陰陽師奇譚   作:雛罌粟初秋

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金森柊馬は登校中に華島神社の近くで勾玉を拾い二人の人物が対峙する映像を見る。気になりはするものの、大学に急いでいた為登校した。

帰宅途中、勾玉の持ち主であろう華島神社に立ち寄ると、異形が人を喰らっているのを目撃する。異形に見つかり絶体絶命の危機に陥るが持っていた勾玉の力により九死に一生を得る。

勾玉に封印されていた式神・ゴンと出会い、陰陽師としての道を……


ごきげんよう、雛罌粟初秋でございます。
私の小説が私の想像よりも多くの方に触れられていた事に、心より感謝申し上げます。
これからも宜しくお願い致します。


第弐話「少女」

6月2日 9時42分 華島神社

 

「昨夜ここで妖怪と戦って陰陽師に……」

 

 柊馬は昨夜あった華島神社での出来事を、そして自宅でのゴンとのやり取りを思い返した。

 

「やっぱり、妖怪と戦わなきゃ……ダメなの?」

 

 自室にて対面に座っている、自身の式神となったゴンに質問した。その語気は弱々しいものだった。

 

「はい。それが陰陽師となったご主人様の使命ですから」

 

「警察……ゴンの前のご主人様が生きていた時代でいう検非違使の方に任せるのは?」

 

 警察は市民の平和と安全を守るのが仕事。彼らなら任せる事が出来る、と思いゴンに聞いた。

 

「残念ながら現実的ではありません。妖怪の前では人の力は無力です。確かに妖怪を負傷させる事が出来ますが、そこまでです」

 

「────」

 

 ゴンの言葉に現実を突きつけられ言葉を失い俯いた。

 

「妖怪と戦うのは怖いですか、ご主人様?」

 

「うん、怖い。怪我をするのも嫌だし、死にたくもない」

 

 柊馬は俯いたまま握り拳を作りゴンの質問に答えていた。

 

「ご主人様は正しく痛みを感じる人で良かったです」

 

「えッ!?」

 

 ゴンの言葉にハッと俯いていた顔を上げた。柊馬の目に映ったのは優しく微笑むゴンの顔だった。

 

「皆が皆ではありませんが、人は強い力を手に入れると驕ります。ですので……ご主人様は力に溺れる事なく、正直に気持ちを吐露してくれて良かった、と申したのです」

 

「ゴン……」

 

「怖い、と仰っている方に無理強いをさせるのは良くありませんからね。逃げましょう、妖怪たちがいない所へ」

 

 ゴンは手をゆっくりと柊馬の方に差し伸ばした。

 

「逃げる?そしたら……多くの人々は……」

 

 柊馬は困惑した表情を浮かべながら首を傾げた。

 

「犠牲になりますね」

 

「────」

 

 分かってはいたが、言葉にされると形容しがたい重いものが圧し掛かってくる感じがした。()()から逃げるかの様に勾玉をギュッと握り口を開いた。

 

「この刀、今は勾玉の形をしているけど……代わりの方に渡したら?」

 

「真価は発揮されないでしょう。その方がよほどの能力と覚悟を持っていなくては……」

 

(無理だ……。何もして来なかった僕には。ただ将来、命の大切さを教える先生になりたい、子どもたちを楽しめさせ笑顔溢れる教室にしたい、と思い大学に通っている僕には……荷が重すぎる)

 

 視線を落とし先ほどよりも勾玉を力強く握った。

 

(でも、ここで逃げ出したら……子どもたちが襲われ犠牲になる可能性もある。それに僕の夢も壊される)

 

「ゴン……僕が妖怪を戦う!!」

 

 柊馬はゴンを見据えてそう言い放った。柊馬の瞳には決意の炎が宿っており、その瞳を見たゴンは差し伸ばした手を引っ込め首を縦に振った。

 

「すまない、少し訪ねたい事があるんだがね?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 声をかけられ柊馬の意識は昨夜の出来事から今いる華島神社の前に戻された。振り返ると声の主が居た。声の主は高校生くらいでクリーム色のセミロングが特徴の少女だった。やや口調が上から目線っぽいが、特に気にすることはなかった。道でも聞かれるのかと思い快く返事をした。

 

「君……陰陽師だろう?」

 

「なッ!!」

 

 少女の衝撃的過ぎる言葉に柊馬は意表を突かれ、目を丸くし声が上ずってしまった。

 

「うんうん、実に良いリアクションだ。からかい甲斐がありそうだ」

 

 少女はニヤリと笑った。それは良い獲物を見つけた、と言わんばかりの笑みだった。

 

「冗談は置いといて────私は六条彩希(ろくじょうあき)。ただの霊媒師さ、どうかな?君さえ良ければ一緒に妖怪退治でも。尤も死んでもいいなら無理強いはしないがね?」

 

 コホンと軽く咳払いした少女は六条彩希と名乗り、霊媒師だと正体を明かした。そして、柊馬に脅迫に近い感じで妖怪退治を提案してきた。

 

「えッ……六条組の!?一緒に妖怪退治?な、何が起きているの?」

 

 柊馬は混乱していた。六条組といえば華島市で知らない人はいない。泣く子も黙ると言われている極道一家である。しかも、彩希は六条組組長の孫娘で大事な跡取りである。致し方ない事情で陰陽師になったとはいえ、柊馬は平凡な大学生だ。裏社会とは接点も何もない。それが何故、自分の前にいるのか分からなかった。それに彩希は柊馬を陰陽師と知った上で接触してきたのだ。自身を霊媒師と正体を明かし、一緒に妖怪退治と言っているが、柊馬には素直に信じられる事が出来なかった。

 

「落ち着き給え。私はね、君に協力を求めているのさ。新米の陰陽師くん。君もそれを望んでいるだろう?」

 

 そう言いながら彩希は指を鳴らした。すると、彩希の背後に黒塗りの高級車が停まった。柊馬はその黒塗りの高級車を見て目を見開いた。ドラマや漫画でしか見た事のない黒塗りの高級車が目の前にあるからだ。柊馬の反応を見て彩希はクスリと笑い口を開いた。

 

「君を我が家に招待したい。あぁ、安心し給え……別に取って食おうとは思ってはいないよ」

 

 助手席から高級そうなスーツを着てサングラスをかけた六条組の組員であろう男が降りてきて後部座席のドアを開けた。すると、彩希は乗り込み柊馬に向かって手招きをした。

 

「では、失礼します」

 

 柊馬は先ほどとは打って変わり、彩希の言葉を素直に聞き入れ車に乗り込んだ。それは、先ほどの彩希の言葉を信じられる答えを見つけられるかも知れないと思ったからである。柊馬が乗り込んだのを確認すると組員は後部座席のドアを閉め助手席に乗り込んだ。そして、車が走り出した。

 道中会話らしい会話はなかった。柊馬の耳に入ってきたのはエンジン音と車がアスファルトを走る音だけだった。

 

 

 

6月2日 10時36分 六条宅

 

 華島神社から車を走らせ30分ちょっとで彩希の家に着いた。立派な門構えの武家屋敷だった。門や庭にはスーツにサングラスをかけた人物がちらほらと居た。

 彩希の案内で長い廊下を渡り客間に通され座った。背筋を伸ばし正座で。

 

「我が家へようこそ……え~と、君の名前は?」

 

「金森柊馬です」

 

「ようこそ、柊馬。適当に寛ぐと良い、それから敬語も外してくれ。君の方が年上だからな」

 

「あ、うん……そうさせてもらうよ……」

 

 柊馬の返事はぎこちなかった。寛げと言われても、相手は極道である。礼を欠いてはいけないと、足を崩さなかった。ただ、慣れない敬語は外した。

 

「おや?まだ、少々警戒されている様だね……。それもそうか、急にこんな所に連れて来られたらね」

 

 頬杖をつきながら彩希は柊馬を見て僅かに口角を上げた。

 

「君の警戒を解きたい、何でも質問に答えよう」

 

 机の上に両肘をつき指を組んだ。そして、その上に顎を乗せ柊馬の質問に答える姿勢を見せた。

 

「どうして僕が陰陽師だと分かったの?」

 

 最初の質問はそれだった。柊馬の中で一番気になっていた事を口にした。傍から見れば金森柊馬という男はごく平凡な大学生である。何故、柊馬が陰陽師である事を知っているのか。それを問いただす必要があった。

 

「昨日、華島神社で見かけたからね。光の刀で妖怪を貫いたのを。尤もその刀は君の首にかかっている勾玉になっているけどね」

 

 彩希は柊馬の首にかかっている勾玉を指さしながら、そう答えた。見かけたから、知った。それは偶然の出来事であり、柊馬を陰陽師と見破ったのは彩希の霊媒師としての力ではなかった。

 

「妖怪が出る事を知っていたの?」

 

 では、何故に華島神社に?参拝?いや、それはないだろう。時間的におかしい。そこに居たのは彩希の霊媒師としての力が働き何かあるのを知っているのでは?そう思い、柊馬はその様な質問を投げかけた。

 

「妖怪が発する気、妖気を感じて駆け付けた。そしたら君が妖怪を貫いていた」

 

「その妖気を感じて駆け付けたら、僕が刀で妖怪を貫いていたのを見たと」

 

 柊馬は顎を右手に乗せ考える姿勢を取り返答した。彩希は無言で首を縦に振った。

 

「それでよく陰陽師と断言出来るね。六条さんと同じ霊媒師とは思わなかった?」

 

 やや強引的な切り返し方だが右手を膝の上に戻しながら、そう言った。彩希との会話の中で霊媒師も妖怪を退治するものだと思ったからである。

 

「霊媒師は式神を持たないからね」

 

 肩を竦めながら彩希はそう言った。

 

「君の式神……その勾玉の中に居るんだろう?」

 

 彩希は視線を勾玉に移しニヤリと笑った。

 

「ゴン、出ておいで。挨拶をしよう」

 

 柊馬が勾玉に向かってそう言うと勾玉は光輝き、ゴンが出てきた。

 

「初めまして、霊媒師さん。ゴンです。以後、お見知りおきを」

 

「六条彩希だ、ゴン。私は初めまして、じゃないな。昨日見たからね」

 

 ゴンが深々と挨拶をすると、彩希は軽く会釈をした。

 

「昨日僕たちを見て声をかけてこなかったのは?」

 

「あのタイミングで出て行ったら、時間も遅いし余計に怪しまれるだろう?」

 

 彩希の返答は正しく、といったところだった。妖怪に襲われ、右も左も分からない状態で陰陽師となり、式神も現れた。そこに霊媒師と名乗る女が出て行ったら、混乱し疑心暗鬼にもなる。

 

「……」

 

「どうかしたかい、柊馬?」

 

 柊馬が黙り込んで彩希をじーっと視線を逸らさず覗き込む様に見てきたので、気がかりな事でもあったのかと、彩希は声をかけた。

 

「ううん、少々頭の整理が追い付かなくて……。でも、六条さんは嘘は言っていない、信用に足る人だと思う」

 

 柊馬は首を横に振り、柔らかく微笑みそう言った。

 

「それはありがたいよ」

 

 彩希も柊馬につられてか目を細めた。そして、思い出したかの様に手を叩き口を開いた。

 

「少しお茶にしよう。誰か茶を頼むよ」

 

 しばらくして、ノックする音が聞こえると彩希は入室の許可を出した。すると、「失礼します」と男が入って来た。黒の短髪で年も柊馬と変わらない紺色のスーツを着た男だった。

 

「彩希さん、お茶をお持ちしました」

 

 男はそう言うとお茶を彩希と柊馬の前に置いた。

 

「ご苦労。下がっていいぞ」

 

 彩希が言うと男は「失礼しました」と頭を下げ出ていった。

 

「柊馬。君は妖怪について、どれ位知っている?」

 

 出されたばかりの湯気が立っているお茶を一口啜り彩希は口を開いた。

 

「さぁ……。妖怪なんて昨日見たのが初めてだった。そもそも妖怪なんて枯れ尾花だと思ってた」

 

「……そうか。まあ、普通の人間なら妖怪など信じてもいないだろうな。妖怪には二種類いることは?」

 

「うん、それならゴンに聞いたよ。妖怪の中にも善し悪しがあって悪い妖怪が解き放たれたって」

 

 彩希から出された質問を柊馬はゴンとの会話を思い出すかの様に話した。ゴンという単語が出て、ゴンの存在を思い出した柊馬は自身に出されたお茶を勧めたが、ゴンは遠慮し柊馬の後ろに静かに正座していた。

 

「なるほど。そうだ、確かに妖怪には二種類いる。人に危害を加える邪悪な妖怪とそうでない善良な妖怪」

 

 右手の人差し指と中指の二本を立て、妖怪の種類を説明しながら彩希は指を折っていった。

 

「そして善悪問わず妖怪は人間態と妖怪態の姿がある。妖怪はね、私たち人間の生活と強く結ばれているんだよ」

 

 そう説明しながら彩希は両手をガシッと組んだ。

 

「邪悪な妖怪と善良な妖怪?それに人間態と妖怪態の姿?」

 

 柊馬は腕を組みながら首を傾げた。

 

「そうだ。まぁいきなりこんな話をしても理解できないだろうさ。とりあえず簡単に邪悪な妖怪と善良な妖怪の違いを説明しようじゃないか」

 

「うん、頼むよ」

 

「邪悪な妖怪は人間に恐怖や苦痛を与え喰らう、其れを好しとする存在。善良な妖怪は人間に平安や安楽を与え共存する、其れをを好しとする存在」

 

「なるほど。じゃあ、人間態があるというのは……邪悪な妖怪の場合は人を襲いやすくする為で、善良な妖怪の場合は人と共存しやすくする為?」

 

 彩希の説明を聞きながら、柊馬は人間態があるという事をその様に推測した。それに対して彩希は「その通りさ」と頷いた。

 

「一つ気になる事があるんだけど……」

 

「何かな?」

 

 柊馬は疑問を口にしたので彩希は首を傾げて聞き返した。

 

「ゴンの話だと、1000年間邪悪な妖怪たちは封印されていた様だけど……江戸時代とかの書物に書かれているという事は、邪悪な妖怪たちは完全に封印されてはいなかった、という事?」

 

 顎を右手に乗せ人差し指が左頬をポンポンと触りながら、柊馬は推測を口にした。

 

「妖怪は沢山種類が居るからね、おまけに人間態にも成れる。上手くかいくぐってきたのだろう。後は善良な妖怪によって、その存在が知らされた、という事さ」

 

 彩希は右手の親指の腹と中指の腹をすり合わせながら答えを出した。その答えに「はぁ……なるほど」と柊馬は繰り返し頷いた。

 少し温くなったお茶を一口啜り彩希は口を開いた。

 

「では、次に妖怪を倒す存在について話そう」

 

「陰陽師と霊媒師?」

 

 彩希がその話題を出した途端、柊馬はぴくッと素早く反応し妖怪を倒す存在を口にした。

 

「それと魔術師。これら3つの存在がこの世界にある」

 

 彩希は左手の人差し指、中指、薬指の三本を立てていた。

 

「魔術師?初めて聞いたな……」

 

 聞きなれない単語に柊馬はポカーンとしていた。

 

「まぁ、無理もないさ。それぞれの存在について話そう。先ずは陰陽師。君は陰陽師といえば思い浮かべるものは?」

 

 左手の人差し指を折りながら彩希は柊馬に問いを投げかけた。柊馬は腕を組み天井を眺めながら口を開いた。

 

「安倍晴明と式神かな……。式神を使って妖怪や悪霊を倒すという話があるけど、実際は特殊な卜占法によって国家・社会もしくは個人の吉凶禍福を判じ、またそれに対応する呪術作法を行う方術士って聞いたな」

 

「へぇ~詳しいじゃないか。柊馬が言っている事は正しい。でも、それに加え式神を使って妖怪や悪霊を倒してたのさ。じゃなきゃ……ゴンの証明を否定する事になる」

 

「た、確かに」

 

 柊馬が後ろを向きゴンを見ると、ゴンは静かに頷いていた。それを見て柊馬は右手を顔の前に持っていき申し訳なさそうに謝った。

 

「次に霊媒師。連想するものはあるかい?」

 

 彩希は左手の中指を折りながら柊馬に問いを投げかけた。

 

「霊を呼び寄せたり対話したり、除霊やお祓いをする。それを連想するかな」

 

 腕を組み自身の膝を見て柊馬は答えをひねり出した。

 

「Perfect!それに加え妖怪退治もするんだ。勿論、霊と同様に呼び寄せたり対話もするよ」

 

「どうして、妖怪退治もする様になったの?陰陽師がいるのなら、任せればいいのに」

 

 適材適所という言葉がある。妖怪ならば陰陽師、霊ならば霊媒師に任せればいい。それなのに、何故霊媒師が妖怪退治をする様になったのか。柊馬は彩希に疑問を投げかけた。

 

「明治維新以降、陰陽師が衰退していったからなんだ。彼らの負担を減らす為にも、霊媒師が兼任する事になったんだ」

 

 陰陽師という存在は歴史の波に呑まれ消えそうになっている、そんな彼らを救うため霊媒師が手を差し伸べた。という事を窓から見える庭を眺めながら彩希は答えた。その表情はどことなく儚げだった。そして、いつの間にか左手の薬指も折りたたまれていた。

 

「なるほど。陰陽師との違いは、式神を使うか否か。後は……」

 

「対話を行うか否か、だ。陰陽師は霊媒師でいうところの除霊やお祓いに特化している、という認識でいいよ」

 

「うん、わかった。じゃあ、3つめの魔術師……というのは?」

 

 柊馬の問いに彩希は直ぐに答えを出さなかった。冷めきったお茶を飲み干しようやく口を開いた。

 

「魔術を行使出来る人間の事さ。君が知らなかったのは、その正体が公にされてはいないからだ。知っているのは、陰陽師や霊媒師だね」

 

「そうだったんだ。何故、公にされてないの?」

 

「フフッ、知りたいのかい?」

 

 彩希は視線を湯呑の底から柊馬に移した。その表情は悪い笑みが浮かんでいた。

 

「な、何故……急に不敵な笑みを。勿論、知りたいけど……」

 

 少しビビりながらも柊馬はそう返事をした。

 

「好奇心は猫を殺す。君が陰陽師として立派になったら教えよう」

 

 彩希は真顔になりそう答えた。その語気も真剣そのものだった。その真剣さに柊馬は「は、はぁ……」と返すしか出来なかった。

 

「では、違いについて。魔術師は陰陽師と霊媒師の間に位置する存在、という認識だ」

 

「間に位置する存在」

 

 柊馬は彩希の言葉を反芻した。

 

「そう。魔術師によって、悪霊や妖怪を呼び寄せたり呼び寄せなかったり、対話したり対話しなかったり。使い魔────陰陽師でいう式神を使ったり使わなかったりしている。グレーな存在だろう?」

 

 口角をやや上げながら彩希は柊馬に同意を求めた。

 

「だから、間なんだね」

 

「そうだ、呑み込みが早くて助かる」

 

 彩希はうんうん、と何度も頷いていた。

 青かった空はオレンジ色に変わり烏たちが鳴いていた。真面目な話もした、他愛のない話もした。実のある話だったので時があっという間に過ぎていた。時間を決して忘れた訳ではなかった。昼時には昼食が、15時にはおやつが出てきた。故に柊馬は今度はきちんとお返しをしなくては、と考えていた。

 

「大分、日が暮れてきたな。解散といこう。君を家まで送り届けよう」

 

「そこまで、気を遣わなくとも……」

 

 彩希の申し出に柊馬はやや申し訳なさそうに答えた。

 

「遠慮することはない。君の家はここから遠いだろう?」

 

 柊馬は彩希の言葉を考え始めた。華島神社から六条宅まで車で30分くらいで着いた。自宅はその先なので、車で35分くらいだろうか。だが、徒歩となると1時間は軽くかかるだろう。なので、柊馬は彩希の申し出を受ける事にした。

 

「そうだね。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「よし、決まりだ」

 

 

 

6月2日 18時23分 華島神社

 

 黒塗りの高級車は柊馬の家を目指し静か走っていた。車内では定員もありゴンは柊馬の勾玉の中に入っていた。柊馬と彩希の二人は会話で盛り上がっており、運転手のスキンヘッドの男と助手席に座っているサングラスの男は静かにしていた。

 

「全く君は面白い人だな……」

 

「そんな事ないよ、ろくじょ────」

 

「車を停めろ、妖気だ!!」

 

 柊馬の言葉が彩希の張り上げた声と急ブレーキによって阻まれた。車は停まり彩希の指示によって、スキンヘッドの男とサングラスの男が車内に残る事になった。両者は当初、彩希の指示に反対していたが「何を勘違いしているんだい?これはお願いじゃない、命令なんだよ」と彩希に命令され、大人しく従った。彩希の迫力に柊馬は驚いていたが、彩希と共に車から降りた。

 

「妖怪が来るぞ、柊馬」

 

「────」

 

 彩希の言葉に柊馬は握り拳を作り固唾を呑んでいた。

 

「そう言えば、朝の返事がまだだったね。どうかな?君さえ良ければ一緒に妖怪退治でも」

 

 彩希が僅かに口角を上げながら目は真剣で手を差し伸ばしてきた。

 

「うん、よろしく。六条さん」

 

 柊馬は覚悟を決め微笑みながら彩希の手を取った。

 

「こちらこそだ、柊馬。さぁ、行くぞ」

 

 柊馬と彩希の二人は華島神社の境内へと向かった。

 境内に入ると見た事のある二体の妖怪がいた。二体の妖怪は柊馬と彩希に気が付き振り向いた。

 

「貴様は昨日の!?」

 

「陰陽師。それに、そっちの女は……」

 

「普通の人間ではないな」

 

 二体の妖怪は彩希を見定める様な視線を向けてそう言った。彩希は不敵な笑みを浮かべて返答した。

 

「霊媒師の六条彩希さ、尤も君たちの記憶には残らないと思うがね。さぁ、柊馬。やるぞ」

 

「う、うん!!」

 

 彩希の言葉に柊馬は頷き覚悟を決めると、勾玉は輝きだし勾玉が光の刀に変わった。すると、ゴンも同時に召喚された。

 

「ご主人様、ボクもお手伝いします」

 

「ありがとう、ゴン。助かるよ」

 

 彩希はどこから取り出したか定かではないが銀色の杖を構えていた。見た感じではお年寄りが使う普通の杖とは大差なかった。

 

「うんうん、美しき主従関係じゃないか。妖怪()たちも、それに負けない関係を見せてくれ給え。先手は譲るからな」

 

 二体の妖怪を挑発する様な彩希の口ぶりに、柊馬とゴンは冷や汗を流した。実戦経験が無い柊馬と、長い間封印されていたゴンにとってみれば余計な事をせずに着実に倒していきたいのだ。

 彩希の挑発に後衛にいる妖怪が前衛にいる妖怪に耳打ちした。

 

「先ずは霊媒師を片付けるぞ。霊媒師の得物は近距離でしか使えない杖だ。お前が一気に距離を詰め、霊媒師が対処している間に俺が背後から仕留める」

 

「陰陽師と式神は?」

 

「後回しだ。なりたてとはいえ陰陽師だ。霊媒師を始末した後で、ゆっくりと時間をかけて倒す。突撃の合図はお前が出せ、それに俺は合わせる」

 

「分かった。────行くぞ!!」

 

 二体の妖怪が柊馬とゴンを無視して、彩希を目掛けて一気に距離を詰めてきた。

 ガチャン、ガチャンとロックを外す様な金属音が聞こえ、柊馬は風を感じた。その時だった、前衛の妖怪が苦悶の声と共に吐血し崩れ落ちた。崩れ落ちた肉塊の喉元と胸部に穴が穿たれていた。彩希と妖怪との距離は十分にあった。

 

「「「……!!」」」

 

 柊馬、ゴン、後衛の妖怪は目を見開いた。彩希の杖が鞭の様にしなり伸縮し、先端が槍の様に鋭かった。それを見て各々確信した。彩希の杖はただの杖ではなく、仕込み杖だという事に。そして、それが前衛の妖怪の命を消し去った事を。

 

「別に驚く程の事じゃない。君たちが私の杖をただの杖と勘違いした、それが君たちの敗因さ」

 

 淡々とした彩希の口調に残された後衛の妖怪は握り拳を震わせ襲い掛かろうとした。

 

「────!!な、動かねぇ……」

 

「『影踏み』」

 

 ゴンが静かに後衛の妖怪の背後に立ち言った。

 『影踏み』────質量・概念・昼夜を問わず相手の影を強制的に作り出しゴンがその上に乗る事で相手の動きを封じる術

 後衛の妖怪が力任せに身体を動かそうとするがびくともしなかった。

 

「今です、ご主人様!!」

 

「う、うん!!」

 

 柊馬は頷き動けない後衛の妖怪の胸元を貫いた。決して慣れない嫌な感触が手を伝わり、後衛の妖怪は憎悪の言葉をまき散らしながら、光の刀に吸収された。

 

(ふぅ……。な、なんとか……勝てた。ゴンと六条さんのおかげで)

 

 光の刀が勾玉に戻り、ゴンは勾玉の中に帰った。一仕事を終えたと思い柊馬は息を吐いた。

 

「陰陽師のなったばかりのわりには動きがいいな。見事だ、柊馬」

 

「ははは、ありがとう」

 

「さて、戻ろう」

 

 彩希の言葉に柊馬は優しい笑みを浮かべながら頷き車へと戻って行った。

 

 

 

6月2日 19時7分 金森宅前

 

 車は柊馬の家の前に停まり柊馬は降りた。彩希が車内から声をかけてきた。

 

「今日はお疲れ様だ、柊馬」

 

「うん、お疲れ様。六条さん」

 

「おっと、忘れるところだった。連絡先を交換しておこう。今後の為にも」

 

 彩希がスマートフォンを取り出しながらそう言うと、柊馬は「了解」と頷きながらスマートフォンを取り出し、連絡先を交換する為の操作をした。

 

「────よし、六条さんの連絡先を登録したよ」

 

「こちらも完了したよ。何かあれば互いに連絡をな?いい夢を、柊馬」

 

「六条さんもね」

 

 そう柊馬が声をかけると彩希は僅かに微笑み、車を走り出させた。走り去っていく車を見送り、車が見えなくなると柊馬は家の中へと入って行った。




如何だったでしょうか?
これからの金森様、六条様の活躍が楽しみでございますね。

皆様を楽しませる事が出来たのであれば何よりでございます。

ご感想やご質問は随時受け付けております。此方でもTwitterでも構いません。皆様のお声が私の力になります。

それでは、第参話までお待ちくださいませ。
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