転生の戦車兵『銀鳩班』    作:タンク

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前回のあらすじ

秋川が見つけた男子でも受けられる女子高は、宮崎県にある『延岡女子高等学校』という。
男子の入学を許可しているのは、少子高齢化の影響を受けて人数確保のためにやむ無く、と言う理由らしい。
受験する高校を決めた次の日、秋川が元『引田班』の班員を見つける。男児では無く女児だったが、話し掛けてみたところ前世の『大室曹長』であることが分かった。
その後も前世の芦沢曹長、酒井伍長の記憶を持つ女児と再会。秋川は「この5人で戦車道をしないか」と提案するが、「もう戦車には乗らない」と拒否される。
それでも彼らの戦車道に対する思いは強く、宮崎へ受験に向かうが・・・


第四話 これも試験の1つ

『私の名前は『ミヨコ』です。引田車長』

 

 水田は自分にしか見えない少女が名乗った名前を思い出そうと思考をフル回転させていた。

 前世での親友の名前、母の名前、親戚の名前・・・思い出せるものは全て思い出したが、『ミヨコ』という名前は出てこないし、『ミヨコ』の顔を見た記憶すらない。謎は深まるばかりだった。

 

(『ミヨコ』、か。あいつの声を初めて聞いたな。時々現れては何も言わずに消えていたのに・・・)

 

 特急が駅に停車したので外の看板を見ると、『佐伯(さいき)駅』と書かれていた。ここから目的地の延岡まで後1時間と言ったところだろう。秋川はまだ横で寝ている。

 

 

 目的地まで後少し。そろそろと思い、秋川の肩を揺する。少し揺すっただけなのに、飛び上がるように眠りから覚めた。

 

「あ!?も、もう着きました!?」

 

「落ち着け。そんなギリギリで起こしたりしない。それより、少しは寝れたか?」

 

「ええ。お陰ですっきりしました」

 

 出発の時に比べると顔色は良くなったように見えた。寝かせて正解だったようだ。

 10分後。特急は延岡駅に到着した。外に出ると、急に車内の暖房が恋しくなってしまった。改札口を通り抜けて、集合場所に指定されたターミナルの前に行くと、黒色のブレザー姿の女子生徒が2人に近寄ってきた。

 

「えーっと・・・君たち、今日延岡女子高等学校を受験する生徒さん?私は加藤。今日は受験生の案内役を任されてるの」

 

「ええ。自分達がそうです」水田が返事する。

 

「2人とも別府から来たんだよね?大変だったでしょ。さ、こちらへどうぞ」

 

 加藤についていくと、この現代ではあまり似つかわしくない旧式のボンネットトラックの前に案内された。2人はそのトラックを懐かしんだ。

 かつて旧日本軍で使用されていた『94式自動6輪貨車』という兵員輸送トラックで、陸軍で長らく使用されていた。彼らもこのトラックに乗って色んな所へ行った事がある。

 見た目は古いが、車体は錆び1つ見えない綺麗なオリーブドラブ色に塗装され、荷台には幌で屋根を付けてある。

 

「あなたたちはこの荷台に乗って。他の受験生もいるから、仲良くしてね」

 

 荷台を見ると、左右に簡易的な長椅子が備え付けられ、その左側に受験生と思われる学生が2名座っていた。

 1人は制服の胸元に『三原』と縫い付けられ、もう1人は『安藤』と縫われている。制服は同じなので、恐らく同級生だろう。2人も乗り込んで右側の椅子に腰を下ろした。

 

「えっと・・・受験生はこれで揃ったね。さぁ出発よ!」

 

 

 出発して30分。

 トラックは人里から離れ、人気が少ない道に入った。

 

「ちぇっ。どんな車で行くのかと思ったら、こんなオンボロに乗せられるなんて聞いてないぜ」

 

 安藤が愚痴を溢す。この時代にしてみれば、ボンネットトラックそのものが珍しい。『オンボロ』と呼ばれても仕方ないだろう。

 

「全くだな。まぁ仕方ないんじゃねぇの?だって『最弱の戦車道科』、だもんな!」

 

 三原が笑いながら言った。

 彼らはネットの掲示板でも見たのか、例の文面を何の躊躇いなく言った。秋川が言い返そうとするが、水田がそれを止める。喧嘩にでもなったら面倒な事になるからだ。

 

「おい。お前らも戦車道科受けんのか?ちゃんと乗れんのかよ?」

 

「無理じゃね?だって一度も乗ったこと無さそうじゃん」

 

 バカにする2人に対して、水田がボソッと呟く。

 

「それはこっちの台詞だ」

 

「あ?今なんつった?」

 

 安藤が突っ掛かってきたが、水田は無視した。相手してもしょうがない。

 

「おい。もう一度言ってみろよ」

 

「はいはい。喧嘩はそこまで。試験の内容を説明するから、ちゃんと聞いてよ」

 

 前から声がしたので視線を向けると、ポニーテール姿の女子生徒が助手席から顔を覗かせていた。

 

「着いたら、まず筆記試験。国語、数学、英語ね。それが終わったら、休憩の後戦車の操縦試験。そして最後に面接試験。終わるのは昼過ぎになるかなぁ」

 

 水田は戦車の操縦試験の内容が気になっていた。自動車の教習所のような形式なのか、それとも戦車の操縦を一通りやるのか。聞いてみようと思った時、トラックが停まり、加藤が呼びに来た。

 

「試験会場に着いたよ。さあ下りて下りて」

 

 荷台から下りて辺りを見渡す。側には誰もいない廃校となった校舎が佇み、枯れた草木が風に吹かれている。

 着いた場所が予想外の所だったので戸惑っていると、後ろから同じ制服を着用している女子生徒と、側にスーツ姿の女性が歩いてきた。女子生徒の方は今の気温に負けない程に冷たい目で水田たちを見ている。

 

「あのぉ、ここ何処なんですか?まさかここが学校じゃないですよね」

 

 三原が質問すると、女子生徒が鼻で笑いながら言った。

 

「今日は女子の受験生も受験している。あなたたちがいたら集中出来ないだろうと思ってね。会場はこちらで用意させて貰ったわ」

 

「はぁ!?何だよそれ!」

 

「文句を言う暇は無いわよ。5分後に筆記試験を始める。1階の教室にさっさと移動しなさい」

 

 女子生徒は4人に背を向けてその場を去り、スーツ姿の女性もその後に続いていった。加藤はその光景を見て溜め息を吐いた。

 

「はぁ・・・富永先輩めっちゃ機嫌悪いじゃん」

 

「仕方ないと思うよ・・・だってこの受験に一番反対してたし」

 

 冷たい目で水田たちを見ていた女子生徒は『富永』というらしい。あの雰囲気からして、指揮を取る立場の人間なのだろう。

 4人は加藤に連れられ、指示された教室に案内された。中には机が4つ並び、正方形を作っている。それぞれ席に着くと、問題用紙が配られた。

 

 

 2時間後。

 筆記試験が終わり、いよいよ戦車の操縦試験の時間が来た。案内されたその先には、寒空の下に佇む1輌のM3軽戦車が停まっていた。埃を被っているのか少し白っぽく見える。丸いフレームの眼鏡を掛けている女子生徒が声を張り上げる。

 

「試験内容を説明します。私は試験官補佐役の原田です。受験生4人で戦車の乗員の役割を担ってもらいます。車長兼装填、操縦、砲操作、通信。この4つの役割をローテーションで回します」

 

 原田は校舎の裏側の山を指差して説明を続ける。

 

「戦車はこの裏手の山に設けた3キロ弱のコースを走り、その途中で1キロ離れた位置で停まっている的に走行間射撃をしてもらいます。使用する砲弾は私たちが訓練用に使用している『カラー弾』と言うもので、当たっても色が付くだけなので安心して使用してください。砲弾は10発、なるべく標的に当たるように撃ってください」

 

 

 説明を受けた後、30分間休憩と言われたので、水田と秋川の2人はどのようなコースを走るのか確認がてら歩いていた。

 スタート時は木で囲まれ、空が見辛い道が続いたが、600メートル進むと視界が開けて、障害物が無い開豁地(かいかつち)に出た。丁度半分の地点で、さっき説明をしていた『的』が見えた。

 

「パンター・・・ですかね」

 

 秋川が細目で戦車を見る。1キロも離れていると『戦車』として認識出来る程度で、詳細までは分からない。

 2人はそのままコースを1周りして戻ると、三原と安藤はM3に寄り掛かってお喋りをしていた。

 水田たちはそんな2人を無視しながらM3に乗り込み、機器類を操作して使用感を確かめた。変速レバーを動かしたり、旋回ハンドルを回したりと、一通り操作して戦車から降りた。

 

 

 休憩の後、4人はM3の前に整列して「乗車」の合図を待った。

 水田が通信手。秋川が砲手。安藤が操縦手。三原が車長の役割に充てられた。加藤たちは校舎内に設けたモニタールームでM3の動向を確認する。

 

「乗車!」原田の合図を聞いて三原が声を上げる。

 

「よっしゃぁ!野郎共!さっさと乗り込んで準備を始めろぉ!!」

 

(乗車前の周囲の確認は?)

 

 秋川は呆れた目で三原を見た。

 戦車は車と違って死角が多い。乗車前に周囲の確認をするのは基本中の基本だ。

 水田を見ると「指示に従え」と目で合図を送って来たので言うとおりにすることにした。それぞれの持ち場に付き、機器類の状態を三原に報告する。

 

「よーし。エンジン始動!!」

 

 秋川がエンジンを掛ける。エンジンの振動が車内にまで伝わってきた。

 

「よぉーし。前し・・

 

「待て。エンジントラブルだ」水田が三原を止める。

 

「あぁ?エンジントラブル?ちゃんと回ってるだろ!」

 

『M3!何やってるの!準備が出来たならさっさと出発しなさい!』富永の声だ。

 

「あー、すんません!通信手がふざけたこと言ってまして。もう出発し・・

 

「こちら通信手水田。エンジントラブルです。原因を調べるので試験は一旦止めて下さい」

 

 モニタールームでM3の動向を確認している加藤たちは困惑していた。事前に調べた時には問題無かった筈だ。

 

「その戦車は古いのよ。大きな振動ぐらいするわ!」

 

『この振動の大きさは異常です。とにかく調べます』

 

 水田は席を離れ、機関室の上に乗って蓋を開ける。そこに加藤たちが集まってきた。

 

「この振動の何処が異常だって言うの?良いからさっさと持ち場に戻りなさい!」

 

「・・・そうですか。じゃあこれは、どう説明するつもりです?」

 

 水田は1本の配線を抜いて見せた。エンジンの振動は変わらず、そのまま回り続けている。

 水田が抜いた配線は、点火装置の『ディストリビューター』と点火プラグを繋いでいる配線で、プラグに電気が通わないと点火が出来なくなり、そのシリンダーだけ空回りしているような状態になる。

 水田がやって見せたのはどの気筒のプラグに問題があるのかを確認するための動作で、1本ずつ抜いて振動が変わるか変わらないかを見ている。

 振動が変わればその気筒のプラグは正常。変わらなければ問題ありということになる。水田はエンジンを止めて、プラグを外した。

 

「見てください」

 

 手渡されたプラグは煤で真っ黒に汚れ、火花を飛ばす箇所である電極は焼け落ちている。

 

「別の戦車を用意するか、修理してください。これではまともな試験は出来ません」

 

「何言ってるの。プラグの交換だけで済む話でしょ?」

 

「通信機本体とアンテナの接合が悪いのか電波を上手く拾わない。砲塔を回したらギシギシと音がする。変速レバーは動きが固い。ペリスコープは汚れで外が見辛い。そして最後にプラグの焼損・・・自分が確認しただけでも、これだけの問題がありますが」

 

 その場にいた加藤たちは何も言えなかった。ただの憶測・・・そう言いたかったが、エンジンの振動だけでプラグの焼損を見抜いた水田の意見を否定することは出来なかった。だが、富永は違った。

 

「素人が偉そうな口を聞くんじゃない!この戦車のトラブルはプラグの交換だけで済む!それが終わったらこのM3で試験を続行する!」

 

「いつ壊れてもおかしくない戦車に乗れというんですか?もしこれが実戦なら、取り返しのつかないことになる事ぐらいあなたでも分かるでしょう!」

 

 水田の声が辺りに響き、静まり返る。数秒間の沈黙の後、加藤が囁くように言った。

 

「富永先輩。念のためにこの戦車、もう一度再チェックしませんか?彼の言うとおり、ここは万全な態勢で受けさせた方が言いかと・・・」

 

 加藤の提案に、富永はこう言った。「予備のM3を出して。再チェックしてたら後のスケジュールが詰まるわ」

 

「了解です」加藤は原田を連れてその場を離れた。今、富永の怒りは頂点に達している。直感でそう感じた。

 

 

 予備のM3はトレーラーの上にある。鎖を外して転輪の間に挟んだ輪止めを外す。そして加藤が操縦席に座り、原田は砲手席に座った。

 

「ねぇ。あの子名前何て言ったっけ」加藤が話し掛ける。

 

「あー、水田くんじゃなかった?」

 

「水田くんかぁ・・・ちょっと面白いかも」

 

 加藤はクスッと笑うと、エンジンキーを捻って戦車を移動させた。

 

(富永先輩は『素人』って言うけど、あの子は私たち並みに・・・いや、それ以上に戦車に慣れているように感じた。あんな子が1人いるだけでも、心強いと思うけどなぁ)

 

 

 予備のM3に乗り換えた水田一行は、走行間射撃をするポイントに差し掛かろうとしていた。水田がモニタールームから通信を受ける。

 

「車長。指令部から報告。偵察隊がこの辺りで敵戦車を見掛けたと言っています」

 

「はぁ?この辺りってどの辺りだよ。ちゃんと詳細まではっきり言えよなぁ」

 

 指令部と言えど、常に正確な情報が得られる訳ではない。最終的には前線の判断に委ねることになる。

 

「あ!いたいた!おい!攻撃開始だ!」

 

 秋川が指示を聞いて砲撃を始めた。撃ち出された砲弾は的に対して大きく反れて着弾していく。

 水田と秋川にはこうなる事は分かっていた。M3の主砲は()()()()()()()()()()()()()()と。

 この主砲は銃で例えるなら9ミリの拳銃。弾の飛距離が伸びれば伸びる程威力は下がり、弾道はずれていく。小口径の砲弾は空気抵抗や重力の影響を受けやすいからだ。

 車体が常にブレる走行間射撃となれば、難易度は更に上がっていく。元々通信手としての経験しかな秋川にとってはこれで精一杯だった。全弾発射して命中弾はゼロ。一番近くに着弾したのは的に対して100メートル弱離れた地点だった。

 

 

 試験は何事もなく順調に進み、車長の役が水田に回ってきた。戦車操縦試験はこれで最後だ。

 

「乗車!」原田からの合図だ。

 

「乗車!乗車前の周囲確認後、持ち場に付け!」

 

 水田の指示を聞いて真っ先に動いたのは秋川だ。他の2人は確認の動作をすることをせず、持ち場に付いてしまった。役割は水田が車長。秋川が通信手。三原が砲手。安藤が操縦手だ。

 

 

 M3は順調に進み、コースの半分に差し掛かった。これまでの流れからすると、そろそろ「敵を見掛けた」と報告が入る筈だ。

 

「車長!偵察隊から、この辺りで敵を見掛けたと報告が入りました!」

 

「速度落とせ。エンジンを出来るだけ絞りながら前進」

 

 ハッチを開けて、双眼鏡を通して周囲の確認を始める。的の位置は常に変化している。早急に敵を見つけて攻撃の合図を出さなければならない。

 

 

 加藤は双眼鏡を通してM3の動向を見ていた。彼女は的として停車させているパンターの中にいた。砲手席には原田もいる。

 

「ねぇ・・・こんなことして良いの?M3に対して攻撃するなんて」

 

「良いの。ちゃんと許可は貰ってるし、当てなければ問題ないよ。至近弾でね」

 

「はいはい・・・」

 

 原田は照準機のレンズを覗いて位置を確認し、狙いを定めた。

 

 

(見つけたぞ。距離約1キロ、風速、南より微風・・・今俺たちは北の方角に進んでいるから、また風に流されるな)

 

「敵を補足した。砲塔を10時の方向に。距離約1キロ。砲身を目標に対して少し左に傾けろ。撃ち方用い・・・

 

 ドンッ。砲撃音が水田の耳に入る。その数秒後。M3から500メートル手前で着弾した!安藤が驚いてブレーキを掛る。

 

「おい、止まるな!狙い撃ちにされるぞ!」

 

「で、でも!撃ってくるなんて聞いてねぇよ!!」

 

 再び砲撃音が聞こえたと思っていたら、今度は後ろに着弾した。着弾点には青色のペンキらしい液体が飛び散っている。

 

「おいやべぇよ!マジでやべぇって!!」

 

「逃げるぞ!こんなの聞いてねぇし!!」

 

 三原と安藤は砲撃に恐怖を覚えたのか、勝手に持ち場を離れて逃げ出してしまった。

 

「おい!勝手に持ち場を離れるな!!試験中だぞ!!」

 

「うるせー!!文句なら試験官に言え!!」

 

 三原はそう言い残し、安藤と共に森の中へ消えていった。

 

 

 2発目の攻撃の後、加藤はその後の動向を見ていた。

 M3から2人出てきたと思ったら、慌てた様子で森の中へ走っていった。

 

「あらら。逃げちゃったね」

 

「もう・・・言われた通りにしたけど、一体何が目的なのよ」

 

「『()()()()()()()()()()()』、どんな対応をするか気になってさ。どの場面でもそうだけど、臨機応変に対応する能力は必要だからねぇ」

 

 加藤は双眼鏡越しにM3を見る。水田が砲塔のハッチから逃げてしまった二人を見ていた。

 

 

 三原と安藤が逃げてしまい、M3は一番重要な役割を担う人間がいない状態に陥っていた。まさか逃げると思っていなかったので、水田は唖然としている。

 

「ど、どうします?」

 

「どうするもこうするも、試験はまだ続いているんだ。このまま続行するしかないだろ」

 

 水田はそう言うと、砲手席に座って照準機越しに敵の位置を再確認した。まだ敵は動いていない。

 

「秋川。お前は操縦をしろ。俺は敵に攻撃をする」

 

「えっ良いんですか?自分、下手ですよ?」

 

「今はお前に任せるしかない。操縦席に一番近いのはお前なんだ。さっさと場所を交代しないと、また撃たれるぞ」

 

「分かりました」秋川は操縦席に移り、エンジンを再始動した。

 

「2速以上ギアを上げるな。速度は出ないが、エンストして止まるよりは良い」

 

 水田のアドバイスに、秋川は気持ちが少し楽になった。ギアを入れて、アクセルを吹かす。車体が少し揺れたが、少しずつ前進していく。

 水田は砲弾を装填し、攻撃してきたパンターに照準を合わせた。風速は枯れ草が教えてくれる。多少修正を加え、トリガーを引く。

 砲弾は山なりの弾道を描き、的に向かって飛んでいく。当たったか分からないので、履帯を狙うつもりでもう1発撃った。砲弾は1発目と同じ弾道で目標に飛んでいった。

 

「水田さん!当たりましたか!?」

 

「昔の感覚を頼りに撃ってみたが・・・どうだろうな」

 

 当たっていないかもしれない、そう思ったが口には出さなかった。これはあくまで試験。当たっても『得点』として加算されるだけだ。

 

 

 加藤が外に出てパンターの状態を見た。

 M3が再び動き出したかと思っていたら、反撃が2発飛んできた。1発目はキュウポラを掠めて後方50メートルの辺りに着弾し、2発は車体の左前に着弾したのだ。

 

「うそっ。こんなことって・・・」

 

 加藤は命中した場所を見て愕然とした。起動輪にカラー弾が命中し、全体を青く染めていた。原田も見たが、彼女は平然としている。

 

「驚くこと無いでしょ。ただのまぐれよ」

 

「1発目はキュウポラを掠めて、2発目は起動輪(ここ)よ?まぐれで当たるわけ無いじゃん」

 

 M3で狙撃はほぼ不可能という事は加藤も分かっていた。走行間射撃では近くに着弾させるだけでも難しいはずだ。原田は相変わらずただのまぐれだと言っている。

 

 

 M3はそのままコースを走り、予定より10分遅れで到着した。戦車を下りると、何処からか怒鳴り声が響いてきた。

 

「ふざけんなよ!!撃ってくるなんて聞いてねぇぞ!!」

 

「そうだ!事前に説明するべきだろ!!」

 

 三原と安藤だ。スーツ姿の女性に試験の抗議をしているらしい。秋川は呆然とその光景を見た。

 

「怖くなって逃げ出したくせに文句なんて・・・一言言ってやりましょう・・・あれ?」

 

 水田は抗議している2人の側に近寄っていた。視線が合うと、また三原が突っ掛かってきた。

 

「・・・何だよ。今俺たちは抗議してんだよ!」

 

「やめとけ。ただカッコ悪いだけだぞ」

 

「ああ!?テメェ!!」安藤が胸蔵を掴む。

 

「わざわざ『撃つぞ』と言う敵がいると思っているのか!?実戦はお前たちが思っているより生易しいものじゃないんだぞ!実戦ともなれば、見えない位置から何十発と砲弾が飛んでくる事もある!この射撃も()()()1()()だ!」

 

 水田の一喝に、三原と安藤は何も言い返せなかった。正論を言われてぐうの音も出ないのだろう。

 

「えーっと。そろそろ良いかな?」加藤が3人の間に入るように立っていた。

 

「これで戦車の操縦試験は終わり。トイレ休憩を済ませたら、面接を始めましょうか」

 

 

 

 1週間後。

 鶴ヶ原中学校は『女子高を受験した男子』の噂が飛び交っていた。所詮ただの噂、そう言う生徒もいる。

 その日の放課後。水田は進路指導室に呼び出されていた。ドアをノックして中に入ると、担任の片崎が封筒を片手に立っている。

 

「水田くん。あなたが受験した高校から合否の結果が届いたわ」

 

 そう言って封筒を差し出した。水田はその場で封を切り、中身を確認した。

 

 

 

 

【平成24年4月2日。

 この時期になると、風のいたずらで桜はほとんど散ってしまうものと思っていたが、今年はまだ満開の木が多い。桜は好きなので、嬉しい限りだ。

 今日は入学式。俺は男子でも入学出来る女子高、延岡女子高等学校に合格した。それも、目標にしていた戦車道科だ。秋川も合格し、「また戦車に乗れる」とはしゃいでいる。初の試みとなる、男子が参加する戦車道・・・一体どんな景色が待っているのだろうか】

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