転生の戦車兵『銀鳩班』    作:タンク

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前回のあらすじ

ホリ車の修理が終わり、急遽戦車道の練習試合をすることになった水田班。
ルールは相手を攻撃し、最後に生き残った班が勝利するというものだった。
水田はホリ車を山のようなに高低差があるエリア・Δに向かわせた。ダッグインで敵を待ち伏せするのではなく、高台を陣取って狙撃する作戦に出た。
VK30.01(P)、VK45.02(P)を狙撃で撃破。続いて後ろを取ったカヴェナンターとT25E1を撃破し、水田班の勝利となった。
その日の夜。水田は自室で再び現れた『ミヨコ』に、「何故自分の過去を知っているんだ」と尋ねる。彼女は「何も覚えていないんですね」と言って姿を消した・・・


第七話 大会の幕開け

【平成24年4月19日 晴れ

 今日は戦車道全国大会の開会式だ。全国各地の女子高が会場に集まり、対戦相手を決めると聞いている。男子が行くのはお門違いと思われそうだが、気にする事ではない】

 

 

「今日から戦車第14連隊に配属となりました、中島一等兵です!宜しくお願いします!」

 

 昭和17年12月。

 本土から新兵が異動してきた。一通りの操縦訓練をしたと言っているが、よりにもよって実戦経験の無い新兵を配属させるとは、いよいよこの国も追い詰められているのだろう。

 ベテランは貴重だ。貴重ゆえに前線で戦い、この世から去っていく。実戦経験が浅く、若い兵士が来るような所ではない。

 引田は自分より7つ下の若い兵士を見た。彼は戦場の恐ろしさを知らない。これから自分が死ぬかもしれない瞬間を、その身で体感する事になるのだろう。それも故郷から遠く離れた、異国の地で・・・

 

 昭和19年3月7日。

 戦車第14連隊に新たな命令が下された。『インパール作戦』だ。作戦実行は明日。目的はインパールの奪還、敵の補給ルートの遮断というものだ。

 このビルマ方面では唯一の戦車部隊が本格的に動く時が来たらしい。米軍のM4を相手に、チハ車のような小口径の主砲で何処まで立ち向かえるのか。今は補給もままならない状況だ。戦う前から勝敗は決まっているようなものだ。

 だが、この作戦に反対する者はいない。命令は絶対と言うこともあるが、今戦えるのは我々しかいないのだ。我々が戦わなくて、誰が戦うのかと、引田はそう思っていた。

 この頃になると新兵だった中島も、今は立派な戦車兵に成長していた。初めは戦車砲の砲撃に毎度毎度ビビり、敵を撃つことも躊躇っていた。

 兵士にあるまじき失態とも言えるが、人間なら当然の反応だろう。兵士同士でも、自分の国に帰れば普通の人間だ。中島の成長は、上官としては誇らしくもあり、複雑でもあった。

 

「引田准尉。ちょっと良いですか?」中島が煙草を燻らす引田の側に近寄ってきた。「どうした?」

 

「このチハ車なんですけど、車体番号いくつでしたっけ」

 

 中島の視線の先には引田班が搭乗するチハ車が停車している。先日の戦闘で受けた砲塔側面の傷が目立っていた。

 

「そんなの聞いてどうする」

 

「いえ。親近感を上げようかと思ってまして・・・

 

 

「水田さん。水田さん」秋川が隣で寝ている水田の肩を揺する。

 彼らは学園艦を降り、連絡艇に乗って会場に向かっているところだった。

 会場がある場所は近くに港があり、他校の学園艦もこの港に集まっている。強豪校が先に港に入り、その横に並ぶように他校の学園艦が停泊している。

 延岡女子高の学園艦は港からかなり離れた場所に停泊している。加藤が言うには「弱小校は港に入らないのが暗黙の了解」、だそうだ。

 

「・・・ん?寝てたか」背伸びをして周りを見る。

 学園艦が停泊している様子は、まるで軍港にでも来たような雰囲気だ。見慣れない景色を眺めながら、水田が秋川に言った。

 

「秋川。前世で『ミヨコ』という言葉に覚えはないか?」

 

 水田は1週間前に『ミヨコ』に言われた一言が気になっていた。「何も覚えていない」、そう言われる理由が分からないのだ。

 記憶がほぼそのまま残っていると言っても、何もかも覚えている訳ではない。人間なら忘れることもある。

 秋川に尋ねたのは、自分が忘れてしまっている事を覚えているかもしれないと思ったのだ。

 

「『ミヨコ』?何かの名前ですか?」時々現れる少女の幻影の名前、とは言えない。

 

「あー・・・時々思い出すんだが、俺には覚えがなくてな」秋川は手に顎を乗せて考え込んだ。

 

「何かをそう呼んでいたような気がしますけど・・・確か、前世の水田さんがそう呼ぼうって言ってましたよね」

 

「俺が?」水田は目を丸くした。そんな女のような名前で呼ぼうと言った覚えがない。

 

「言ってましたよ。何だったかは、覚えてませんけど」

 

 曖昧な言い回しのせいか腑に落ちなかったが、新たに分かったこともある。いつなのか定かではないが、前世の引田が『何か』を『ミヨコ』と名付けたと言うことだ。

 あの少女に名付けた覚えはない。それは確かだ。その何かが分かれば、あの一言の謎も解明出来るかもしれない。

 

「何ひそひそと話してるんです?もう着きますよ」織田が船の進行方向に指を指す。気付けば船着き場は目の前にあった。

 

 

 会場の前は様々な出店があり、他校の生徒や見学者で溢れていた。水田が辺りを見渡す。分かっていた事だが、男性は殆どいない。出店の店員には見られるが、それ以外は女性ばかりだ。

 

「ねぇ。あれってまさか噂の」

 

「マジだったんだ」

 

 女子生徒たちの視線やひそひそ話が聞こえてくる。水田は全く気にする素振りを見せないが、秋川は肩身が狭いように感じていた。

 会場に入ろうとした時。後ろから女子たちの歓声が聞こえてきた。人が集まっている中に、2人の女子生徒の姿が見える。

 

 1人は黒色のセミロング姿で、前髪を揃えてカットしている。もう1人は黒髪のベリーショートで、毛先を少しカールさせている。

 いつだったか、テレビで見掛けた覚えがある。栃木県にある『宇都宮女学園』の生徒で、その腕は一流だという話を聞いている。

 秋川が調べたところ、戦車道科の規模は全国1位で、主にドイツとアメリカの重戦車、中戦車を主軸にしている。今年の大会で優勝すれば、全国初の10連勝となる。

 セミロングの生徒は『西沢(にしざわ)花蓮(かれん)』。3年生で隊長を勤め、高い指揮能力と冷静な判断力を兼ね備えている。

 ベリーショートの生徒はその妹の『西沢(にしざわ)麻美(あさみ)』。彼女は同じ高校の2年生だ。

 姉の花蓮と違って指揮を執るのは苦手らしいが、高い操縦技術を持っている。試作車のテストドライバーに抜擢されるなど、その技術は侮れないと聞いている。

 彼女たちは戦車道の流派『西沢流』の後継者だという。戦車道が発足した当初からある流派で、彼女たちの祖父に当たる元師範は、日本陸軍の戦車兵だったらしい。彼女らの高い指揮能力や操縦技術は、その師範の指導があってこそなのだろう。

 

「全国で有名な、戦車道姉妹か」水田が呟く。

 

「かなり強いって言われてますからね。手強いと思いますよ」

 

「どうだろうな。戦車の操縦経験だけなら、俺たちが上だ」

 

 水田は鼻を鳴らして会場へ向かい、秋川もその後に続いた。その彼らを花蓮が見ていることに気付かなかった。

 

 

『それでは、試合の抽選を行います。各校の代表は、前に集まってください』

 

 会場の中央に設けられているステージに女子生徒たちが集まる。その中には代表として送り出された原田もいる。

 ステージの端にはトーナメント表が置かれ、番号が振られている。抽選はくじ引きで行われ、その引いたくじの番号で対戦相手が決まる仕組みだ。

 原田の番が回ってきた。彼女は他の生徒と違って時間を掛けず、パッと引いた。数字は『7』。対戦相手はまだ分からない。

 他の生徒はくじ引きで盛り上がっているが、水田は奥のステージに視線を向けている。

 年配の男性が1人、中央のステージを眺めている。年を取っているが、ステージを見つめる眼光は鋭い。あの目は、戦場で生き延びてきた兵士の目だ。

 協会長の西沢(にしざわ)友幸(ともゆき)。西沢流の元師範であり、その役目を娘に継いでからは戦車道の協会長に就任。今年で4年目になる。

 そんな彼は、前世の引田たちと同じ元旧日本軍の戦車兵だ。戦歴は6年。優秀な戦車兵だったようだ。水田は何処かの戦線で見掛けた事があるかもしれないと思っていたが、前世では覚えのない顔だった。

 

「お!対戦相手が決まったみたい」

 

 加藤がステージのトーナメント表に指を指す。『7・延岡女子高等学校』の横に、『8・九十九里女子学園』と書かれている。

 

「あっちゃぁ・・・九十九里かぁ。去年1回戦で戦って負けたんだよねぇ。しかも3位に入賞した実力持ってるから、油断出来ないなぁ」

 

 横で聞いていた秋川がスマホを開いて検索してみた。

九十九里(くじゅうくり)女子学園』。全校生徒は約750人。戦車道の履修生は100人弱。その内の半分以上は整備員となっているらしい。主に軽戦車を主軸とし、高い機動力を生かした走行間射撃が得意だと書かれている。

 加藤が言った通り、去年は1回戦目で延岡女子高等学校と試合をして勝利し、その後も快進撃を続けて3位入賞という輝かしい結果を残したそうだ。

 

『それでは、西沢協会長からお言葉を頂戴致します』

 

 周りの生徒たちが一斉に姿勢を正す。水田たちもそれにならって姿勢を正すと、話が始まった。

 

『今年もこうして、無事に戦車道が開催できる事は協会長として嬉しい限りだ。スポーツマンシップに乗っ取って、正々堂々とした試合をしてもらいたい。さて、既に知っている生徒もいると思うが、今年は男子の生徒が参加することになっている』

 

 周りがざわつき始めた。まだこの事実を知っている生徒はそれほど多く無いのだろうか。今はSNSでどんな情報でも拡散できる。知っている方が多いとばかり思っていた。

 

『彼らについては特例として出場を認めている。報告によれば、熟練者のような動きをするという話だ。私は、彼らがどんな戦いを見せてくれるのか少し期待している。無論、君たちの戦いにも期待している。改めて、君たちの奮闘に期待する。以上だ』

 

 話を終えると、杖をつきながらその場を後にした。姿が見えなくなると、アナウンスが開会式の終わりを告げた。

 

 

 水田と秋川は会場を抜けて、少し離れた場所に建っていたカフェに足を運んだ。学園艦の出港まで時間を潰すためだ。

 物資の積込や燃料補給をしなければならず、全ての作業が完了するまで4時間近くもあるため、その間は自由時間となった。

 織田たちは近くにデパートがあると聞いてそっちに行っている。2人も誘われたのだが、『荷物持ち』を任されそうな気がしたので丁重にお断りした。

 水田はブラックコーヒーを、秋川はカフェ・オレを口にしながらどういう戦術を駆使して戦うか話し合っていた。テーブルには第1回戦の試合会場を示す地図が広げられている。

 何処へ進軍するのか、どのルートで逃げるかと、地図には目印や進軍ルートの線が引かれている。

 

「取り敢えずはこんなところで良いだろう。後は織田たちと詳しく話し合って決めよう」水田はコーヒーを飲み干して椅子にもたれ掛かる。

 

「1回戦目の相手は、軽戦車を主軸としているんだったな」

 

「ええ。高い機動力を生かして攻撃してくるそうですよ。乗員同士の団結力が高いみたいで、どの女子高もこの連携攻撃には勝てないらしいです」

 

「油断出来ないな。ホリ車は特にそうだ。砲塔がないから、後ろを取られたらこっちはなす術がない」

 

「あんたたちが油断しようとしまいと、勝てる術は無いんじゃないの?」

 

 声がする方を向くと、西沢姉妹が立っていた。声を掛けてきたのは妹の麻美だ。

 

「延岡女子高等学校・・・最弱の戦車道科のある女子高ねぇ。まぁでも、私たちの敵じゃないわね。今年の大会も、私たちが絶対勝つわ」

 

 ただ嫌みが言いたかったのか、姉の花蓮を連れてその場を去ろうとした。

 

「待て」水田が呼び止める。

 

「何よ。文句でもあるの?」

 

「1つ良いことを教えてやる。この世に『絶対』という言葉は存在しないものと思った方がいい。その慢心が命取りになるぞ」

 

 水田のアドバイスに対して、麻美は鼻で笑った。

 

「あんたに何が分かるの?戦車道のいろはも分からない素人のくせに」

 

「そっちこそ。他校の実力をこれまでの経歴や見かけで判断するようじゃ、足をすくわれるぞ」

 

 麻美が険しい顔つきで水田に近付こうとした時、花蓮が肩を引っ張って引き戻した。

「何で止めるの」と言いたそうな麻美に目で訴えると、花蓮は目線を周りに向けた。「今ここで問題を起こせば、後々面倒な事になる」と諭している。

 麻美はその手を振りほどき、出口に向かって早足で歩き始め、花蓮がその後に続く。2人が出ていくと、秋川がむすっとした顔で言った。

 

「何なんですかあの態度。いくらなんでも失礼ですよ」

 

「ああいう奴ほど、実力や権力を振りかざそうとするものさ。ほっとくのが良い」

 

 水田は広げた地図を畳み始め、店員にコーヒーのおかわりを頼んだ。

 

 

「何なのよあいつ!マジでムカつくんだけど!!」麻美は店を出た瞬間に地面を思いっきり蹴った。「お姉ちゃんが会ってみたい何て言うから付いてきたけど、あんなやつ私たちの敵じゃないわ」

 

「あの人はただの初心者じゃない。お祖父様が期待するのも納得だわ」

 

「はぁ?何処が」

 

「あの広げてた地図をちらっと見たけど、素人とは思えないルートの詮索をしてたわ。敵が何処から攻めてくるか、その予想も完璧だった」

 

「冗談でしょ。あいつらは所詮素人よ。それにあの学校の戦車はポンコツばっかりじゃない。何度か試合見たことあるけど、あんなんでよく試合に出れるなぁって思うわよ」

 

 水田に言い返されたことに腹を立てているらしい。花蓮はそんな麻美をただ眺めていた。

 

「西沢隊長」呼び掛けてきたのは西沢姉妹と同じ高校に通う1つしたの後輩だ。

 

「会場内を探し回りましたけど、見つかりませんでした」

 

「そう。ご苦労様」花蓮はそう言うと、何処か遠くを見つめた。

 

 

 学園艦に戻った水田は、第一格納庫の中で停まっているホリ車の前にいた。

 整備班が綺麗に掃除してくれたようで、車体や履帯には泥汚れは無い。砲身の内部も掃除され、塵1つ見られない。水田はホリ車の車体を撫でた。

 

(綺麗だ。いや・・・綺麗すぎる。戦場で走り回る車両が綺麗すぎると、違和感を感じてしまうな)

 

 戦場では戦車を磨く暇などなかった。車体は泥や傷だらけで、車内は作動油や火薬の匂いで充満していた。

 今のホリ車はまるで製造工場から出てきたばかりの新車のようだった。

 綺麗にした方が見映えが良いというが、水田は多少汚れがあった方がいいと思っている。落とせない汚れがあったり、傷だらけなのは、実戦を幾度と無く経験している証拠のようなものだからだ。

 

「これから厳しい戦いになるだろう。67年前とは多少異なる戦場だが、決して油断はしない。自分で選んだ場所だ。あんな風に言われて、黙っていられるわけがないだろ」

 

 水田がホリ車に話し掛けている後ろで、『ミヨコ』がその様子を見ていた。相変わらずの無表情だが、彼女はこの光景を懐かしんでいるようにも見えた。

 

(あなたはいずれ知ることになるでしょう。私の正体も、()()()()()()()()()()()()()()()・・・)

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