転生の戦車兵『銀鳩班』    作:タンク

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前回のあらすじ

ホリ車が修理中のため、水田は今しか出来ないことをやろうと思い、加藤に頼んでErsatzM10、通称『M10偽装パンター』を操縦することになった。

翌日。
水田と秋川が格納庫に向かっているとき、突然誰かに拘束されて部室棟に連れていかれ、そこで不良(スケバン)と退治する事になる。
彼女は『レッド・ドクロ』という不良グループのリーダーで、「ErsatzM10に勝手に乗ったな」と水田たちを責め立てた挙げ句、パシリにすると言い出した。
何故こうなったのか、水田と秋川はその理由を突き止めるために情報を集め、副隊長である原田と何か関係があるという結論に至る。

翌日。
2人は原田を呼び出し、どういう関係なのかと聞き出そうとするが、原田はそれを拒否した。
そこで水田は、「ただの興味本意ではなく、互いの士気に影響しかねないから聞いている」と説明した。
それを聞いた原田は、「確かに、このままだと士気に影響するかもしれないし、どうせ他の誰かに聞くでしょ」と言い、「話して上げる。私と彼女たちの関係を」と続けた。


第十三話 銀鳩VS紅いドクロ

 水田、秋川、原田の3人は、校舎内に入って一階の奥に進んでいた。原田から「人気がない場所が良いから」と言われ、2人は言われるがままに付いていっていた。

 加藤には『遅れる』と連絡を入れたと言うので、時間をそこまで気にする必要は無い。

 

「・・・ここなら、誰にも聞かれないわ」

 

 原田に案内された場所は、校舎の1階の奥にある教室だった。覚えている限りでは、レッド・ドクロが勝手に使っている部室同様、ここも使われていない教室だ。

 日が当たりにくい場所だからか昼間なのに少し薄暗く、後ろ側には埃を被った机や椅子が乱雑に置かれている。

 黒板に目をやると、何かを書いていた跡が幾つかあった。誰も使っていない筈なのに。2人はそう思いながら目を合わせた。

 

「あの・・・ここは一体?」秋川が埃を手で払いはがら質問する。

 

「私とレッド・ドクロが作った場所・・・鬼嶽は『作戦基地』って呼んでたわ」

 

 原田は椅子を元に戻し、埃を払って座った。2人も同じように側にあった椅子を持ち、埃を払って座る。座ったことを確認すると、原田は軽く溜め息を吐いて話始めた。

 

「鬼嶽とは、親友だった。でも、私は・・・」原田が話し始めた。あの時、鬼嶽との間に何があったのか・・・

 

 

 2年前。原田が入学して間もない頃。

 延岡校に、誰からも恐れらている生徒がいた。名前は『鬼嶽(おにたけ)千春(ちはる)』。

 誰が見ても一目で不良(スケバン)だと分かる容姿で、裏ではその見た目と名字を文字って『地獄の鬼』というあだ名で呼ばれていた事もあり、誰も近付こうとしなかった。

 そんな彼女は戦車道科の生徒なのだが、入学式から一度も顔を見せたことがなかった。

 当時2年生だった富永が参加するように言い聞かせていたのだが、鬼嶽はそれに応じなかった。そんな態度に呆れ、いつの間にか鬼嶽は存在自体消えていた。

 そんな中、鬼嶽に話し掛け続けていた生徒がいた。それが原田だったのだ。

 

 原田は鬼嶽が物置部屋と化していた部室でサボっていることを突き止め、その部屋に乗り込んだ。

 

「ねぇ。なんで授業に出ないの?戦車道、楽しいわよ?」

 

 そう言われた鬼嶽は原田を睨み、「すぐ出ていけ」と無言で威嚇した。

 

「他の人には通じるかもしれないけど、私には関係ないわ。だって、あなたがそんな人じゃないってことは分かってるから」

 

「・・・何でそんなことわかんだよ。エスパーか?」

 

 鬼嶽は鼻で笑ったが、原田は引き下がらずに話続ける。

 

「中学の時に似たような生徒がいたから。その子は親に対しての反抗心からそんな態度を取ってたって聞いたけど。あなたもそうなの?」

 

「てめぇに話す義理なんてねぇだろ!!さっさと消えろ!!」

 

 鬼嶽は原田を突き飛ばして部屋を出ていった。こんな仕打ちをされても、原田は諦めなかった。話し合えば、きっと分かりあえる。そう信じていたからだ。

 

 それからも時間の空きを見つけては鬼嶽の元へ行き、話し掛け続けた。一度は本気の目付きで「殺すぞ」と脅されたりもした。それでも諦めなかった。

 そんな原田の根気に負けたのか、鬼嶽は徐々に心を開きつつあった。それから半年が過ぎ、鬼嶽が何でこんな容姿をしているのかを話した。

 

「あたしさ。中学の時、先輩に苛められてたんだよ。だから、誰にもナメられないようにしようって思って、この学校に入るときに容姿を変えたんだ」

 

「じゃあ、富永先輩が呼びに行った時に無視してたのはそういう理由なの?」

 

「正直、先輩って信用出来ないし。トラウマみたいになっててさ。この戦車道科に入ったのも、あたしのことを覚えている奴がいない学校に行きたかったってだけで、別に戦車に乗りたかったって訳じゃないし」

 

「じゃあ乗ろうよ。絶対楽しいって」原田に誘われた鬼嶽は渋々戦車道の授業に参加するようになっていった。

 この時は試合に出場する戦車に空きがなかったので、2人は訓練用のM3に乗って訓練コースを走り回っていた。鬼嶽が車長を務め、原田が操縦手という役割だった。

 

 それから1年が過ぎ、ErsatzM10に空きが出来たので2人はその戦車に搭乗する事になった。この時に新入生が何人か入ったのだが、素行が悪そうな生徒が3人いた。

 鬼嶽はその新入生を引っ張って乗員に充てようと言い出し、原田はそれに賛成して新入生3人を加えて5人のチームを作った。

 その後、鬼嶽は「今日からこのチームはレッド・ドクロだ!」とチーム名を決めた。何故この名前にしたのか理由は無いらしい。

 

 新入生の3人も鬼嶽と似た境遇で、「苛めにあっていたから、見た目を変えれば苛められなくて済むだろうと思ったから」と言っていた。

 2人はそんな3人を白い目で見るようなことはせず、大切なチームメイトとして接していた。

 

 3人は中学時代から戦車道を経験していた事もあり、ErsatzM10の操縦、操作にはすぐ慣れ、訓練でも中々の好成績を残していたが、危険な行為や単独行動と言った外れた事ばかりしていたので、結果的にはマイナスに働くことが多かった。

 試合の時も単独で動いていたので、フラッグ車が撃破されたと知ったのは試合終了から5分経ってからだった。余計な指示が入ったら鬱陶しいからと無線を切っていたのだ。

 

 そんな中、あの事故が起きた。

 その時の原田は加藤に誘われ、ルノー乙型に搭乗していたので事故に巻き込まれる事はなかったが、鬼嶽たちに弁護することが出来なかった。

 事故の瞬間をはっきり見ていなかったので、先輩と鬼嶽の言い争いを黙って見届けることしか出来なかった。

 鬼嶽たちが乱闘騒ぎを起こし、謹慎処分が下った時。「今の自分に出来るのは、これしかない」と思い立ち、戦車道・事故調査隊に匿名で事情を説明し、調査を依頼した。あの時何も出来なかったので、これで白黒はっきりさせようと思ったのだ。

 

 調査隊の結果が出た後。原田は鬼嶽たちの無実が証明されたと教えるために、あの部室へ向かった。部室にはメンバー全員が居て、原田に視線を集中させた。

 

「鬼嶽。みんな。あなたたちの無実だったって証明されたわ。これでまた、戦車道が出来るよ!」

 

 原田は明るい声でそう言ったが、鬼嶽たちは喜ばなかった。鬼嶽が近づき、冷たい声で言った。

 

「・・・最初からそうだって言ってただろ?なのにお前は弁護しなかった。うちらがこんな見掛けだからって、疑ってたんだろ?」

 

「そ、そんな訳ないじゃない」

 

「じゃあ何で弁護しなかったんだよ!あの場で味方してくれた奴は一人も居なかった!お前も含めてな!!うちらはもう戦車道科に戻らないって決めたんだ!もう近寄るな!!」

 

 怒鳴られた後、部室を追い出された。原田は「味方したかったけど、見た訳じゃなかったから弁護しようがなかった」と言ったが、鬼嶽たちは一切聞き入れなかった。

 その時。原田の中で何かが崩れた。互いの信頼関係と言うものだろうか。その一件以降。原田と鬼嶽の間に大きな壁が出来てしまった。

 信頼と言うものは築いていくのは難しいが、崩すのは簡単であり、一瞬で消え去ってしまう。原田は身を持って体験し、感じた瞬間だった・・・

 

 

「鬼嶽たちとの関係はそれ以降さっぱりになったわ。学校で見掛けることも無くなったし、会うことも無くなった・・・鬼嶽は本気だったのよ。私のせいで・・・戦車道から離れた」

 

「そんなことはないと思いますよ」水田が口を挟んだ。

 

「何でそんなこと言えるの?」

 

「あの時、出ていく時に部屋を見渡したんですが、現代文や数学と言った教科書が捨てられるように放置されていたのに、戦車道に関する教本は一冊もありませんでした。咽頭マイクにゴーグル、グローブは綺麗に手入れされてましたよ。そこまでしているのに戻る気が無いとは思えません」

 

「じゃあ何であんな事を言うの?鬼嶽ははっきり戻る気は無いって」

 

「誰もうちらを信用しないからさ」入り口から声が聞こえたので視線を向けると、鬼嶽が立っていた。

 

「見た目で悪者だって判断するようなところに戻る気はない。まぁ別に?元々戦車道なんて鼻っから興味なかったしね」

 

「じゃあ何故。俺と秋川がErsatzM10に乗った時、あんなに怒ったんです?男子が乗ったからというだけではないような気がしますが」

 

「うるせぇ!!あんたに何が分かるんだよ!!」

 

「分かりませんよ。原田副隊長から聞く話だけではね」

 

 水田は席を立ち、鬼嶽に向かってこう告げた。

 

「昨日言いましたね。お前らは今日からパシリだって。正直、ただ戦車に乗っただけでパシリにされるのは納得できません。なので、戦車道で勝負しませんか?こっちが負けたら俺がパシリになってやります。そっちが負けたら、戦車道科に復帰する、これでどうです?」

 

 側で聞いていた秋川と原田は自分の耳を疑った。ホリ車とErsatzM10では勝負にならない事は目に見えている。砲塔を持たないホリ車がまともに戦える相手ではない。

 

「・・・良いよ。その勝負。受けてやろうじゃないか。でも、結果は目に見えてるけどね」鬼嶽はニヤッと笑い、その場から去っていった。

 

「ちょっと水田さん!?勝負するって、勝ち目無いですよ!?」

 

 秋川が詰め寄ってきたが、水田は冷静だった。何か勝てる算段でもあるのだろうか。

 

「行くぞ。三吉班長に、後どれぐらいで修理が終わるか聞きに行かないとな」

 

 

 1週間後。

 三吉からホリ車の修理が完了したと連絡を受けた水田たちは、試験運転に出た。

 

 走行試験。射撃試験。登坂試験等、様々な試験をクリアし、ホリ車は再び戦線復帰可能であると証明されたが、秋川たちは浮かない顔だった。

 鬼嶽には、勝負はホリ車の修理が終わってからと言っているので、明日はあのErsatzM10と勝負しなければならない。

 水田は作戦を立てているというが、機動力がある戦車に対してどう立ち回るつもりなのか。

 今回は一対一のタイマン勝負。他に味方はいない。今は車体後部に2連装の対空砲を取り付けているので、後ろを取られても何とかなりそうだが、横に回られたら手の打ちようがない。

 

 そんなことを思いながら格納庫にホリ車を戻した後、水田が秋川たちを呼び寄せた。「明日の試合の作戦を立てたから打ち合わせをする」という。

 水田がホリ車の後ろに机を用意し、地図を広げて指揮棒を使って印を付けた箇所に当てた。

 

「明日のスタートは、我々がエリアΔー12からとなる。ここは茂みが多く、隠れられる場所も沢山ある。ここで待ち伏せをし、姿を見せたら攻撃を開始する。敵はエリアβー12から来る。向こうも俺たちが何処からスタートするのか知っているから、エリアΔに来る可能性があるからな。もし来なかった場合は・・・

 

 と、地図を指しながら説明していくが、誰一人として意見を申し出ない。水田が説明を終えて、「何か質問は?」と聞くと、織田が不機嫌そうな目で言った。

 

「何で対決する必要があるんですか?それもホリ車にとって、一番苦手とする相手ですよ?」

 

「ああ。だからなんだ」

 

「だからなんだって、もし負けたら不良グループにこき使われるんですよ?良いんですか?」

 

 水田は今回の一件を織田たちにも話していた。

 監禁されたとは言わずに絡まれたと言い方を変えて、一対一の勝負をすること、条件を全て話している。

 

「・・・良いか?最初から諦めるようなことはするな。実際にやってみないと分からないこともあるんだ」

 

 水田は勝つ気でいるようだが、周りは微妙な心境だった。もし負けたら水田はどうなるか分からない。何故そんなに余裕でいられるのか、不思議でならなかった。

 

 

 午前8時55分。

 ホリ車がエリアΔー12に着いた。空は快晴。各系統は問題なく作動している。

 水田はキュウポラのハッチを開けて、外の風に当たる。心地良い風が体を通りすぎていく。

 

「ErsatzM10から通信。スタート地点に着いた。午前9時より試合を開始する。だそうです」

 

 秋川が受信した内容を伝える。水田が腕時計に目をやる。時刻は8時58分。試合開始まで後少しだ。この試合でアナウンスは流れない。自分で時間を見て動かなければならない。

 車体後部に周り、機関砲の最終点検に入る。今回は弾薬を多めに持ってきたので、弾切れを気にする必要はない。一通りの作動確認を終えて車内に戻る。腕時計の秒針が最後の一周を始めた。

 

「総員、戦闘態勢。始まるぞ」秒針が半周し、開始時刻に迫っていく。心の中でカウントダウンをしていく。5、4、3、2、1。

 

「前進!」指示を受けて、数回アクセルを吹かし、変速レバーを引き、『前進』の位置に持っていく。アクセルを踏み込むと、エンジンが唸り、ゆっくりと前へ進んでいく。

 まずは待ち伏せに最適な場所を探す。このエリア一体は木や茂みがと言った、偽装に使えるものが多い。前世でも待ち伏せする時は自然の物を使って偽装を施していた。

 

 スタートから10分。

 待ち伏せをするポイントが決まった。今回は敵がどう出るか分からないので待ち伏せすることになった。ホリ車を茂みに見せ掛けるため、枝や木の葉を車体前面に張り付けて偽装を施すのだ。

 5人がかりで偽装を施し、多少不格好ではあるが遠くから見れば茂みにしか見えない筈だ。作業が済むと急いで車内に戻り、戦闘態勢に入る。

 

 エリアΔー11。

 鬼嶽が指揮するErsatzM10がホリ車のスタート地点に侵入したところだ。鬼嶽は頭を外に出して周囲の確認をしている。

 

「リーダー。頭出して大丈夫なんスか?頭吹っ飛びますよ?」砲手が冗談っぽく笑う。

 

「バカだね。あいつらはこのスポットにはいない。待ち伏せする作戦に出ている筈さ。あの戦車じゃ、正面からやりあっても勝ち目がないからね。今はΔー11、ここよりも12の方が隠れられる場所も多い。居るとすれば、そこしかない」

 

 そんな事を話していると、気付けばΔー12に侵入していた。鬼嶽は操縦手に「慎重に前進しろ」と指示した。何処かにホリ車がいると警戒しているのだ。

 鬼嶽はヘッドホンを取り、目と耳で敵を探し始めた。すると「停車しろ」と指示し、双眼鏡で前方をゆっくり見渡していく。そして、ニヤッと笑みを浮かべた。

 

「居たよ。射撃用意。目標、2時の方向。距離1200メートル。撃て!!」

 

 ErsatzM10の主砲が火を吹き、砲弾が茂みを目掛けて飛翔していく。1㎞先で着弾し、土埃が宙を待った。

 

 

 

「・・・くっ、全員無事か?損害は?」

 

 水田が頭を抱えながら状況報告を求める。

 ホリ車の右前で着弾したが、幸いな事に損害はない。水田は測距儀を通して外を見る。

 約1㎞先にErsatzM10が停車し、こちらに砲を向けていた。砲身から発砲煙が出ているので、撃ってきたのは間違いないだろう。

 

「どうします?撃ち返しますか?」神原が撃発ペダルに足を掛ける。

 

「いや待て。下手すればこっちの居場所をバラすだけだ。少し様子を・・・」

 

「水田さん・・・居場所がバレてるみたいです・・・」

 

 秋川が照準器を覗きながら言った。ErsatzM10がこちらに接近している!

 

「何!?主砲、副砲、一斉射!!」

 

 主砲と副砲が同時に火を吹き、ErsatzM10に向けて砲弾を撃ち出す!2発の砲弾は真っ直ぐ飛翔していく。避ける事は出来ないだろうと思っていたが、ErsatzM10は避けるのではなく、正面装甲で砲弾を弾いた!

 

「砲弾、弾かれました!!」秋川が報告する。この報告に神原は珍しく動揺していたが、水田は何故弾かれたのか理解していた。

 当たる寸前に車体を傾け、正面装甲に更に傾斜を付けて弾かせたのだ。鬼嶽は思っていた以上に手強い相手だと、今更ながら実感した。

 

「エンジン始動!!離脱する!!」

 

 エンジンが再び唸り始め、大きい振動と同時に前に前進していく。茂みから飛び出し、ErsatzM10の真横を掠めて逃走を図る。同時に水田は後部銃座に就き、弾薬をリロードして敵の迎撃に備えた。

 ErsatzM10はすぐ車体を立て直し、急速でこちらに向かって突進してくる!

 

「そのまま前進!Δー5に迎え!!」

 

 

 格納庫内に設けられた観戦席では、加藤たちがホリ車とErsatzM10の動向を見ていた。

 1年生たちは初めて戦闘に参加するErsatzM10に釘付けになり、2年生、3年生は静かに見守っていた。

 

「・・・偽装は完璧だった筈、なのに鬼嶽はその偽装を見破った?何で?」

 

 何故見破ったのか、加藤にはその理由が分からず案じていると、原田が答えを教えるように呟く。

 

「鬼嶽は試合前に必ず会場を見渡すようにしていた。どこに戦車が隠れられるか、茂みや木の配置を覚えるためにね。そうしておけば実戦となった時に待ち伏せに逢わなくて済むからって」

 

「じゃあ、水田くんたちはもっと不利じゃない・・・」

 

 加藤と原田は画面に視線を向けた。そこに映る映像は、ErsatzM10がホリ車に急速で接近している所だった。

 

 

 ホリ車とErsatzM10は森林の中を高速で走っていた。戦車2輌の一進一退の攻防が続いている。

 対空砲を撃ちまくる水田は、ErsatzM10の距離を目測で図って見た。距離は約500メートル離れている。

 急ブレーキのフェイントを掛けて前に飛び出させようかと考えていたが、これだけの距離を開けられては意味がない。

 ErsatzM10の砲撃は距離が開いていても正確だった。戦車の弱点とも言えるエンジンと履帯を狙って砲弾を飛ばしてくる。

 対空砲の有効射程距離が分かっているのか攻撃を受けても避けようとせず、真っ向から向かってきていた。

 

「水田さん!!Δー5に迎えって言いましたよね!?」織田が攻撃を避けながら怒鳴る。

 

「それがどうした!!」

 

「そこはエリアβとΔの境目で、障害物が殆ど無いんですよ!?どうやって攻撃を防ぐつもりですか!!」

 

「良いからそこに迎え!!そこでしか出来ないことをするんだ!!」

 

 

 鬼嶽は訝しげにホリ車の動向を追っていた。

 車体後部には水田が就き、対空砲を撃って反撃していた。何ら不思議なことではないのだが、気になっているのはホリ車の動向だった。

 このまま進んでいくとエリアβとΔの境目に出る。そこには木や岩と言った障害物が殆ど無い所だ。追手を振り切るつもりなら、そんな所には行かない筈・・・

 鬼嶽は乗員全員に「何か企んでいるかも知れない。警戒しろ」と注意を促した。

 

「何言ってんスか!今うちらが有利っスよ?今が攻め時ってやつっスよ!!」

 

 砲手の高揚感に便乗するように、他の乗員たちも舞い上がっていた。

 

「バカ!油断するんじゃないよ!良いからちゃんと警戒しな!」

 

 鬼嶽の一喝に、車内は緊張感が漂い始めた。こんな風にきつく言うという事は、鬼嶽は本気で警戒している時なのだ。

 

「リーダー。もうすぐΔー5です」操縦手が報告する。キュウポラを覗くと、木の間から日の光が差し込んでいる。ここで勝負を付ける、そう決めた。

 

 

 織田から「もうすぐΔー5に着く」と報告を受けた水田は、掃射を止めて前を見た。

 もうすぐ拓けた場所に出る。ここで決着を付ける、最初からそう決めていた。ErsatzM10は留目を刺そうとしているのか、距離を詰めてきている。

 

「織田!!合図したらサイドブレーキを引いて車体を回せ!!」

 

「え!?何でですか!?」

 

「良いからやるんだ!!」2輌は勢いそのままにΔー5に侵入すると、ホリ車のエンジン部を狙って砲弾を飛ばしてきた。「今だぁ!!」

 

 水田の怒号が車内に響く。サイドブレーキを思いっきり引いて車体を右に回し、ErsatzM10が前に出ようとする!水田はErsatzM10の側面を捉え、対空砲のトリガーを引く!

 弾丸がエンジン部を貫通して黒い煙を上げ始める!ホリ車はそのまま一回転し、砲口がエンジン部を捉える!!

 

「主砲!副砲!一斉射!!絶対に外すなぁ!!」水田の怒号が車内にいる秋川たちに届く!

 ErsatzM10はまだまだ前進している。仕留めるなら今しかない!神原と秋川が同時に撃発し、砲弾を撃ち出す!主砲弾はエンジンに直撃し、副砲弾は左の履帯を掠めて着弾した。

 織田が停車させると、ErsatzM10の天板から白旗が揚がっている。車内にいる秋川たちは、何があったのか状況が掴めずに呆然としていた。

 

「・・・秋川。加藤隊長に試合が終わったと連絡しろ・・・ちょっと休憩してから戻ると言っておいてくれ・・・」

 

 水田は溜め息を吐いて車体に寄り掛かった。今まで戦車に乗っていて、こんなに疲れたのは久しぶりだった。

 

 

 格納庫前に戻った水田たちは、ErsatzM10の乗員たちと向かい合っていた。

 この状態になって、既に2分弱が経過しようとしていた。ここにいる誰もが一言も発さないので、周りの喧騒が聞こえてくるほどだった。

 

「・・・あー、分かってる。分かってるよ。約束は守る。戦車道科に復帰すれば良いんだろ?」鬼嶽が口を開いた。

 

「だけど、『試合に参加する』とは言ってないからな。うちらは馴れ合いが嫌いだし、そんな面倒事はやんないからな」

 

 そう言うと顎でしゃくり、仲間を連れてその場を去ろうと歩きだした。

 

「待って。本当にそれで良いの?」加藤が呼び止めた。鬼嶽は足を止め、目だけをこちらに向ける。

 

「あ?良いに決まってんだろ。戻る気は無かったしな」

 

「あなたの言い分は良く分かるわ。あの時、私たちは味方してあげられなかった。戻りたくなくなるのも当然よね・・・でも今回の試合を観て、()()()()()()()()()()()が分かった。こう言うのは何だけど、『優秀な戦車乗り』を二度も見捨てたくない。だから、もう一度考え直してくれないかな?」

 

 鬼嶽は視線を反らし、そのまま立ち尽くしてしまった。戻ってきてほしい、そう言われて迷いが生じたのだろう。立ち尽くす鬼嶽に、原田が近寄って前に立った。

 

「加藤が言うように、あなたたちは優秀な戦車乗りよ。お世辞とかじゃないわ。本心よ」

 

「そんなの・・・信じられるか!うちらを裏切ったやつの言葉なんて!」

 

「じゃあこの目を見て!あなたには分かる筈よ。本心なのか、そうじゃないか!!」

 

 鬼嶽は言われるがままに原田の目を見た。真っ直ぐで、透き通った綺麗な目だ。涙を溜めているのは、今までの後悔から来るものだろう。

 鬼嶽は数秒間その目を見詰めた後、原田に背を向けて歩き出した。原田は溜めていた涙をポロポロと流し、歯を食い縛った。分かって貰えなかったか・・・と誰もがそう感じた。

 

「・・・うちらの戦車、ちゃんと整備しとけよ。本番で故障するような事になったら面倒だからな」

 

 原田は振り替えって鬼嶽を見た。鬼嶽は原田に向かって、ニッと笑ってその場を去っていった。

 その様子を見ていた加藤が水田に近づき、耳打ちするように話し掛けた。

 

「全て計算通りってやつかしら?」

 

「何の事です?」

 

「彼女たちに戻るきっかけを与えたかったんじゃないの?私たちに本当の実力を見せれば、戻るきっかけになる。それと、原田と鬼嶽の仲を元通りにしたかった。違うかな?」

 

「・・・まさか。ちゃんとした理由も無しに、パシりにされることが納得出来なかっただけです。それに、例えどんな相手でも、負ける気はありません」

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