異世界転生したけどなんも出来ん…… 作:三下氏
前世の記憶を持って転生しました。
そんな訳で2000年代の日本から来ました。今世の名前はカイン・アーガス3歳男性ですが、特に神様と会ったり謎のシステムボイスが聞こえたりもしなく3年間生きてきました。
今世の目標は前世の経験を活かして平均より良い感じの地位と、所属コミュニティでの名声と、楽に暮らせるだけのお金を手に入れること。
あと、今世は魔法もあって魔物も亜人もいます。
一世を風靡した異世界転生ですよ。
ただちょっと、違和感があって。
我が家、5人暮らしの3LDK集合住宅です。
風呂とエアコンとトイレと、前世で見たようなものがあります。……なんで???
家族構成は俺(3)、祖父(68)、父(27)、母(26)、姉(6)でしてそれぞれ園児、狩猟協会役員、製薬会社の課長、主婦、小学生。
現代かな……???
正直、異世界転生だと最初は気づきませんでした。
一昨日くらいに姉が魔力の使い方を学校で教わったとかで両親に披露するまでは現代社会だと思ってたくらいです。
家族構成が違うからタイムリープじゃない。なんか転生したっぽい。みたいなことを2年くらい考えてて、だったら5歳くらいから頑張れば何かしらに成れるだろうと。
朝のニュースでやってた住宅地にドラゴンが迷い込んだ話題とか言葉の違いで自分の脳がバグってるのかと思うじゃん……。
そんな経緯で異世界転生と気づいたので、それっぽい職業を知りたくテレビ……、実際の名称は『写す』と『箱』を組み合わせた異世界語(暫定)の造語ではあるが面倒だなとテレビ認識。話が逸れたけれど、バラエティなんかを見るようにした。
政治家、芸能人、スポーツ選手。前世でも目につく職業は普通に存在していた。違うのはスポーツに魔法を使うものがあることや番組内にそういった企画があることだろうか。
異世界お馴染みの、冒険者のような職業はないらしい。
一般的に思い浮かべるダンジョン。出入口がある魔物や宝のある迷宮もあるにはあるらしいが、仕組みは完全に把握されてしまい、国営の油田みたいな扱い。魔力を吸い上げるためだけに存在する何も無い迷路だ。
未発見のものも無いとは言いきれないが、この世界には前世程多くないが数十も国があり、領土を決めている。たまに戦争もあるらしい。
冒険者に1番近いことをやってるのが生物学者やら地質学者といった冒険者のイメージとかけ離れたインテリ職業なのだからやるせない。
では異世界お馴染みの魔王はというと、普通に国家運営していた。何なら俺が暮らしている国の同盟国だった。
あるわ国際連合。魔人も亜人も蔑称扱いで禁句の国際社会だよ。人種差別ダメ絶対。
魔物保護団体だっているわ……。こっちは過激派のテロ組織扱いになってるらしいけど。
「カイン、またニュースなんか見てるの?」
母が夕飯を作り終えたのか、キッチンから顔を出す。
育児番組もやっている時間帯なので3歳児がニュースをじっと見ているのは違和感があるのだろう。
「お父さんは今日遅いらしいから、お姉ちゃんとお爺ちゃんを呼んできてくれる?」
「分かった」
小学生になった姉に設けられた子供部屋に向かい、ノックして入る。
「お姉ちゃん、ご飯できたって」
「……んー」
姉(6)、ニベア。まさかの銀髪少女。
俺の髪は茶髪なので横に並ぶと一見他人に見える。母曰く、目の形が同じらしいが。
父は茶髪で母は金髪だが、父も母も俺と同じだ。隔世遺伝らしい。同居している祖父が白髪だが、加齢によるものなのか元々色素が薄いのかは分からない。
「先に行くよ?」
机に伏したまま動かない姉を放置して祖父を呼びに行くかどうか考える。
俺には分かる。姉の前世はナマケモノだったに違いない。
朝は母が3度起こしに行ってようやく布団から出る。歩くのは3歳児の俺より遅い。食事は1番最後に食べ終わり、風呂で溺れた回数は両手の指では足りない。
声は掛けたからと、次は祖父の寝室に。
「お爺ちゃん、ご飯の時間だよ」
「ん? ああ、すぐに行く」
姉と違い祖父はすぐに了承し、持っていたライフル銃を脇に置く。
心臓に悪いから部屋で武器の手入れをしないで欲しいが、まだまだ現役だと魔物の駆除をしているので止める訳にはいかない。
街にドラゴンが迷い込む、というのはそこまで珍しい話でもないのだ。日本で言えば、山村で熊が出るくらいの頻度。
何しろ森を削るのは魔物や魔法生物が住んでいるため難しい上にエルフやら妖精といった人種からの批判も多く、街を樹海が囲む都市はいくつもある。
この街も他の町へ向かう街道以外は森に囲われている。
それで現代日本に勝るとも劣らない文明レベルを持つのは魔法とそれを研究した偉人たちの努力のおかげである。
「カインももう少し大きくなったら一緒に猟に行けたりするんだがなぁ……、興味はあるか?」
「んー、そこそこ」
ドキュメンタリー番組で魔物と戦う人の様子を見たことがあるが、普通に危ない。
体高5メートルくらいで、しかも毛皮の代わりに硬い鱗を持った鹿が木々を薙ぎ倒しながら迫ってくるのだ。土砂崩れを相手にするようなもので、とても勝てるイメージが湧かない。
その番組ではハンマーを魔法で巨大化させて更に筋力も底上げし、角も足もへし折るとかいう人間離れした撃退場面を披露していてチートかと。
祖父と共にリビングへ戻ると、姉が母に引きずられて部屋から出てきていた。
夕飯はサラダや揚げ物、スープとパン。基本的に食事は内容は欧米寄りかもしれない。お米を使ったリゾットは食べたことがあるけれど白米なんかは見ていない。
とはいえ出てくる料理は硬かったり味が無かったりもせず、調味料も大きな差はないから満足だ。俺は年齢の関係で食べさせて貰えないものの方が多いけれど。
まだ世の中のことも充分に知ることは出来てないし、突出した才能の有無も分からない状況。
とりあえず食べて寝て身体を作り、将来に備えるのが安牌ではないだろうか。
まだまだ小さな手ではパンをちぎるのも一苦労だ。つらい。
と、幼い身体で気持ちを持て余す日々は過ぎて。
数ヵ月後には小学校への入学を控えた5歳児のある日。父からこんな一言が。
「カインは将来何になりたいか決まってるかい?」
何でも、この国は専門職を育てるために小学生からコース分けしているらしい。
教員数や教育機関数の問題から事前に試験等で振り落としはあるが、基本的に親の意向でもない限りは一般科スタート。本人の希望があれば試験を受けて転入。
英才教育もここに極まった感がある。
ちなみに姉は一般科らしい。
で、質問に対してだが俺の答えは決まっていた。
「魔法の勉強がしたい!」
そう答えると父は驚いて、困ったような顔になり、俺の頭を撫でてくる。
「だったら魔法学科に入れるよう、試験を頑張らないとな。まぁ一般科でも魔法は習うし、落ちても大丈夫だから安心しなさい」
その夜に家族会議。
姉以外が皆、渋い表情を浮かべていたが反対意見は出なかった。
姉は一般科もと何が違うのか父や母に訪ねていたが2人とも答えを濁す。
雲行きが怪しくなってきた。もしかして俺は何か間違えたのだろうか。
数ヵ月後に試験のため魔法学科のある学校へ。
地下トンネルを通る電車で4駅、自宅から40分程度。中学校から大学まで併設された大きな学校だった。
連れてきてくれた母と別れ、試験場へと入る。
白い壁に木目の床、黒板に長机と長椅子。大学の講義室を思わせる部屋で、少々この小さな身体には似合わない雰囲気だ。
俺以外に試験を受けるであろう子供は15人程度だった。定員割れしていないか……?
ということであれば、余程適性が無いと思われない限り落ちることは無いのだろうか。勝ちが見えてきた。
数分経過し、試験官であろう大人が2名部屋へと入ってくる。
1人は高齢の女性。背は曲がって杖をつきながら歩き、白衣の裾を引きずっている。
もう1人は……、見るからにヤバい。性別不明、真っ黒な防護服みたいな衣装で肌は一切晒していない。
「おや、今年は少ないねぇ。まぁ、小さな内から始めようと思う子もそうおらんか……」
女性は部屋を見渡してため息をつく。
「それじゃあ試験を始めるよ。字も書けないひよっこでも受かるし、計算ができる秀才でも落ちる簡単な試験さね」
女性が手を挙げると、防護服の人がこちらに向けて手をかざす。
「鬼ごっこだ、この部屋の中で3分だけ逃げ切れたら試験は合格。その後に面接だよ」
現れる魔法陣。それは強く光り、大量の液体を部屋へと溢れさせる。
液体は粘性を持ち、そして意志を持ったようにぐにゃぐにゃと動き出す。大きさは俺の頭程度、数は15。
「スライムじゃん……」
ファンタジーで良く登場するあいつ。目も口もないタイプのようだ。
すばやさは如何程のものか。そう観察していると、試験を受けている子供の1人が机に上って距離を取ろうとした。
その時だ。
スライム達は目にも止まらぬ早さで一斉にその子供へと飛びかかり、真っ先に飛びついた1匹に子供は飲み込まれる。
意識を失ってしまったのか、大きく膨らんだスライムの中で子供はぷかぷかと浮かんで動かない。
「不合格」
堰を切ったように部屋中で悲鳴が上がり、子供たちは駆け出す。
しかし速度はスライムと比較にならず、次々とスライムに飲み込まれ最初の子と同じ様に動かなくなる。
気がつけば1分が経過し、残りは俺を含めて3人。
俺はお行儀良く椅子に座って試験開始を待っていたのだが、急展開に腰が抜けて動けない。詰んだかもしれん。
残りの2人は身を屈めてそっとスライムから距離をとっていった。置いていかないで……。
「ま、こんなもんかね」
試験官BBAは動かない俺達を見て満足そうに頷くと防護服へと合図をする。
防護服は捕らわれた子供たちに近づき、スライムの中から引き出していった。勿論スライムから攻撃されているのだが、スライムは防護服に触れる度に煙を上げて消えていった。
意識を失った子供は次々と机に寝かされ、部屋のスライムも全て煙になって消える。
「3人はとりあえず合格、1人ずつ面接するから……、まずそこの金髪、付いてきな」
俺は茶髪なので違う。
合格したのは金髪少年に赤髪少女、全員髪色が異なりカラバリに富んでいる。これは覚え易い。
部屋には俺と赤髪少女と防護服が残された。他にも意識の無い子供が机に並べられているが。
赤髪少女は俺と防護服を交互に見て、俺の方へと近づいてくる。
「ねぇ、名前は?」
驚きのコミュ力!挨拶も自己紹介も飛ばして名前を尋ねる距離の詰め方だ。
「カイン。……えーっと、そっちの名前は?」
驚きのコミュ力!家族以外と話す機会がなく名前を尋ねるのを気恥ずかしく感じる中身成人幼児の図。
下手クソか。何だそっちって。君は? とか、よろしく。の一言を添えられないバッドコミュニケーション。
「スカーレット。よろしく」
そう言って椅子に座ってくる強コミュ力の持ち主スカーレットちゃん(おそらく5)。
髪が赤色で名前がスカーレット。すごいわかりやすい。そこまで赤々とした髪色ではないが。
「うん、よろしく……」
俺は話が繋げられなかった。
この年代の子供と何た話したらいいのか分からん……。姉はあんなだし、ご近所づきあいとか無かったから……。
スカーレットちゃんもこっちを見て黙っているので気まずさがアップ。助けて防護服の人!
……他の寝てる子達を見てて駄目みたいだ。万策尽きた。
「どうして試験を受けに来たの?」
話始めたのはスカーレットちゃんの方だった。助かる。
「えーと、魔法の勉強がしたかったから……。だけど」
前世では魔法がなかったので、とは言えない。
「変なの。うちはパパが魔法学者だから受けてみなさいって言われて来たの。ホントは音楽の勉強がしたかったのに」
「あ、そうなんだ……。大変、だね?」
例えるなら、夢は歌手やミュージシャン、だが父が学者でとりあえず間違いはないから大学まで行きなさい。みたいなパターンだろうか? 合っているかは分からないが。
「落ちようと思ったけどスライム気持ち悪いし、触るの嫌だったから合格したの。面接で落ちたらいいのに」
「面接で嫌だって言ってみるとか?」
「そんなことしたらパパに怒られるもん。試験は受かっちゃったし」
確かにこの年齢で親へ逆らうのは怖いだろう。完全に庇護下にあって、あらゆる力の差も歴然。相互理解で解決したいね、暴力は何も生まない。
姉におやつを奪われたら祖父に泣きついて追加を貰えば良い。そうやって学んでいくんだ……。
「次、茶髪。付いておいで」
試験官BBAがドアから俺を呼び、そのまま別室へと連れていかれる。
歩けるようになっていて助かった。
「名前はカイン・アーガス、家族構成は……。ふむ。で、お前さんはどうして魔法学科に入ろうと思ったんだい?」
「魔法の勉強がしたいからです」
別室は研究室のようで、機械や書類が所狭しと並んでいた。
試験官BBAはおそらく願書か何かを見ながら俺に質問をぶつける。
「ほぅ。例えば? ただ使うだけなら一般科でも十分、派手な魔法を使うなら魔法競技科があっただろう。それでも勉強を取った、その理由があるのかい?」
なにそれ知らんかった……。魔法競技科なんてあるの?
あれか、テレビで見た魔法撃ち合ったり空飛んだりしてるスポーツ。そんなの絶対に面白いやつじゃん……。
そっちのが良かったかもしれん……。
例えるならとりあえずスポーツが好き! って言ってスポーツ選手じゃなくてスポーツ科学の道に入ってしまうような。そんな状況。
それで、質問に対して強いて答えるとするなら。
「どうして人が魔法が使えるのか、知りたいからです」
前世ではなかった魔法。何故使えるのかは疑問である。
姉は去年飛べるようになってた。
「よし、帰っていいよ。合否と書類は近い内に送るからね。外に親御さんを待たせてある」
聞きたいことは終わったと、試験官BBAは立ち上がって書類を纏める。
本当に短い時間で終わってしまった。試験のことにも触れられていないし、駄目かもしれん。
とはいえここでゴネても仕方ないのは察しているので大人しく部屋を出ていく。
部屋の外には他の職員と談笑しながら母が待っていた。
そのまま帰宅。
数日後、合否通知が我が家に届いた。
勿体ぶっても仕方ないので簡潔に、結果は『合格』。来月から研究職を目指す小学生になります。
しかしながら我が家の雰囲気は暗く、良くやった! という感じではなくて受かっちゃったかぁ……、みたいな感じだ。
いや、試験とかここまでの周囲の反応とかで察したが、さては不人気な学科だな……? しかもマイナスイメージの。
とりあえず入学まではなんも出来ん。大人しく待つことしよう。