陰陽師奇譚   作:雛罌粟初秋

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勾玉を拾い陰陽師になった金森柊馬。
柊馬が陰陽師になった経緯を思い返していると、少女に声をかけられた。

少女の名は六条彩彩希(ろくじょうあき)。
霊媒師であり六条組・組長の大事な孫娘だった。

柊馬は六条宅で彩希から妖怪と妖怪を倒す存在について教えてもらい、共に妖怪を倒す提案を受け入れる。

御機嫌よう、雛罌粟初秋でございます。
三叉神経痛が辛いのですが、頑張り執筆する所存でございます。



第参話「特訓」

6月9日 13時22分 六条宅

 

「君が陰陽師になって約1週間。昨日まで封印した妖怪の数が3体。怪我もなく順調に進んでいる様だから、次の段階へと行こう」

 

 彩希は右手の拳で左手の掌をポンと叩きながら、柊馬に提案した。

 

「次の段階?」

 

 柊馬は首を傾げ彩希に聞き返した。この客間に何度か通されているが、柊馬は相変わらず正座をして背筋を伸ばしていた。

 

「戦闘スタイルの見直し、というべきか。陰陽師は得物と陰陽術を使う。君の場合だと得物である刀しか使ってない」

 

「陰陽術というのは……式神であるゴンを使う事?」

 

 首にかけている勾玉を軽く握りながら柊馬は問いを投げかけた。

 

「そう。尤も君はにわか陰陽師だからね、ゴンしか使えない。本家の陰陽師であれば陰陽五行に基づいた術も使う。まぁ、それ以外にもあるのだが……今は置いておこう」

 

「陰陽五行というと……万物は木・火・土・金・水の5種類の、属性からなるということだよね」

 

「あぁ」

 

 彩希は柊馬の答えに舌を巻くことなく「詳しいな」と言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべていた。

 

「火の属性を持つ陰陽師であれば、火を用いた術を使える。まぁ、君が何の属性を持っているのかは判明しないし、判明したところで使えないよ。それ程、高度な術なのさ」

 

「なるほど。術が使えない以上、ゴンとの連携が必要不可欠、という事だね」

 

「ゴン。君は何が出来るのかな?」

 

 柊馬の言葉に頷きながら彩希はゴンに呼びかけた。すると、柊馬の首にかかっている勾玉が輝きだしゴンが出てきた。ゴンは柊馬の隣に正座し軽く頭を下げ口を開いた。

 

「相手を妨害をする事、です。動きを封じたり、幻覚を見せたり。ただ、未熟なので効果時間は短いんですが……」

 

 ゴンの言葉に柊馬は確かに、と頷いていた。初めて彩希と共闘する際、妖怪の動きを封じていたのを思い返していた。

 

「ほほう!相手に嫌がらせをする事が得意という訳だね。私も相手への嫌がらせは大好きさ。効果時間の短さは柊馬と共に腕を磨いて延ばせていけばいいさ」

 

 彩希は嬉々とした表情で語っていた。それを見た柊馬とゴンは苦笑いしていた。

 コホン、と咳払いを軽くし彩希は指を鳴らし口を開いた。

 

憲明(のりあき)はいるかな?」

 

 憲明なる人物を呼ぶと足音が聞こえ障子戸が開かれた。

 

「ここに、彩希さん」

 

 柊馬が入ってきた人物を見ると見覚えがあり、「貴方が……」と声を漏らした。入ってきたのは柊馬が初めて六条宅に来た時にお茶を出してくれた人だった。

 

「この男は九条(くじょう)憲明だ。私の懐刀さ」

 

「初めまして、九条さん。金森柊馬です。この子は式神のゴンです」

 

 柊馬が自身とゴンの紹介を終えると憲明は軽く頭を下げた。それだけでありやや不愛想な感じがした。

 

「私と共に柊馬とゴンの腕を鍛えるぞ」

 

「御意」

 

 彩希がそう伝えると憲明は静かに返事をした。

 

「ご、ゴン!!一緒に頑張ろう」

 

「はい!ご主人様となら大丈夫です」

 

 四人は客間から出て庭に向かった。庭に着くと彩希が振り返り口を開いた。

 

「先ず始めに、組員二人を相手にしてもらおう。気を引き締め給えよ」

 

 柊馬とゴンが振り返ると二人の男が居た。対戦相手はこの二人だった。一人は柊馬より背の低い小柄で茶色のスーツを着た男で、もう一人は黒縁メガネをかけているスキンヘッドの男だった。

 

「あぁ、最後に一つだけ。我々の得物で君が攻撃を受けた時、死ぬことはない。怪我もすることはない。ただ、痛い。例えるなら、タンスの角に小指をぶつけたくらいだな。君は遠慮なく攻撃をするといい。気が引けるなら峰内にすればいいさ」

 

 彩希の説明を受け柊馬は苦笑いを浮かべた。

 

(ご主人様、ボクの声が聞こえますか?)

 

 柊馬の頭の中にゴンの声が響き渡ったので柊馬は右横に居るゴンを見た。

 

(六条さんを含め他の方に気が付かれたくないので、ボクの方を見ないで下さい)

 

 ゴンの指示通り目線を対峙している二人に向けた。

 

(ありがとうございます。今はご主人様とボクは念話の状態にあります。ご主人様も口に出さず心の声で何か口にしてみて下さい)

 

(こ、こうかな……。聞こえる、ゴン?)

 

(聞こえます、ありがとうございます。ご主人様に念話で話しかけたのは、今回の作戦の為です)

 

(なるほど……。それで、今回の作戦というのは?)

 

(ご主人様は決して動かず、防御に徹して下さい。その後、ボクかあの二人のどちらかが攻撃を受けましたら、薙ぎ払いを行って下さい。目の前にあの二人が居ても居なくとも……。そして、ご主人様が集中的に狙われるのであれば……最初は先述の通り防御を……それから、ボクの合図で目の前を薙ぎ払って下さい)

 

(う、うん……。ゴンの言う通りにしてみるよ)

 

 ゴンの言っている事が良く分からなかったが、柊馬はゴンの指示に従う事にした。そして、勾玉を強く握り刀へと変えた。

 

「模擬戦開始だ」

 

 彩希の宣告で模擬戦が開始された。茶色のスーツを着た男がドスを、スキンヘッドの男が釘バットを構え柊馬を狙い迫って来た。

 

「悪く思うなよ、坊主。術者を倒せば式神は倒れるからな」

 

「……ッ!!」

 

 茶色のスーツを着た男のドスによる振り下ろしを柊馬は刀で受け止めた。

 

「背中がガラ空きだぜ、坊主!!」

 

 スキンヘッドの男の釘バットによる振り下ろしが後頭部に迫っていた。

 

「今です!!」

 

「……!!」

 

 ゴンの声が聞こえたので、ドスを払いのけ左から右へと薙ぎ払いを行った。感触が無かったが、ドサッ、ドサッと二人が倒れる音がした。

 

「なッ……同士討ちさせられた後、柊馬に止めを刺された!?」

 

「えッ!?この二人は僕を狙ってきたよ……」

 

 彩希と憲明は驚きが隠せない表情をしていた。そして、柊馬は彩希の言葉に目を見開いた。

 

「────『鏡面迷宮(きょうめんめいきゅう)』」

 

 「「「!!」」」

 

 混乱している三人に対してゴンは静かに口を開いた。

 『鏡面迷宮』────相手に催眠術をかけ幻覚を見せる術

 ゴンは最初に柊馬と組員二人に催眠術をかけたと説明した。彩希と憲明が見ていた光景こそ現実に起きていた。

 

「六条さんはどんな光景を見ていたの?」

 

「ドスを持った組員が君に斬りかかろうとした時、釘バットを持った組員が彼を殴打した。その後、君が釘バットを持った組員を斬ったのさ」

 

「そうだったんだ……。ところで、ゴンはいつ催眠術をかけたの?」

 

「組員の方を紹介された時にかけました」

 

 ゴンは模擬戦が始まる前から催眠術を使っていた。柊馬はその事を聞いてゴンが催眠術を使ったのを目撃してないのでゾッとした。

 

「ふむ、中々やる様だね。こちらも行かせてもらうぞ」

 

 彩希の言葉を聞き、柊馬は首を横に振り気持ちを切り替え刀を構えた。

 

(ゴン、『鏡面迷宮』はもう使っているの?)

 

(はい、お二方に使用しております。同士討ちをさせる様にしております)

 

 念話にてゴンは説明した。彩希の目には憲明が柊馬に見えており、憲明の目には彩希がゴンに見えていた。そして、柊馬とゴンの存在を両者から外れる様に仕向けた。ゴンの説明の通り彩希と憲明は互いを敵を認識したのか向き合っていた。

 最初に動いたのは彩希だった。彩希は仕込み杖を通常の形態から鞭状にし憲明を目掛けて振るった。杖先が憲明の顔面を捉えたと思った時の事だった。杖先が急に角度を変え柊馬に勢いよく向かって来た。

 

「────!!」

 

 柊馬は慌てて刀の腹で杖先を受け止めた。受け止められた杖先はガチャン、ガチャンと金属音を立てながら杖状に戻りながら、彩希の手元に向かった。

 

「良い反応だ、柊馬。言いたい事はあるだろうが、余所見は禁物だぞ。私だけが敵じゃないからな」

 

「くッ……」

 

 柊馬の目に映ったのは憲明の二丁の拳銃。銃口が柊馬をしっかりと捉えていた。憲明の両手の人差し指が、ゆっくりと引き金を引いていた。

 

「……!?ゆ、指が……」

 

「『影踏み』。ご主人様だけが貴女たちの敵ではありませんよ」

 

 憲明の両手の人差し指が引き金を引く事はなかった。それはゴンが自身の術で憲明の影を踏み行動不能にしていたからである。

 

「ほほう!やってくれるじゃないか、ゴン?だが、自分の事を疎かにしてはいけないよ」

 

 嬉々とした表情を浮かべると彩希は仕込み杖を振るった。ガチャン、ガチャンと金属音を立て鞭状に変形し杖先をゴンの胸元を捕捉し当たる寸前で止まった。

 

「六条さん、自分の事を疎かにしてはダメじゃないですか」

 

 柊馬の刀が彩希の首元に当たるギリギリで止まっていた。彩希がゴンを攻撃する時に、柊馬が一気に距離を詰め刀を振るったのである。

 

「ふむ、ここまでだね」

 

 彩希は仕込み杖を鞭状から杖状に戻し下した。それを見て柊馬は刀を下し勾玉へと変えた。そして、ゴンは術を解いた。

 

「ありがとう、憲明。ゆっくり休んでくれ」」

 

「はい」

 

 二丁の拳銃をしまい彩希に一礼すると、憲明はその場を後にした。

 

「柊馬もゴンもお疲れ様。初めての連携とは思えない、見事な動きだったよ」

 

 彩希は柊馬たちの方に向き直り賞賛していた。

 

「ありがとう、六条さん。ゴン、お疲れ様。勾玉の中に戻ってゆっくり休んで」

 

「はい。お疲れ様でした、ご主人様」

 

 ゴンは軽く頭を下げると勾玉の中に戻って行った。

 

「今更だけど……九条さんも霊媒師なの?」

 

 柊馬はゴンが勾玉の中に入るのを確認すると、彩希に尋ねた。

 

「憲明だけではなく、六条組の組員……皆が霊媒師さ」

 

「霊媒師の集団なんだ、凄い」

 

 庭にいる組員を見渡しながら柊馬は言った。

 

「あッ、戦闘スタイルで思い出したんだけど……霊媒師は得物と術を使うの?」

 

「そうだね。術は降霊術や除霊術を使っているのさ」

 

 彩希の回答に柊馬は腕を組み「なるほど~」と頷いた。すると、また何かを思い出したかの様に口を開いた。

 

「ゴンの催眠術を見抜いたのは、降霊術や除霊術を使ったから?」

 

「BINGO!」

 

 指を鳴らし彩希は口角を上げ答えた。一方、柊馬はというと自身の推測が当たった様で安心した表情を浮かべていた。

 

「ゴンの催眠術の発動条件が分からなかったからな、組員が倒された時に降霊術を使用させてもらった」

 

 彩希は説明を柊馬に分かりやすくした。柊馬とゴンに降ろしても気づかず影響が出ない霊を降ろした。霊媒師は霊が放つ霊気を見分ける事が出来るので、催眠術で憲明が柊馬に見えても霊気を感じず、霊気を感じた方に仕込み杖を振るったと。

 

「霊気を感じないと分かっていたのに、九条さんを目掛けて仕込み杖を振るったのは?」

 

「手品と同じだよ。最初からタネを明かしたらつまらないだろう?」

 

 彩希はニヤニヤと笑みを浮かべて言った。それに対し柊馬は乾いた笑い声をあげていた。

 

「ちなみになんだけど……」

 

「ん?何だい?」

 

 柊馬が聞きたそうにしていると彩希は首を傾げて尋ねてきた。

 

「魔術師は魔術を使っているの?」

 

「あぁ。火・水・風・空・地の五元素に基づいた魔術を使う。無論、例外もあるが。今は覚えなくていい」

 

 彩希は五本指を上げながら説明した。

 

「陰陽師と違うね」

 

「そう。そして、最大の違いが複数の属性の、魔術を使えるという点だ。火・水・空など3つの属性を兼ね備えた魔術師もいる」

 

「陰陽師が1つ。魔術師が複数」

 

「その認識で大丈夫だ。後は、先日教えた様に使い魔を使ったり、使わなかったり。得物を使ったり、使わなかったり」

 

「魔術師によって違う、という事だね」

 

 柊馬は手をポンと叩き結論を述べると彩希は首を縦に振った。

 

「その通り。これは余談だが、得物を使う魔術師は得物に自分が保有する属性を纏わす事が多いよ」

 

「はぁ~。戦闘をした上に覚える事が多くて大変だな」

 

 背伸ばしをしながら言う柊馬に対し、彩希はクスッと笑うと口を開いた。

 

「クールダウンではないがね、近くまで散歩しようじゃないか。気分転換になるだろうさ」

 

 彩希の提案に柊馬は快く頷いた。組員たちが「護衛は自分に」と申し出たが、「それでは柊馬の気が休まらないだろうと」断り二人で、のんびり散歩する事にした。

 

 

 

6月9日 15時53分 華島市内

 

 柊馬の親友である煌志はポケットに両手をつっこみ歩いていた。タイムセールで夕飯の買い出しのためである。

 

(最近付き合い悪いな、あいつ。おッ、アレは柊馬と……誰だ?取り敢えず声をかけるか……)

 

 事情を知らない煌志は遊ぶ回数が減った柊馬への文句を心の中で言っていると、柊馬が先の方で彩希と歩いているのを見かけた。煌志は彩希の事を知らず声をかけるか迷ったが結局、声をかける事にした。

 

「お~い!柊馬」

 

 煌志は手を振り声を上げながら柊馬の方へ走った。呼ばれた柊馬は立ち止まり振り返った。

 

「ん?煌志!!奇遇だね、こんな所で会うなんて」

 

「彼は誰なんだい、柊馬?」

 

「と、柊馬~!?」

 

 自身や家族を抜き柊馬を名前で呼ぶのは少ない、ほとんどが名字がニックネームだった。それが女子から名前呼びされているのを聞き煌志は動揺した。

 

「お、おい……この人お前の女なのか!?」

 

 煌志は小指を立てながら柊馬に問い詰めた。

 

「違うよ、落ち着いて!先ずは煌志を紹介させてよ。六条さん、こいつは僕の友人の渡瀬煌志。同じ大学に通っているんだ」

 

 柊馬は煌志を落ち着かせながら、彩希に煌志の事を紹介した。

 

「ふむ、柊馬のご学友殿か。紹介が遅れて申し訳ないね、私は六条彩希。以後、お見知りおきを」

 

 彩希は軽く頭を下げ自己紹介した。すると、彩希の名を聞いた煌志は冷や汗をかいた。

 

「もしかして、仁義を重んじる極道一家の六条組の!?」

 

「いかにも。ご存知とは嬉しいね」

 

 煌志の反応に彩希は指を鳴らしニヤリと笑みを浮かべた。その事により煌志は青ざめながらも真剣な表情をして柊馬に視線を移した。

 

「おい、柊馬。もしかして何かやらかしたのか?」

 

「やってないよ!それよりも、煌志は何してんの?」

 

「あぁ、タイムセールで夕飯の買い出しに……あッ、時間だ!!じゃあな、柊馬、六条さん!!」

 

 柊馬の質問にスラスラと答えた煌志。それで本来の目的を思い出し時計を見ると時間だったので、煌志は慌てて手を振りながら走り去った。

 

「……」

 

「嵐の様な人だね、彼は」

 

「ハハハ、そうだね」

 

 煌志の言動や人柄に彩希はクスッと笑っていたが、柊馬は乾いた笑い声しか出なかった。用があって声をかけてきたのなら、用件を聞いてない。それとも、ただ声をかけてきただけなのか。柊馬は分からなかった。




如何だったでしょうか?
活動報告にて第壱話と第弐話に比べ短い、と記載しておりますが(まさにその通りなのですが)私の想定よりも長くなりました。しかしながら、読みやすいと存じております。

皆様を楽しませる事が出来たのであれば何よりでございます。

ご感想やご質問は随時受け付けております。此方でもTwitterでも構いません。皆様のお声が私の力になります。

それでは、第肆話までお待ちくださいませ。

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