水田と秋川は、鬼嶽と原田はかつて親友だったと聞かされる。その話の直後、鬼嶽が話に割り込み、「元々戦車道をする気は無かった」と話す。
その話を聞いた水田は鬼嶽に対し、「パシリにされるのは納得出来ない。戦車道で勝負をしよう」と、宣戦布告を突き付けた。
ホリ車とErsatzM10。どう見ても相性が悪い戦車同士での試合に、ホリ車の乗員たちは浮かない顔をしていた。
そんな中で2輌のタイマン勝負は幕を開けた。ホリ車は隠蔽を見破られ、ErsatzM10に後ろを取られてしまう。
もうこれまでかと思われたが、水田の策略でErsatzM10は返り討ちに遭い、ホリ車の勝利で勝負はカタが付いた。
鬼嶽らErsatzM10の乗員4名は、最初に水田が提示した条件に従い戦車道科に戻ることになり、準決勝に参加することになる。
準決勝選戦まで1週間を切った。延岡校の戦車道科は何年ぶりかの進出となるので、訓練にも気合いが入っている。
3年生、2年生側の車長たちは、この高校に入って一度も準決勝に進んだことが無かったので、どう戦術を組むかで難色を示していた。
準決勝は使用可能な戦車の数量が10輌から15輌に増やす事が出来る。しかし、この延岡校は元々人員、戦車共に少ないので戦力の増強は不可能だ。加藤たちが難色を示すのにはこう言った事情があったからだった。
今日も訓練が終わった後の放課後。加藤と原田は各戦車の車長を呼び出し、戦術の会議を開いていた。いつもは能天気そうな加藤も、今回ばかりはいつも以上に真剣に会議に挑んでいた。
「準決勝の相手は北海道の『帯広女子学園』。何度か決勝まで上り詰めた事がある高校だけど、どういうわけか新入生が隊長を務めてるの。それとこれは関係ないかもしれないけど、その学園と対戦した高校からは、
「はっ。戦術を全て読むだぁ?ただの偶然だろ。あり得ねぇよ」
ErsatzM10の車長、鬼嶽は鼻で笑っている。彼女が言うように、戦術を全て読み取るのは難しい。
無線傍受でもすれば話は別だが、この戦車道に置いてそのような行為は禁止されている。初戦で無線妨害をされたが、あれも本来は違反行為である。
他の戦車長も同様の反応をしているが、VK45.02(P)の車長の井深がこう言った。
「・・・でも、油断は出来ないよねぇ。その噂が本当かどうかは別にして、新入生が隊長を務めるなんて聞いたことがないし。もしかしたら、その新入生が私たち以上に優秀なのかもしれないよ」
井深のこの言葉に鬼嶽は大笑いしていたが、水田はその可能性もあり得ると内心納得していた。戦車道の経験だけでは言い切れない何かがあるのだろう、そう言い掛けたがすぐその言葉を飲み込んだ。
会議が終わり、アパートに戻った時には午後7時を回っていた。扉を開けて部屋に入ると、秋川が料理を作ってリビングのテーブルに運んでいた。
「あ、お帰りなさい。どうでした?会議の方は」
「うーん・・・加藤隊長は作戦立案にかなり苦戦しているようだ。何年ぶりかの準決勝で、しかも今回は夜戦と来てる。今までと大きく違う点があるから、無理もないと思うが」
夜間は視界が効きづらく、ライトを照射しようものなら「ここにいる」と敵にアピールすることになる。まして、今回は森林のエリアが極端に少なく、約半分が開豁地という特異なステージとなっていた。
市街地のように建物がある場所もあるが、開豁地のエリアと比べたら差ほど対したことがない広さだ。
隠れられる場所が無さすぎるというのは、戦車にとっては致命的と言って良い。下手な動きをすれば場所を特定され、一方的に撃たれて終わる。
「・・・そう言えば、例の対戦相手の情報は?」
「調べておきました」秋川は部屋からA4サイズの紙を持って水田に差し出した。そこには、対戦相手の帯広校が使用する戦車の数量、人数が記されていた。
『帯広女子学園
全校生徒700名。内、戦車道科履修生 約250名
使用戦車
A27M Mk.Ⅷ巡航戦車『クロムウェル』(指揮戦車型)
A30 Mk.Ⅷ巡航戦車『チャレンジャー』
A30SP2 対戦車自走砲『アヴェンジャー』
出場数
クロムウェル1輌
チャレンジャー7輌
アヴェンジャー7輌 』
「この戦車は、全部イギリスのものか?」
「そうです。知ってたんですか?」
「この学園にもあるだろう。イギリスの戦車が。そもそも『巡航戦車』というのはイギリスにしか無かった区分だからな」
巡航戦車A27Mこと、『Mk.Ⅷ クロムウェル(30t級)』。同じ巡航戦車『クルセイダー』の後継車両として開発された。
試作の段階でA23、A24、A27の三種類が提案され、最も有力視されたのがA27だった。
計画の段階で航空機用の液冷V12気筒ガソリンエンジン、『ミーティア・エンジン』を搭載することになっていたが、時期的に戦闘機の生産が優先されていたので開発が遅れ、エンジンの搭載に苦労し、量産化は更に遅延。
エンジン周りを改修して漸くミーティアエンジンの搭載が可能となり、A27M『Mk.Ⅷ クロムウェル』として制式化されたものの量産開始は1943年にまでずれ込んだ。
機動力の面では最高で51~64㎞という快速を発揮し、『第二次世界大戦中、最速の戦車』と呼ばれることになる。
帯広校が使用しているのは低出力の無線機を2つ搭載しているもので、本部との連絡用として開発された派生型の指揮戦車である。
そんなクロムウェルが開発中の最中。強力な主砲を持つ巡航戦車の開発が進められていた。
クロムウェルをベースとし、高貫通の17ポンド砲を搭載した戦車として計画された。それが、A30『Mk.Ⅷ チャレンジャー(35t級)』である。広大な北アフリカの大地での遠距離射撃を目的として計画された。
1942年に試作車『パイロットA』が完成したが、試験の時点で酷評をされることになる。
17ポンド砲の砲身が重く、傾斜地での旋回が難しい。シルエットが目立つ割に装甲が薄い。ベースとしたクロムウェルより図体が大きいにも関わらず、エンジンがそのままなので機動力の低下が懸念された等の理由で、存在そのものにも疑問が呈されることになった。
このように酷評されたものの、開発中にティーガーⅠやパンターの出現を受け、貫通力がある主砲を持つ戦車が必要となった。試験を終えた後で参謀本部から制式採用となり、A30『Mk.Ⅷ チャレンジャー』として量産されることになった。
しかし、生産工場では同じ17ポンド砲を持つ『シャーマンファイヤフライ』が優先で生産されていたので、量産開始は1944年の3月にまでずれ込んだ。様々な問題で配備は同年の8月となり、西部戦線に投入された。
量産型は機動力が求められる『機甲偵察連隊』という部隊に配備された。試験時で機動力の低下が懸念されていたが、部隊側の評判は悪くなかったという。
終戦後は全車退役し、チェコスロバキア軍では1950年代の始めまで、訓練用の標的として使用された。
そんなチャレンジャーと同時期に開発されていたのが、対戦車自走砲、A30SP『アヴェンジャー(30t級)』である。
チャレンジャーと違って開発が急務ではなかったので、チャレンジャーの設計を徹底的に見直した上で改良し、重量軽減を狙って開発した戦車である。
チャレンジャーと同じ17ポンド砲を搭載していたが、砲塔がオープン・トップだった。後に空からの驚異に不安が残るとして、屋根型の装甲板、『スペース・ド・ヘッドカバー』が追加された。
製造元が巡航戦車『コメット』の開発に手こずっていた影響で、量産開始は1945年にまでずれてしまい、配備が始まった頃にはドイツが降伏したので、第二次世界大戦には間に合っていない。作戦に投入されることが無いまま1949年に全車退役した。
水田は秋川に手渡されたメモを見ながら言った。
「・・・確か、巡航戦車は機動力が高いんだったな。この3輌、どのくらいの速度が出せるんだ?」
「クロムウェルが約51~64㎞。チャレンジャーが約51㎞。アヴェンジャーが約51㎞なんで、平均で50㎞以上ですね」
「50㎞か・・・高い機動力に、高い火力を持つ戦車が多いから、チャーフィー以上に厄介だな。今回は市街地じゃないから、後方から支援砲撃という形にした方が無難かもしれないな」
1週間後の午後7時。
延岡校の学園艦は北海道の十勝港に入港した。すっかり日も落ち、辺りは薄暗くなり始めている。空は少し曇っているが、雨が降りそうな雰囲気ではない。
会場に着くと、いつも通り加藤が各車両の車長を呼び出してテントに集合させた。作戦の最終打ち合わせだ。
今回はステージが広いので纏まった行動は避け、2輌で1班、もしくは単独で行動し、各個撃破して数を減らしていき、最終的にフラッグ車を叩く、という作戦だ。
機動力がある戦車でフラッグ車を捜索し、撃破するという案も出されたが、返り討ちに遭う可能性を考慮して作戦からは外している。が、鬼嶽は「うちらはうちらなりの戦い方で行く」と今回の作戦を一切聞き入れなかった。
一方の水田は、「ホリ車で前線に出るのは危険と判断し、後方より援護することにした。前線からの情報を頼りに、
帯広校の陣営では、各車両の最終点検が進められていた。もうすぐ試合が始まるというのに、作戦会議用に設けられたテントには誰も入らない。
クロムウェルの車内では、車長の席でノートパソコンを開いてキーボードを叩いている女学生がいた。黒髪のショートヘアで、丸いフレームのメガネを掛けている。
帯広校の隊長、1年生の『
無線機が置かれている場所には少し大きめのコンピューターらしき箱があり、清水がキーボードを叩いているノートパソコンに繋がっている。
戦車道の規則上、コンピューターの持ち込みは特に規制はされていないが、戦時中の戦車にコンピューターを載せていると言うのは何とも言えない違和感がある。清水はパソコンの画面に表示されている時計をチラッと見て、口元に無線機のマイクを近付けた。
「全車、出撃準備に入ってください。試合が始まります」
そう言うと、会場に試合開始を伝えるアナウンスが流れた。
『それでは、延岡女子高等学校と、帯広女子学園の準決勝戦を始めます。視界が効きづらいので、両者、気を付けて試合に挑むように!』
信号弾が花火のように撃ち上がり、上空30メートルの辺りで弾けた。『試合、開始!!』
試合が始まって10分。ホリ車は予定の砲撃地点に到着した。この位置から攻撃し、前線が怪しくなってきたら少しずつ前に出る作戦だ。
神原は砲身の仰角を最大に上げ、照準器越しに外を確認する。晴れていれば月明かりを頼りにすることが出来るのにと溜め息を吐いている。
車内は普段以上に暗い。まるで洞窟の中に潜んでいるように感じられる。敵が何処から奇襲を仕掛けてくるかと、周囲への警戒心と緊張感には未だに慣れない。
水田は周囲警戒のため、機関砲に就いていた。虫が鳴いている声があちこちから聞こえてくる。
(・・・あれ?前にもこんなこと無かったか・・・?確か、前世で・・・)
水田の脳内に、前世の記憶が甦った。あれは、インパール作戦決行前日・・・いつもの5人で『作戦前の晩餐』と称して、搭乗していたチハ車の側で酒を呑み交わしていた。
(そうだ。その時に確か襲撃があって、誰かを庇って・・・襲撃?庇う?そんなこと・・・あったか?)
何故か、その時の記憶が曖昧だった。いつもの5人で酒を呑み交わしていたのは確かだ。その後何が起こったのか、その先が思い出せない。
何とか思い出そうとするが、覚えているのは作戦決行の前日と戦死する前日だった。今まで気付かなかったが、あの日記と同様、記憶にも奇妙な間があった。
「水田さん。井深車長から連絡です。開豁地エリアのスポット887で・・・水田さん?」秋川の声にハッと我に帰った。今は試合中だ。集中しなければ・・・
「あ、ああ・・・すまない。何でもない。えーっと、スポット887に何かあったのか?」
「2輌分の履帯の跡を見つけたそうです。念のために報告したとの事ですけど、ここから大分離れてますし、そこまで心配する程では無いかと」
念のためと言われたが、気掛かりだったので地図を広げて敵のスタート地点から辿ってみると、予想以上の速さでそのスポットを通過していた。
更にそこから南下すると、ホリ車が構えている位置に到達する事になる。
(予想より進軍が速いな。もし我々を狙っているとすると・・・ここも安全じゃないかもしれないな。別の砲撃陣地に移動した方が良さそうだ)
「織田。予備陣地に移動するぞ。視界が効かないから、30㎞以上出すな」
「了解です。でも30㎞って遅すぎません?原付と一緒ですよ」愚痴を吐きつつも指示通りにホリ車を走らせた。
「・・・嘘でしょ?気付かれた?」
ホリ車が走り出した時。その場所から600メートル離れた地点にチャレンジャーが2輌、ホリ車が砲を向けて待機していた。
このチャレンジャー3号車と5号車は、清水の指示でこの場所に来ていた。
「この戦車は固定式戦闘室で前線で戦うのは不利だから、後方に留まる。奇襲にも直前まで気付かれない」と言われたのだ。
清水の言うとおり、確かに後方で待機していた。攻撃しようとした直前。突然動き始めたのだ。気付かれないと言われていたので、これは想定外だった。
「通信手。隊長に回線を繋いで」2号車の車長がそう指示し、通信手が神田と回線を繋いだ。
「こちらチャレンジャー2。例の砲戦車が動き出しました。奇襲を仕掛ける直前にです。追尾しますか?」
『・・・恐らく前線から指示があったんでしょう。後方をしっかり押さえれば、99.9%撃破出来ます。他の車両は気付かれていません。あなたたちも尾行を開始してください』
そう言われると、一方的に無線が切られた。「時間は有限。どんな事でも、効率良く済ます」、それが清水の言いぐさだ。連絡を単調に済ますのも、効率重視のせいだろうか。
言い回しや態度が癪に触るが、言うとおりに動けば確実に勝利出来る。
2輌のチャレンジャーはホリ車より500メートル後方に陣取り、エンジンを出来るだけ絞りながらその後を追っていった。
一方。水田に連絡を終えた井深は地図を見直していた。ここから北西よりに進むと、市街地のように小さな建物が並んでいるエリアに出る。
ここまで敵を見ていないし、もしかしたらそこに潜んでいるかもしれない。
乗員に北西に向かうよう指示し、上半身を出して周囲を見た。VK45.02(P)が発する独特なモーター駆動音が周囲の暗闇に吸い込まれていく。
『こちら盛田!!救援を求む!!場所はスポット888!繰り返す!場所はスポット888!!誰か応答してくれ!!』
盛田からの救援要請だ!井深は体を引っ込めて、インカムを手に取って応答する。
「こちら井深。現在の状況を教えて」
『敵に待ち伏せされた!!警戒して進んでいたつもりだったんだが、いつの間にか背後を取られてた!!後ろに2輌くっついていて振り切れない!!』
「分かった。こっちに引き寄せて、一緒に対処しよう。落ち着いて・・・」
その時!砲弾が右前で着弾し、操縦手が慌ててブレーキを掛けた。弾痕からして恐らく17ポンド砲。上半身を車外に出して後ろを見る。姿は確認出来ないが、別の戦車のエンジン音が聞こえてくる。
「逃げるよ!全速力で!!」
水田は再び機関砲に就いて警戒態勢に入り、じっと暗闇を見詰めていた。視線の先は暗闇が視界を奪ってるが、その中に何かがいる。そんな気がしてならなかった。
「水田さん!加藤隊長、井深車長、盛田車長、村橋車長、酉沢車長から緊急連絡!敵に後ろを取られ、現在交戦中!至急、援護射撃を求めると言ってます!!」
「後ろを取られた?まさかそんな・・・」
(・・・待てよ?どうやって後ろを取った?加藤隊長と酉沢は一緒に行動しているからまだ納得出来るが、他の3輌は別々に行動している。同じタイミングで報告が入り、同じ状況に置かれている・・・だとすると)
水田は再び視線をホリ車後方の暗闇に向けた。あくまで推測に過ぎないが、可能性としては零ではない。
「織田!全速前進!最高速度で現区域を突破する!!」
「え!?ちょっ、何ですか急に!」
「敵に後ろを取られている!隠密を意識するな!逃げることだけに集中しろ!!伊藤!照明弾、発射用意!合図と同時に打ち上げろ!」
「照明弾ですか!?それを打ち上げたら敵に居場所をバラすことになりますよ!?」
「井深車長が履帯の跡を見つけた辺りからとっくに居場所はバレている!良いから構えとけ!」
伊藤は戦闘室の壁に掛けてあった照明弾を打ち上げる拳銃を手に取り、側面のハッチを開けて銃口を空に向けた。同時に水田は機関砲に戻り、弾薬を装填して銃口を水平に調整する。
「今だ!打て!!」合図と同時に照明弾が打ち上げられた。弾は上空40メートルの辺りでパッと弾けて、淡い黄色の光を放ちながら辺りを照らした。
すると、ホリ車から後方500メートルの辺りに2輌の戦車が確認出来た。車体を黒く塗装したチャレンジャーだ!
「居たぞ!!後方500メートル!砲口をこっちに向けている!回避行動!!」
秋川たちは一瞬動揺したが、すぐ水田の指示通りに動いた。織田がアクセルを目一杯踏み込んで敵からの離脱を計ろうとする!
「は?嘘でしょ!?何で!?」チャレンジャーの乗員たちは想定外の事態に驚愕していた。
エンジン音が聞かれないよう、出来るだけ絞りながら尾行していた。すると突然加速したと思ったら、照明弾を打ち上げてこちらの正確な位置を突き止めたのだ。さっきと言い、今と言い、何故こうなったのか全く理解出来ない。
「・・・兎に角追うわよ!!こうなった以上、四の五の言ってもしょうがないわ!こっちの方が機動力は上なんだから!!」
2輌のチャレンジャーが急加速し、ホリ車に迫る!巡航戦車とだけあって、速度が乗ればホリ車に接近するのは容易だ。
チャーフィーに追われていた時もだが、改めて機動力の差に愕然とさせられる。いち早く気付き、先手を打ったつもりだったが、あっという間に距離を詰められてしまった。
砲口がエンジンを捉えた。ここまでか・・・と諦め掛けていたその時!追ってきていた1輌のチャレンジャーのエンジンから突然火の手が上がり、白旗を上げて停車してしまった。
『大丈夫!?助けにきたわよー!!』右から別の戦車が接近してきた。T25E1だ!
「村橋車長ですか!?助かりましたが、何故ここに!?」
「あのエリア巡回してた時に見つかっちゃってさ。振り切ろうとしてた所に信号弾が撃ち上がったのが見えて、もしやと思って来たわけ!こっちも2輌くらい引っ付いてるけど、一緒なら大丈夫っしょ!」
『こちら加藤!全車に緊急伝令!カヴェナンターが損傷!こっちも軽微だけど損傷したから、一旦市街地エリアの教会っぽい建物に逃げ込むわ!みんなもそこに集合して!!』
加藤からの緊急伝を受け取ると、水田は地図を広げて現在位置と目的地を照らし合わせた。機関砲を撃つことだけに集中していたので気付かなかったが、市街地まではそう遠くない位置にいる。何とかなるかもしれない・・・
希望が見えたと思ったら、横を走っていたT25E1から轟音が響いた!エンジンから煙を上げている。敵の攻撃が当たったのだ!
「村橋車長!大丈夫ですか!?」
「あー!!大丈夫じゃないかも!消火装置作動させたけど、出力が上がらない!先に行って!盾になるわ!!」
「置いていけませんよ!!織田!T25E1の後ろに付けろ!」
織田はすぐT25E1の後ろにホリ車を回し、車体を接触させてアクセルペダルを深く踏み込む。前方の視界確保はT25E1の操縦手に任せ、水田は再び機関砲の斉射に戻った。当たりはするが、貫通力が足りないのか弾かれてしまう。
一方。教会に模した建物に到着した加藤は、直ぐ様エンジンルームを開けた。直撃は免れたたものの、砲弾が掠ったせいか吹かしても回転数が上がらず、アイドリングが安定しない。カヴェナンターも同じ状態だった。
その直後、VK45.02(P)とVK30.01(P)が到着し、入り口を固めて反撃の用意に入った。すると、遠くから砲撃音とエンジン音が聞こえてきた。
井深と盛田が目を凝らしてじっと見ていると、T25E1とホリ車が全速力で突っ込んでくるではないか!
「どいてぇー!!そのまま突っ込むからぁー!!」村橋が怒鳴ると2人はすぐ戦車を退かすように指示し、入り口を開けた。
2輌の戦車は減速すること無く教会に突っ込み、フルブレーキで何とか停車させた。ホリ車はすぐ方向転換して砲口を入り口に向け、神原が取り敢えずで一発撃った。
当たら無かったが牽制にはなったようで、追手は追跡を諦めて姿を消した。ホリ車の乗員は深い溜め息を吐いた。もう少しで追い付かれる所だった。
取り敢えず一息付いたところで、損傷した戦車の応急措置を開始した。損傷したルノー乙型、カヴェナンター、T25E1の3輌の内、2輌は直撃を免れたものの、T25E1はエンジンに直撃を食らってしまった。
直撃を免れた2輌の損傷具合も決して軽微とは言えず、燃料系統や電気系統がやられてしまっているらしい。
損傷を免れた3輌は入り口の警備に周り、水田もその任務に就いた。本当は応急措置を手伝いたい所なのだが。
すると、暗闇から戦車が走ってくる音が聞こえてきた。かと思えば、音が止まった。ErsatzM10が来たのかと思ったが、だとしたらわざわざ停まる必要はない筈・・・暗闇から何かが見えた。青い旗、休戦旗だ。その旗と一緒に、3人の女子生徒が姿を現した。その内、眼鏡を掛けている生徒が名乗りを上げた。
「・・・私は帯広女子学園戦車道科の隊長、清水と申します。あなたたちにお話があって来ました」
水田は秋川たちに攻撃を待つように言い聞かせ、ホリ車を降りて彼女たちの前に立ちはだかった。
「用件はなんだ?」
「気にならないんですか?何故、あなたたちの居場所が割れたのか。それを話に来ました」
「手の内を明かすと言うのか?そんな事をしたら、不利になるんじゃないか?」
「いいえ。そんな事はあり得ません。例え私たちの戦略を知った所で、99.9%負けます。決して、覆ることはないでしょう」