準決勝に挑む延岡校は、今まで経験したことがない夜戦に参戦することとなった。
加藤から「相手は動きを読む」という妙な情報を伝えられるが、殆どはそんなわけ無いだろうと思って取り合おうとしなかった。
それから1週間後。
準決勝の幕が上がり、水田は支援砲撃という体勢を取るために後方に待機していた。
他の戦車は前線に向かっていたが、そこで予想だにしない出来事に遭遇する羽目になる。敵がいつの間にか後ろに回り込んでいたのだ。
一方のホリ車も気付けば後ろを取られていたが、水田の勘で接近を察知したお陰で撃破を免れる事が出来た。
逃走中の最中。加藤から「損傷したから市街地に逃げる」と連絡を受け、水田も本隊と合流するために市街地へ急行した。
追手を振り切り、加藤に指定された合流地点に到着した水田たちは、先ほどの戦闘で3輌故障していることを知らされる。
応急措置をしていると、暗闇から帯広校隊長の清水が姿を現し、「あなたたちは99.9%負けます。決して、覆ることは無いでしょう」と告げた。
「今、
「簡単に言えば、あなたたちの戦略は古いと言うこと。言い方を変えれば、『過去の物』と言う事です」
水田と清水の間に、言葉では言い表せない程重い空気が流れていた。十秒程沈黙があった後、加藤が2人の間に割って入る。
「あなた。私たちが『戦略を知った所で負けはしない』って言ったわね。どういう事なのかしら?」
この質問に対し、清水は黙ったまま手に持っていたノートパソコンを開いて加藤たちに画面を見せた。そこにはアルファベットで『TSS』と書かれている。
「・・・これは?」
「必要なデータを入力すれば自動で最適な戦略を考案、提示してくれるプログラムです。試合中であっても新たなデータを追加入力するだけで、戦略を再検討してくれます。人が考案するよりも早く、確実です」
これは清水が作ったもので、その名を『
対戦相手の戦車の情報。形式。試合会場の地形データを入力すれば、敵の動きや出方を自動でシミュレーションし、最適な戦略を提示してくれる。
試合中であっても、互いの戦車の損傷具合。敵がどのエリアから出現したかと地形データに加えて入力するだけで、新しい戦略を考案してくれる。
聞いていた水田たちには信じられない事だったが、相手はこちらの動きを全て読んでいた。加藤が最初に言っていた事は嘘ではなかった。
「戦車道に置ける戦略は時代遅れと言えます。いくら時間を掛けて検討や協議を重ねた所で、その戦略は不確実と言えます。戦車道とは言えど、戦略の考案や検討は現代技術の恩恵を受けるべき、と私は思います。あなたたちが勝てないという理由は、そう言うことです」
自論の語り終わると、水田に視線を向けて「そう言えば」、と話し始めた。
「あなたに聞きたいことがあります。味方から報告では、唯一あなたが指揮する戦車だけ奇襲に失敗したと聞きました。何故、近付いてると気付けたのですか?」
何故そんな事を聞くのかと一瞬疑問に思ったが、彼女が持っているノートパソコンを見てピンと来た。
人が考えるより確実と豪語しているプログラムが外した。何故外れたのか、納得出来ないのだろう。答える義理は無いが、答えても特に問題は無い。
「味方からスポット887で履帯の跡を見つけたと報告を受けたんだ。発見場所と俺たちの現在位置を地図で照らし合わせると、予想より早くそのエリアを通過している事が分かった。更にそこから辿ると、俺たちが構えていた場所にたどり着いた、という事さ」
「はぁ・・・理解出来ません。味方からの報告と地図を照らし合わせただけで、敵の接近を悟るなんて」
「俺にはプログラムに戦略の全てを任せている事が理解出来ないがね。だが・・・そのTSSというプログラムを用いるのがあんたの戦略なら、こっちには『経験』という戦略がある。どっちが正確な物か、すぐ分かるだろう」
しん、と再び辺りが静まり返った。そのまま数秒の沈黙があり、修理をしていた乗員がスパナを落とした音で沈黙は去った。
「・・・1時間待ちます。時間が来たら容赦なく攻撃しますので、そのつもりで」
そう言い残すと、闇の中へ消えていった。どうやらフェアな戦いをしたいらしい。水田は清水たちを見送ると、奥で応急措置中の3輌の戦車を見た。
(こちらの戦力は向こうも把握している。フラッグ車であるルノー乙型。カヴェナンター。T25E1。この3輌は損傷し、満足に走れない。さて、どうするかだが・・・)
そんな事を考えながら、3輌の応急措置の手伝いに回った。相手の隊長は「1時間待つ」と言ったのだ。そこまで警戒しなくても大丈夫だろう。
一方。
会場の観客席では、先程映し出されていた両者のやり取りについて、様々な憶測が飛び交っていた。そんな会話を横目に、再び会場に足を運んでいる西沢姉妹はじっと画面に視線を向けていた。
「はぁーあ。暫く退屈になりそうね。延岡校は7輌の内3輌が損傷。内1輌は自由奔放に走り回ってるし、勝負は付いたようなもんじゃない。帰ろうよ」
麻美は背を伸ばして欠伸をしている。麻美の言うとおり、勝負はもう決まったようなものだ。周りに座っていた観客の中には、ぼちぼちと帰り始めている。だが、花蓮は帰ろうとしない。
「麻美。そんなに暇なら飲み物を買ってきて貰っても良いかしら?屋台も出てたし、これで好きなもの買ってきて良いわよ」
花蓮は財布から千円札を取り出して麻美に渡した。麻美はむすっとした顔で席を立ち、屋台がある方へ向かって行った。
「これで勝負が付いたとは・・・思っていないようだな」
横で座っている老人が花蓮に話し掛けた。周りは気付いていないが、この老人は戦車道の協会長である友幸だった。
花蓮と麻美に同行し、この準決勝戦の観戦に来ていた。友幸もこの試合が気になっているらしい。
「麻美の言うとおり、現時点に置いては延岡校側の方が不利でしょう。ですが、これまでの戦いを見て来てこの状況を打開出来ない策が無いとは思えません」
「ふむ。確かに・・・私も試合を見てきたが、誰が見ても不利であろう状況に置かれても上手く切り抜けてきた。今回はより厳しい状況に置かれているようだが、どう切り抜けるか見物だな」
40分後。何とか応急措置の目処が立ちそうな所まで来た。
エンジンに直撃弾を食らったT25E1だが、エンジン本体の損傷は思っていたより軽微で、変速機と点火系統の損傷が深刻だった。
変速機は2速以上ギアが上がらず、点火系統の部品であるディストリビューターが故障し、8つあるシリンダーの内、4つにしか点火出来ない状態にあった。
損傷箇所は応急措置ではどうにも出来ず、自走するのは難しい状態だった。
カヴェナンターは攻撃を食らった時に冷却系統をやられたらしく、エンジンとラジエーターを繋ぐホースの繋ぎ目に亀裂が入り、冷却水が漏れていた。取り敢えずの処置でビニールテープを何重にも巻き付け、紐で思いっきり縛り付けるという形を取った。
そしてフラッグ車のルノー乙型は、思っていた以上に深刻な問題を抱えていた。燃料タンクに穴が空いているのだ。
砲弾の破片が運悪くタンクを掠めたらしく、1センチ程度の穴が空いていた。燃料が漏れていたにも関わらず、着火しなかったのは不幸中の幸いだった。
ルノー乙型はガソリンエンジンだ。ガソリンは気温がマイナスでも蒸発してしまうので、小さな火花1つですぐ火の手が回る。
あまり好ましいやり方ではないが、穴を塞ぐようにビニールテープを貼って急場を凌ぐ事にした。
応急措置を済ませた後。車長全員が呼び出され、緊急会議が開かれる事になった。
地図を開き、その上に戦車と同じ数の石を置いて現在位置を再確認したが、集まっている車長たちは頭を悩ませた。
現状はこちら側が不利。相手はこちらの動きを把握していると来た。この状況をどう打開すれば良いのか。不安の思いが車長たちの間で漂っていた。その空気は他の乗員たちにも伝わっているようで、徐々に空気が重くなっていく。
「何か、策がある人・・・いる?」加藤が質問を投げ掛ける。誰も答えない。全員広げた地図に視線を落としている。
すると水田が離れ、入り口を固めている3輌と故障した3輌を眺めた。「何してんの?」と酉沢が溜め息混じりに聞くと、水田は秋川を呼び出してこう聞いた。
「秋川。ルノー乙型。カヴェナンター。T25E1の『全備重量』は分かるか?」
呼び出された秋川は、聞き間違えたかと耳を疑った。何故戦車の全備重量を聞かれるのか、理由が分からない。『全備重量』とは、人員、弾薬、燃料等を規定数載せた時の総重量を意味する。
「は・・・?全備重量、ですか?」
「そうだ。それぞれ何トンなのかを大体で良いから教えてくれ」
「え、えっと・・・ルノー乙型は約7.8t。カヴェナンターは約18t。T25E1が約38tです」
「じゃあ次に、VK30.01(P)。VK45.02(P)の全備重量は?」
「VK30.01(P)は約30t。VK45.02(P)は約64tです」
「ホリ車は約40tだったな・・・分かった。ありがとう。持ち場に戻れ」
秋川は全備重量を聞かれた理由が分からないままホリ車に戻った。水田は各車に設置されたワイヤーを見ると、加藤たちのもとへ戻った。
「何とかなるかもしれません」
この一言に車長たちはざわついた。今の会話の中で、この危機的状況を改善出来る手立ては無いように思える。そんな中でも、水田は淡々と話を進める。
「故障車を横一列に並べてください。それからワイヤーを・・・」
クロムウェル率いる帯広校の戦車隊は市街地から約2㎞程離れた木の陰に潜み、敵の出方を伺っていた。
クロムウェルの車内はパソコンのブルーライトで照され、清水が一心不乱と言わんばかりにキーボードを叩いている。データの入力が一通り済み、車内の壁に寄り掛かった。長時間パソコンの画面を見続けるのは、流石に目に堪える。
(あの戦車・・・『ホリ車』、だったかしら。旧日本軍最後の中戦車をベースに造った『砲戦車』。あんな戦車で前線を張るのは不可能・・・これはTSSを用いなくても分かる事・・・だけど)
清水の中で、不安が渦巻いていた。
これまでの試合で、このTSSが外した事は無かった。このプログラムに不備は無い筈・・・そう言いかせていた。
人付き合いが苦手で、人との会話はあまりしてこなかった。それが原因で苛められたりと散々な目に遭ってきた。
そんな彼女は中学2年生の時。戦車道という武道に出会った。母が元戦車道の履修生で、薦められたのがきっかけだ。
戦車そのものに興味は無かったが、戦略がどういうものなのかと気になり、その武道を始めること承諾した。
入ってすぐ、その内容を知って愕然とした。てっきりパソコンのソフトでも使っているのかと思ったが、そんなものは一切使用せず、作戦の立案は車長同士の会議で行っていた。
まだそんな不確実なものに頼っているのかと内心がっかりしたが、同時にここでなら自分の特技を活かせるという期待が高まった。
父親がシステムエンジニアで、小さい頃から父と2人でパソコンに触れるのが好きだった。
小学生になった頃にはプログラミングを始めるようになり、いつの間にかそれが唯一の特技となっていた。「戦略を立案出来るプログラムがあれば、無敵のチームが作れる」と思い、早速プログラム作成に取り掛かった。
制作開始から10ヶ月。
必要なデータを入力するだけで、短時間で最適な戦略を考案するプログラム、『TSS』が完成した。周りからは「たかがプログラムで」と嘲笑されたが、その実力は予想以上だった。
清水率いるTSSを使用するAチームと、これまで通りの戦略で挑むBチームで分かれて対戦したところ、なんとAチームが圧勝。Bチームは成す術が無いまま敗北という結果となった。
清水には戦略を考案するという経験はない。全ては自分が作ったTSSの活躍によってもたらされた結果だった。
清水の目論み通り、戦略を考案するプログラムを使って無敵のチームを作る事に成功した。周りからは「卑怯だ」と罵られたが、戦車道の規則に『プログラムを用いて戦略を考案するのは禁止』という項目は無いので、周りがどう言おうと気にしなかった。
帯広校に入学した清水は、「正確さをそのままに、より早く考案するようにするには処理能力が早い機材を用いる必要がある」と思うようなった。
今までノートパソコンでTSSを使用していたが処理能力に限界があり、時々フリーズしてしまうという欠点があった。
その欠点を克服するには、パソコンとは別にコンピューターを用いる必要があり、戦車に載せる計画を練っていたがそんな戦車は無かった。
帯広校に進学し、思いもよらない出会いをすることになる。それが、現在搭乗しているクロムウェル指揮戦車だった。低出力の無線機を2つ搭載しているので、1つを退かせばコンピューターを置くスペースが確保出来ることを知った。
早速その改造を施した所、これがドンピシャだった。フリーズという欠点を克服し、TSS本体の処理能力は格段に上がった。
帯広校の生徒たちは「高度な戦略の考案が簡単に素早く出来るなら」と、新入生であった清水を隊長に任命した。
帯広校もここ数年は勝率に伸び悩み、勝つためには手段を選ばない風潮になりつつあった。
TSSを駆使して戦う帯広校は一回戦、二回戦を順調に突破し、準決勝にまで上り詰めた。
そして今、対戦相手の延岡校を危機的状況に追いやった。こうして時間的猶予を与えたのは故障車を一方的に攻撃するという野暮な手はしたくなかったからだ。
TSSがシミュレーションを終えて、ノートパソコンの画面に結果を表示した。「対戦相手が現状を変えるのはほぼ不可能である。残り時間も少ないので、焦って飛び出してくる。そこと落ち着いて迎撃すれば良い」と結論を出した。
(・・・心配することは無いわ。TSSは私が作ってきた中での最高傑作。絶対負けはしない)
『そのTSSというプログラムを用いるのがあんたの戦略なら、こっちには『経験』という戦略がある。どっちが正確な物か、すぐ分かるだろう』
水田の言葉が頭を過った。TSSと経験・・・どちらが正確か?そんなものは、分かりきった事。
「隊長。そろそろ1時間経ちますけど、どうします?」
操縦手が腕時計を見ながら報告する。清水は軽く背を伸ばし、こう告げた。
「前進用意。戦略は追って指示を・・・」
言い終わる直前。遠くからエンジン音が響いてきた。アヴェンジャー5号車の車長が外を確認すると、相手の戦車が横一列に並んで走っていた。
『こちらアヴェンジャー5。対戦相手が市街地から出ました。見えるのはVKシリーズの2輌と、砲戦車1輌だけです』
「残りの3輌は?」
『・・・確認出来ません。満足に動けないんで、後方で待機でもしてるんじゃないですか?』
報告を受けた清水はすぐプログラムに追加の入力をし、新しい戦略を導き出した。
「・・・クロムウェルより全車へ。アヴェンジャー6輌とチャレンジャー3と4の半々で編隊を組み、後方に回り込んで攻撃を開始してください。チャレンジャーは1、2は私たちの護衛に付いてください。ホリ車に機関砲が付いていますが、十分に距離を取れば貫通することはありません」
指示された戦車たちが仕留めに掛かる。この奇襲に成功すれば、延岡校の陣営は総崩れ、後は全力を出せない戦車を一掃すれば良い。その中にはフラッグ車も含まれている。そう難しくない戦いだ。
アヴェンジャー3輌とチャレンジャー1輌のA、B班を2つ編成し、A班は右舷から、B班は左舷から回り込むように前進していく。相手の編成を確認したところ、相手の進行方向から見て右舷にVK30.01(P)、左舷にVK45.02(P)、中心にホリ車だった。
編成を確認し、相手の後方500メートルの所を陣取った。そこからA、B班のアヴェンジャーが2輌ずつ進軍し、側面を取った。照準を合わせ、攻撃に移ろうとした、その時だ!
突如、ホリ車から照明弾が打ち上げられた!照明弾が弾け、強い光が辺りを覆う。側面を陣取ったアヴェンジャーの乗員たちはその光景に目を疑った。VK30.01(P)、VK45.02(P)、そしてその後方には繋がれた残りの3輌の戦車が砲口を向けている!
攻撃指示を出そうとしたが、相手が一方早かった。4門の主砲と機関銃が一斉に火を吹き、アヴェンジャー4輌を撃破した!
後方に繋がれた3輌はすぐ砲塔を後ろに向けてきた。A、B班はその場を離脱し、急いで距離を取った。
「こちらチャレンジャー3!側面を取ったアヴェンジャー4輌が撃破されました!!相手は故障した3輌の戦車を背中合わせに繋いで進軍しています!!」
延岡校は、VK30.01(P)にルノー乙型。VK45.02(P)にカヴェナンター。ホリ車にT25E1を背中合わせに繋ぎ、互いにエンジンを守るという作戦に出た。
水田が秋川から各車の全備重量を確認したのは動ける3輌の牽引力を知るためであり、故障した戦車の重量と照らし合わせて牽引可能な戦車を選定するためだった。
敵の接近には気付いていたが、ギリギリまで粘ったのは相手を油断させるためだ。ほぼゼロ距離まで接近させれば、相手は気付いていないと思わせる事が出来るからだ。
観客席ではこの反攻を見て歓声が上がっていた。これを見ていた花蓮は目を見開いた。
「攻撃力を高めると同時に、一番の弱点であるエンジンを守る・・・故障して満足に動けないという問題を上手く相殺したようですね。ですが、何故ホリ車がT25E1を牽引しているんでしょうか。故障車の中では一番重量があるのに」
花蓮が疑問に思ったのは、一番重量がある故障車であるT25E1をホリ車が牽引していると言うことだった。
牽引力を決める要因の1つとして、牽引する側の重量が関係してくる。ホリ車は約40tに対し、VK45.02(P)は約64t。
牽引力があるのは後者と言うことになるので、T25E1はVK45.02(P)が牽引した方が良いように思えたのだ。すると友幸が口を挟んだ。
「確かに。
「違う所ですか?」
「駆動方式だ。VK45.02(P)は電動モーターで走っている。モーターはエンジンと違って回転力はあるが駆動トルクは小さい。ポルシェ・ティーガーが地面に埋もれてしまった原因だ」
『駆動トルク』は人で例えると『蹴る力』を指す。いくら足を早く動かしても、この蹴る力が小さいと前に進めないのだ。
「にしても・・・ホリ車を中心にして左右を固め、背中合わせにすることで弱点を隠し、更に前と後ろの攻撃範囲を専業化することで、互いの負担を軽減している。誰が考案したかは分からんが、よく考えているな」
そう言うと席を立ち、出口の方へ向かって歩き始めた。
「お祖父様?見ないんですか?」
「お前も分かっているだろう。もう勝敗は決まった様なものだ。それに、長時間座っているのは老骨に堪えるんでな」
友幸は杖を突きながらその場を後にしようとする。
「お祖父様。1つ宜しいでしょうか?」
「何だね」
「
「・・・連れ戻す気か?お前の説得に応じるとは思えんが」
「あの子も西沢流の継承者の1人です。何としても、連れ戻します」
「無駄だと思うぞ。あの子はお前と違って頑固な所があるからな」
歓声が大きくなった。
花蓮が一瞬画面の方を向き、視線を戻した時には友幸の姿は無かった。
帯広校の弾幕を張り続け、編隊は迫るアヴェンジャー郡を寄せ付けないようにしていたが、流石にこの作戦にもそろそろ限界が近付いてきた。加藤が上半身を出してホリ車に向かって叫ぶ。
「水田くん!そろそろフラッグ車を探した方が良いんじゃないかな!?」
「検討は付いてます!全車2時の方角へ砲火を集中!!このステージで市街地以外に隠れられる場所は他に無い!」
水田の指示に合わせ、砲口がクロムウェルたちが隠れている森林の方に向いた。砲弾を装填し、トリガーを引こうとしたその時だった。
狙いを定めた方角から火の手が上がった。何かが爆発したようなだ。突然の出来事に両者がその場で止まると、アナウンスが流れてきた。
『帯広女子学園フラッグ車、戦闘不能!よって、延岡女子高等学校の勝利!!』
アナウンスを聞いた水田たちは、何が起こったのか理解出来なかった。まだ撃っていないのに相手が負けたと言うのだ。ここにいる誰かが攻撃したのかと思ったが、まだ発砲はしていなかった。
『おいおい!うちらの事忘れたんじゃねぇだろうな!』
通信機から声が聞こえてきた。ずっと別行動をしていた鬼嶽の声だ。
『連中の隊列を見つけてはいたんだが狙いが定められなくてよ!フラッグ車側が手薄になるのを待ってたんだ!』
鬼嶽の話を聞いた水田は、ふっと苦笑いしながらこう返信した。
「・・・いえ。逆に助かりました。と言うより、あなたたちの事を完全に忘れてましたよ」
延岡校の生徒たちは水田と同様ほっとしていた。砲口を向けた時点で残り時間は10分を切っていた。これ以上長引けば引き分けになるところだった。
時刻は午前5時。ゆっくりと朝日が顔を見せ始めている。
ステージから引き上げた水田たちは、学園艦に戻る前に休息を取っていた。午後9時から始まり、終わったのは午前2時。普段の倍以上の疲労感を感じていた。
延岡校の乗員たちは一旦仮眠を取り、日の出と同時に出発する手筈となっていた。
他の乗員たちはテントで仮眠を取っていたが、水田はホリ車の中で少しだけ仮眠を取った。疲れていたが、試合に勝ったと言う興奮からか眠れなかった。
「皆ぁ起きてぇー。出発するわよぉー・・・」加藤が寝ぼけた状態で乗員たちを起こし始める。
ぼちぼちと出発準備が始まる中、秋川が「誰か来ますよ?」と指を指した。薄暗い中から、意気消沈を具現化したような雰囲気の清水が姿を見せた。
「・・・で?何で私が!最高のプログラムを作って、無敵のチームを作り上げたと思ったのに!!なのに何で!何であなたたちが勝ったんですかぁ!!」
叫んだと思ったらその場に泣き崩れてしまった。延岡校の乗員たちはどう言葉を掛けるべきかと右往左往していると、水田が清水に近付き、しゃがんでこう話し掛けた。
「あんたのプログラムは、優秀だった」水田が話し掛けると、清水は涙でグショグショになった顔を上げる。
「・・・ゆ、優秀?負けた・・・のに?」
「『戦略の考案と検討には現代技術の恩恵を受けるべき』、これを聞いた時は成る程と納得したよ。確かに戦略を考えるのには時間が掛かる。俺たちだって、この戦いに挑むための戦略を決めるまでに2週間も掛かったからな」
「・・・じゃあ、何故?」
「あんたのチームはプログラムに
そう言われた清水は、これまでの出来事を思い返した。今までの戦いで得られた経験を活かした事は無かった。
戦車道を始めて現在に至るまで、TSSを作ってからの初陣で勝利したので、「これが正しいんだ」と思って頼りきっていた。
「あんたは負けたが、落ち込むことはない。『勝つ』経験より『負けた』経験の方が活かせる。何が間違っていたのか。どうすれば勝てるかを改めて考え直すことが出来るからな。どうすれば良いかは、もう分かっているだろう」
朝日が上り、水田と清水を照らす。加藤が目で「そろそろ出発するよ」と伝える。水田は別れ際に、「頑張れよ」と言ってホリ車に戻った。
準決勝を終えて2日。
延岡校はいよいよ最後の決戦を控えることになった。決勝までの猶予は1ヶ月。今日も朝から訓練をすることになっていた。水田たちは朝の
格納庫に近付くにつれ、ざわつきが聞こえてくるようになった。一体何事かと思い早足で向かうと、そこには予想だにしない人物が立っていた。
そこに居たのは宇都宮校の隊長と副隊長の、西沢花蓮と麻美だった。何故ここにと思いながら唖然としていると、花蓮が口を開いた。
「・・・やっと見つけたわ。沙樹・・・ああ、ここでは『酉沢』と呼んだ方が良いかしら?」
全ての視線が酉沢に集中する。当の本人は呆然としていた。花蓮の言っている事が嘘か真か、理解するのに時間は掛からなかった。
一難去って、また一難。決勝を控えた水田たちに待っていたのは、修羅場だった・・・