転校初日
(緊張するなぁ・・・なんてったってこの学年には俺以外女の子しかいないんだし)
苦笑いしながらひとりの少年が教室の前でその時を待っていた。
そう彼が今いる花咲川女子学園改め、花咲川学園は少子化の問題に伴い、今年から共学になったのだが、意外なことに男生徒が4人しか入学してこなかったのだ。さらに、彼は2年のクラスに転校してきたため彼の周りには男生徒がおらず、実質男は彼1人というある意味ラッキーな立ち位置なのだ。しかし、そんな状況でも少年の心は歓喜に震えるわけではなく、ただただこの先の学園生活に関する不安しかなかった。そんな不安はいざ知らず、教室の中から声がかけられる。
「入ってきてちょうだい」
(さあ、いきますか)
心の中で覚悟を決めガラガラ、と戸を開き2年A組と書かれたプレートが備え付けられている教室に入る。そして、黒板を背に立ったところで先生から簡単に自己紹介をお願い、とのお達しを受けたので、未だ緊張しながらも少年は話し始める。
「今日からこのクラスでお世話になります、転校生の神崎良哉です。趣味は音楽を聴いたり、楽器を弾いたりすることです。これからよろしくお願いします」
良哉が自己紹介を終えるとクラスメイトから拍手が上がり、よろしくー!やすごい、めっちゃイケメンじゃん!など盛り上がる声があちらこちらから聞こえたので、良哉はなんとか無事に自己紹介を終えたらしいと感じ安堵した。
「ほらほら、質問はSHRが終わってからにしなさい。神崎君の席は・・・あそこね」
そう言われ、窓際の1番後ろの席を示されたので着席する。
(隣は・・・・・・休みなのか。まあ、いいか。それよりこのあたりはガールズバンド時代とか言われてて音楽が盛んっていうし楽しみだな)
隣の生徒が新学期早々に欠席していることを不思議に思いつつ、これからの生活が少し楽しみだな、と思っているところでSHRが始まったのでそちらに意識を集中し始めた。
SHRが終わると、教室から出て廊下に並び、各クラスから順番に体育館に移動し始める。本日4月6日は、始業式なのである。学園長からありがたいお話を頂戴し、あまり楽しいとはいえない始業式を終え、再び2年A組に戻る。少し時間を空け、先生が入ってきたところでもう一度SHRを行い、明日の予定を軽く確認してから本日はお開きとなった。
(さあ、バイトの面接に行かないと。確か、13時からだったよな)
時間を確認すると、11時を少しまわったところだった。それまでどうするかな、と考えたところでいくつかの足音が耳に入る。神崎くん!と声がかけられそちらに視線を向けると複数の女生徒が立っていた。
転校してきたばかりの自分に何か用があるのだろうか、と思っていると矢継ぎ早に質問が飛んできた。どこの高校からきたのか、や彼女はいるのか、など一斉に質問されて少し戸惑ってしまう。そんな時、担任の先生から声がかかる。
「神崎君、悪いけど職員室まで来てくれるかしら。校内を案内してくれる子を紹介したいの。・・・ということで、あなたたち。神崎くんへの質問は後日にしてあげてちょうだい」
先生は苦笑しながらそう言った。
俺はそれに了解です、と返事し女生徒たちにごめんね、と一言謝ってから教室をあとにした。
その後、先生の先導で職員室にたどり着いた俺は職員室の隅にある談話スペースのようなところに案内された。そこには、小テーブルが置かれており、それを挟むように高そうな黒塗りの2人がけのソファが備え付けられていた。片側に座るように促されたので、失礼しますと断ってから腰掛けた。俺が腰掛けたと同時に、職員室の扉が静かに丁寧に開かれた。そして、
「失礼します」
と、凛とした声が職員室の端にいる自分の耳にも入ったことに少し驚いた。
(決して大きいわけじゃないけどよく通る声だなぁ・・・)
などと、余計なことを考えていると担任の先生がこっちよ、とおそらく先程の声の主に呼びかける。そして、声の主が談話スペースにたどり着き、ようやくその正体があらわになった。彼女は女生徒であった。青緑色の髪を携えており、目は少しつり上がり気味だろうか。その目と彼女が持つ凛とした雰囲気が相まって、触れるものすべてを突き刺してしまいそうな、根拠は無いがそんな危うい印象を抱いた。そんな彼女は軽くこちらに目をやり、先生に謝罪を行った。
「申し訳ありません、少し遅れてしまいました」
「構わないわよ、また風紀委員の仕事?」
「はい、まあ・・・」
「いつもありがとう」
「いえ、これが私の仕事なので。・・・ところで、本日はどういったご用件なのでしょう?」
「実は彼のことなんだけど・・・」
「そういえば、彼は一体・・・先生がお呼びになったのですか?」
先生は軽く首肯してから、言った。
「まずは自己紹介からかしらね」
(バイトの面接、間に合うんだろうか・・・)
時計を確認しつつ、そんなことを思った。
時計の短針は11と12の真ん中あたりだった。