転生の戦車兵『銀鳩班』    作:タンク

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前回のあらすじ

大雨が降る中で続く試合。ホリ車は敵のフラッグ車、M24に追われていた。
振り切ったと思ったらまた追い付かれを繰り返していく最中、M24が操縦ミスでガードレールを突き抜けて用水路に落下寸前の状態に陥った。

それを見た水田は試合を中断し、救助すると指示した。ワイヤーで互いを繋ぎ、引き寄せようとしたが、度重なるトラブルが原因で2輌は用水路に落下。
水田は車内に留まり、M24に残された乗員の救助に当たった。ロープを使って1人ずつ救助し、何とか全員救助することに成功する。

盛岡校の隊長、原琴音は水田と加藤に対し、「こうなったのも全て自分のミス。だから今回の試合は辞退する」と告げた。延岡校は約数年振りに準決勝へ駒を進めることが出来たのだが・・・


第十二話 スケバンの戦車乗り

【5月14日 晴れ

 昨日、ホリ車の修復作業が始まった。始まったといっても、まだ部品が届いていないので手を付けられる所から手を付けている段階だと言っていた。

 整備班からは、「珍しい戦車なので部品の調達が難しいが、こう言った戦車の部品を扱っているアテがあるから」と言われたので、またすぐ乗ることが出来るだろう。

 折角なので、今日は乗ってみたかった戦車に乗ってみようと思う。例のパンターだ】

 

 今日は朝から戦車道の訓練をすることになっている。

 生徒たちが準備を進めていく中、格納庫の前で水田が加藤に頼み事をしていた。ホリ車が修理中の今だからこそ、やりたいことだったのだ。

 

「『Ersatz(エラザイツ)M10』に乗りたい?あれの事?」

 

 加藤が視線で示す先に、その戦車は停車している。訓練で射撃用の的として使用されているが、訓練そのものに参加したことはない。

 

「乗るのは良いけど・・・水田くん戦車の操縦出来るの?」

 

「操縦訓練はシミュレーションを終えてますし、これまでも何度か操縦に携わった事があります」(前世での事だが)

 

「うーん・・・グランド1周するぐらいなら良いよ」

 

 加藤から鍵を受け取り、早速パンターに向かった。いざ目の前にすると、これが第二次世界大戦時に使用された戦車なのかと思わず愕然としてしまう。

 自分で調べてみた所、このパンターは違う顔を持っている事が分かった。

 

 ドイツ陸軍にて使用された中戦車『ErsatzM10』。またの名を『M10偽装パンター』と呼ぶ。この戦車が誕生した経緯には、とある作戦を遂行するために必要とされたからだった。

 

 バルジの戦いの最中。米英軍に変装して潜入を図る『グライフ作戦』という偽旗(ぎさき)作戦が立案された。

 目標はミューズ川に掛かる橋を破壊。更に戦線後方に侵入、間違った命令を流し、連合軍に混乱を引き起こす事だった。

 

 この作戦を遂行すべく、様々な奇襲作戦や極秘作戦に従事し、『ヨーロッパで最も危険な男』と呼ばれた『オットースコルチェニー中佐』率いる『第150装甲旅団』が編成され、作戦を遂行することになった。

 

 旅団はアメリカ英語が話せる兵士を選抜。更に米軍の戦車15輌。装甲車、自走砲20輌。ジープ100台。オートバイ40台。トラック120台。個人装備の鹵獲品を集めていた。

 しかし調達数は必要数を大きく下回り、戦車は状態が悪いM4シャーマンが2輌だった。

 

 そこでスコルチェニーは、5輌~10輌のパンターG型に追加装甲板を付けて、米軍の駆逐戦車『M10』に偽装させて調達数を稼ごうとした。

 砲塔、車体前面、側面に18㎜~19㎜の軟鉄製の偽装車体を取り付け、キュウポラを撤去。塗装は米軍同様のオリーブドラブ、白星の国籍マーク。第5機甲師団第10連隊風の車体ナンバーを書き込んだ。

 遠目で見ればM10と見間違えてしまう程で、これには米軍の情報局も、そのリアルさに驚かされた。

 この偽装を見抜くのは味方でも容易ではなかったため、識別しやすくするため、車体後部に黄色い三角のマークを付けて、砲身を9時の方向に向けることとされた。

 

 装備品以外にも問題があった。慣用句やスラングを使いこなして喋れる兵士が少なかったのだ。他の兵士は話すことは出来るものの、慣用句やスラングを使いこなして喋れるまででは無かった。

 そこでスコルチェニーは旅団の規模を縮小し、英会話に秀でた兵士を150人選出して『シュティーロウ部隊(EinhitStilau)』という特務部隊を再編成。ErsatzM10もこの部隊に配備された。

 

 作戦決行となったが、旅団は従軍の大渋滞に巻き込まれ先行することが出来ず、ErsatzM10はマルメディー市街地の強襲用として使用される事になったが、米軍の守備隊の待ち伏せ攻撃に遭い、地雷やバズーカ砲によって4輌が失われた。

 

 この作戦に関しては連合軍も察知しており、「ドイツ軍が英語を話せる兵士を集めている」という情報が耳に入っていた。

 この情報に対して、米軍憲兵隊は『偽のアメリカ兵』を見つけ出すために急遽検問所を多数設置し、この影響で供給が大きく滞った。

 更にドイツ兵の個人装備を身に付けていた味方が敵と間違われて射殺されたり、英軍の元帥や米軍の将軍が敵の変装と間違われて勾留されるなど、米軍の間で混乱を招くことになった。

 結果的に見れば部隊が活躍することが無かったが、米軍はこの作戦に踊らされてしまったのであった。

 

 水田は改めて間近でErsatzM10を眺めた。車体は鮮やかなオリーブドラブで塗装され、砲塔の側面には国籍マークの白星が描かれている。

 そして車体側面には、何故かワインレッドのドクロマークが描かれている。この戦車に乗っていた生徒が描いた物だろうか。

 

「水田さん?何やってるんです?」戦闘服に着替えた秋川が話し掛けた。

 

「今からこの戦車に乗ろうと思ってたところだ。丁度良い。お前、車長やれ」

 

「ええ!?い、いや、そんな急に言われても」

 

「外の状況を教えてくれればいい。操縦席の位置からじゃ周りを把握出来ないからな」

 

 戸惑う秋川を置いて、水田はさっさと操縦席に座った。操向レバーを触って感触を確かめ、通信機のスイッチを入れる。

 

「秋川。配置に就いたか?」

 

「就きましたけど・・・本当にやるんですか?」

 

「構わない。このまま戦闘訓練に参加する訳じゃないんだから、そう身構えるな。行くぞ」

 

 イグニッションキーを捻ると、格納庫内でエンジンの力強い音が轟いた。アクセルを数回吹かし、ギアを入れてゆっくり前進する。

 

「水田さん・・・ドイツの戦車なんて操縦出来たんですね」

 

「戦車の構造はどの国でも大体同じさ。M3軽戦車も乗り回していた事があったからな」

 

 格納庫から出ると、水田はギアを上げてどんどん加速していった。ホリ車同様、重量があるからか加速は重い。アクセル全開でもエンジンの唸り声に対して中々加速しない。

 

「そんなに吹かして良いんですか?凄い音してますけど」

 

「重量があるからな。これぐらい吹かさないと加速しないんだ」

 

 スピードメーターの針がが30㎞を指す。ここでギアを3速に上げて更に加速させる。スピードに乗り始めたのか、徐々に加速していく。ギアを4速に上げて更に加速させる。スピードメーターが50㎞を指した。

 

「水田さん!前!前!カーブ!!カーブが!!」

 

 秋川が危険を知らせたが、水田は減速どころか更に加速させ、カーブに向かって突っ込んでいく。

秋川が悲鳴を上げるが気にしない。カーブに差し掛かるとギアを3速に落として減速させ、左のレバーを引いて車体を横に滑らせた!

 車内に横Gとエンジンが唸る音が響き渡る中、水田はギアを上げてアクセルを再び全開で吹かす。遠目で見ていた生徒たちは戦車のドリフト走行に圧巻されていた。

 

 その様子をスマホで撮影している生徒がいた。ErsatzM10が格納庫へ戻っていく様子を睨み付けるように見ている。撮影を終えると走り出して校舎裏にある部活棟に向かっていった。

 長屋のような造りで、体育会系の部活で使用している部屋が幾つかある中。一番端にある部屋に駆け込んだ。数年前に廃部となった部屋で、今は誰も使わない物置部屋と化してた。

 

「リーダー!これ見てくださいよ!」

 

 スマホの画面には、水田が操縦するErsatzM10がドリフト走行している様子が映し出されていた。

 

「こいつら、今年入ったばかりの新入生です。特例で戦車道の出場を認められた例の男子2人組ですよ!」

 

「・・・ふーん。良い度胸じゃないか。しかもこんなドリフトまで決めちゃって。あんたたち、分かってるよな?」

 

 

 昼休みになり、水田と秋川が早めに昼食を済ませて第二格納庫に向かっていた。ホリ車の修理状況を確認するためだ。

 

「水田さん・・・いくらなんでもパンターでドリフトしないでくださいよ。ただでさえ車高が高いんですから、下手したら横倒しですよ。おまけに原田副隊長から説教されましたし・・・」

 

 格納庫にErsatzM10を戻した後。「あんな危険走行をするんじゃない!」と原田からこっぴどく叱られた。

秋川は全く関係無かったのだが、連帯責任を問われて一緒に説教されたのだ。

 

「まぁそれに関しては悪かったと思ってるさ。あんな図体で早く走れる戦車が他にあるとは知らなかったから、ついな」

 

「初めて乗る戦車でドリフトするのはついやるレベルじゃないですよ。というか、水田さんも織田さんに負けず劣らずの技術を持っていたんですね」

 

「暇さえあればシミュレーションをこなしていたからな。それで自然と・・・

 

 バサッ!

 突然後ろから麻袋を頭に被せられた!すぐ袋を取ろうと手を伸ばそうとしたが、手を後ろで縛られてしまった!

 

「何だ!?秋川!いるか!?」

 

「自分も縛られました!」

 

「くそっ!誰だ!こんな馬鹿げたまねをするやつは!!」

 

「うるさいね。黙って付いてきな」

 

 後ろから声がした。女の声だ。2人は視界を奪われ、何処かへ連れていかれた。

 

 

 昼休みが終わり、午後の授業が始まろうとしていた。格納庫前で加藤が点呼を取っていた。ホリ車の番になり、水田の名前を呼ぶ。

 

「えーっと。ホリ車。水田くん。・・・うん?来てないの?」

 

「まだ来てないみたいです。秋川もいません」織田が報告する。

 

「あら、珍しいわね。いつもみんな集まる前から来てるのに。何か聞いてる?」

 

「ホリ車の修理状況を見るからって言ってたんで、格納庫へ行ったと思うんですけど」

 

「そう。じゃあ第二格納庫に行ってんのかな。呼んでくるわ」

 

 加藤は原田を連れて三吉のもとへ向かった。

 

 

 一方。

 誰かに拘束された水田と秋川は、何処を歩いているのか分からないまま連れられていた。

 水田は麻袋越しに何か見えないかと目を凝らしていたが、入ってくるのは日の光だけで景色は全く見えない。そこで日の光の方向を頼りに、今いる方角を整理することにした。

 進んでいたのは西側に建っている格納庫だ。そこから推察し、今何処に進んでいるのか、大体の位置を特定することにした。

 

(日の向きからして、恐らく南に進んでいるな。確かその方角には体育会系の部活が使用している部室棟があった筈だが・・・そこに一体何があるんだ?)

 

 そこから更に歩き、止められた。扉を開ける音が聞こえ、2人は押し込められるように何処かへ入った。無理やり座らされ、漸く麻袋を取られた。

 周囲を見渡すと、廃棄された机や椅子が重ねられ、その上に教科書やゴミが散乱していた。「酷い部屋だな」と言い掛けた時、声を掛けられた。

 

「あんたらかい?ErsatzM10に乗ったのは」

 

 視線を上げると、1人の女子生徒がこちらを見下ろしている。胸元を広げ、ちょっと足を上げたら下着が見えそうになるまで短くしたスカートを履いて、肩まで伸ばした髪を茶髪に染めている。

 側には他に3人いて、みんな同じような格好で2人を見下ろしていた。真ん中で座っているのがリーダーだろう。

 

「何者だ?俺たちをこんな所に押し込めて、どういうつもりだ」

 

「質問してるのはあたしだよ!ErsatzM10に乗ったのかって聞いてんだ!!」

 

 ここは素直に答えた方が良さそうだ。見た目からして、俗に言う『スケバン』という不良女子だろう。こんな連中との面倒事は極力避けたい。

 

「ああ。乗ったが、それが何だ?」

 

「それが何だって?許可無く勝手に乗ったくせに、良い度胸じゃないか」

 

「どうします?やっちまいますか?」

 

「待ちな。痛め付けたところで意味ないさ。そうだねぇ。パシリにするのが一番かもねぇ」

 

「ふざけるな!そもそもお前たちは何者なんだ!ErsatzM10に乗ったのは確かだが、何故お前らの戦車だと断言出来る!?戦車道科に一度も顔を見せたことがないだろう!」

 

「そんなことはどうでもいいんだよ!うちらの戦車に勝手に乗った!それが許せないんだよ!!」

 

 

 第二格納庫に向かった加藤と原田は、三吉から水田たちが来ていないか訪ねていた。三吉は目を丸くしながら言った。

 

「水田くんと秋川くん?見てないけど」

 

「見てない?織田さんからこっちに向かったって聞いたんだけどなぁ・・・」

 

「あのー・・・」整備員の2年生が話し掛けてきた。

 

「多分ですけど・・・『レッド・ドクロ』が関係してるかもしれません。あの不良グループの1人が、朝にErsatzM10が走っている様子を撮影してましたから」

 

 それを聞いた加藤は顔をしかめた。

『レッド・ドクロ』。3年生と2年生3人がつるんでいる、延岡校ではある意味で有名な不良グループだ。

 授業をサボるのは当たり前。気に入らない生徒がいればパシリに使い、恐喝やカツアゲをしているという噂もある。

 

「もしそれが本当ならマズいかもしれないわね・・・でも何でなんだろ。気に触るようなことしてないと思うんだけどなぁ。ねぇ・・・あれ?」

 

 原田に視線を向けたつもりだったが、既にその場に居なかった。原田は部室棟に向かって走っていたのだ。

 

 

 部室棟では、水田と不良グループのリーダーとの言い合いが続いていた。何故こんな目に遭わなければならないのか、その理由が分からないからだ。

 

「勝手に乗ったとは言うが、それを言えば加藤隊長も、整備班の三吉班長も同じだろう?俺たちをこうして縛り上げる理由は何なんだ!!」

 

「あーうるさいね!じゃあ教えてやるよ!!」リーダーが水田の胸ぐらを掴み、険しい目付きで言った。

 

「男子が乗ったからさ。あたしたちは男が大っ嫌いなんだよ!」その時。後ろのドアが開いて原田が飛び込んできた。

 

鬼嶽(おにたけ)!何やってるのよ!」『鬼嶽』と呼ばれたリーダーは、原田の顔をじっと見ながら鼻を鳴らした。

 

「ハッ。誰かと思えば、あんたかい」

 

「あなた・・・何をしたか分かってるの!?」

 

「知るか!!あんただって分かってるだろ?うちらが大の男嫌いだって。だから説教してやろうと思ったのさ。それに・・・今更何のようだい?()()()()()()()、副隊長になったやつが」

 

 会話の内容からして、原田と面識があるらしい。唖然としながら会話を聞いていると、鬼嶽が立ち上がって背を伸ばした。

 

「あーぁ。何か冷めたなぁ。ゲーセンでも行くか」そう言って3人を引き連れて部屋を出ていく。「あ。お前ら2人は今日からパシリだからな。うちらが呼んだらすぐ来いよ」

 

 そう言い残すとドアを乱暴に閉めて行ってしまった。原田が溜め息を吐くと、水田たちに掛けよって言った。

 

「大丈夫だった?すぐにほどくから。それと・・・ごめんなさい。後で言っておくから」

 

「あなたが謝る理由はありませんよ。それより、彼女たちは何者何ですか」水田の質問に原田は言葉を詰まらせた。

 

「・・・あなたが知る必要はないわ。今日の事は忘れなさい」

 

「でも、こうなったのは自分達に原因があるからです。その原因を知るためにも・・・

 

「良いから!・・・忘れなさい」

 

 縄をほどいて貰った2人は、原田の態度に何か裏があるような気がした。2人は目を合わせ、手を使って無言の会話を交わす。

 

(分かってるな?)

 

(聞けそうな相手に聞いてみます)

 

(俺は加藤隊長に聞いてみる。織田たちには悪いが、今回の事は話すな)

 

(了解しました)

 

 

 その日の午後7時。

 秋川がむすっとした顔でアパートに戻ってきた。水田は先に汗を流してリビングでの椅子に座っている。

 

「お。何か聞けたか?」

 

「ええ。井深車長に尋ねたら、パフェの奢りを条件に話してくれましたよ」

 

「そうか。先に汗を流してこい。それから話をしよう」

 

 30分後。

 シャワーを浴びた秋川が風呂場から出てきたところで、互いに聞いた事を話し合った。まずは水田が加藤から聞いた話だ。

 

「俺たちを拘束したのは、延岡校じゃ有名な不良グループだということだ。グループ名は『レッド・ドクロ』。いつもあんな風につるんでいるらしい。これ以上の事は教えてくれなかった」

 

「そうですか。まぁ1年前にあんなことがあったんじゃ話すのは躊躇いますよ」

 

「あんなこと?一体何があったんだ?」水田が質問すると、秋川は井深から聞いた全容を話し始めた。

 

 

 1年前。

 延岡校が一回戦で敗退した後の事だ。この時に隊長を勤めていたのが、水田と秋川が受験した時に来ていた富永だった。

 富永はErsatzM10に搭乗していたグループに対して、「無謀な戦闘で敗北に導く結果になった」と厳しい意見を突き付けていた。そのグループが、『レッド・ドクロ』だった。

 

 鬼嶽率いるこのグループも戦車道科のメンバーで、通常の授業には全く顔を見せなかったが、戦車道の授業だけはサボらず参加していた。「普通の授業を受けているより退屈しないから」と鬼嶽は言っていたらしい。

 レッド・ドクロの戦闘スタイルは単独行動を主体としており、他の味方と連携を取ることは全く無かった。

 常に一匹狼のようなスタイルで戦うので、当時の3年生からはよく見られていなかった。富永が「無謀な戦闘」と言うのは、この単独行動を指していた。

 この指摘に対し、鬼嶽は「うちらは他の味方と馴れ合いはしない。これがうちらの戦闘スタイルなんだ」と言い返した。

 

 それから1週間後の事。

 戦車道の訓練中。ErsatzM10と3年生が搭乗しているT25E1が衝突する事故が起きた。

 ErsatzM10の左側面にT25E1が前から突っ込む形となり、ErsatzM10は足周りが損傷して2週間戦闘不能となってしまった。

 3年生側の主張は、「ErsatzM10が突然車線変更してきて、避けきれず衝突した」という。

 鬼嶽の主張は、「あれだけ見通しが良い状態で真横から突っ込むなんてあり得ない。こっちはちゃんと周囲の確認をしていた」という。

 

 事故が起きた場所は見通しが良い開豁地(かいかつち)のエリアで、鬼嶽が主張するように真横から突っ込むのはあり得ないことだった。

 一触即発の状態だったが、鬼嶽は耐えていた。しかし、当時の戦車道科の担任がろくな調査もせず、いきなり「鬼嶽の方に問題がある」と言い出し、3年生側の肩を持ったのだ。

 男性の教員で生活指導担当だったと言うこともあり、鬼嶽たちの事は良く知っていた。なので今回の一件も、向こうが悪いと勝手に決めつけたのだ。

 

 そう言われた鬼嶽はとうとう我慢出来なくなり、男性の教員に殴り掛かった。メンバーの3人も3年生たちに殴り掛かり、修羅場と化した。

 周りにいた生徒たちが止めに入ったが彼女たちは一切聞き入れず、他の教員たちが集まるほどの大事になってしまった。

 その後、レッド・ドクロの4人は2週間の謹慎処分を受け、3年生側はお咎めなしとなった。

 2週間が過ぎて謹慎が解けた筈なのだが、レッド・ドクロが姿を見せる事はなかった。

 

 そこから1週間後。延岡校で事故が起きたと報告を受けた戦車道協会が『戦車道・事故調査隊』という組織を派遣した。

 この組織は戦車道の試合中や、各校での訓練中に起きた事故、問題を調査、解決するために発足した組織で、報告を受けるとすぐ駆け付けてくれる。この時は「延岡校から匿名で連絡を受けて来た」と言っていたという。

 

 調査隊は事故が起きたエリア、衝突したErsatzM10とT25E1を調査し、「残された履帯跡からして、ErsatzM10が急な車線変更をした様子は見られない。また、互いに残された損傷具合を確認したところ、T25E1が故意に衝突した可能性がある」と結論を出した。

 そこからより詳しい調査の結果。T25E1が故意による衝突事故を起こし、その乗員が罪を擦り付けようとしたことが発覚。

 生徒の見掛けだけで判断した教員にも問題があるとして、延岡校戦車道科は厳重注意を受けた。

 

 この一件が原因なのか、男性の教員は延岡校を辞めてしまい、問題を起こした3年生たちは戦車道科から普通科に移ったという。

 このように結果が出たものの、レッド・ドクロは戦車道科に戻ることは無く、修理されたErsatzM10が再び戦場に赴くことは無かった・・・

 

 

「・・・と言うのが、自分が聞いた話です」秋川が話を終えた時には、既に午後9時を回っていた。水田は椅子の背もたれに寄りかかり、大きく息を吐いた。

 

「成る程な・・・あいつらが男が嫌いだと言うのには、そんな理由があったのか。あの戦車が自分達の物だと主張したのも、納得がいくな」

 

 水田は台所に立ってインスタントコーヒーを注ぎ、マグカップを秋川の前に置いた。

 

「レッド・ドクロは戦車道科を辞めたのか?」

 

「辞めていないらしいです。4人の成績は常に上位で留年もしていないそうですけど、戻る気は無いんじゃないですか?戦車道科に留まっているのも、他の科目に移るのが面倒なだけだと思いますけど」

 

「・・・俺はそう思わない」そう言うとマグカップを口に運び、コーヒーを一口飲んで話を続けた。

 

「分からないのは、原田副隊長に対して『うちらを捨てて、副隊長になったやつが』と言い残した事だ。こればっかりは本人に聞いてみるしかないが、答えてはくれないだろうな。あくまで個人的な見解だが、あの4人組と原田副隊長には、何か深い関わりがあるんだろう」

 

 

 翌日。

 今日も朝から戦車道の訓練が始ろうとしていた。加藤と原田が格納庫に姿を見せた瞬間を見計らい、秋川が原田を呼んで格納庫の裏へ誘った。そこには水田が待っていた。

 原田は昨日の一件がどうなったのかを知りたいから呼び出したのだろうと思った。

 

「わざわざ呼び出してすみません」

 

「ううん。気にしないで。それより、昨日の事がどうなったのか知りたいから呼んだんでしょ?」

 

「いいえ。あなたとレッド・ドクロの関係です」原田の目付きが険しくなった。

 

「あなた・・・その事は忘れなさいって言ったでしょ!」

 

「自分はただの興味本意で詮索しているわけではありません。このままだと互いに試合の士気に影響すると思ったので調べていたんです。あのグループとの関係を調べてどうこうするつもりなんてありません」

 

 水田の言い分に、原田は再び言葉を詰まらせた。この反応を見た水田は、これ以上聞かない方が良いかもしれないと感じた。

 ここまでで何故自分たちが不良グループに絡まれないとならなかったのか、その理由が分かっただけでもよしとすべきだろう。

 

「・・・すみませんでした。もうこれ以上聞いたりしませんので。行こう。秋川」

 

「待って」原田が呼び止めた。水田と秋川が原田を見る。

 

「あなたの言うとおり、このままだと試合に影響するかもしれないわ・・・それに、私が話さなくても他の誰かに聞くでしょ?」

 

「じゃあ、話してくれるんですか?」

 

「ええ。話して上げるわ。私と、彼女たちの関係をね」




シュティーロウ部隊のその後

1947年。
スコルツェニーを含めた将校は裁判を受けた。米軍の装備を身に付けて不当な作戦に従事したとして裁判に掛けられたが、彼らががどのような命令が元で動いていたのか証明出来なかったので全員に無罪判決が下った。

弁護側に立ったイギリスの特殊作戦執行部(SOE)のエージェントも、ドイツ兵の格好をして戦線後方に潜入し、工作活動をした事があると証言した。
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