転生の戦車兵『銀鳩班』    作:タンク

9 / 23
前回のあらすじ

ついに始まった第1回戦。
木が生い茂るエリア223にて偵察をするカヴェナンターは、進軍していく敵戦車郡を発見する。報告するために無線機で連絡を取ろうとしたが、謎の電波障害で無線が通じないトラブルが発生した。
一方。別行動をしているホリ車は、小山のようになっているエリア224で進軍していたが、途中でエンジントラブルを起こして停車してしまう。
加藤隊長に連絡を取ろうとしたが、こちらも電波障害の影響で無線が通じない。
水田は状況確認のため、秋川と共に先行して予定のポイントに向かっていった。


第九話 通信(ネットワーク)トラブル 後編

 エリア224。

 ホリ車を降りて移動する水田と秋川は、漸く目的地のポイントにたどり着いたところだった。秋川が息を切らしながら膝をついた。

 

「はぁ・・・やっと・・・着きましたね」

 

「ああ・・・こんなに全力で走ったのは・・・久し振りだな。無線機・・・寄越してくれ」

 

 秋川は背負っていた無線機を下ろして電源を入れた。水田が周波数を調整し、息を整えてマイクに声を吹き込む。

 

「こちら水田。本隊どうぞ。こちら水田。本隊、応答してください」

 

 何度も呼び掛けるがやはり応答がない。周波数を変えて試みてみたが結果は変わらなかった。

 通信は諦め、2人は双眼鏡を取り出してエリア223を見渡した。本隊を探していると、遠くから砲撃音が聞こえてきた。聞こえてくる方角に視線を向けて倍率を上げると、軽戦車が横切っていった。

 

「秋川。今の戦車、種別は分かるか?」

 

「ドイツのⅡ号戦車だと思います。20㎜機関砲を搭載して、約40㎞という快速で走る軽戦車ですよ」

 

 ドイツ陸軍の軽戦車『Ⅱ号戦車』。

 Ⅰ号戦車では扱えない砲を扱う為の訓練用、及び戦車生産技術習得のために開発された。

 主力戦車である『Ⅲ号戦車』、『Ⅳ号戦車』が揃うまでの繋ぎとして、Ⅰ号戦車に代わって実戦でも戦えるよう強化していた。試作型から量産型、別設計の車両等数多く生産された。

 水田たちが確認したのはⅡ号戦車の中で一番多く生産されたF型で、標準型の装甲を強化された型だ。

 敵が見えたと言うことは、あの場所に本隊がいる筈。更に倍率を上げると、本隊が抗戦しているところが確認できた。

 

「いたぞ。偵察に出たはずのカヴェナンターも一緒にいる」

 

「無線が通じないから戻ったんでしょうか。それにしても・・・敵ながら見事な連携攻撃ですね」

 

 敵は2輌で1班を作り、1輌の戦車に攻撃を仕掛けていた。初めは横並びで走っていたが、目標を捉えると同時に離れて1輌が囮に、もう1輌が攻撃という役割を担っているようだ。

 

「お前が言うとおり、見事な連携だが・・・あいつらはどうやってその連携を取っているんだ?」

 

 妨害電波を出しているのなら無線は通じない。味方もそうだが、敵にも同じことが言える。無線機が全く電波を拾わないにもかかわらず、敵は連携が取れている。乗員同士で手旗信号を送っている訳ではなさそうだ。

 

「このような状態に陥ることを想定して、訓練に訓練を重ねている・・・と言うことですかね」

 

「その可能性もあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()をすると思うか?本物の戦場とは訳が違うんだぞ」

 

 水田が本隊を見ている間、秋川は周囲の確認をしていた。現在確認出来ている戦車の数は8輌。相手が出場させている戦車は10輌と聞いている。まだ見つかっていない2輌を探しているのだ。

 

 

 エリア223。

 延岡側の陣営は敵からの猛攻撃を受けながら対抗していた。無線は通じていないが、それぞれで応戦しているからか今のところやられた味方はいない。

 相手は機関銃しか持っていないが、装甲が薄い部分を叩かれたらやられてしまう可能性は否定できない。

 

「一旦退却するしかない!原田!そのまま後退して!」

 

 加藤はハッチを開けて赤い旗を大きく振り、「退却せよ」と信号を送った。信号を確認した各車両の車長は同様に赤い旗を振り、撤退しようと下がり始めた。

 追撃されると覚悟したが、敵は追撃を一切する素振りを見せず、攻撃を中止して下がっていった。

 

「・・・あれ?向こうも退却しちゃった」

 

 想定外の行動に加藤は唖然とした。向こうが優勢だったのだから、普通は畳み掛ける場面のはず。しかし、敵は下がっていってしまった。

 

「助かったってことかな・・・原田。エンジンを止めて。みんなの状況を確認するから」

 

 加藤は車外に出て、各車両の車長を集合させた。被害状況を確認するためだ。幸い敵の攻撃で致命傷を負った車両は無かった。

 

「みんな無事で良かったよ。ホリ車も無事だと良いけど」

 

「て言うか、水田はこっちに支援攻撃をするために別行動を取っているんですよね?全然支援しなかったじゃないですか」

 

 酉沢は不満気味に加藤に突っ掛かった。

 

「まぁまぁ。水田くんの方も無線が通じてないだろうし、支援しようにも私たち巻き込んだらまずいと思ったんじゃないかな。それより・・・これからどうしようか」

 

 現在の加藤たちは「このまま前進する」とは言いにくい状況に置かれている。味方と連携を取るための無線がまだ回復しないのだ。敵を追尾しようにも迂闊には動けない。

 加藤は水田たちが待機していると思われる場所を見上げた。今は別行動をしているホリ車が最後の切り札だ。

 

 

 エリア224。

 山道の中腹部で残された織田、神原、伊藤の3人はホリ車のエンジントラブルの原因を探っていた。

 

「はぁー・・・ぜんっぜん分かんない!!!て言うか分かるわけないじゃん!!」

 

 織田は持っていたスパナを地面に叩き落す。

 ここで停車してしまってから既に10分が経過しているが、原因は不明のままだった。

 

「まぁまぁ落ち着きましょうよ」伊藤が宥める。「あんたは呑気すぎなのよ!!神原はさっきから黙ってエンジン見詰めてるし、こんなんじゃ日が暮れるわ!!」

 

「織田。クランキングしてみて」ずっと黙っていた神原が漸く口を開いた。

 

「・・・何で」

 

「いいからやって」織田は深い溜め息を吐いて操縦席に座り、キーを捻った。クランキングはするが、エンジンは掛からない。

 

「やったわよ。これで何か分かった?」

 

 腕組みをして神原を見つめる。無駄な作業をしたようにしか思えない。

 神原は1つの部品に注目していた。点火装置の『ディストリビューター』だ。

 

「さっきからディストリビューターのカバーが動いているような気がしたんだけど・・・」

 

 そう言ってディストリビューターに手を掛けた。すると、固定されているはずのカバーが簡単に取れてしまった。

 

「やっぱりね・・・燃料系統は問題無かったから、点火系統に問題あるんじゃないかって思ってたんだけど・・・まさかカバーが取れるなんてね」

 

 ディストリビューターのカバーの表には、エンジンの気筒数と同じ数の突起あり、どの気筒に点火指示を出すか、点火時期を早めたり遅めにするなどの役割がある。

 エンジンが振動を起こして停車してしまったのは、このカバーが外れ掛かっていたから上手く点火指示が出せなかったからだろうと神原は推測した。

 

「原因は分かったけど・・・何でさっきまでは動いていたのよ」

 

「カバーの接合部に接着剤をつけた跡があるわ・・・こんなに簡単に外れたんだから、多分弱めのやつ・・・でも爪はちゃんとあるのに、何で接着剤使ったのかしら」

 

「まぁ原因が分かったんだから良いわ。さっさと付け直して出発しましょ」

 

 織田がディストリビューターのカバーを付け直している間、神原はふとあることを思っていた。

 

(・・・何で私、エンジントラブルの原因が分かったのかしら?エンジンの構造なんて、いつ知ったのかしら)

 

 そんな神原の疑問を他所に、織田はエンジンを再始動して見せた。少し長めのクランキングの後、エンジンは再び息を吹き替えした。

 

「やったぁー!!動いたわ!さぁ乗って!出発よ!!」

 

 はしゃぐ織田に軽く溜め息を吐いて車内に戻った。すると伊藤が副砲手の席に座り、無線機を弄り始めた。織田は「通じないから意味がない」と言ったが、伊藤は「もしかしたら復旧してるかもしれない」と言って周波数を合わせて呼び掛ける。

 

 

 水田と秋川は残りの戦車を探すことに躍起になっていた。

 指揮を取るはずの隊長車が別のエリアにいる可能性はゼロに等しい。指揮を取る立場の人間が自分の目で状況を確認せずに指示だけするなどあり得ないからだ。

 

『こちら・・・伊藤・・・聞こえたら返事してくださーい』

 

 無線機が電波を捉えた。秋川が無線機に飛び付いてヘッドホンを耳に押し当てた。

 

「伊藤さんですか!?水田さん!ホリ車から通信です!こちら秋川!応答してください!」

 

 無線が通じたと聞いて水田も駆け寄った。

 

『ほら・・・言った・・・でしょ。ホリ・・・シュウリハ・・・』

 

「伊藤さん?ホリ車の修理がどうしたんですか!?伊藤さん!」

 

 肝心な事を聞き終わる前に再び無線が切れてしまった。水田はそのやり取りを見た後、周波数を変えて加藤に連絡を取った。ホリ車からの通信は拾ったのに、加藤への通信は繋がらなかった。

 

「・・・この電波障害は()()()2()2()3()()()に起きている可能性があるな。ホリ車の通信が一瞬通じたのは、その範囲外だったからだ。まだ分からないのは、敵が何故連携を取れているかだが」

 

 手に顎を載せて考え込んだ。その時、軍人時代の思い出が一瞬脳裏を過った。そうだ。こんな状況下でも、連絡できる手段があった。

 

「分かったぞ。『モールス信号』だ」

 

 モールス信号とは、『(トン)』と『(ツー)』の信号を組み合わせて作る文字コードだ。

 現在は使われる事は殆ど無くなったが、陸上自衛隊や海上自衛隊では現在でも使われている。

 

「ライトの明かりを点滅させて送っているんだ。キュウポラの覗き窓から明かりを見せれば、敵に感づかれずに送ることは出来る」

 

「じゃあ。敵は何故、攻めた方が良い場面で撤退を始めたんです?連携が取れているなら、攻め続けた方が得策だったはずです」

 

「味方が撤退を始めたと感づいたからだ。このエリアから出さないためにな。さっきも言ったが、この電波障害はこのエリアでしか起きていない。このエリアから脱出されれば、電波妨害の存在を協会に知られることになる。だからこのエリアに釘付けにする必要があったんだ」

 

「だとすれば、何処かに無線機の類いがあるということになりますね。探しましょう!」

 

 2人は双眼鏡を手に取り、敵が撤退していった方向を重点的に探した。敵に見つからないように擬装を施している可能性もある。何か不自然なものが無いかを探していると、秋川が何かを見つけた。

 

「水田さん。あれ・・・」

 

 秋川が指を指す方を見ると、1輌の戦車が止まっていた。擬装を施しているが、この位置からは丸見えだった。秋川が「ドイツのⅢ号戦車ですね」と呟く。

 

 ドイツ陸軍の中戦車『Ⅲ号戦車』。

 完成当時はドイツ陸軍の中核を担う主力戦車として造られた。乗員を5名とし、かつそれぞれを専業制にした世界初の戦車だった。

 更に本車から無線機の搭載を標準化し、味方との連携を容易にした。これも世界初の事で、それまでは無線機を搭載するのは指揮戦車だけだった。

 時代が進むに連れて満足な戦果を上げるのは難しくなっていたが、それでも味方と容易に連携が取れる点を最大限に活かし、旧式ながらも前線で戦っていた。

 

「妙だな。何で基本性能が高い中戦車が後方にいる?それにあのアンテナ・・・普通の戦車が使うものにしては大型だな。軽戦車が主軸でも、一緒に前線を張ることぐらい出来る筈だ」

 

「確かⅢ号戦車には指揮戦車型があって、初期の物は砲塔をダミーにして大型の無線機を搭載したと本で呼んだことがあります!」

 

 それを聞いて確信した。あの中戦車から妨害電波が発信され、このエリア全体に影響を及ぼしている。

 

「だとしたら、全ての行動に説明がつくな。あとはホリ車が来れば狙撃出来るんだが・・・ん?」

 

 水田が視線を変えると、本隊が前進していた。敵を追っているのだろうか。そのまま前に視線を変えると、敵が茂みの中に潜んで待ち構えている。

 

「マズいな。このまま前進したら、敵の待ち伏せを食らう」

 

「ど、どうしましょう。連絡しようにも通信手段が」

 

「いや、あるぞ。こっちもモールス信号を送れば良い」

 

「でも、どうやって送るんです?」

 

「双眼鏡のレンズの反射を使えばいい。後は向こうが解読してくれれば良いんだがな」

 

 最も心配なところはそこだった。信号を送れたとしても、解読できなければ意味がない。戦車道でモールス信号を使ったやり取りをするとは聞いたことがない。

 通じない可能性の方が高いが、今はこれしか手段がない。秋川が双眼鏡を本隊に向ける。

 

「何て送ります?」

 

「取り敢えず、『気付いた合図を』と送ってくれ」

 

 

 エリア223。

 本隊は敵を追尾するため、人が歩く程度の速さで前進していた。無線がまだ復旧しないので分散はせずに纏まって行動するようにしていた。

 各車の車長は上半身を出して手信号を頼りに進んでいる。加藤が上を見上げると、何かが反射していることに気付いた。停車の合図を出して本隊を止めて、双眼鏡を手に取った。

 

「あれ何だろ。規則的な感じがするけど」

 

「モールス信号ですよ」そう言ったのは酉沢だった。

 

「分かるの?」

 

「まぁ・・・ちょっとなら」

 

「じゃあ悪いけど、解読してくれる?」

 

 酉沢も双眼鏡を手に取り、信号の解読を始めた。

 

「水田と秋川?何やってんのよ・・・・・『気付いたら合図を』と言ってます」

 

「合図ね。分かった」加藤は手を振って気付いた事を知らせた。

 

「・・・加藤隊長が手を振ってる。信号に気付いたらしい。よし次は、『電波障害の原因が分かった』。『排除するので待機を』だ」

 

 秋川は言われた通りに信号を送り、確認した酉沢が解読する。

 

「・・・・・『電波障害の原因が分かった』、『排除するので待機を』?何言ってのあいつ」

 

「何か分かったってことだよね・・・他に手はないし、『任せる』って送れる?」

 

 酉沢は頷いて、手鏡を使って返答する。水田は酉沢から送られた信号を確認し、手を振って『確認した』と返答した。その直後、ホリ車が2人の前に現れた。

 

「お待たせしました!乗ってください!」

 

 織田が満面の笑みで2人を呼ぶ。2人は急いでホリ車に戻り、水田は測距儀を通してⅢ号戦車の位置を再確認する。

 

「織田。もう少し左に傾けて前に出してくれ。神原。距離400メートルの位置に擬装している中戦車がいる。確認出来るか?」

 

「・・・確認しました」

 

「恐らくあの中戦車が無線を妨害している元凶だ。あいつを撃破すれば、無線が回復する。撃ち方用意!目標、Ⅲ号戦車!距離400メートル!風速、南東より2ノット!」

 

 砲口がⅢ号戦車に向けられ、水田の指示に合わせて微調整をしていく。照準器の目盛りがⅢ号戦車のエンジンを捉える。

 

「撃てっ!!」撃発ペダルが踏み込まれ、105㎜の砲弾が轟音と振動と共に撃ち出される。

 砲弾は重力に従って落下するように勢いを増していき、Ⅲ号戦車のエンジンを撃ち抜いた。エンジンから高い火柱と黒煙上がり、砲塔の天板に白旗が上がった。『撃破された』という合図だ。

 

「水田さん!無線回復しました!」

 

 水田はすぐヘッドセットを頭に付けて、マイクに声を吹き込む。

 

「こちら水田。本隊どうぞ!」

 

『・・・・・お!回復した!こちら加藤!水田くん!それにホリ車のみんなも良くやってくれたね!で、原因は何だったの?』

 

「それよりも、敵が待ち伏せしています。加藤隊長達から見て距離約50メートルの辺りの茂みに敵が潜んでいます。こちらから撃って敵をそこから叩き出します」

 

 

 

「何があったの?受信灯が消えたわ」

 

 黒川は異変に無線機を叩いた。

 各車両の無線機にはⅢ号から妨害電波を受信している間、『受信灯』という電球が点灯する仕組みになっている。その受信灯が突然消えてしまったのだ。

 その時。真後ろで凄まじい轟音と共に1発の砲弾が着弾した。黒川が確認すると、会場で見掛けた砲戦車がこちらを狙っている!

 

「敵に居場所がバレたわ!移動するわよ!まだ妨害電波は発信されているは・・・」

 

 黒川は言葉を失った。

 目の前で味方が1輌撃破された。今度は後ろを走っていた1輌、その次は真横を走っていた1輌がやられた。

 

「何で!?妨害電波はどうしたのよ!!」

 

「隊長!Ⅲ号戦車が撃破されたと連絡が!!」

 

 無線手からの報告を聞いた黒川は、サーっと血の気が引いていった。まさか、バレたのか。無線に関する規約は厳しく統括されていないが、この事が協会に知れたら・・・

 

 

 水田が測距儀で状況を見ていると、旗を掲げて走るⅡ号戦車見えた。

 

「神原。敵の隊長車だ。狙えるか?」

 

「・・・撃って良いんですか?ここは加藤隊長たちに譲るべきだと思うんですけど」

 

「構わないさ。我々の戦果が後方で待機していた中戦車だけというのは味気ないだろ」

 

 神原は何も返さず、フラッグ車に照準を合わせて撃発ペダルを踏み込んだ。砲弾は真っ直ぐ飛翔し、走行していたフラッグ車のエンジンを撃ち抜いた。

 撃ち抜かれたフラッグ車は惰性で数メートル進んだところで停車し、天板に白旗を掲げた。

 

『九十九里女子学園フラッグ車、走行不能!よって、延岡女子高等学校の勝利!!』

 

 アナウンスが勝敗を知らせる。まさかのどんでん返しに会場は歓声に包まれた。

 

「こちら水田。敵フラッグ車を撃破。戦闘終了です」

 

『水田くーん。やってくれたねぇ。横で酉沢さんが拗ねてるよ』

 

 酉沢の悔しそうな顔を思い浮かべると、思わず吹き出しそうになってしまった。

 

 

 試合は終わったのだが、加藤たちは黒川が乗っているⅡ号戦車の前に集まっていた。Ⅱ号戦車の前には黒川が呆然と突っ立っている。そこにホリ車が到着し、水田たち5人が近寄ってきた。

 

「何か知ってるんでしょ!?白状しなさいよ!」原田が凄い剣幕で黒川に迫る。そんな原田を加藤が宥める。

 

「まぁまぁ落ち着いて。お、水田くんの班が着いたね。無線が通じなくなった原因を突き止めたんだよね。聞かせてくれる?」

 

 黒川が水田たちを見る。まさか、戦車道初参加の素人が突き止めたのかと拍子抜けしてしまった。ああ。もう全てバラされる・・・そう覚悟した。

 

「あー・・・そんな事言いましたか?」水田は今初めて聞かされたように頭を掻いた。

 

「はあ!?モールス信号で原因が分かったって言ってたじゃない!秋川もその場にいたでしょ!?」酉沢が水田と秋川に迫る。

 

「モールス信号?秋川、そんなの送ったか?」

 

「えっえっと・・・双眼鏡のレンズの反射で、そう見えただけじゃないですかね?」

 

 加藤は2人がとぼけているとすぐ分かったが、何か訳があると感じた。

 

「あ!そうだ思い出した!ここのステージ、電波障害が起こりやすいって注意喚起されてたんだっけ。みんなごめーん。説明するの忘れてたわ」

 

 加藤が水田に「これで良い?」と聞くようにウインクし、水田は軽く頷いた。

 

「さ!そろそろ帰らないと。学園艦が出港しちゃうよ!」

 

 手を叩いて解散を促すと、生徒たちはやれやれと言った雰囲気で各車両に戻っていった。酉沢は訝しがっていたが、追求が面倒になったので自分の戦車に戻った。

 

 

 会場に戻ると、すぐ港に移動して学園艦に戦車を積み込む作業が始まった。重量が軽い戦車から順番に上げられていく。ホリ車の番になった。水田が前進と合図する。

 

「待って!そこの砲戦車!」水田が横に視線をずらすと、息を切らしている黒川の姿があった。水田は「先に上がっておけ」と言い残してホリ車を下りた。

 

 

 水田は黒川に連れられ、積み込み用エレベーターから少し離れた場所に案内された。

 

「今さら何のようだ。早く戻らないと出港してしまう」

 

「・・・電波障害の原因、分かってるんでしょ?それなのに何で言わなかったの?私を脅す気?」

 

 水田は溜め息を吐いて黒川の目を見た。

 

「そんな事をするように見えるか?原因は分かっていたが、敢えて言わなかったんだ。何故か分かるか?」

 

「何故って・・・脅す気以外に何があるのよ」

 

「あんたのチームは負けた。これで()()()()()()()()()()()()()()と分かった筈だ。その行為をネタにして脅すなんていう汚い真似はしない」

 

 黒川は水田の目を見て、彼が言うことに嘘はないと感じた。

 

「最後に1つ聞きたい。俺が搭乗するホリ車がエンジントラブルを起こしたんだが、何か細工をするような行為をしたか?」

 

「エンジントラブル?私は何も指示してないわ」

 

「・・・そうか」水田はそれ以上追求すること無く、学園艦に向かって歩き始めた。

 

 

【平成24年4月30日 晴れ、時々曇り

 初戦は無事勝利を納めることが出来た。敵は電波妨害で我々を混乱に陥れて来たが、原因を突き止めて復旧させることが出来た。

 今回の不祥事は敢えて伏せることにした。戦術だけで見れば最も有効的な手段だったからだ。恐らく去年の試合もこの戦術で勝ったのだろう。

 普通ならしかるべき処罰を受けるべきなのだろうが、相手は去年と同じ戦術で挑んで試合に負けた。これだけでも十分な処罰に思える。また同じ手を使うような真似をするならば、協会からの処罰を受けてもらおう】




水田たちの会話をモールス信号に変えると、以下の通りになる。

気付いたら合図を
ー・ー・・(キ)、・ー・・・(ヅ)、・ー(イ)、ー・(タ)、・・・(ラ)、ーー・ーー(ア)、・ー(イ)、ーーー・ー・・(ズ)、・ーーー(ヲ)

電波障害の原因が分かった
・ー・ーー・・(デ)、・ー・ー・(ン)、ー・・・・・ーー・(パ)、ーー・ー(シ)、ーー(ヨ)、・・ー(ウ)、・ー・・・・(ガ)、・ー(イ)、・・ーー(ノ)、ー・ーー・・(ゲ)、・ー・ー・(ン)、・ー(イ)、・ー・ー・(ン)、・ー・・・・(ガ)、ー・ー(ワ)、・ー・・(カ)、・ーー・(ツ)、ー・(タ)

排除するので待機を
ー・・・(ハ)、・ー(イ)、ー・ー・・・(ジ)、ーー(ヨ)、ーーー・ー(ス)、ー・ーー・(ル)、・・ーー(ノ)、・ー・ーー・・(デ)、ー・(タ)、・ー(イ)、ー・ー・・(キ)、・ーーー(ヲ)

任せる
ー・・ー(マ)、・ー・・(カ)、・ーーー・(セ)、ー・ーー・(ル)

濁点が付く言葉の場合(ガ、ザ等)、『・・』が付き、半濁点の場合は『・・ーー・』が付く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。