラスの大きさで40㎞弱しか出せないものが大半だ。それにあの図体となれば、高速で走るのはより一層難しくなる。

 2輌のM24は裏道を抜けて、敵が進軍していると思われる通りに出た。琴音の予想では、ここでホリ車がまだ走っていると考えていた。

 しかし、そこに戦車は1輌も走っていなかった。想定外の事態に、8号車の車長が琴音に連絡を取る。

 

「こちら8号車。敵はいません。既にこの通りを抜けているみたいです」

 

『そんなわけないでしょ!どこかに隠れてるかもしれないから、ちゃんと探して!』

 

 言われた通り、辺りを警戒しながら進んでいく。だが、地図を見返しても戦車が潜めそうな場所は無い。

 その時、何かが近付いてくる音が聞こえてきた。音からして味方の戦車ではない。角を曲がって見ると、ホリ車が高速で走ってくるではないか!

 

「うそっ!あの駆逐戦車、あんなに速く走れるの!?」

 

「でもチャンスよ!ここで後ろを取れば一気に潰せる!」

 

 8号車と9号車は角から飛び出し、ホリ車に向かって高速で接近する!主砲の攻撃があったがかわしてやり過ごし、クイックターンで車体前部をホリ車に向ける。

 一気に加速して距離を詰めて、後は撃破するだけ・・・のはずだった。

 

 

 琴音が指揮を執る1号車に9号車から連絡が入る。8号車がホリ車にやられたと言うのだ。

 

「はぁ!?何で後ろを取ってやられるのよ!」

 

『それが・・・あいつ、エンジン部に2()()()()()()()()()()()()()んです!8号車の履帯がその機関砲で破壊されて、車体のバランスが崩れたところに掃射されて撃破されました』

 

「機関砲!?裏取り警戒して史実に無い装備搭載したのね!すぐ本部に連絡を」

 

『待ってお姉ちゃん。それはちゃんと史実に基づいた装備だよ』妹の琴葉の声だ。

 

「試合中に『お姉ちゃん』って呼ばないで!それで、史実に基づいてるって?そんなバカなことあるわけ無いでしょ!」

 

『その・・・ちゃんと史実に基づいてるって・・・』

 

「あーもう分かったわ!全車、ホリⅡ型?を集中的に狙って!他は全部無視して良いわ!今回はそのホリⅡ型がフラッグよ!」

 

 

「敵は振り切った!そのまま南進して、加藤隊長と合流する!」

 

 水田はエンジン部の上で揺られながら指示を出している。新装備は思っていた通りの働きをしてくれた。

 エンジン部に増設したのは『2式20㎜高射機関砲』を2連装にした『双連20㎜高射機関砲』と言うもので、旧日本陸軍で開発された対空戦車『ソキ車』に搭載されたものを流用している。

 エンジングリルの上に回転する台座と一緒に取り付けただけだが、これは当たりだった。2輌のM24に後ろを取られたが、20㎜の機関砲が予想以上の効果を発揮した。箱形の弾倉で装弾数が少なくなければ扱いやすいのだが、今のところ不自由はない。

 史実でも対空迎撃用としてこの機関砲を搭載する計画があったので、戦車の撃破には向かないが威嚇用に使えるだろうと考え、三吉に頼んで準備してもらったのだ。

 

「水田さん!正面に敵影!」

 

 秋川からの報告だ。前を見るとM24が束になって接近していた。後ろからエンジン音がしたので振り返ると、別動隊と思われるM24が接近している!

 

「前が4輌、後ろも4輌・・・マズい!敵が集中してるぞ!」

 

 今走っている場所は一本道だ。周りはブロック塀で仕切られ、逃げ場がない。

 

「どうします?敵吹っ飛ばしますか?」

 

「いや待て。神原!合図と同時に左側のブロック塀を撃て!織田!ブロック塀の破壊を確認したら飛び込め!」

 

「飛び込むって、ここ住宅街ですよ!?」

 

「構わん!戦車道で破壊された場合は協会が修理費を補償することになっている!飛び込む場所は使われてない倉庫だ。壊されても問題ないだろ!」

 

 逃れる手段は他に無い。神原が砲身を左に傾けてスタンバイする。その間にも敵は挟み撃ちするように距離を詰めてくる。

 水田は肉眼で例の倉庫を確認した。タイミングを逃すと計画は破綻する。距離が10メートル前後に迫る!

 

「撃てぇ!!」

 

 105㎜砲がブロック塀を豪快に吹き飛ばす。ブロック塀の破片と埃が舞う中、前から来ていたM24をギリギリのところで掠めた。

 破壊されたブロック塀を通過して木製の壁を突っ切り、倉庫内に侵入する。木片が倉庫内に飛び散り、ホリ車のエンジン音が響き渡る。

 流石に振り切れただろうと後ろを振り返る。しかし、まだ3輌が後ろからついてきている。倉庫を飛び出して道に出ると水田はヘッドセットのマイクを手に取る。

 

「こちらホリ車水田!敵が集中攻撃してきています!至急増援を要請!場所はエリア661!繰り返す!場所はエリア661!」

 

『こちら井深。近くにいるからすぐ着けるよ。もうちょっとだけ踏ん張ってねぇ』

 

「なるべく急いでください!機関砲だけでは対応しきれません!」

 

 銃身が車体の揺れでブレるので精度があまり良くない。弾倉1つの弾数は20発で、持ってきた弾倉はあと4つ。無駄撃ちは出来ない。

 後ろについたM24は全く離れそうにない。機関砲で履帯を狙っているが、上手く攻撃を避けて接近してくる。距離が縮まれば敵も味方も攻撃の精度が上がっていく。

 敵の攻撃が徐々に正確になっていった。敵の攻撃が一発車体を掠め、水田は身の危険を察知して車内に戻った。

 

「織田!回避行動を取れ!命中するぞ!」

 

『お待たせー。今着いたよー』

 

 前から砲弾が飛翔し、追手の1輌に命中した。弾道を追うと、砲身から煙を出しているVK45.02(P)が停車していた。

 

「井深先輩ですか?助かりました」

 

『井深だけじゃなくて私もいるぞ!!』

 

 今度はVK30.01(P)が真横を通りすぎ、道を塞ぐように停車した。井深は「私たちが対処するから」と言ったので、水田は任せて先を急ぐことにした。

 

「次はどうします?」織田が次の指示を求める。

 

「ちょっと待て、大分進路がそれたな。えー・・・その角を左に曲がって、暫く道のりで進め。突き当たりで用水路に突き当たるから、そこを右に曲がれ」

 

 水田は指示を出した後、再び銃座に戻って辺りを見渡した。敵は見当たらない。井深と盛田が進軍を止めてくれたお陰だ。

 その時。嫌な音が空から轟いてきた。見上げてみると分厚い雨雲が空を覆い、今にも雨が降りそうだった。

 

「ああ・・・嫌な天気だな。こういう時に限ってろくなことにならない」

 

 雨嫌いな性格は前世の引田から引き継がれているらしい。更に言えば、現世で生きる水田にとって、雨が降りそうな天気はろくなことが起きない前触れのようなものだった。

 

『もしもーし。こちら井深。敵の進軍食い止めたと思ったんだけど、すぐ撤退して裏通りに逃げちゃった。もしかしたらそっちに行っちゃったかもしれないわ』

 

「・・・了解です」

 

 水田は軽く溜め息を吐いた。

 何となく予想はしていたが、まだ諦めていないらしい。この試合はフラッグ車を先に撃破した方が勝ちだ。周りの敵を全て倒さなくても問題はない。

 

「周囲の警戒を怠るな。倉庫で振り切った連中も俺たちを探しているだろう。味方との合流ポイントに急ぐぞ。雨も降りそうだしな」

 

 そう言った直後。

 雨雲からポツポツと雨水が降ってきた。始めは小雨程度だったが徐々に勢いを増し、急に大雨となった。

 

「くそっ。弾薬が濡れないように注意しないと・・・ん?」

 

 雨のせいで視界が悪くなり、何かが接近していることに気付くまで時間が掛かった。目を凝らすと、砲弾が目の前で着弾した!

 

「敵だ!さっきの連中が来たかもしれないぞ!」

 

 怒号に車内の緊張感が一気に高まる。

 水田は機関砲を掃射しながら、敵の現在位置を探ろうと目を凝らしていた。しかし、予想以上の悪天候に敵の場所を探るのは困難を極めた。

 敵が発砲した位置から特定しようにも撃つ場所を変えて特定しづらくしていた。厄介な敵が来たと水田は確信した。

 

「織田。ブレーキだ!一気に距離を縮めて敵を見つける!」

 

 指示を受けた織田はすぐに足を置き換えてブレーキペダルを目一杯踏み込む。雨水の影響で車体が滑り、すぐペダルを離した。

 再び前進し始めたと同時に、追ってきた敵の姿が確認できた。車体後部に赤い旗を掲げているM24だった。

 

 

「あーもう!敵に居場所がバレた!」

 

 砲手から報告を受けた琴葉は、「距離を維持しつつ機関砲を叩くように」と指示した。後部に付けられている武器を排除すれば、後々迎撃がやりやすくなるからだ。

 

「何言ってんのよ!今ここでエンジンを叩けばそれで良いじゃない!」

 

 砲手は琴葉の言ったことをあっさり聞き流してしまった。琴葉は「それじゃだめ」と言おうとしたが、既に手遅れだった。

 機関砲が自車を狙って攻撃を始めた。居場所が分かったのだから当然の判断だろう。

 

(何でみんな言うことを聞いてくれないんだろう・・・私って、そんなに信用出来ない存在なのかな・・・)

 

 フラッグ車の車長に任命されてから、周りの態度が冷たくなった。いや、琴音の妹だとクラスメイトに知られた時から周りは冷たかった。

 姉の琴音は西沢姉妹程ではないが『優秀な指揮者』として有名だった。そんな琴音の背中を追いかけてきただけなのに、琴音は戦車道を始めた琴葉を何故か毛嫌いしていた。

 同じ高校に進学すると言った時に見せられた冷血な目は、今も脳裏にしっかり刻まれている。

 

 

 水田は最後の弾倉を機関砲にセットした。これで残弾は40発となる。水田は再び車内に怒号を上げた。

 

「こっちの弾薬は残り僅かだ!これ以上は持ち堪えられないぞ!」

 

 抵抗と攻撃が繰り返される一本道。

 その先で、用水路の水位が徐々に上がり始めていた・・・

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